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ラーディケスの街 後編 Part.2

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「ひろっ」
    キングサイズベッドが1番最初に視線を奪う。続いてラーディケスの町並みを一望できる大きな窓、落ち着きのあるワインレッドの壁にいぶし銀で装飾された家具類。
    派手さはないが万人受けするゆったりと落ち着いた雰囲気。

「様々な方が泊まったりするのでどんな人にも不快にならないように装飾とか気を配っているそうです」

    物珍しく見回してる2人に、キールが微笑みながら補足する。

「様々って、例えば?」

「帝国からの使者とかですね。ここは自由都市ですけど帝国の管轄が入っていたりややこしいんですよ。視察とかで不定期に来られますよ」

    ゼクスは思わず『帝国』に反応して苦い表情を浮かべる。

「そういえばゼクスさんは今どこかに所属してるんですか? 前は帝国騎士団に所属してたって聞いてますけど」

    思案してから、ハッと実の所どうなのかよく分かってないことに気がついた。
    そもそもゼクスはあの酒場がなんなのか知らなかった。ギルドなのか情報屋なのかただの酒場なのか。そして自分は今もメンバーなのか。いや、正式メンバーではないと言っていた。そして一件があって……

「わからん!」

    考えるのを放棄して投げ出したゼクスにキールは口元に手を当ててクスクスと笑う。

「ゼクスさんって面白い人ですね。ここには魔術障壁はないのでアイリさんに聞いてみたらどうです?」

「ん、そうだな。そうさせてもらう」

「はい。では僕はこれにて。分からないことがあったらいつでも聞いてください。使用人が近くにいますので、ではごゆっくり」

「ああ、助かる」

    キールは頭を軽く下げてから部屋を後にした。

「で、お前は何をしているんだ?」

   さっきから聞こえてるドスッ、ドスッと軋む音。サラがベッドの上でぴょんぴょん跳ねてる。ものすごく楽しそうに。

「ゼクスー、これ、すっごい! ふかふか!」

「ほら、汚れるだろベッドが」

    サラの両脇を抱えて下に下ろす。すると不機嫌そうに頬を膨らませた。

「お前、ローブのままだろ。あー、ほら泥が落ちてる」

    シーツを整え直しながら落ちた土埃を払う。

「跳ねてもいいけどせめて風呂はいってからだ」

「仕方ないなぁ」

ふてくされながらも素直に隣接している浴場へと向かった。
サラを見送りバルコニーで髪をそよ風に晒す。

欄干に肘を乗せて中庭とともに月夜を瞳に映した。

「よお、元気してたか?」

『まったく……いきなり連絡してきたと思ったらそれ? まあ元気してるわ』

呆れた口調。でもその声色はどこか弾んでいるようにも聞こえた。

『で、今どこにいるの? ノーザンラークにはついたの?』

「質問攻めだな。まあ、ノーザンラークについたと言えば着いた。今麓のラーディケスにいる」

『あれ、山門通れなかったの?』

「……やっぱり知ってたんだな。許可証がいるってこと」

『え、逆に知らなかったの?』

アイリは驚くと次には「ああ、なるほどね」とひとりでに納得していた様子。

「なんだよ。俺が知ってるとでも?」

『だってあんな急に出て行くんだもの。アテがあるんだとてっきり。でも、今納得したわよ。ママが証書の申請やら何やらどこかに連絡とってたの』

「まじか、そんなことしてたのか。悪いことしたなぁ」

『そう思うんならもうちょっと計画的に行動しなさいよね」

自分の欠点をこうも直接的に言われると何も言い返せないゼクス。

「そ、そう言えばだがリリィさんとフィオールって知り合いみたいだけど何か知ってるか?」

『出た話題逸らし。 私もその件については詳しく知ってるわけじゃないけど、厄災戦争前に一緒に旅をしてたらしいよ。キャミねぇとあともう一人、4人でね』

「なるほどな。その頃からの付き合いってことか、納得」

『なにそんな事が聞きたかったの?』

「そんな事ってなんだよ」

アイリはもっと別のことを話したかったようだ。でも鈍感なゼクスはそのことを知る由もない。

『サラちゃんどう? 元気してる?』

「俺よりも丈夫だし元気だ。今は風呂行ってる」

『覗くなよ?』

「そうなんども……ッ!——いやなんでもない」

『覗いたんだ……呆れた。信じられない、そんな幼女の裸が見たかったんだ……』

「ちょっ! ごか——!」

言い切る前に通信が切断されてしまった。再びコールしてみるが一向に出る気配はない。
ゼクスが好きで覗きをする幼女好きで認識されてしまった。この誤解はいつ解けるのだろうか。そう思うだけでため息が出るゼクスだった。


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