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Ep.8 閉ざされた山門
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ノーザンラークの麓に辿り着いた2人。
山から切り出された石で作られた外壁。門は重厚な鉄の扉が立ち入るものに対して威圧を放っている。
さほど広くない門幅を二人の門番が護っている。その間を通ろうとすると横目で盗み見てくる。が、とくに何も無く通り抜けることが出来た。
余程変なやつか魔物対策で立っているのだろうとゼクスは思いつつ目的地、山麓ラーディケスにようやく到達できた。
何故麓のラーディケスなのか……それはノーザンラークに入る唯一の山門がここにあるからだ。
石造りの町に多くの人が行き交う。顔に大きな傷を付け誇らしげに歩く男や得物を手で弄びながら鋭い眼光を覗かせる者ーーみなドラゴンの噂を聞きつけてやってきたのだろう。
さっそくゼクスは情報収集をしに酒場につま先を向けるのだが、サラがじっとり睨んでくる。
「……………………」
目で訴えかけてくる。これは……
「飲まねーよ」
「ほんと?」
ゼクスの瞳をじーっと覗き込んでくる。嘘はつけない。
「の、のまねーよ……」
「まぁいいよ。呑んだら呑んだで置いてくから」
ゼクスはこうも信用ないんだな、とため息をついた。
案の定中は酒と煙と男の匂いとが混ざって刺激臭に似た独特の匂いを発していた。
しかしながら妙に静かだ。普通ならディネールの酒場ーー濡羽の翠蓋みたいに誰もが騒いで呑んで、うるさいのが普通なのだが。
みな樽ジョッキを傾けながら詮索しているようにも見えた。
(なるほどな。聞き耳立てて情報収集にご関心ってことか)
ゼクスは奥のバーカウンターにサラと一緒に向かうのだが視線が痛い……
ハイチェアに2人は座りバーテンダーは腕を組んだまま。
「ミルクでも貰おうか」
「うちは託児所じゃないんでね。うちは酒場だ酒を頼んでくれ……ったく」
友好的ではない態度を返される。明らかに期限の悪そうな表情を浮かべていた。なにか彼の言動に引っ掛かりを覚えたのはつかの間。サラが指先でカウンターをトントン何度か叩く方に意識が向けられた。
ここは任せろとでも言いたげにゼクスに顔を向けていた。
「まぁそう言わずに。でも確かにこんなに店内が静かじゃあ話す気も起きないよね。少し物音立てただけで注目されるようじゃあね。私達もリスク負えないわよね」
いっそう静けさが増していくのが分かる。
サラは自分が心を読めるのを使って情報を引き出そうとしていたのだ。
それに勘づいたゼクスは観察に徹した。出来ることなら情報は流したくはないのだが……仕方あるまい。
そこらに居る奴らは相変わらず聞き耳を立てている、たまに樽ジョッキを傾けながら。
(あー、呑みてぇな)
と邪念が横切ると同時にある疑念が浮かぶ。そもそもコイツらは酒呑んでるのか?、と。
酒というかアルコールは一定量以上摂取すると多少なりとも顔が赤くなる。キャミィのように例外はいるが。
ここにいるほとんどがそうかと言われたら疑問だ。
ということはーー
「ゼクスなにか飲んでいい?」
あからさまなフリだ。情報を聞き出すための何かをーー
「……ああ、いいぞ」
ゼクスは左手をゆっくりとした所作でカウンターの上に持ってくる。その手を注目させるように。
手の甲が発光するとパンパンの皮袋が現れ緩んだ口からは金貨が煌めく。
「これがあるからな」
あくまで彼にだけ見せるように他の客からは死角になるように体で隠しながら。
それを見た瞬間目の色が変わると同時にやっぱりな、とゼクスの予想は確信に変わった。
ーーここにいる客ほとんどが居座りだったのだ。
その誰もが浴びるように呑みたい欲望を必死にこらえながらチビチビ飲んで情報収集していた。この大きな獲物を独り占めするために。
(まぁここで得られる情報ってのもたかが知れてるだろうけどな)
「なぁ、名前、なんて言うんだ?」
「なんだよ唐突に」
「いいから教えろ」
「ーーゼクスだ」
名前を聞くなりやっぱりなと言った表情を浮かべ
「俺からはとくに渡せる情報はない。だが、山門にキールって奴がいる。そいつに聞いてくれ。話せば情報くれるだろうよ」
と興味を失ったようにグラスを磨き始めた。
疑念を持ちながら酒場を後にする。
石と鉄が織り混ざった堅牢な山門。その手前に関所のように何人も険しい顔をした役人が鎮座していた。
バーテンダーによるとキールという人物はこのどこかにいるらしいのだが……
「おら、許可証を持たないものは入れんと言ってるだろう」
入ろうとした一人を突き飛ばす。
「領主の許可って、今は代理しかいねぇじゃねえか。今からディネールに行けってのか? ふざけんなっ!」
「ふざけてなどない、そういう決まりなのだ」
突き飛ばされた傭兵はここで騒ぎを起こしたくないのか、おずおずと引き下がってしまう。
そんな様子を尻目に役人の一人に声をかけるゼクス。
「キールってのはどいつだ? バーテンからそいつを訪ねろって言われてきたんだが」
