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第9項 出会いと再開
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バーの中は薄暗くオレンジ色の魔石照明に照らされて落ち着いた雰囲気。
テーブル席とカウンター席に分かれている。テーブル席に二人――宿泊客なのだろう。何度か顔を見たことがある――談笑しているだけでそれ以外に客はいなかった。
カウンターのディスプレイには数々のボトルが陳列されている。定番の酒から銘酒まで幅広く取り揃えてあることが分かる。
「いらっしゃいーーあれ、見ない顔ですね」
カウンターでグラスを磨いていた金髪の女性。整った顔立ちとゆるくウェーブかかった長髪、豊満な胸も相まってとても魅力的な人だった。
「ゼクスって言えば分かるっておっさんから言われたんだが」
「ゼクスさんでしたか。お話は伺ってます。どうぞこちらに」
彼女の目の前の席を丁寧に指すと、ゼクスは一段高くなっている丸椅子に腰を下ろした。
「お会いするのは初めてですね。ルフィナです、お父さんから話は聞いていますよ」
ゼクスは目を見開き彼女の顔を凝視する。――デギンズからイメージしていた人物像からはかけ離れていたからだ。
「マジか。父親にはまったく似てないな」
「よく言われます」
にっこりと愛嬌のあるえくぼを浮かべて微笑むルフィナ。
「ゼクスさんはいつも何飲まれていますか? 大体のものはありますよ」
「そうだな……いつもはエールかビール。飲めりゃいいって感じだからなぁ、こんな雰囲気の店で飲むこともないし少しは洒落た酒でも知ろうかな――てことで君のおすすめで」
と心中をつらつらと説明口調で語る。
「わかりました、僭越ながら腕を振るわせていただきますね。あ、あと『アル』でいいですよ。みんなからもそう呼ばれてますし」
アルフィマはボトルの影から銀色の蓋のついた小さな小瓶のようなものを取り出した。
「じゃあ、アル。それなんだ?」
「これですか? シェイカーですよ。お酒を入れてこう振って混ぜる道具なんですよ」
慣れた手つきで両手でシェイカーを包み込み、シャカシャカと振る動作は様になっていた。
「カクテル飲んだことありませんか?」
「名前くらいしか聞いたことがないな」
シェイカーの蓋を開け、ゼクスの前に出されたカクテルグラスに注ぐ。
「へえ、これがカクテルか」
「ホワイトレディっていう名前です」
カクテルグラスごと光にかざして見たりして、クイッとホワイトレディを飲み干す。
「お、美味いなコレ」
率直な感想を言うとルフィナは「よかった」と胸に手を当てて安堵した。
「ゼクスさん、帝都出身なんですよね。昔の皇女様でとても美しい白髪の方がいたのは知っていらっしゃいますか?」
「ああ、一応は。アーネイルさまだったか?」
「そうです。そのアーネイル様をモチーフにして作られたお酒がこのホワイトレディです」
ゼクスは言葉を漏らすとグラスを見つめた。
帝都にいた頃に一度だけ彼女の肖像画を見たことがあったのを思い出す。
月夜に照らされた皇女アーネイルはどこか、雰囲気がアイリに似ていた。昔の記憶とアイリと出会ったときが似たような情景だったからそう感じてしまったのかもしれない。
「明日ここを出ちまうがたまにこの酒飲みに来てもいいか? と、いってもこの街にいるのは変わりないが」
「ええ、もちろん。わたし、帝都にいつか行ってみたいんです。なので帝都のお話してもらってもいいですか?」
ルフィナは目を輝かせた。
帝都でいい思い出はろくになかったゼクスだがこれも恩返しのひとつだ、と思うと
「あぁ、俺が知ってることで良ければなんでも」
彼女の期待を裏切らないようにそう告げる。
「やった、じゃあホワイトレディおまけでもういっぱいどうですか?」
「あたしも同じもの貰おうかしら」
子供っぽい声。その声はゼクスにとって聞き覚えがある。
眉を寄せてカウンター席によじ登る彼女に言い放つ。
