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第15項 白銀のアイリ
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酒場裏ーー
ゼクスとアイリは裏庭にいた。
「さんじゅうきゅう。よんじゅう----」
上半身をはだけさせながらゼクスは腕立てをしていた。
すでに全身から汗が吹き出して顔の下には水たまりが出来るほど。
アイリは木箱に腰をおろしてその様子を退屈そうに足をパタパタさせて眺めている。
「――ごじゅうっ! 終わったぁー……」
数え終えると同時に地面に突っ伏してしまう。 寝返りを打って空を眺める。
「休憩は1分よー」
「マジかよ! もう2セットもやったじゃねえか。あと何回やろうってんだよ」
「まだ始めて10分も経ってないわよ? 身体強化してないとまるでダメね」
はあ、と呆れながらため息を吐くと、おもむろに右手を突き出す。どこからともなくどこにでも売ってそうな鉄の剣が現れる。
「模擬戦よ。あんたはなんでも使っていいわ。私はこれ一本でこの場から動かないから」
鈍く光る鉄剣を手で弄ぶ。
そんなアイリの発言に顔を引きつらせると「上等だ」と、立ち上がり甲冑を魔法で纏わせた。
「本当になんでも使っていいんだな?」
念を押すようにゼクスは問いかける。
こくり、と黙って頷くアイリ。
ゼクスは左手から魔法陣を展開し、同じような鉄の剣を取り出す。
重さを確かめるように右、左と交互に持ち変える――
大地をえぐるように駆け出すゼクス。
――ヒュッ――
駆け出すと同時に持っていた剣をアイリめがけて投げつける。
だが、その動き自体も見破られ軽々と上半身を逸らして避けると、スコンッと軽い音を立てて後ろの木箱に突き刺さった。
小さく舌打ちをしてみせると膝を屈伸させ、大きく飛び上がる。瞬時に別の剣を出現させて全体重と共にアイリへと落下する。
――ガキイィィィイィィィンッッ――
空振が起きるほどの衝撃が反響する。
「こんなもの?」と言いたげに片眉を上げるアイリ。
普通の女の子が魔力強化したゼクスの衝撃に耐えられるわけがない。確実に彼女も身体強化をしているのだが……
(これが基礎体力の違いって言いたいのか)
着地し、バックステップで距離をとる。
「くそっ」
今度は下手なことをせずに真正面から。
何度も切り結ぶが、一向に変化しない状況。アイリはただ、薙ぎ払いあしらっているだけ。
見かねたアイリは口を開く。
「いい? 昔の人の格言があるの。『レベルを上げて物理で殴れ』ーーってね。魔法は自分の能力を引き出してくれるものよ、特に身体強化系はね。でも、それが全てじゃないわ。ただ、能力を上げてくれたところで基礎がなってないと意味が無い。魔術は掛け算よ。元が0ならどんなに掛け合わせても0。元が100なら魔術で掛け合わされる力は一気に倍増するーーこんな風にね」
手首を返してゼクスの剣を下から跳ねると、空高く舞い上がる。
思わぬ攻撃で体制を崩してしまうゼクス。
だが、追撃はない。リーチ外だ。
アイリの制約に助けられたゼクスはまた距離を取る。
(ならーー)
左手を突き出して、赤色魔法陣を展開させる。
小さな火球が1つ飛び出す。
アイリが斬撃でかき消す。残火で視界がぼやける。
やがて開けた視界の先には無数の火球がアイリ目掛けて襲いかかってくる。
久しぶりの対人戦。面白くなってきたアイリ。
構えを取り直し、連火を迎え撃つ。
『1歩も動かない』という製薬の中、めいっぱい体を動かす。避けきれないものだけを剣で薙ぎ払う。
それを見たゼクスはより一層火球を増やす。
周囲の木箱も破壊し、欠片を飛び散らせた。
徐々に押されつつあるアイリ。服の所々に焦げがつき始める。
だが、アイリにもある確信があった。
魔術は自分の体を基本とする。身体能力向上にしろ、攻撃魔法にしろ。ゼクスの火球はすぐに止むとふむと、遠距離攻撃の手段を失ったゼクスはちかづかざるを得ないーー
ーー火球を処理しつつタイミングを測る。
ヌッとゼクスの顔が現れる。愛剣と巨大盾を出現させたカレ本来の騎士スタイルで。
不意をつかれたアイリは反射的に剣戟をもう片腕でふり払った。
だが使い慣れた武具。ゼクスは冷静に追撃を警戒し防御を固める。
(さすがに硬いわね……)
状況はゼクスに傾きつつある。
だが、アイリも一筋縄では終わらない。
全身に白い粒子を纏わせると同時に放つ威圧感に変化があった。
何も感じない--そこにいるのに、目の前に見えているのに気配を感じなくなってゆく。
ゼクスの背筋にひんやりと冷たい何かが伝わる。
一瞬の隙を逃すアイリではなかった。
盾に掌底を当てるとたちまち体制を崩し、尻もちをついてしまう。
そして、首筋に剣の刃をたてる。
勝負アリ。
結局一歩も動かすこともできず、落胆をする。
「やっぱり、あんたはそのスタイルが一番あってるようね。魔法は最低限は使えればいいわ」
剣を消して、ゼクスの肩をポン、と叩く。
「でもまあ、私もあの状態を使わなかったら危なかった。思った以上にやるわね」
そんな言葉をかけられるが、やっぱりゼクスは力量の差というのを思い知らされた。
