私の隣には

Asuka

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日常

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両親の死から、今日で三ヶ月が経つ。私は既に作られた、両親の墓前にいた。未だに二人の死を受け入れたくないという自分がいるがそれは押しとどておかなくてはならない。二人の分まで、私が強く生きなくてはならないと心に誓っている。

しかし、どうしてもここに来ると涙を流したくなる。両親を感じられるこの場所でなら、泣いていいのかもしれない。

「お父さん、お母さん…」

私は今は亡き二人との思い出を振り返り、静かに涙を流した。



両親の死後、私は大学を辞めた。二人の遺産をどうしても大学の学費に当てたくなかったからだ。私自身にも心労があり、残る自信もなかったのだが。かわりに私は、両親がさせてくれたピアノを弾いたり、本を読んだりと自分のしたいことをゆっくりと好きなようにし始めていた。今の私は、社会人として働く自信がなかったため、こうして休憩する必要があったからだ。ピアノの腕はやはり鈍っていたが、趣味で弾くぶんには十分だった。今更コンクールに出るわけでもない。弾きたい曲を弾く腕があれば十分だ。

さらに私は、ネットで小説を投稿し始めた。交流の場を求めていたため、もともと好きだった読書に加え、自分で物語を創作し他人に読んでもらおうと思ったのだ。私の趣味のピアノにあやかり、ピアニストの恋愛小説を書いているのだが、思っていた以上に人気が出始めていた。書籍化されるほどではないが注目の小説に選ばれたりすることもあり、自身の軽い挑戦がここまでになるとは正直思いもよらなかった。ファンも付き、1日に幾らかの感想やレビューがついた。閲覧数も日に日に増えている。誰かが、自分の書いた物語を読み、感動している。その事実が私にとっては嬉しかった。

出版社に勤め、web小説の人気作家でもある窪田さんも、私の作品を称賛してくれた。もちろん彼に値するほどのものではないが。

「コンクールに出してみませんか?書籍化も狙えるかもしれない。」

何度かコンクールへの参加を勧められたが、私はそんな大層なものには向かないと断っている。その度に彼は惜しそうな表情をする。一度作品を出してみてもいいのかもしれないが、それはもう少し先の話になりそうだ。
こうして私は、両親や言葉、助けてくれた彼の優しさを胸にゆっくりと人生を歩み直している。いつか、両親の死を乗り越えられるように。


今日は窪田さんの投稿している小説の更新日だ。彼が連載中の小説、「天翔ける八月」は主人公が病を抱えるヒロインが最後にしたいことを叶えながら、報われない恋に葛藤するという甘酸っぱい恋愛のそれとは違う、それでも読者の心を打つ名作だ。彼の中の傑作の一つだと私は思っている。

彼の小説にアクセスし新しい話を閲覧する。
読み進めていくと、その物語の中にいるような臨場感を感じる。主人公とヒロインのやり取りや、変わってゆく彼らの心情、それをほのめかす周りの情景描写。その一つ一つが私の中での新たな創造とともに、物語を進めてゆく。この時間が、私は大好きだった。クライマックスは、主人公がヒロインにネックレスを渡すシーンだった。彼女がずっと欲しがっていたものだった。ここで主人公は愛を語ることはない。彼はきっと、恐れている。ここで愛を語ることで、互いが傷つくことを。もしかしたら彼女もそうなのかもしれない。病魔という残酷な試練が、二人の恋に重くのしかかるが故のもどかしく、切ない瞬間。その一コマまでもが繊細に描かれる。

最後の行まで読み終わると、私はもう次の話を欲していた。それほど彼の作品には惹き込まれるものがある。万人を物語の世界へと惹き込む力。それが彼に与えられた唯一無二の才能なのかもしれない。

『今回も、すごく面白かったです!最後のシーン、感動しました!』

私はすぐに彼にLINEをした。しばらくして、返事が返ってくる。

『ありがとう。次の話も満足してもらえるように頑張るよ。それはそうと、今度ぜひ連れて行きたい場所があるんだ。よかったら一緒にどうかな?』

彼の方から私に出掛けの提案をしてきたのは珍しかった。普段から私たちはどこかへ一緒に行くことはあるのだが、それは私の提案によるものが圧倒的に多かった。故に、こうして誘われるのは初めてかもしれない。何かあったのかと少し不安にさえなっている。しかし同時に、私の中には期待が膨らんでいる。彼が連れて行ってくれる場所、それが何処であれまた彼に会えること、そして同じものを見て語りあえることが、私にとっては嬉しいことなのだ。

『是非!楽しみにしてます!』

私は返信した。その後、互いの都合等を合わせた結果、会うのは来週末ということになった。今だけは、遠足の前日の子供の気分を思い出している。彼とまた出会える。その期待に胸を膨らます。
太陽の眩しい夏の日。外では新緑の山々が青々と生い茂っていた。
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