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Ep.7 すれ違いの湖 後編
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気分転換も兼ねて二人はそのまま湖でしばらく遊んでいた。
誰も見ていないところで二人。サラは言葉通り思う存分羽を広げていた。
濡れた服を焚き火で乾かす。空から月光が降り注ぎ、うっすら見える星々はひっそり瞬く。
夕食をすませるとゼクスはふとサラの以前の生活が気になった。ずっと幻影の神殿に潜んでいたのか。
それにしては外を知っているような感じがしていた。多くの人と対しても、もの応じしていないし……そもそも外界と接したことがなければ人間を見たこともかっただろうし。
「そういえば俺たちと出会う前、ずっとあの場所にいたのか? 世界を見た事がないんだろう?」
「ううん。正確に言うと世界を見た事がない訳じゃない。あの神殿の前にお母さんと旅をしていた時期はあった。けれどどこも洞窟みたいな場所で、人間が簡単に入ってこれない場所だった。秘境の山、深い森とか」
「じゃあノーザンラークにもいったことあるのか?」
「どうだろう。お母さんに連れられてあちこち行ってたから……食事も着るものも。人間の生活もなにからなにまでお母さんから教えてもらった。お母さんが私のすべてだった――」
首から下げていた小さな革袋を両手でぎゅっと握りしめた。
中には龍人の命ともいえる龍石――その砕け散ったカケラが入っていた。
母が恋しいのだろう。それが分かっていたからゼクスは何も言えずにただただ、火の粉に現を抜かす。
「ゼクスって今まで何してたの?」
唐突にサラは告げた。
「俺か? まあ、人に話すような過去は持ち合わせてないな」
「半分人じゃないから話してもいいんじゃない?」
「……お前口がうまくなったな」
「おかげさまで」
サラは誇らしげに口角を上げてみせる。
ゼクスは同情なのか自分でもよくわからない感情が上がってきて、一つため息をつくと観念したように話し始めた。
父親は帝国騎士団長。その長子として生まれたゼクスはわがままに生きてきた。何かに縛られるのを嫌い自由奔放に。ただ父親――ジークはそんなゼクスを嫌っていた。帝国騎士団長の息子としての振る舞いがなってない、と。
そうして入れられたのが騎士学校。最初は反発して問題ばかり起こしていた。けれどある事件がきっかけで父親の事を知ろうとし始めた。
そのためには騎士学校で成績を残すことでジークのことをもっと知れるだろう。と努力をし始めた。
「騎士になるきっかけを与えたのは親父だった。そして、奪うきっかけを作ったのも、奴だった」
すこしずつ努力し始め成績もだんだんと良くなってきた矢先。ゼクスは孤立した。
騎士団長の子供だから、なにか裏口を使っているのではないか。騎士団長の子供だけど成績はいまいちだな。
そんな陰口が聞こえ始めた。
卒業間際、追い打ちをかけるように告げられた。配属先、それは中隊、その指揮官だった。中隊長に抜擢されるなど通常ありえない。ましてや主席どころか成績は平均がいいところ。そんな実力しか持ち合わせていない当人には荷が重すぎる。
確実にジークの仕業だと誰の目にも見えた。
「まあ、それから色々あって騎士をやめたってことだ。そんな面白い話じゃないだろ?」
ゼクスは平然とした表情で言ってみせた。事実、ゼクスにとってはそんなことはもうどうでもよかった。
サラはゼクスの頭の中を少しだけ覗いてしまった。孤独の中で戦い、信頼できるものなどほとんどいない。黒い渦の中に飛び込むような生活を疑似体験してしまった。
「……俺の中を見たのか」
「ごめん、わざとじゃない」
ゼクスはなるべく優しく、サラの頭に手をのせてゆっくりと髪を撫でてやった。
「大丈夫だ。サラがそれでつぶれてしまわないか心配なだけだ。それに、その力もコントロールできるようにならないとな」
子供を諭すようにやさしく穏やかな口調でゼクスはそう言う。
「さて、もうそろそろ寝るか。明日は多分、目的地につくだろうしやる事いっぱいあるしな。サラ見張り頼めるか?」
「うん、分かった」
「なにかあったらすぐ起こしてくれ」と言い残して横たわる。
