僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

文字の大きさ
12 / 66

ご機嫌ななめ

しおりを挟む
7月8日夜


「清、男というものは下心丸出しでつくづく汚らわしいものじゃな」

「?」

「ちょっと見てくれの良い女にはへらへらと媚を売り、無様な醜態をさらしおって。まこと恥ずかしい生き物じゃ、男というものは」

「??」

「清、お主もそうは思わぬか?」

今夜の松姫ちゃんはご機嫌ななめだ。絡まれているのは、昨夜に続き遊びに来ていた清蟹権現の化身、清蟹くん。

「松姫、我も男でござるが・・・」

清蟹くんの返事など聞いてもいない松姫ちゃんは、お気に入り時代劇の『桃太郎侍』を観せてもブリブリ怒ったまま。鼻息荒く、男子全般をディスりまくっている。

なぜ姫様がご立腹なのか分からず巻き込まれた清蟹くんは、すがるような顔で僕を見た。

ゴメン!僕じゃダメなんだよ。だって松姫ちゃんの怒りの根源は僕なんだから。

今日の昼過ぎ、祖父ちゃんにベタ惚れしている柿の木の精霊が訪ねてきた。
そして、ちょっとだけ話をした。そう、ちょっとだけのつもりだったけど、気づいたら日が落ちたことにも気づかず話し込んでしまっていた。

人の姿になって起きてきた松姫ちゃんは、柿の木の精霊・秋香さんと談笑している僕を見つけ「女子とデレデレ話すな!助平が」と平手打ちされた。

面食らった秋香さんはそそくさと帰ってしまい、残された僕はめちゃめちゃ怒っている松姫ちゃんに罵詈雑言を浴びせられることに。
日暮れからずっと、いやらしいとか下品だとか罵られ続けて今に至るってわけ。

今までの出来事をざっくり説明された清蟹くんは「相分あいわかった」と大きく頷いた。

「大希殿は松姫に好かれているのでござる」

「え、嘘でしょ?汚い男だと思われて嫌われてるでしょ、この状況。どう見ても」

僕の嘆きに清蟹くんは首を振った。

「いや、好かれておりますぞ。その根拠は、我が目撃した松姫の願い事を記した短冊でござる」

時代劇の動画に集中し始めた様子の松姫に聞こえないように、小さな体でめいっぱい背伸びして耳打ちしてくれた。

「松姫の願いとは『大希が望む生業で食っていけますように』でござった。気のない者には、そのような気遣いはしますまい」

「マジで?」

相違そういござらん。我のこの目が証人でござる」

筆記は苦手だが、文字は読めると胸を張る清蟹くんは、嬉しそうに顔をほころばせた。

「松姫は、ただヤキモチを焼いているのでござる。大好きな大希殿が自分以外の女子と愉しげにしている様が面白くないだけでござるよ」

「え、こんなに小さい子供でも嫉妬するの?」

「どれほど幼くとも女子は女子でござる」

へぇ、さすが年の功。初めて清蟹くんをちょっと神様っぽいって感心したよ。

そうか。女の子は、小さい子でもちゃんと女性なんだ。自分のことを一番に思っていてほしいって思うものなのか。

内緒で僕の仕事を気にかけてくれるなんて、可愛いとこもあるじゃん。
僕の隣に座布団三枚重ねで座る小さなご主人様を思わず抱きしめたくなった。ツヤツヤの黒髪を撫でようとした、その時だ。

「清、聞こえておるぞ」

「!?」

「先ほどからの声を潜めた密談、妾まですべて筒抜けじゃ」

「え!嘘」

「嘘など言わぬ!不届き者共が。その腐った性根しょうねをたたき直してやる!そこへ直れ!」

言うが早いか、松姫ちゃんは床の間に飾ってある模造刀を抜き放ち、僕らの眼前にその切っ先を構えた。

「妾は嫉妬などせぬ!厳しい言葉で諭す仕置きは、女にだらしない家来への躾じゃ!世迷よまい言を申すな。たわけ者!」

「ゴメン!違うならそれでいいから、暴力はやめて」

「問答無用じゃ!」

「ひぃ!」

偽物の刀だってフルスイングで打ちつけられたらたまらない。

「わ、我は、今宵はもうお暇するでござる」

「あ!ズルいよ。ヤキモチの話したのは清蟹くんなのに」

転げるように玄関を出て行った水干姿の背中を恨めしく見送りながら、荒ぶる松姫ちゃんをどうなだめようか必死で考えた。

「お許しくださいご主人様~!」

今夜は夜が長く感じそうだよ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

処理中です...