「子供が酒なんて飲んじゃいけないだろ。ミルクにでもしとけ」
「うっさい! 子供いうなっ!」
犬歯を剥き出しにして威嚇する。本人は本気で言っているようだが傍から見たら子供が怒っているようで可愛らしいとも思える仕草だ。
「なんでここにいんだよ」
「あたしがここに居ちゃ悪いか」
「悪いね」
お互い顔も見ずに言葉を交わした。
「あれ、お二人共知り合いだったんですか?」
そんな様子を見ていたルフィナが彼女の前にもカクテルグラス置く。
「ルフィナちゃん、このお方は帝国騎士団総騎士団長様のご子息なんだよ。あたし個人とも取引があったんだ」
同じように彼女のグラスにもホワイトレディを注ぎ、ゼクスにも新しいものを差し出す。
「騎士学校時代にこいつと知り合ってぼったくられたんだよ。思い出すだけで--」
「あはは……」
愛想笑いを浮かべると思い出したように下の棚から紙切れを一枚取り出す。
「ミーナさん、忘れないうちに渡しておきますね」
「ああ、そうだそうだ。これをもらいに来たんだった」
渡された紙切れは受注書。この店で必要なものが全てこの紙に書かれている。
ミーナはその紙をさっと見る。
「今回は随分とすくないのね。もしかして物価とか?」
「はは……お恥ずかしながら予算が少なくて--必要最低限なものだけ頼むように、ってお父さんから言われてて」
笑顔を浮かべてはいるがどこかうかない表情のルフィナ。
ここの物価は上がっている一方と聞いていたのを思い出すゼクス。
(厳しい生活だろうに……)
カクテルグラスに入っている白い酒を見つめる。
そんな矢先、ミーナが口を開く。
「大丈夫、この元騎士様が時期に解決してくれるわ」
「ーー……えっ?」
思わずミーナの顔を凝視してしまう。
「なによ。騎士の教訓でもあるでしょ? 騎士たるもの?ーー」
「ーー騎士たるものいついかなる時でも助けを求めるものあればその手を差し伸べよ」
ミーナの言葉に続いてゼクスは脳裏に染み付いた教訓を付け足す。
よく出来ましたとそのお子さまは犬歯を出して笑う。
「そうだな、俺も元だが騎士の端くれだ。困ってる人がいてそれを放置する気前は持ち合わせてないからな」
そんな言葉にルフィナはキュッと両手を胸の前で合わせる。
「そうだ、ちょっと待っててくださいね。とっておきのものがあるんですよ」
と、ルフィナはカウンターの奥に姿を消してしまう。
他の宿泊客も既にいなくなっていて店内には二人だけとなり、静寂が流れる。
「どういうつもりだ?」
ゼクスはカクテルグラスに視線を落としながら呟く。
「なにがよ」
「お前が俺にけしかけるのは大体なにか裏があるときだ。何をしでかすつもりだ」
ゼクスの口調は淡々と詰問しているようだ。しかしミーナには彼の心の揺らぎが手に取るように分かっていた。
「さぁね。あんたに問題解決させればビジネスチャンスが舞い込んでくる。それじゃあダメかしら?」
クルクルとカクテルグラスを回し、ミーナはその小さな口をつけると、「あら、おいしいわね」と興味はホワイトレディに移っていた。
「…………」
グラスを空けるとカウンターに銅貨を数枚置いてーー背が小さいためかイスから飛び降りた。
「じゃああたし行くわ。これを貰いに来ただけだったから」
ヒラヒラと受注書を見せると彼女はバーから出ていく。
そんな彼女を横目で見ていると、
「そうだ」
ドアを閉めかけると思い出したようにーー
「また、明日」
ーーそう言い残して姿を消した。
「あれ、ミーナさん帰っちゃったんですか?」
入れ替わりにルフィナが両手に何かを抱えて戻ってくる。
「せっかくだから一緒に飲もうと思ったのに……」
と、彼女が腕に抱えていたボトルをカウンターに置く。
「それはっ!」
思わずゼクスが身を乗り出してボトルのラベルに釘付けになる。
ーードン・リエット。通称ドンリエ。
存在だけは誰でも知っているであろう銘酒。
しかし実物は知っている者はほとんどおらず幻とまで言われるようになっていた。ゼクスも目にするのは初めて。
しかし何故こんな所にこんな銘酒が?
