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第8項 ひとまず
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「いやはや、ゼクスくんの思ってる事わかるっすよー。容姿端麗、元王族特務の実力も折り紙つき。ギャップ萌えもたまんないっスよねー。おまけに母は美人、義理の姉は可愛くてスタイルいいし、みんなのアイドル。いやはやゼクスくんは幸せものっスね、こんな美女3人と一緒に暮らせるなんて」
「いや、ちょっと待て。色々と突っ込みたいがいいか?」
「はいはい、いいっスよー」
ゼクスは両手を前に出して、何かを思うように目を閉じた。
「まず一つめ、俺はアイリのことをそこまで思っていない」
「そこまでってことは、すこしは思ってたんすねー」
ぐぬぬ、墓穴を掘ってしまったと言わんばかり歯噛みする。
「だ、第二にキャミねえはアイリの姉なのか? ということはリリィさんとも義理の親子!?」
「そうっすよ。あれ、言ってなかったっスか? 家族3人慎ましく暮らしてるっス。まぁ血は繋がってないっスけどね
アイリ嬢も――」
「キャミィ?」
急にリリィは2人の会話に割ってはいる。至って平然を装ってはいるが「それ以上はいうな」と目が語りかけていた。
「おっとーーそれで他にはどんな事っスかー?」
暗黙の了解で何かを隠しているのは明白なのだが、ゼクスもそこまで野暮ではない。
聞かなかったことにして案件をいう。
「キャミねえが自分の事褒めすぎ……ってのはスルーして――俺ここで寝泊まりすんのか? 聞いてないぞ」
「言ってないもの」
リリィにからかわれ、アイリは頰を膨らませたまま、ゼクスを不満のはけ口に言いすてる。
「一応、うちの居候扱いで泊めるけどイヤなら別にいいのよ?」
一家の大黒柱からそう宣言される。
ゼクスは逡巡してみるが、宿屋代もバカにならない。存外デギンズも良い人だし、居心地は悪くない。むしろずっと住み着いても良いと思ってしまっている。
だがお金がない事には、あそこにも居座ることすらできない。いずれは追い出されるのも明白だ。
「わかった……イヤ、頼む。泊めてください」
深々と頭を下げるその姿にアイリは驚いた顔をリリィに向けている。
言動から到底行わないであろうことをしたばかりか、『止めてください』。そんな言葉を良い放ったからだ。
「素直な子は好きよ。でも当分は納屋に寝泊まりしてね。部屋を準備する時間が――なんてのは、建前で言いたいことはわかるわね?」
「だいたいは」
ようは下積みとして働けということだろう。
納屋とはいえ、雨風がしのげる場所が、ただ同然で借りられるのはありがたいとゼクスは思った。
物珍しそうに見つめるアイリの視線に気がつくゼクス。
「どうした? そんなに俺が頭を下げるのが珍しかったか?」
「え、ええ。とてもそんな事をする性格には見えなかったから……意外だなって……」
「意外で悪かったな。一応礼儀は重んじるぞ『こう見えても』な」
拗ねるように、語気を強めて言い放つ。
「さて、今日はもう遅いから荷物は明日もってきなさい。キャミィ――」
「はいっス」
テーブルに置かれた小さな革袋。中から金属のような音が鳴る。
「これは?」
中を開いて見ると金貨が十数枚入っていた。
「今回の報酬よ。少し多いかもしれないけどまぁ、好きに使ってくれていいわ」
大体この街で金貨1枚あれば一ヶ月は暮らせる。これだけの量があれば普通に暮らす分だと一年は働かなくても大丈夫そうだ。
「多いな……」
ゼクスは金貨を二枚ほど引き抜くと口を閉じる。
「これだけあれば充分だ。今の俺にそれだけの大金は必要ない」
