眩しさの中、最初で最後の恋をした。

織原深雪

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side有紗 春

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side 有紗

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 私が前の席だから、日菜子と話せば必然後ろ向きになるわけで。
 そんな私の視界にはこちらに近付いてくる、日菜子の幼なじみとそのお友達なサッカー部の部長さんが目に入る。
「日菜子、二人がこっちに来る!」
 そんな私の声に、驚いているうちにあの二人は私達の席の横に来る。
「日菜子、久しぶりに同じクラスだな。今年一年よろしく」
 日菜子に声を掛けてきたのは、あの面倒そうな顔をしていた幼なじみの彼。
 今は少し穏やかな顔をして日菜子に話しかけている。
 幼なじみだから気心知れているものね。
 そんな風に観察していると、彼の横にいたサッカー部の部長さんに声を掛けられる。
「汐月さんは、初めましてだよね!俺は水木蒼!こっちは松島要。瀬名さんと要とは一年の時に同じクラスだったんだ、よろしくね!」
 ウィンクと共に投げかけられた言葉は、元気がいい。
 しかし、ウィンクが様になるとは……。
 リアルイケメンって凄いな!と驚きを心の内に留めつつ返事をした。
「初めまして、汐月有紗です。日菜子とは去年から同じクラスで仲良くなったの。こちらこそ、よろしくね」
 結局思わず笑ってしまいつつ答えると、松島くんが顔を顰めながら水木くんにひと声掛けた。
「お前、ウィンクしながら初めましては無いだろ? チャラい、チャラいぞ……」
 溜息をつきつつ、額に手を当てて呆れ顔で言う松島くん。
「本当に、水木くんはキレイ系に目がないのね?有紗は渡さないわよ?」
 松島くんと同じ呆れを含むテンションで言葉を連ねる日菜子。
 幼なじみの二人が息の合うテンポで会話している。
「えぇ!?いや、俺そんなつもりないからね?!汐月さん!」
 それを受けて、私に誤解されるとまずいのか。
 水木くんの弁解には必死さが溢れていて、更に私の笑いのツボをついた。
「ふは!大丈夫、分かっているから!」
 この教室に入ってきた時から、水木くんの視線の先は日菜子だった。
 日菜子との会話中、視界の端にいた彼を観察していたのだ。
 彼は分かりやすい程に分かりやすい。
 日菜子と同じ素直なタイプだと、その様子を見ていて感じた。
「汐月さん。蒼も日菜子も騒がしいけど、よろしく」
 そう締めくくるように言ってくれた松島くんは、私が初めて見る柔らかく優しい顔をしていた。
「うん。今年一年よろしく」
 私が笑顔で返せば、三人もニコッと笑ってくれた。
 この新たな出会いが、私にとってかけがえのないものになる。
 そんな予感を胸に秘めつつ……
 開けられた教室の窓からヒラリ、一枚花びらが舞い込んできた。
 私にとっては、カウントダウンでもある一年が始まった。
 不思議とこの時、私はいつも感じる不安な気持ちにはならなかったのだった。

 ゴールデンウィークも開けた頃、そろそろ中間テストの時期になる。
 その頃には私達四人はクラスで一緒に居ることが当たり前になり、互いの事は名前で呼び合う仲になっていた。
 テスト週間になり部活がお休みになると、三人は深いため息をついた。
「あぁ、勉強漬けの一週間って地獄かよ…」
 いつもは明るい蒼くんは、テスト期間に入りとっても憂鬱そうな顔をしている。
「ねぇ。中間なのに範囲広くない?広いよね?」
 とテスト範囲に頭を抱えてボヤくのは日菜子。
「やるしかねぇ、赤点とったら二週間部活出来ないとか、生きていけない……」
