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Ep.12 山門突破! 前編

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ゼクスが町に繰り出すとフィオは仕事があると言って執務室へと行ってしまった。

「キールは門に行かなくていいの?」

「いいの。元々僕の仕事は門兵じゃなくて、フィオさんの補佐だから。今はサラと一緒にいるのが仕事かな」

キールももう食べ終えたとみると、ワゴンにまだ残っていた食材をサラは一人で食べ始める。

「午後出発みたいだけど、サラは何かしておきたいことある?」

「ゼクスはいっつも勝手に決めちゃうんだよね。まったく」

ため息をつきながらも食べる手と口は止めようとしない。

「昨日客間で見た絵画、あれが見たいんだけどいい?」

「ああ、スルトの? しばらくは空いてるから大丈夫いいよ」


スルトの絵画。燃える魔人に立ち向かう一人の青年。
火がサラを惹き付けるのか、この絵画自体に惹きつけられるのかはわからない。でもどこか惹きつけられるのは確か。

「描かれてるのはノーザンラークの守り神スルトとラーディケスの昔の村長だよ」

「これって闘ってる絵じゃないよね」

「そうこれは契約の儀式。この儀式のお陰でラーディケスはスルトの加護を受けられてるんだよ」

「やっぱり」

「にしてもよく分かったね。これが戦いじゃないって。初めて見る人は戦闘の絵画だと思うのに」

一目見た時から「これは戦いのものじゃない」そう確信していた。
はっきりとは分からない。けれどこの絵からは冷たい、戦いの厳さを感じられなかった。むしろその逆。何かから守ろうという暖かなものを感じた。

「加護ってどんなのか僕も分からないんだけどね。けどその加護のおかげで魔物がよってこないってフィオさん言ってた」

「フィオはどんな加護か知ってるの?」

「みたいだよ。なんでも町長だけに受け継がれるもので、他の人には教えちゃいけないんだって」

「なんで?」

「僕も良くは知らないからなぁ……なんとも言えないよ」

その代わりにとキールはこの絵にまつわる話をサラにしてあげた。
この絵画はラーディケスが町として成立した時に記念として初代町長が描かせた。スルトと対面したのは、ノーザンラークのどこかにある『炎の迷宮』の最奥にある神殿だと聞かされていた。そこに到るまでは数々の試練を乗り越えて、スルトに認められないと加護をもらえないのは疎か場合によっては帰ることすらままならないという。

分かったようで分かっていない。なんだか難しい顔をして首を傾げてから頷いた。

「ちょっと分かりにくかったかな。とにかく初代町長はすごいってこと」

最後に大雑把にまとめるとサラはそれで一応納得した。

「さて、他に何かある?」

んー、と顎に人差し指を当てて考える。

直後、パリンッと乾いた音が二人の耳に大きく響いた。



大窓の一部のガラスが割られていた。小さな石が投げ込まれたようでこぶし大の風穴から風が吹き込んでくる。
絨毯に落ちた手のひらサイズの石には丸まった小さな羊皮紙の切れ端が埋め込まれていた。

その石は微量にマナを含んでいる、魔石だ。さらには魔術的な刻印がされていて一般人が投げ込んだものではないと推測できた。
少なからず魔法術の知識がないとこのような刻印はできるはずもない。

その魔石に埋め込まれた羊皮紙を取ろうと手を伸ばすサラ。

「気をつけてっ、罠が仕掛けてあるかもしれない」

近くから投げ込まれたか打ち込まれたかした魔石にはそれ以上の意味合いを込められている。埋め込まれた羊皮紙がその証拠だ。

ゼクスの持つハルモニクス——魔力による通信手段は便利だが、妨害や傍受される危険性がある。
しかしこのように魔石に刻印を施すことによって妨害される可能性はほぼなくなる。
つまるところ、この魔石には「密告」の意味合いが込められていた。町長邸宅に直接投げ込まれたものとなると相当厄介なものだろう。
魔術障壁が施されていないのを見計らって打ち込まれた。キールの脳裏にはそれ以上の何か深い意味合いがあるのではと不安にかられていた。

サラが魔石を手中に収めると、パシュンと小さく、マナが弾ける音がして魔石の輝きは失われると同時に二つに割れ中の羊皮紙が手の中に広がった。
音に反応してみせたが何事もなくキールはホッと肩をなでおろした。

「……読めない。読んで」

ある程度文字は読めるのは昨日から話して知っていたキール。難しい言葉があるのだろうと指先に収まるほどの紙を受け取って内容を見てみる。

「…………読めない」

それもそのはず。この地域、いや時代では使われていない言葉で書かれた言葉と表現するのも合っているのか判断しずらい抽象文字でそれは描かれていた。

「フィオさんに聞いてみよう。投げ込まれたことも知らせておかないと」

すぐさまフィオがいる執務室に駆け込んで羊皮紙と割れた魔石を手渡した。
フィオは眉を寄せ難しい顔をしてから、

「ゼクスくんが帰ってきてからにしよう。サラちゃんはいつでも出れる準備しておいて。キール、手伝ってあげて」

よくない事が起きそう。それは否が応でもサラは感じ取らざるを得なかった。
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