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ラーディケスの街 後編 p1

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キールに連れられて街の奥ーー街を見渡せる場所に造られたラーディケス城塞に着いた。
    白い岩石で作られた城塞は近くで見るとより大きく堅牢さが直に伝わってくる。
    敷地内に併設されている屋敷はディネールのものと比べるとふた周りほど小さく、城塞の隣にあるせいか、こじんまりとした印象だ。内装もさほどお金をかけていないようでどこか殺風景にも思える。
    メイドが一礼をして、「フィオールさんは?」「執務室にいらっしゃいますよ。お呼びしましょうか?」とキールが軽く言葉を交わしてから、ゼクスたちを客間に通す。
「フィオールさん、直ぐに来ますのでもうちょっと待ってて貰えますか?」
    キールはそう言い残すと、客間から出ていってしまった。
「ちょっとアイリに連絡する。通行証の事も聞きたいしな」
    ゼクスは窓際でうろうろし始める。
    サラは下に届かない足をパタパタさせて内装をキョロキョロ見渡し始める。額に入った絵画が何点か飾られていた。一際異色を放つ赤く塗りたくられた魔人のような絵は古ぼけて年季を感じる。
    気になって近くでじっと見つめると炎の魔人と手前に描かれた誰かと話しているような構図。
    ほかの絵も黄ばんでいたりして何度か色を入れ直した跡も見受けた。
「これって……」 
  サラの思いつきはゼクスの唐突の発言で宙に消えた。
「ーー通じない」
「どうしたの?」
「繋がらない、うんともすんともいいやしないしどうなってんだコレ」
    ゼクスはピアスを外してみるが分からない。強いていえば虹色の発光はほぼ無くなりただの小洒落たピアスになっているよう。
「使い方が間違ってるとか?」
「いや、合ってる。俺が前に使ってたのと形は違くても構造は同じだからな」
「じゃあ壊れたんじゃない?」
「ーーいえ、それはないと思いますよ」
    二人の会話に割って入ってきたのはさっきと服装が違うフィオール。きっちりと正装に身を包んでいるところを見るとさっきまで寝巻きかなにかだったのだろう。
「……なんでそう言いきれる?」
「僭越ながらこの部屋には魔術障壁を貼らせて頂きまして。ほらあそこ」
    指さした先。部屋の隅に置かれた彫像の下にうっすらと紫色の光が溢れていた。よく見ると四隅にデザインは違えども同じ彫像が置かれ紫の光を零していた。
「ああ、気にしないでください。別に襲おうって訳では無いので。ただの自衛、ですよ」
    魔術障壁は外から聴くことも覗くことも出来ない。しかし、逆を言うとこちらからの連絡手段も絶たれるということ。
    その発言に怪訝な表情を浮かべるが席に促されてフィオールの対面に座った。
「ええと、初めましてゼクスさん、サラさん。先程山門にいらっしゃいましたね、いやはや、お見苦しい所を……」
「で、リリィさんから俺達の事聞いてたって? 詳しい経緯を聞かせてくれないか? まるで状況がつかめん」
「山門を通るにはご存知通行証が必要です。しかしその発行にはまぁ、時間がかかってしまいつい先程その証書が届いたんで、リリィさんから『やる気のなさそうな傭兵が少女連れてるからすぐ分かる』って聞いてたからキールに山門で待たせてたんです」
  ゼクスはなるほどな、と喉を唸らせた。
「なんでリリィさんはその事教えてくれなかったんだろうな。山門の事知ってたらしいし」
「曖昧な事を言いたくない彼女らしいけど、ね。まぁ間に合ってよかった」
    はぐらかされたような気もしたが気が抜けたように来客用の椅子にもたれ掛かるフィオールに食い下がるつもりもなかった。
  さっきまでの堅苦しいお役所感はフッと消え去り感じのいいお兄ちゃんみたいな雰囲気をまとい始めた。
「それであんた達はどこまで知ってるんだ? 俺達のことーー」
「全部ーーなんて事はいわないけど、ディネールで起きた一件はほぼ全部リリィから聞いてるよ」
    フィオールはサラに視線を移して
「もちろん、龍人ってこともね」
   ウィンクした。
「さて、お二人も長旅でお疲れでしょうから部屋に案内しますよ」
「ん? 俺たちここに泊まるのか?」
「不満? なら城下の宿屋しかないけど」
  フィオールはいたずらっぽくゼクスの質問を流す。
「フィオさんめんどくさいですよ。人目に付かないように屋敷の一室を空けておきました、これもリリィさんからの助言ですけどね」
    代わりにキールが経緯を説明してくれた。
(何もかもお見通しってことかよ……あの人は)
    全部用意されたレールの上を歩いているようでゼクスは気分が悪かった。 帝都にいた頃を思い出してしまいそうで。
    しかし用意されたものを無下に断る理由もない、ゼクスももうなんであろうがゆっくり体を休めたかったのが実だ。
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