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13.ボランティア
しおりを挟む昼休みのチャイムが鳴ったあと、
学内の掲示板の前には人だかりができていた。
「へぇ~、今年のオープンキャンパスも、
学生主体でイベントやるんだ。」
「ねー。どれか参加してみる?」
教室の中でそんな会話がちらほら聞こえてくる中、
美月は少し離れた場所で、
紙の資料を指で折りながらぼんやりとしていた。
「……ボランティアスタッフ、英語プレゼン、
屋台運営……」
その掲示板に並んだ紙には、
様々な活動募集が貼られていた。
美月の目が止まったのは、
「英会話体験コーナー」の文字。
英会話サークルが出展協力をするという形で、
来場者と英語で簡単なコミュニケーションを取る
イベントらしい。
───こういうの、やってみたいかも。
ほんの少しだけ、胸がざわついた。
でも同時に、頭のなかではもうひとつの声がした。
ちゃんとできなかったら。
言葉に詰まったら。
不安の渦に足を取られそうになったときだった。
「……佐倉さん」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこには璃久が立っていた。
「英会話のスタッフ、見てた?」
「あ……はい。ちょっとだけ。」
「やる予定?」
「……迷ってます。」
思わず、正直な言葉が出た。
璃久は掲示板の紙を少し眺めたあと、
ポケットからスマホを出して画面を確認した。
「実は俺も、今年はスタッフに名前出してて。」
「えっ、真島さんが?」
「珍しいって思う?」
「……うん、ちょっとだけ。」
美月は、肩をすくめるように笑った。
「去年までは避けてたけど。
……ちょっとだけ変えてみようかなって思って。」
璃久はそう言うと、少しだけ首を傾けた。
「良かったら、一緒にやらない?」
「……私と?」
「うん。サークルの中でも真面目にやってんじゃん。
……あと、話しやすいし。」
思わず、どきんとした。
“話しやすい”
それは、美月にとってとても重みのある言葉だった。
「……いいんですか?私で。」
「俺から誘ってるのに?」
「……そっか。じゃあ頑張ってみます。」
二人の間に、ふわりとあたたかい空気が流れた。
・
・
・
放課後。準備用に割り当てられた講義室の一角で、
美月と璃久は模擬会話の台本を確認していた。
「Welcome to our English booth.
Let me introduce myself.
My name is Mizuki Sakura.
I am a freshman.」
「……good. 発音も自然。」
「ほんとですか……?」
「うん。佐倉さんの英語、すごく素直に聞こえる。」
美月は少し顔を赤くした。
「じゃあ、次は俺の番」
璃久は、台本を見ずにそのまま暗唱を始めた。
「My name is Riku Majima.
I'm a sophomore.
I like reading and listening to music.
I hope you enjoyed today's activities.」
「わ……すごい。何も見てないんですね。」
「まあこのくらいは…英語、好きだし。」
「……私も、英語好きです。」
「知ってるよ。」
その瞬間、二人の視線が重なった。
その目は、どちらもまっすぐで、
どこか柔らかくて、
言葉よりも、静かに通じ合っている気がした。
準備室の窓から差し込む夕焼けの光が
二人の姿を淡く染めていた。
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