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ようこそ、我らが里へ
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8月6日日没後
「暑苦しい光景で不愉快じゃな」
日が落ちて目覚めた松姫ちゃんは、祖母ちゃんに抱かれて座敷にやって来た。
「そんなイジワル言わないでよ」
「いや、皆もそう思うておるわ。気づかぬのはお主だけじゃぞ」
そう言われて一同を見渡すと、父さんが吹き出して笑っていた。
僕は今、右側に毛皮の男、左側に甲冑武者、背後に翼のある大男がくっついていて身動きが取れない。猩々と清蟹くんと天狗は、自分が一番のボディーガードだと主張して譲らない。牽制し合って一時も離れてくれなかった。
確かに暑いよね、いろんな意味で。父さん、笑いすぎ!
縁側に面した客間にみんなを集めたのは僕だ。
家族だけじゃなく、この家に来てから関わった全員を呼んでいた。日没後に起きる松姫ちゃんが最後の一人だった。
「今夜は、ある宣言をみんなに聞いてほしいんだ。松姫ちゃんや猩々にはもう話したけど、父さんたちには初めての打ち明ける内容だよ」
トリプルボディーガードを従えて話を切り出す僕に、歓談していたみんなが一斉に注目した。しんと静まった座敷って、雰囲気に重みがあるな。
いやいや、怯むな。ちょっと緊張してきたけど、これはケジメなんだ。これからの新たな世界へ踏み出すための禊ぎみたいなものだ。
僕はゆっくり一呼吸してから口を開いた。
「僕はこの家に引っ越すよ」
夜の日本家屋内に小さくどよめきが起きた。
「祖父ちゃんに教わりながら、この田舎の一員として暮らすことに決めたんだ。だから、いろいろとよろしくお願いします!」
みんなの反応が怖い。
どんなリアクションが返ってくるやら・・・
「本気ですか、大希くん!」
「ついに決意されたのでござるか、大希殿!」
客間中に歓声があがった。戸惑っているのは家族だけで、神様も妖怪たちも喜んでくれた。ボディーガードたちも飛び跳ねてはしゃいだ。
「はん!こんなひ弱な野郎に、野良仕事がつとまるとはおもえねぇな。けど、やりてぇってもんは仕方ねぇか」
祖父ちゃんはそんな皮肉を言うけど、たった一人の孫が跡継ぎを宣言したことにニヤケ顔をごまかすのに苦労してる。祖母ちゃんは嬉し泣き。叔父さんは大天狗の術を解いたばかりで、うじゃうじゃ集まった妖怪たちにまだ馴染めていなくてそれどころじゃないって感じ。
父さんは・・・
煌々と灯りが点いている客間の次の間、明かりの影になった仏壇の前で手を合わせていた。
「英子。大希がキミの元へ帰ってくるよ」
正面には、我が子を残し若くして亡くなった妻の遺影が・・・
なんだよ、普段は飄々としてウザいくらい悪ふざけばっかりするくせに、実は愛妻家とかズルいよ。ちょっとカッコイイじゃん。
「大希」
めでたい!祝杯をあげよう!と騒ぐ祖父ちゃんたちの喧騒を抜けて、僕の小さなご主人様がシャツの裾を引っ張っていた。いつものように抱き上げる。
「これで完全に松姫ちゃんの家来になったね。これからもヨロシクね」
「お主がどこへ行こうが妾の家来であることは変わらぬ。今更、何とも思わぬわ」
「ひどいな。都会育ちの僕が、コンビニもない山の中に移り住むってかなり覚悟がいるんだよ?ちょっとくらい喜んでくれても・・・」
「職無しの穀潰しが、一人前になってから物を申せ」
手厳しいな。でも、その口元は嬉しくてたまらないって感じに見えるよ。
すべてはこの子との出会いから始まった。
休職中に家族から押しつけられた面倒な田舎暮らしだったけど、今は来て良かったって心から思う。ここへ来なかったら、きっと僕は何者にもなれず、目標も持たず、ただダラダラと死んだように生きていたと思う。
でも、今は違う。
みんなに出会って、たくさんの想いを知って、みんなで一緒に生きていくことがかけがいない宝物だって分かった。
「大希!納屋の冷蔵庫からありったけの日本酒を持ってこい。それと肴も用意しろ」
「え?ちょっと祖父ちゃん!僕が主賓じゃないの?」
「何言ってんだ。新参者が生意気に」
祖父ちゃんはあんご爺ちゃんと大天狗と肩を組んで豪快に笑っている。その側には祖父ちゃんを慕っている秋香さんと、彼女にゾッコンな雅志叔父さん。
「大希、手伝ってちょうだい」
微笑む祖母ちゃんに肩を叩かれ、松姫ちゃんを抱いたまま台所へ向かった。
彼らは僕の家族。ずっとこの家で僕の帰りをじっと待っていた、奇妙で素敵な大家族。
「以前、お主が言いかけた黄泉戸喫というやつじゃな。あの神話の女神のごとく、ついにこの里から元の世界へ帰れなくなってしまったのぉ」
「あれ?松姫ちゃん日本神話知ってたの?」
「妾は博学じゃ」
「ふふ。別にいいんじゃない?伊邪那岐命みたいに、僕を連れ戻しに追いかけてくる人なんていないんだし、帰れなくてもさ」
そう返した僕に、腕の中のご主人様はフンッと満足そうに鼻で笑った。
「暑苦しい光景で不愉快じゃな」
日が落ちて目覚めた松姫ちゃんは、祖母ちゃんに抱かれて座敷にやって来た。
「そんなイジワル言わないでよ」
「いや、皆もそう思うておるわ。気づかぬのはお主だけじゃぞ」
そう言われて一同を見渡すと、父さんが吹き出して笑っていた。
僕は今、右側に毛皮の男、左側に甲冑武者、背後に翼のある大男がくっついていて身動きが取れない。猩々と清蟹くんと天狗は、自分が一番のボディーガードだと主張して譲らない。牽制し合って一時も離れてくれなかった。
確かに暑いよね、いろんな意味で。父さん、笑いすぎ!