疑問に思っているとーー
「お父さんの秘蔵のお酒だけどちょっとだけ、ね?」
どうやらデギンズがいつか飲もうと思っていた取っておいたのだろう。
「いいのか?」
「はい、お父さん気づかないから」
そう言って躊躇いなくボトルに手を掛けるルフィナ。
「まて、それはまた今度だ。それだけ上等な酒なら最高の瞬間に飲みたい。今はまだ早い」
まだ何もしていないのに飲むのは申し訳ない。
そんな気持ちを汲み取ってか
「わかりました。絶対ドンリエ。飲みに来てくださいね」
可憐な微笑みを浮かべるルフィナだった。
テーブル席とカウンター席に分かれている。テーブル席に二人――宿泊客なのだろう。何度か顔を見たことがある――談笑しているだけでそれ以外に客はいなかった。
カウンターのディスプレイには数々のボトルが陳列されている。定番の酒から銘酒まで幅広く取り揃えてあることが分かる。
「いらっしゃいーーあれ、見ない顔ですね」
カウンターでグラスを磨いていた金髪の女性。整った顔立ちとゆるくウェーブかかった長髪、豊満な胸も相まってとても魅力的な人だった。
「ゼクスって言えば分かるっておっさんから言われたんだが」
「ゼクスさんでしたか。お話は伺ってます。どうぞこちらに」
彼女の目の前の席を丁寧に指すと、ゼクスは一段高くなっている丸椅子に腰を下ろした。
「お会いするのは初めてですね。ルフィナです、お父さんから話は聞いていますよ」
ゼクスは目を見開き彼女の顔を凝視する。――デギンズからイメージしていた人物像からはかけ離れていたからだ。
「マジか。父親にはまったく似てないな」
「よく言われます」
にっこりと愛嬌のあるえくぼを浮かべて微笑むルフィナ。
「ゼクスさんはいつも何飲まれていますか? 大体のものはありますよ」
「そうだな……いつもはエールかビール。飲めりゃいいって感じだからなぁ、こんな雰囲気の店で飲むこともないし少しは洒落た酒でも知ろうかな――てことで君のおすすめで」
と心中をつらつらと説明口調で語る。
「わかりました、僭越ながら腕を振るわせていただきますね。あ、あと『アル』でいいですよ。みんなからもそう呼ばれてますし」
アルフィマはボトルの影から銀色の蓋のついた小さな小瓶のようなものを取り出した。
「じゃあ、アル。それなんだ?」
「これですか? シェイカーですよ。お酒を入れてこう振って混ぜる道具なんですよ」
慣れた手つきで両手でシェイカーを包み込み、シャカシャカと振る動作は様になっていた。
「カクテル飲んだことありませんか?」
「名前くらいしか聞いたことがないな」
シェイカーの蓋を開け、ゼクスの前に出されたカクテルグラスに注ぐ。
「へえ、これがカクテルか」
「ホワイトレディっていう名前です」
カクテルグラスごと光にかざして見たりして、クイッとホワイトレディを飲み干す。
「お、美味いなコレ」
率直な感想を言うとルフィナは「よかった」と胸に手を当てて安堵した。
「ゼクスさん、帝都出身なんですよね。昔の皇女様でとても美しい白髪の方がいたのは知っていらっしゃいますか?」
「ああ、一応は。アーネイルさまだったか?」
「そうです。そのアーネイル様をモチーフにして作られたお酒がこのホワイトレディです」
ゼクスは言葉を漏らすとグラスを見つめた。
帝都にいた頃に一度だけ彼女の肖像画を見たことがあったのを思い出す。
月夜に照らされた皇女アーネイルはどこか、雰囲気がアイリに似ていた。昔の記憶とアイリと出会ったときが似たような情景だったからそう感じてしまったのかもしれない。
「明日ここを出ちまうがたまにこの酒飲みに来てもいいか? と、いってもこの街にいるのは変わりないが」
「ええ、もちろん。わたし、帝都にいつか行ってみたいんです。なので帝都のお話してもらってもいいですか?」
ルフィナは目を輝かせた。
帝都でいい思い出はろくになかったゼクスだがこれも恩返しのひとつだ、と思うと
「あぁ、俺が知ってることで良ければなんでも」
彼女の期待を裏切らないようにそう告げる。
「やった、じゃあホワイトレディおまけでもういっぱいどうですか?」
「あたしも同じもの貰おうかしら」
子供っぽい声。その声はゼクスにとって聞き覚えがある。
眉を寄せてカウンター席によじ登る彼女に言い放つ。
「子供が酒なんて飲んじゃいけないだろ。ミルクにでもしとけ」
「うっさい! 子供いうなっ!」
犬歯を剥き出しにして威嚇する。本人は本気で言っているようだが傍から見たら子供が怒っているようで可愛らしいとも思える仕草だ。