金貨をポケットにしまい、袋をリリィの目の前に返す。
「あら、そう」
ぽい、と袋をキャミィに渡すと
「明日早速やってほしい依頼が来てるのよ。概要は明日話すわ。今日と同じ時間に来て頂戴」
簡単に返事を返すゼクス。そのまま店の外に出た。
軋んだ音を立てながら扉を開くとドアベルがチリンとなり、むさくるしいデギンズの顔が出迎える。
「おう」
カウンター越しに腕を組み仁王立ちしたままの彼の前にゼクスが寄りかかる。
「急で悪いんだが明日、ここを出ることになった。世話になったな」
ポケットから金貨を一枚取り出してカウンターの上に置いた。
「なんでい急に、辛気臭えな。それにこの金貨どうした」
「稼いできたんだよ――心配すんな、変なことはしちゃいねぇよ」
「ハッハッ、変なことできる性格か? お前」
豪快に笑う。ゼクスは「うっせ」とそっけなく返す。
「まあ、短い間だったが寂しくなるな――そうだ、一杯のんでいかねぇか? 奢るぞ」
デギンズは親指で店の奥の方を指す。扉にかかった黒いネームプレートには『Bar』のもじ。
覗き込むように店の奥を見るゼクス。
「へえ、バーなんてやってたのか……気付かなかった。じゃあお言葉に甘えて飲んでいくかあな」
「おう。俺はここを離れられないからあっちのカウンターにいる娘に伝えておいてくれ。ゼクスって言えばすぐわかるからよ」
「ありがとな。てか、おっさん。娘いたのか? 意外だな」
デギンズも40過ぎくらいの見た目で娘がいてもおかしくない年齢なのだが、こんな強面で娘が居るなんてアンバランスでなんだか笑えてくる。
ゼクスは脳内で娘の顔を想像してみるが、どうしてもデギンズの顔が頭から離れずどうしてもゴツゴツのイメージしか浮かばない。
「ハッハッ、意外とは失礼なヤツだな」
苦笑いを浮かべているゼクスとは対照的に豪快に笑うデギンズ。そんな話をしていると他の宿泊客が入ってきた。
「じゃあ、またな。気に入ったら度々来ると良い。部屋はいつも空けておくからよ」
「いつも空いてるの間違いじゃないのか? ――ありがとな、いろいろと」
デギンズはニカッと白い歯を見せて笑う。
「いや、ちょっと待て。色々と突っ込みたいがいいか?」
「はいはい、いいっスよー」
ゼクスは両手を前に出して、何かを思うように目を閉じた。
「まず一つめ、俺はアイリのことをそこまで思っていない」
「そこまでってことは、すこしは思ってたんすねー」
ぐぬぬ、墓穴を掘ってしまったと言わんばかり歯噛みする。
「だ、第二にキャミねえはアイリの姉なのか? ということはリリィさんとも義理の親子!?」
「そうっすよ。あれ、言ってなかったっスか? 家族3人慎ましく暮らしてるっス。まぁ血は繋がってないっスけどね
アイリ嬢も――」
「キャミィ?」
急にリリィは2人の会話に割ってはいる。至って平然を装ってはいるが「それ以上はいうな」と目が語りかけていた。
「おっとーーそれで他にはどんな事っスかー?」
暗黙の了解で何かを隠しているのは明白なのだが、ゼクスもそこまで野暮ではない。
聞かなかったことにして案件をいう。
「キャミねえが自分の事褒めすぎ……ってのはスルーして――俺ここで寝泊まりすんのか? 聞いてないぞ」
「言ってないもの」
リリィにからかわれ、アイリは頰を膨らませたまま、ゼクスを不満のはけ口に言いすてる。
「一応、うちの居候扱いで泊めるけどイヤなら別にいいのよ?」
一家の大黒柱からそう宣言される。
ゼクスは逡巡してみるが、宿屋代もバカにならない。存外デギンズも良い人だし、居心地は悪くない。むしろずっと住み着いても良いと思ってしまっている。
だがお金がない事には、あそこにも居座ることすらできない。いずれは追い出されるのも明白だ。
「わかった……イヤ、頼む。泊めてください」