 必死さが、言葉にも顔にも滲むのは要くん。
「みんな、大変ね……」
 私はまだ引退前で部活命な三人に同情をしつつ、帰り支度。
 そんな私を三人が驚きながら見つめてくるので何だ?と思いつつ首を傾げると、蒼くんが不思議そうに聞いてくる。
「有紗ちゃん、なんでそんなに余裕なの?慌てない?テスト前!」
 蒼くんが声高く言えば、日菜子が口を開く。
「そう言えば、昨年自分が必死だったからあまり気付かなかったけど。有紗は、テスト期間に慌てたりしていた記憶があまり無いわ……」
 呟くように言う日菜子の言葉に、蒼くんと要くんが驚きつつ私を振り返る。
 そんな私たちのやり取りを見ていた三浦先生が、可笑しそうにクスクス笑いながら言ってしまった。
「お前らはいつも平均値組だから必死になるよな。部活命だし。ただ、汐月はそう慌てないだろうな」
 三浦先生のニヤニヤと笑いつつの勿体ぶった言い方に、蒼くんが食い付いた。
「ちょ!先生事実だけど酷い!有紗ちゃんが慌てないってなんでなんだよ?」
「あれ?お前ら覚えてないの? 汐月はお前たちの入学式の時に、新入生代表で挨拶していただろ?」
 その先生の言葉に、三人はさっきから驚いたままの顔をして、グルっと振り返る。
「新入生代表の挨拶って事は?」
「俺らの代の入試で……」
「トップの成績??」
 三人で伝言リレーみたいに繋がった言葉に、三浦先生はニッコリ笑顔で首を縦に振り肯定した。
「それからこの二年、汐月の成績は学年一桁キープだ。なにか分からなかったら汐月に聞いてみろ? ま、頑張れ、受験生!」
 と蒼くんと要くんの肩をポンと叩くと、先生は日直から貰った日誌を片手にハッハッハなんて笑い声を残して教室を後にした。
 先生、そんな置き土産要らないのに……。
 はぁ、とため息がひとつこぼれ落ちる。
 そうして、フッと振り返るとそこには両手を組んだ三人が目をキラッキラさせていた。
「ちょっと!みんな、なに? その目!」
 思わず後ろに身を引きつつ突っ込むと、三人が同時に話し始めた。
「有紗!」
「有紗ちゃん!」
「有紗」
 三人が組んでいた手を離すと、頭上に拝みポーズで一言。
「一緒にテスト勉強して下さいぃ!!」
 それは三人からの、泣きの入った本気の懇願だった。
「それで、どの科目のどの辺とかあるの?」
 ふぅと、息をつきつつ問いかければ返ってきた返事が予想外にすごかった……。
「もう、いっそマルっと全部? みたいな?」
「そうそう、どこもかしこも! 全部必要な感じ?」
 そんな日菜子と蒼くんに私は目を見開いてしまう。
「俺は、英語……」
 どうやら、日菜子と蒼くんはなかなか手厳しそうだ。
 要くんはとにかく英語が苦手な模様。
「じゃあ、今日から部活も無いし、放課後図書室に集合して勉強会で良い? 下校時間までしか、面倒みられないけれど」
 聞いてしまえば仕方ないかと、私は笑いながら言う。
「有紗ぁ!大好き!」
「有紗ちゃん、ありがとう!」
「助かる」
 という三人の返事が来たので、早速図書室に移動して勉強会が始まる。
 私はいつになく、笑顔で三人の勉強を見た。
「日菜子、ここ一昨日の所よ?話聞いてなかったの?」
「蒼くん、そこ綴りおかしい」
「要くん、動詞の形と位置もう一度見直してみて?」
 そう言うとみんなを見つつ、自分も復習として振り返る。
 そんな一日目が終わる頃には……。
「有紗、笑顔でスパルタ……。分かりやすかったけど、けど……」
「日菜ちゃん、うん。俺らちょっと、かなり……、頑張らないとダメだね……」
「有紗、助かったありがとう」
 そんな三様のコメントを聞きつつ、この調子で勉強会はテスト前日まで続いたのだった。
 そうして迎えたテスト初日。
 今日は国語と世界史と英語。
 明日は数学と化学と現代社会。
