僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

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秋香と昭夫

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7月15日午前


黒々とした大きな柿の木の下で、僕は和服美女に深々と頭を下げた。

「よしてくださいませ。もう昨日のことは、お気になさらず」

恐縮している彼女は袖で顔を隠した。暑苦しい叔父さんを追い出せたのも、この人の協力あってのこと、それがなきゃまだ居座られていたよ。

「秋香さんが祖父ちゃん一筋だって叔父さんが分かってくれたら一番なんだけど、きっと理解してくれないだろうね」

僕の言葉に「はい」と頷く秋香さんは頬を染めた。
本当は彼女に、僕の関わったという騒動について訊いてみたいけど、これ以上負担かけたくないから、また今度にしよう。

「ねぇ、どうして祖父ちゃんなの?これだけの樹齢なら、もっと昔にカッコイイ人いたんじゃない?あんな無骨な人じゃなくたって・・・」

「いいえ。昭夫様はお優しい方でございます」

「優しい?祖父ちゃんが?」

嘘でしょ?確かに人情に厚いところはあるけど、女性に優しかったかな?典型的な亭主関白だったような。

納得いかないという表情の僕に、クスッと笑みをもらした柿の木の精は、何十年か前の思い出話を語り出した。

「私は昭夫様が生まれる前よりここにおりました。ここから、皆様の暮らしを陰ながら見守っていたのでございます」

大風の日は盾になり、大雨の日は傘になり、地震の時は根を踏ん張って地面を支えた。そして、食糧難の時代には、渋い実を甘くして腹を満たさせた。

「渋柿なのに、実を甘くできたの?」

「あの時は無我夢中でございましたから・・・今はできませんよ」

それだけ、この家の人たちを愛していたのだろう。先祖が自分を大事にしてくれた恩返しなのかもしれない。

「ある春の日、私は落雷を受け、瀕死の重傷を負ってしまいました。誰もがもうダメだろうと諦めたほどの有様でした」

大樹は真っ二つに裂かれ、半焼した幹は黒く焦げていた。集落の人たちは、倒れる前に切ってしまおうと相談していたんだって。

けれど、祖父ちゃんだけは見捨てなかった。
裂けて斜めになった幹を丸太で作った添え木で支え、焼け焦げた箇所を取り除き、次の春に新芽が出て生き抜けると確信が持てるまで世話をし続けた。

「私は、昭夫様に第二の命をいただいたのでございます。あの方がいなかったら、私はとうに朽ちてしまっておりました」

懐かしそうに幹にできた虚を眺めた。この大きな穴は、彼女と祖父ちゃんとが苦闘の末に勝利した勲章なのだそうだ。

「そんなことがあったんだね。祖父ちゃん何も教えてくれないから」

「殿方は、寡黙な方が素敵でございます。口が軽いと胡散臭くて安っぽく思えませんか?」

祖父ちゃんは寡黙っていうより、黙っててもわかるよなオーラで周囲を圧倒してるだけだと思うけど、これも惚れた欲目かな。

昔話をのんびりしていた秋香さんが何かに気づき、小さく悲鳴を上げた。

「大希様!あそこ、ごらんになって!」 

「え、どこ?」

彼女の指さす先には祖父ちゃん自慢の枝豆畑がある。そこに茶色いモノがいくつか、豆の木に紛れて動いている。

「なんだろ、狸たちかな?」

豆をまだ食べさせてないから待ちくたびれてうろうろしてるのか?そう思っている僕に、真っ青になった秋香さんが怖いことを言った。

「あれは猿でございます。昭夫様の天敵である猿でございますよ。大希様!」
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