深々と頭を下げるその姿にアイリは驚いた顔をリリィに向けている。
言動から到底行わないであろうことをしたばかりか、『止めてください』。そんな言葉を良い放ったからだ。
「素直な子は好きよ。でも当分は納屋に寝泊まりしてね。部屋を準備する時間が――なんてのは、建前で言いたいことはわかるわね?」
「だいたいは」
ようは下積みとして働けということだろう。
納屋とはいえ、雨風がしのげる場所が、ただ同然で借りられるのはありがたいとゼクスは思った。
物珍しそうに見つめるアイリの視線に気がつくゼクス。
「どうした? そんなに俺が頭を下げるのが珍しかったか?」
「え、ええ。とてもそんな事をする性格には見えなかったから……意外だなって……」
「意外で悪かったな。一応礼儀は重んじるぞ『こう見えても』な」
拗ねるように、語気を強めて言い放つ。
「さて、今日はもう遅いから荷物は明日もってきなさい。キャミィ――」
「はいっス」
テーブルに置かれた小さな革袋。中から金属のような音が鳴る。
「これは?」
中を開いて見ると金貨が十数枚入っていた。
「今回の報酬よ。少し多いかもしれないけどまぁ、好きに使ってくれていいわ」
大体この街で金貨1枚あれば一ヶ月は暮らせる。これだけの量があれば普通に暮らす分だと一年は働かなくても大丈夫そうだ。
「多いな……」
ゼクスは金貨を二枚ほど引き抜くと口を閉じる。
「これだけあれば充分だ。今の俺にそれだけの大金は必要ない」
金貨をポケットにしまい、袋をリリィの目の前に返す。
「あら、そう」
ぽい、と袋をキャミィに渡すと
「明日早速やってほしい依頼が来てるのよ。概要は明日話すわ。今日と同じ時間に来て頂戴」
簡単に返事を返すゼクス。そのまま店の外に出た。
軋んだ音を立てながら扉を開くとドアベルがチリンとなり、むさくるしいデギンズの顔が出迎える。
「おう」
カウンター越しに腕を組み仁王立ちしたままの彼の前にゼクスが寄りかかる。
「急で悪いんだが明日、ここを出ることになった。世話になったな」
ポケットから金貨を一枚取り出してカウンターの上に置いた。
「なんでい急に、辛気臭えな。それにこの金貨どうした」
「稼いできたんだよ――心配すんな、変なことはしちゃいねぇよ」
「ハッハッ、変なことできる性格か? お前」
豪快に笑う。ゼクスは「うっせ」とそっけなく返す。
「まあ、短い間だったが寂しくなるな――そうだ、一杯のんでいかねぇか? 奢るぞ」
デギンズは親指で店の奥の方を指す。扉にかかった黒いネームプレートには『Bar』のもじ。
覗き込むように店の奥を見るゼクス。
「へえ、バーなんてやってたのか……気付かなかった。じゃあお言葉に甘えて飲んでいくかあな」
「おう。俺はここを離れられないからあっちのカウンターにいる娘に伝えておいてくれ。ゼクスって言えばすぐわかるからよ」
「ありがとな。てか、おっさん。娘いたのか? 意外だな」
デギンズも40過ぎくらいの見た目で娘がいてもおかしくない年齢なのだが、こんな強面で娘が居るなんてアンバランスでなんだか笑えてくる。
ゼクスは脳内で娘の顔を想像してみるが、どうしてもデギンズの顔が頭から離れずどうしてもゴツゴツのイメージしか浮かばない。
「ハッハッ、意外とは失礼なヤツだな」
苦笑いを浮かべているゼクスとは対照的に豪快に笑うデギンズ。そんな話をしていると他の宿泊客が入ってきた。
「じゃあ、またな。気に入ったら度々来ると良い。部屋はいつも空けておくからよ」
「いつも空いてるの間違いじゃないのか? ――ありがとな、いろいろと」
デギンズはニカッと白い歯を見せて笑う。
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