しかし、ゼクスの目はさえたまま、眠りについたのはもう夜が明けることになってしまった。
誰も見ていないところで二人。サラは言葉通り思う存分羽を広げていた。
濡れた服を焚き火で乾かす。空から月光が降り注ぎ、うっすら見える星々はひっそり瞬く。
夕食をすませるとゼクスはふとサラの以前の生活が気になった。ずっと幻影の神殿に潜んでいたのか。
それにしては外を知っているような感じがしていた。多くの人と対しても、もの応じしていないし……そもそも外界と接したことがなければ人間を見たこともかっただろうし。
「そういえば俺たちと出会う前、ずっとあの場所にいたのか? 世界を見た事がないんだろう?」
「ううん。正確に言うと世界を見た事がない訳じゃない。あの神殿の前にお母さんと旅をしていた時期はあった。けれどどこも洞窟みたいな場所で、人間が簡単に入ってこれない場所だった。秘境の山、深い森とか」
「じゃあノーザンラークにもいったことあるのか?」
「どうだろう。お母さんに連れられてあちこち行ってたから……食事も着るものも。人間の生活もなにからなにまでお母さんから教えてもらった。お母さんが私のすべてだった――」
首から下げていた小さな革袋を両手でぎゅっと握りしめた。
中には龍人の命ともいえる龍石――その砕け散ったカケラが入っていた。
母が恋しいのだろう。それが分かっていたからゼクスは何も言えずにただただ、火の粉に現を抜かす。
「ゼクスって今まで何してたの?」
唐突にサラは告げた。
「俺か? まあ、人に話すような過去は持ち合わせてないな」
「半分人じゃないから話してもいいんじゃない?」
「……お前口がうまくなったな」
「おかげさまで」
サラは誇らしげに口角を上げてみせる。
ゼクスは同情なのか自分でもよくわからない感情が上がってきて、一つため息をつくと観念したように話し始めた。
父親は帝国騎士団長。その長子として生まれたゼクスはわがままに生きてきた。何かに縛られるのを嫌い自由奔放に。ただ父親――ジークはそんなゼクスを嫌っていた。帝国騎士団長の息子としての振る舞いがなってない、と。
そうして入れられたのが騎士学校。最初は反発して問題ばかり起こしていた。けれどある事件がきっかけで父親の事を知ろうとし始めた。
そのためには騎士学校で成績を残すことでジークのことをもっと知れるだろう。と努力をし始めた。
「騎士になるきっかけを与えたのは親父だった。そして、奪うきっかけを作ったのも、奴だった」
すこしずつ努力し始め成績もだんだんと良くなってきた矢先。ゼクスは孤立した。
騎士団長の子供だから、なにか裏口を使っているのではないか。騎士団長の子供だけど成績はいまいちだな。
そんな陰口が聞こえ始めた。
卒業間際、追い打ちをかけるように告げられた。配属先、それは中隊、その指揮官だった。中隊長に抜擢されるなど通常ありえない。ましてや主席どころか成績は平均がいいところ。そんな実力しか持ち合わせていない当人には荷が重すぎる。
確実にジークの仕業だと誰の目にも見えた。
「まあ、それから色々あって騎士をやめたってことだ。そんな面白い話じゃないだろ?」
ゼクスは平然とした表情で言ってみせた。事実、ゼクスにとってはそんなことはもうどうでもよかった。
サラはゼクスの頭の中を少しだけ覗いてしまった。孤独の中で戦い、信頼できるものなどほとんどいない。黒い渦の中に飛び込むような生活を疑似体験してしまった。
「……俺の中を見たのか」
「ごめん、わざとじゃない」
ゼクスはなるべく優しく、サラの頭に手をのせてゆっくりと髪を撫でてやった。
「大丈夫だ。サラがそれでつぶれてしまわないか心配なだけだ。それに、その力もコントロールできるようにならないとな」
子供を諭すようにやさしく穏やかな口調でゼクスはそう言う。
「さて、もうそろそろ寝るか。明日は多分、目的地につくだろうしやる事いっぱいあるしな。サラ見張り頼めるか?」
「うん、分かった」
「なにかあったらすぐ起こしてくれ」と言い残して横たわる。
しかし、ゼクスの目はさえたまま、眠りについたのはもう夜が明けることになってしまった。
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