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天狗の提案
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8月6日未明
「俺の目が何だって?」
父さんの話を聞き終えた叔父さんは、キョトンとした顔をしている。
「じゃ、子供の頃は叔父さんも僕たちと同じように妖怪たちが見えてたってことなの?」
「そうだ」
父さんは手で顔を覆った。
「見えない方がいいと思ったんだ。記憶を封じても、妖怪たちが見えたままでは、何かのきっかけで思い出すかもしれないと・・・トラウマに苦しませたくなかったんだ」
「だから、さっきから何の話してんだよ?兄貴も大希もさ。これってどういうことだよ?」
一人状況が飲み込めない叔父さんは、父さんと僕の顔を交互に覗き込んで首をかしげた。
この家で唯一、妖怪たちを感知できるスキルが皆無だと思っていた叔父さんは、大天狗の神通力でその分野の視覚のみを遮断されていたと分かった。見えていた頃の記憶もないから、違和感もなかった。
「思春期に秋香さんが感知できるようになったのも、潜在的に見るスキルがあったからなのか・・・スケベ心ってスゴいな」
それよりも、ショックなことがある。そっちの方が僕の胸には鋭く刺さっている。
猩々が、赤ん坊の僕を誘拐した?
家人の留守を狙ったかのように、子供だった叔父さんから生まれたばかりの僕を奪って、住処の山奥へ連れ去っていた。それも、イタズラ相手だった父さんはへの仕返しで・・・
「猩々、ホントなの?」
じっと地面に丸まっている猩々の背中に訊いた。
「父さんが・・・久志が言うように、猩々は赤ちゃんの僕を誘拐したの?」
「・・・しょうじょう、だいき、すき・・・あかちゃんも、いまも、かわいい・・・だから、たすける」
猿の仮面の奥から、弱々しい声が返ってきた。洞窟でも赤ちゃんの頃の僕を可愛がったと言っていた。本心だと思う。
「きっと、悪気があったわけじゃないと思うよ。猩々は、ほんのイタズラのつもりだったんだよ。いつもみたいに、軽い気持ちでさ」
「仮に、俺へのイタズラだったとしても、乳児を誘拐するなんて質が悪すぎる。人の世の善悪が理解できないなら、山を下りるべきではない」
「だからって、追い出しことないじゃん。理解するのが時間かかるなら、何度でも繰り返し教えてあげればいいでしょ?」
「その間に、他の子が誘拐されたらどうする?お前は無事帰ってきたが、万が一そうではなかったとしたら、それでも悪気がないなら仕方ないと言えるのか?」
「そ、それは・・・」
言葉に詰まった僕の肩をそっと天狗の腕が包んだ。
「久ちゃん、私はどっちの味方もできないけど、ケンカはして欲しくないです。大希くんがこんなに猿を庇うというのは、それなりに信頼しているということだと思いますよ」
「何が言いたい?」
厳しい口調の父さんに「キレてる久ちゃんもセクター」なんて軽口を叩きつつ、天狗はある提案を僕たちにしてきた。
「土地神様のお力をお借りしましょう」
「あんご爺ちゃんの?」
「そうですよ。恨みっこ無しで、審判してくださる役に打ってつけでしょう?」
キラキラの笑顔で僕の頬を手で包んだ天狗は、前々からこの一件でトラブルが起きた場合に手を貸してくれるように頼んでいたと言った。中立の立場から、裁きを下してほしいって。
普段はチャラチャラしてるくせに、そんなところは抜け目ないんだから。
「では、土地神様をお迎えに参りますので、皆様、しばしご歓談を」
翼を開き飛び立つ瞬間、ふわっと僕の頬を撫でた天狗の指が「大丈夫」って言ってくれてるみたいで、ちょっとだけ心強く思えた。何これ、僕が女子なら惚れるよ、イケメンめ。
まだ夜明けまで間がある空は暗く、ぼんやり流れる雲が黒くて不安になった。けど、約束は守るよ。