 明後日は選択授業のテストになるので、バラバラにテストである。
 テストが終わった後の三人の顔はいつになく晴れ渡っている。
「有紗! 凄いよ! いつになく解答欄がしっかり埋められた!」
「あ、勉強会の時教わったところ! て気づく問題が沢山出てきて、俺も初めてこんなにテストの解答欄埋まったわ!」
 そんなこと言っている二人に続いて、要くんも言った。
「英語、いつもより自信を持って書けた。有紗、ありがとう」
 そうしてこの勢いのまま、無事にテスト期間を終えることが出来たのだった。
 翌週、返却されたテストは三人とも平均点を超えていて、いつになく良い点だったらしく各科目の先生達に褒められ ていた。
 その様子を見て、ホッとした。
 連日勉強会をして教えておいて、テストの結果が伸びなかったら責任感じるもの……。
 しかして、私達の中間テストは安心の点数により三人の部活禁止令も追試も無く穏やかに終わったのだった。
 中間テストも無事に終えると、つかの間日常の学校が戻ってくる。
 テスト期間って、学校も学生も先生も少しピリッとしていて空気が違う。
 それが緩んで流れていくのが普段の学校。
 行事になるとまた雰囲気は変わる。
 そんな空気も私はまた肌で感じ、記憶として焼き付けようといろんな風景とその時をじっくり眺めて過ごす日々。
 だからか、最近日菜子と蒼くんが良い雰囲気なのも感じ取っていた。
 日菜子の事が大好きだし、なんかちょっと取られた気分になっちゃうけれど……。
 友達が好きな人と想い合えるようになるって、素敵な事で幸せな事だよね。
 私は、それを諦めてしまったから……。
 眩しくて、羨ましくなるけれど。
 でも大好きな二人のことだから、笑って見守れるから。
「早く二人の口から良い言葉が聞けるといいな……」
 楽しそうに話す二人の向こうにある窓の外は、どんよりとした空。
 季節は梅雨へと移ろっていた。
「有紗、これ集めてくれって、先生が」
 そう声を掛けてきたのは、要くん。
 要くんは今日の日直。
 前の英語の先生に小プリントの回収を任されていた。
「ごめん、すっかり忘れていたわ!はい」
 そう差し出すと、しっかり受取ったあと私をじっと見てくる。
 余りに真剣な目なので首を傾げつつ、声を掛ける。
「要くん、私になにかあるの?」
「いや。有紗は相変わらず字が綺麗だなと、プリント見て思ってさ」
「ふふ、ありがとう。大変なら手伝うけど?」
「これくらいどうって事ない。またな」
 私の頭に手をポンと置いてから、集めたプリント片手に教室を出て行く要くんの後ろ姿を見送った。
「イケメンは後ろ姿にも死角なし。後ろ姿まで綺麗とかずるいでしょ……」
 あまり行儀は良くない肩肘ついて片手に顔を載せつつも呟いていたら、背後から声がする。
「確かに、アイツ背筋が伸びているし、背は高いし、見た目だけはそれなりに良いのよね!」
「日菜っち、それなり所か結構良いでしょ?幼なじみだから見慣れているだけじゃない? ま、俺の方がカッコイイ?」
「は? バッカじゃないの!? ふ、ふん!」
 振り返って見つめていても繰り広げられた二人の会話。
 あら? これは、思っていたより随分早く二人の距離感が変わったようだと感じて口を開く。
「日菜子、蒼くん!」
「ん?」
「なに?」
  私の声にふたりの視線が私に注がれる。
「おめでとう、仲良くね?」
 ニコッと言えば、蒼くんは嬉しそうに。
 日菜子は照れているが、すかさず私へ突っ込んでくる。
「なんで、有紗ってば私たちが言う前に分かるかなぁ……」
 少し拗ねた日菜子の口ぶりと様子に、クスクス笑いながら私は答えた。
「一緒にいることが多いし、そういうのって見ていると案外分かるものよ?」
 そう言うと、日菜子と蒼くんは顔を合わせてから私を見て言った。