縁側に面した客間にみんなを集めたのは僕だ。
家族だけじゃなく、この家に来てから関わった全員を呼んでいた。日没後に起きる松姫ちゃんが最後の一人だった。
「今夜は、ある宣言をみんなに聞いてほしいんだ。松姫ちゃんや猩々にはもう話したけど、父さんたちには初めての打ち明ける内容だよ」
トリプルボディーガードを従えて話を切り出す僕に、歓談していたみんなが一斉に注目した。しんと静まった座敷って、雰囲気に重みがあるな。
いやいや、怯むな。ちょっと緊張してきたけど、これはケジメなんだ。これからの新たな世界へ踏み出すための禊ぎみたいなものだ。
僕はゆっくり一呼吸してから口を開いた。
「僕はこの家に引っ越すよ」
夜の日本家屋内に小さくどよめきが起きた。
「祖父ちゃんに教わりながら、この田舎の一員として暮らすことに決めたんだ。だから、いろいろとよろしくお願いします!」
みんなの反応が怖い。
どんなリアクションが返ってくるやら・・・
「本気ですか、大希くん!」
「ついに決意されたのでござるか、大希殿!」
客間中に歓声があがった。戸惑っているのは家族だけで、神様も妖怪たちも喜んでくれた。ボディーガードたちも飛び跳ねてはしゃいだ。
「はん!こんなひ弱な野郎に、野良仕事がつとまるとはおもえねぇな。けど、やりてぇってもんは仕方ねぇか」
祖父ちゃんはそんな皮肉を言うけど、たった一人の孫が跡継ぎを宣言したことにニヤケ顔をごまかすのに苦労してる。祖母ちゃんは嬉し泣き。叔父さんは大天狗の術を解いたばかりで、うじゃうじゃ集まった妖怪たちにまだ馴染めていなくてそれどころじゃないって感じ。
父さんは・・・
煌々と灯りが点いている客間の次の間、明かりの影になった仏壇の前で手を合わせていた。
「英子。大希がキミの元へ帰ってくるよ」
正面には、我が子を残し若くして亡くなった妻の遺影が・・・
なんだよ、普段は飄々としてウザいくらい悪ふざけばっかりするくせに、実は愛妻家とかズルいよ。ちょっとカッコイイじゃん。
「大希」
めでたい!祝杯をあげよう!と騒ぐ祖父ちゃんたちの喧騒を抜けて、僕の小さなご主人様がシャツの裾を引っ張っていた。いつものように抱き上げる。
「これで完全に松姫ちゃんの家来になったね。これからもヨロシクね」
「お主がどこへ行こうが妾の家来であることは変わらぬ。今更、何とも思わぬわ」
「ひどいな。都会育ちの僕が、コンビニもない山の中に移り住むってかなり覚悟がいるんだよ?ちょっとくらい喜んでくれても・・・」
「職無しの穀潰しが、一人前になってから物を申せ」
手厳しいな。でも、その口元は嬉しくてたまらないって感じに見えるよ。
すべてはこの子との出会いから始まった。
休職中に家族から押しつけられた面倒な田舎暮らしだったけど、今は来て良かったって心から思う。ここへ来なかったら、きっと僕は何者にもなれず、目標も持たず、ただダラダラと死んだように生きていたと思う。
でも、今は違う。
みんなに出会って、たくさんの想いを知って、みんなで一緒に生きていくことがかけがいない宝物だって分かった。
「大希!納屋の冷蔵庫からありったけの日本酒を持ってこい。それと肴も用意しろ」
「え?ちょっと祖父ちゃん!僕が主賓じゃないの?」
「何言ってんだ。新参者が生意気に」
祖父ちゃんはあんご爺ちゃんと大天狗と肩を組んで豪快に笑っている。その側には祖父ちゃんを慕っている秋香さんと、彼女にゾッコンな雅志叔父さん。
「大希、手伝ってちょうだい」
微笑む祖母ちゃんに肩を叩かれ、松姫ちゃんを抱いたまま台所へ向かった。
彼らは僕の家族。ずっとこの家で僕の帰りをじっと待っていた、奇妙で素敵な大家族。
「以前、お主が言いかけた黄泉戸喫というやつじゃな。あの神話の女神のごとく、ついにこの里から元の世界へ帰れなくなってしまったのぉ」
「あれ?松姫ちゃん日本神話知ってたの?」
「妾は博学じゃ」
「ふふ。別にいいんじゃない?伊邪那岐命みたいに、僕を連れ戻しに追いかけてくる人なんていないんだし、帰れなくてもさ」
そう返した僕に、腕の中のご主人様はフンッと満足そうに鼻で笑った。
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