「なんでここにいんだよ」
「あたしがここに居ちゃ悪いか」
「悪いね」
お互い顔も見ずに言葉を交わした。
「あれ、お二人共知り合いだったんですか?」
そんな様子を見ていたルフィナが彼女の前にもカクテルグラス置く。
「ルフィナちゃん、このお方は帝国騎士団総騎士団長様のご子息なんだよ。あたし個人とも取引があったんだ」
同じように彼女のグラスにもホワイトレディを注ぎ、ゼクスにも新しいものを差し出す。
「騎士学校時代にこいつと知り合ってぼったくられたんだよ。思い出すだけで--」
「あはは……」
愛想笑いを浮かべると思い出したように下の棚から紙切れを一枚取り出す。
「ミーナさん、忘れないうちに渡しておきますね」
「ああ、そうだそうだ。これをもらいに来たんだった」
渡された紙切れは受注書。この店で必要なものが全てこの紙に書かれている。
ミーナはその紙をさっと見る。
「今回は随分とすくないのね。もしかして物価とか?」
「はは……お恥ずかしながら予算が少なくて--必要最低限なものだけ頼むように、ってお父さんから言われてて」
笑顔を浮かべてはいるがどこかうかない表情のルフィナ。
ここの物価は上がっている一方と聞いていたのを思い出すゼクス。
(厳しい生活だろうに……)
カクテルグラスに入っている白い酒を見つめる。
そんな矢先、ミーナが口を開く。
「大丈夫、この元騎士様が時期に解決してくれるわ」
「ーー……えっ?」
思わずミーナの顔を凝視してしまう。
「なによ。騎士の教訓でもあるでしょ? 騎士たるもの?ーー」
「ーー騎士たるものいついかなる時でも助けを求めるものあればその手を差し伸べよ」
ミーナの言葉に続いてゼクスは脳裏に染み付いた教訓を付け足す。
よく出来ましたとそのお子さまは犬歯を出して笑う。
「そうだな、俺も元だが騎士の端くれだ。困ってる人がいてそれを放置する気前は持ち合わせてないからな」
そんな言葉にルフィナはキュッと両手を胸の前で合わせる。
「そうだ、ちょっと待っててくださいね。とっておきのものがあるんですよ」
と、ルフィナはカウンターの奥に姿を消してしまう。
他の宿泊客も既にいなくなっていて店内には二人だけとなり、静寂が流れる。
「どういうつもりだ?」
ゼクスはカクテルグラスに視線を落としながら呟く。
「なにがよ」
「お前が俺にけしかけるのは大体なにか裏があるときだ。何をしでかすつもりだ」
ゼクスの口調は淡々と詰問しているようだ。しかしミーナには彼の心の揺らぎが手に取るように分かっていた。
「さぁね。あんたに問題解決させればビジネスチャンスが舞い込んでくる。それじゃあダメかしら?」
クルクルとカクテルグラスを回し、ミーナはその小さな口をつけると、「あら、おいしいわね」と興味はホワイトレディに移っていた。
「…………」
グラスを空けるとカウンターに銅貨を数枚置いてーー背が小さいためかイスから飛び降りた。
「じゃああたし行くわ。これを貰いに来ただけだったから」
ヒラヒラと受注書を見せると彼女はバーから出ていく。
そんな彼女を横目で見ていると、
「そうだ」
ドアを閉めかけると思い出したようにーー
「また、明日」
ーーそう言い残して姿を消した。
「あれ、ミーナさん帰っちゃったんですか?」
入れ替わりにルフィナが両手に何かを抱えて戻ってくる。
「せっかくだから一緒に飲もうと思ったのに……」
と、彼女が腕に抱えていたボトルをカウンターに置く。
「それはっ!」
思わずゼクスが身を乗り出してボトルのラベルに釘付けになる。
ーードン・リエット。通称ドンリエ。
存在だけは誰でも知っているであろう銘酒。
しかし実物は知っている者はほとんどおらず幻とまで言われるようになっていた。ゼクスも目にするのは初めて。
しかし何故こんな所にこんな銘酒が?
疑問に思っているとーー
「お父さんの秘蔵のお酒だけどちょっとだけ、ね?」
どうやらデギンズがいつか飲もうと思っていた取っておいたのだろう。
「いいのか?」
「はい、お父さん気づかないから」
そう言って躊躇いなくボトルに手を掛けるルフィナ。
「まて、それはまた今度だ。それだけ上等な酒なら最高の瞬間に飲みたい。今はまだ早い」
まだ何もしていないのに飲むのは申し訳ない。
そんな気持ちを汲み取ってか
「わかりました。絶対ドンリエ。飲みに来てくださいね」
可憐な微笑みを浮かべるルフィナだった。
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