何があっても、僕だけは猩々を嫌いにならないからね・・・
「俺の目が何だって?」
父さんの話を聞き終えた叔父さんは、キョトンとした顔をしている。
「じゃ、子供の頃は叔父さんも僕たちと同じように妖怪たちが見えてたってことなの?」
「そうだ」
父さんは手で顔を覆った。
「見えない方がいいと思ったんだ。記憶を封じても、妖怪たちが見えたままでは、何かのきっかけで思い出すかもしれないと・・・トラウマに苦しませたくなかったんだ」
「だから、さっきから何の話してんだよ?兄貴も大希もさ。これってどういうことだよ?」
一人状況が飲み込めない叔父さんは、父さんと僕の顔を交互に覗き込んで首をかしげた。
この家で唯一、妖怪たちを感知できるスキルが皆無だと思っていた叔父さんは、大天狗の神通力でその分野の視覚のみを遮断されていたと分かった。見えていた頃の記憶もないから、違和感もなかった。
「思春期に秋香さんが感知できるようになったのも、潜在的に見るスキルがあったからなのか・・・スケベ心ってスゴいな」
それよりも、ショックなことがある。そっちの方が僕の胸には鋭く刺さっている。
猩々が、赤ん坊の僕を誘拐した?
家人の留守を狙ったかのように、子供だった叔父さんから生まれたばかりの僕を奪って、住処の山奥へ連れ去っていた。それも、イタズラ相手だった父さんはへの仕返しで・・・
「猩々、ホントなの?」
じっと地面に丸まっている猩々の背中に訊いた。
「父さんが・・・久志が言うように、猩々は赤ちゃんの僕を誘拐したの?」
「・・・しょうじょう、だいき、すき・・・あかちゃんも、いまも、かわいい・・・だから、たすける」
猿の仮面の奥から、弱々しい声が返ってきた。洞窟でも赤ちゃんの頃の僕を可愛がったと言っていた。本心だと思う。
「きっと、悪気があったわけじゃないと思うよ。猩々は、ほんのイタズラのつもりだったんだよ。いつもみたいに、軽い気持ちでさ」
「仮に、俺へのイタズラだったとしても、乳児を誘拐するなんて質が悪すぎる。人の世の善悪が理解できないなら、山を下りるべきではない」
「だからって、追い出しことないじゃん。理解するのが時間かかるなら、何度でも繰り返し教えてあげればいいでしょ?」
「その間に、他の子が誘拐されたらどうする?お前は無事帰ってきたが、万が一そうではなかったとしたら、それでも悪気がないなら仕方ないと言えるのか?」
「そ、それは・・・」
言葉に詰まった僕の肩をそっと天狗の腕が包んだ。
「久ちゃん、私はどっちの味方もできないけど、ケンカはして欲しくないです。大希くんがこんなに猿を庇うというのは、それなりに信頼しているということだと思いますよ」
「何が言いたい?」
厳しい口調の父さんに「キレてる久ちゃんもセクター」なんて軽口を叩きつつ、天狗はある提案を僕たちにしてきた。
「土地神様のお力をお借りしましょう」
「あんご爺ちゃんの?」
「そうですよ。恨みっこ無しで、審判してくださる役に打ってつけでしょう?」
キラキラの笑顔で僕の頬を手で包んだ天狗は、前々からこの一件でトラブルが起きた場合に手を貸してくれるように頼んでいたと言った。中立の立場から、裁きを下してほしいって。
普段はチャラチャラしてるくせに、そんなところは抜け目ないんだから。
「では、土地神様をお迎えに参りますので、皆様、しばしご歓談を」
翼を開き飛び立つ瞬間、ふわっと僕の頬を撫でた天狗の指が「大丈夫」って言ってくれてるみたいで、ちょっとだけ心強く思えた。何これ、僕が女子なら惚れるよ、イケメンめ。
まだ夜明けまで間がある空は暗く、ぼんやり流れる雲が黒くて不安になった。けど、約束は守るよ。
何があっても、僕だけは猩々を嫌いにならないからね・・・
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