「要はこっちが言うまで気付かなかったけど?」
 二人は、気付いた私の方が不思議だと言う。
「だったら私は人の様子を見ているのが好きだからかもしれない。趣味、人間観察だから、ね?」
 おどけた調子で言うと、日菜子と蒼くんは笑ってくれた。
「それで、実は今度の日曜日貰ったチケットで水族館に行くんだけれど……」
 あら、水族館デートなんて王道じゃない!と内心ムフフしていると、続いた言葉に私は返事に詰まることになる。
「実はチケットを四枚貰ったんだ。そんな訳で……」
「有紗と要も一緒に行こう!」
 そう、声高らかに宣言する日菜子。
 ………………。
「イヤイヤ!待ちなさい! 君たち、付き合いたてのカップルのデートに付き合わされるこっちの身になってみてよ! 虚しさと悲しさしか浮かばないんですけど!」
 思わず突っ込んだ私に、更に背後から再び声が掛かる。
「俺は行ってもいい。有紗が来るなら」
 その声に振り返れば、先生にプリント持って行って教室に戻って来ていた要くんが、あろうことかそう告げてきたのだ。
 そうして、決まってしまったカップルに付き添って水族館へ行く前の日。
 私は日菜子と駅ビルの中、女子高生に人気のプチプラだけど可愛い服の多いブランドのお店で服を見ていた。
「あー、有紗!コレだったら水色とピンクどっちがいいかな?」
「日菜子なら水色じゃない? 今のサンダルにも合うし。そしたらバックは、こんな感じが良いんじゃない?」
 日菜子が手に持っている服を見つつ私は、棚のバックを指さして日菜子に伝える。
「わ!可愛い! うんうん! これも買っちゃう!」
 ダブルデートとは言え、日菜子と蒼くんは付き合って初めての遠出だ。
 私も今回行く予定の水族館は初めての場所。
 海沿いの観光地にも近い、有名な水族館だ。
 遠慮はしていたものの、実は行きたかった場所で私も楽しみにしている。
「有紗! 有紗はこれが合うと思う!!」
 そう言って日菜子が私に当ててきたのはレモンイエローのフィッシュテイルスカート。
 明るくて、これからの季節にぴったりなスカート。
 フワッとしたシルエットと軽やかな生地に一目惚れだ。
「うん、これ可愛い! 私はこれにする!」
 スカートに合わせて、白とブルーのギンガムチェックのオフショルダーTを買って私たちはお店を後にする。
 疲れたのでこれから、ドーナツ食べてお茶しつつ休憩だ。
 ドーナツ屋さんで、それぞれ好きなドーナツ二つと私はカフェオレ、日菜子はコーヒーを頼んで席に着いた。
「今日は買い物に付き合ってくれてありがとうね」
 にっこり笑って日菜子は続けざまに言った。
「明日はダブルデートだからね! 有紗もしっかり今日の服で可愛くしてくるのよ!」
 ビシッという音がしそうなくらい、腕を振っていう日菜子はなんだか有無を言わせる隙が無い。
 もともとハッキリした性格をしているけれど。
 なんとなく、その方向性を掴んだ私は、ずるいけどその話題からは逸らすことにする。
「久しぶりの遠出だからね。綺麗にはして行くよ。どんな生き物が居るのかな? 今からすごく楽しみ!」
 私が満面の笑みでそう返すと、日菜子は少しガックリしている。
 ごめんね、日菜子……。
 私は日菜子の話を聞くことは出来るけど、自分の恋については話せない。
 いや、話す話題が無いから……。
 きっと日菜子は私の話も聞きたいんだろうな……。
 それは度々、一緒にいて感じてきたこと……。
 でも、私は決めているの。
 恋はしないって……。
 それを人に話すこともしないって……。
 だから、私は気づいていてもそこには触れずに、笑顔を浮かべて避けて通る。
 私には、気にし続けているリミットが迫っているから……。

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