「私です」
と、近くにいた優男がゼクスのそばまで駆け寄ってくる。
「ゼクスさんですか? お待ちしておりました」
「ん? 待っていた?」
山から切り出された石で作られた外壁。門は重厚な鉄の扉が立ち入るものに対して威圧を放っている。
さほど広くない門幅を二人の門番が護っている。その間を通ろうとすると横目で盗み見てくる。が、とくに何も無く通り抜けることが出来た。
余程変なやつか魔物対策で立っているのだろうとゼクスは思いつつ目的地、山麓ラーディケスにようやく到達できた。
何故麓のラーディケスなのか……それはノーザンラークに入る唯一の山門がここにあるからだ。
石造りの町に多くの人が行き交う。顔に大きな傷を付け誇らしげに歩く男や得物を手で弄びながら鋭い眼光を覗かせる者ーーみなドラゴンの噂を聞きつけてやってきたのだろう。
さっそくゼクスは情報収集をしに酒場につま先を向けるのだが、サラがじっとり睨んでくる。
「……………………」
目で訴えかけてくる。これは……
「飲まねーよ」
「ほんと?」
ゼクスの瞳をじーっと覗き込んでくる。嘘はつけない。
「の、のまねーよ……」
「まぁいいよ。呑んだら呑んだで置いてくから」
ゼクスはこうも信用ないんだな、とため息をついた。
案の定中は酒と煙と男の匂いとが混ざって刺激臭に似た独特の匂いを発していた。
しかしながら妙に静かだ。普通ならディネールの酒場ーー濡羽の翠蓋みたいに誰もが騒いで呑んで、うるさいのが普通なのだが。
みな樽ジョッキを傾けながら詮索しているようにも見えた。
(なるほどな。聞き耳立てて情報収集にご関心ってことか)
ゼクスは奥のバーカウンターにサラと一緒に向かうのだが視線が痛い……
ハイチェアに2人は座りバーテンダーは腕を組んだまま。
「ミルクでも貰おうか」
「うちは託児所じゃないんでね。うちは酒場だ酒を頼んでくれ……ったく」
友好的ではない態度を返される。明らかに期限の悪そうな表情を浮かべていた。なにか彼の言動に引っ掛かりを覚えたのはつかの間。サラが指先でカウンターをトントン何度か叩く方に意識が向けられた。
ここは任せろとでも言いたげにゼクスに顔を向けていた。
「まぁそう言わずに。でも確かにこんなに店内が静かじゃあ話す気も起きないよね。少し物音立てただけで注目されるようじゃあね。私達もリスク負えないわよね」
いっそう静けさが増していくのが分かる。
サラは自分が心を読めるのを使って情報を引き出そうとしていたのだ。
それに勘づいたゼクスは観察に徹した。出来ることなら情報は流したくはないのだが……仕方あるまい。
そこらに居る奴らは相変わらず聞き耳を立てている、たまに樽ジョッキを傾けながら。
(あー、呑みてぇな)
と邪念が横切ると同時にある疑念が浮かぶ。そもそもコイツらは酒呑んでるのか?、と。
酒というかアルコールは一定量以上摂取すると多少なりとも顔が赤くなる。キャミィのように例外はいるが。
ここにいるほとんどがそうかと言われたら疑問だ。
ということはーー
「ゼクスなにか飲んでいい?」
あからさまなフリだ。情報を聞き出すための何かをーー
「……ああ、いいぞ」
ゼクスは左手をゆっくりとした所作でカウンターの上に持ってくる。その手を注目させるように。
手の甲が発光するとパンパンの皮袋が現れ緩んだ口からは金貨が煌めく。
「これがあるからな」
あくまで彼にだけ見せるように他の客からは死角になるように体で隠しながら。
それを見た瞬間目の色が変わると同時にやっぱりな、とゼクスの予想は確信に変わった。
ーーここにいる客ほとんどが居座りだったのだ。
その誰もが浴びるように呑みたい欲望を必死にこらえながらチビチビ飲んで情報収集していた。この大きな獲物を独り占めするために。
(まぁここで得られる情報ってのもたかが知れてるだろうけどな)
「なぁ、名前、なんて言うんだ?」
「なんだよ唐突に」
「いいから教えろ」
「ーーゼクスだ」
名前を聞くなりやっぱりなと言った表情を浮かべ
「俺からはとくに渡せる情報はない。だが、山門にキールって奴がいる。そいつに聞いてくれ。話せば情報くれるだろうよ」
と興味を失ったようにグラスを磨き始めた。
疑念を持ちながら酒場を後にする。
石と鉄が織り混ざった堅牢な山門。その手前に関所のように何人も険しい顔をした役人が鎮座していた。
バーテンダーによるとキールという人物はこのどこかにいるらしいのだが……
「おら、許可証を持たないものは入れんと言ってるだろう」
入ろうとした一人を突き飛ばす。
「領主の許可って、今は代理しかいねぇじゃねえか。今からディネールに行けってのか? ふざけんなっ!」
「ふざけてなどない、そういう決まりなのだ」
突き飛ばされた傭兵はここで騒ぎを起こしたくないのか、おずおずと引き下がってしまう。
そんな様子を尻目に役人の一人に声をかけるゼクス。
「キールってのはどいつだ? バーテンからそいつを訪ねろって言われてきたんだが」
「私です」
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