「今日はここまでにしましょ。無理は良くないわ」
と、言い残すとアイリは酒場に戻ってしまう。
ゼクスとアイリは裏庭にいた。
「さんじゅうきゅう。よんじゅう----」
上半身をはだけさせながらゼクスは腕立てをしていた。
すでに全身から汗が吹き出して顔の下には水たまりが出来るほど。
アイリは木箱に腰をおろしてその様子を退屈そうに足をパタパタさせて眺めている。
「――ごじゅうっ! 終わったぁー……」
数え終えると同時に地面に突っ伏してしまう。 寝返りを打って空を眺める。
「休憩は1分よー」
「マジかよ! もう2セットもやったじゃねえか。あと何回やろうってんだよ」
「まだ始めて10分も経ってないわよ? 身体強化してないとまるでダメね」
はあ、と呆れながらため息を吐くと、おもむろに右手を突き出す。どこからともなくどこにでも売ってそうな鉄の剣が現れる。
「模擬戦よ。あんたはなんでも使っていいわ。私はこれ一本でこの場から動かないから」
鈍く光る鉄剣を手で弄ぶ。
そんなアイリの発言に顔を引きつらせると「上等だ」と、立ち上がり甲冑を魔法で纏わせた。
「本当になんでも使っていいんだな?」
念を押すようにゼクスは問いかける。
こくり、と黙って頷くアイリ。
ゼクスは左手から魔法陣を展開し、同じような鉄の剣を取り出す。
重さを確かめるように右、左と交互に持ち変える――
大地をえぐるように駆け出すゼクス。
――ヒュッ――
駆け出すと同時に持っていた剣をアイリめがけて投げつける。
だが、その動き自体も見破られ軽々と上半身を逸らして避けると、スコンッと軽い音を立てて後ろの木箱に突き刺さった。
小さく舌打ちをしてみせると膝を屈伸させ、大きく飛び上がる。瞬時に別の剣を出現させて全体重と共にアイリへと落下する。
――ガキイィィィイィィィンッッ――
空振が起きるほどの衝撃が反響する。
「こんなもの?」と言いたげに片眉を上げるアイリ。
普通の女の子が魔力強化したゼクスの衝撃に耐えられるわけがない。確実に彼女も身体強化をしているのだが……
(これが基礎体力の違いって言いたいのか)
着地し、バックステップで距離をとる。
「くそっ」
今度は下手なことをせずに真正面から。
何度も切り結ぶが、一向に変化しない状況。アイリはただ、薙ぎ払いあしらっているだけ。
見かねたアイリは口を開く。
「いい? 昔の人の格言があるの。『レベルを上げて物理で殴れ』ーーってね。魔法は自分の能力を引き出してくれるものよ、特に身体強化系はね。でも、それが全てじゃないわ。ただ、能力を上げてくれたところで基礎がなってないと意味が無い。魔術は掛け算よ。元が0ならどんなに掛け合わせても0。元が100なら魔術で掛け合わされる力は一気に倍増するーーこんな風にね」
手首を返してゼクスの剣を下から跳ねると、空高く舞い上がる。
思わぬ攻撃で体制を崩してしまうゼクス。
だが、追撃はない。リーチ外だ。
アイリの制約に助けられたゼクスはまた距離を取る。
(ならーー)
左手を突き出して、赤色魔法陣を展開させる。
小さな火球が1つ飛び出す。
アイリが斬撃でかき消す。残火で視界がぼやける。
やがて開けた視界の先には無数の火球がアイリ目掛けて襲いかかってくる。
久しぶりの対人戦。面白くなってきたアイリ。
構えを取り直し、連火を迎え撃つ。
『1歩も動かない』という製薬の中、めいっぱい体を動かす。避けきれないものだけを剣で薙ぎ払う。
それを見たゼクスはより一層火球を増やす。
周囲の木箱も破壊し、欠片を飛び散らせた。
徐々に押されつつあるアイリ。服の所々に焦げがつき始める。
だが、アイリにもある確信があった。
魔術は自分の体を基本とする。身体能力向上にしろ、攻撃魔法にしろ。ゼクスの火球はすぐに止むとふむと、遠距離攻撃の手段を失ったゼクスはちかづかざるを得ないーー
ーー火球を処理しつつタイミングを測る。
ヌッとゼクスの顔が現れる。愛剣と巨大盾を出現させたカレ本来の騎士スタイルで。
不意をつかれたアイリは反射的に剣戟をもう片腕でふり払った。
だが使い慣れた武具。ゼクスは冷静に追撃を警戒し防御を固める。
(さすがに硬いわね……)
状況はゼクスに傾きつつある。
だが、アイリも一筋縄では終わらない。
全身に白い粒子を纏わせると同時に放つ威圧感に変化があった。
何も感じない--そこにいるのに、目の前に見えているのに気配を感じなくなってゆく。
ゼクスの背筋にひんやりと冷たい何かが伝わる。
一瞬の隙を逃すアイリではなかった。
盾に掌底を当てるとたちまち体制を崩し、尻もちをついてしまう。
そして、首筋に剣の刃をたてる。
勝負アリ。
結局一歩も動かすこともできず、落胆をする。
「やっぱり、あんたはそのスタイルが一番あってるようね。魔法は最低限は使えればいいわ」
剣を消して、ゼクスの肩をポン、と叩く。
「でもまあ、私もあの状態を使わなかったら危なかった。思った以上にやるわね」
そんな言葉をかけられるが、やっぱりゼクスは力量の差というのを思い知らされた。
「今日はここまでにしましょ。無理は良くないわ」
と、言い残すとアイリは酒場に戻ってしまう。
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