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天の時
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ある晴れた日の朝、小鳥達が木々から一斉に飛び立つ。
アマンニ公爵が主催した公爵邸舞踏会。その開催日が刻一刻と迫っている。
鏡の中に映った自分……レーウを冷徹に見つめる。
その瞳にはかつてのハイベルクの婚約者としての甘さは微塵も残っていない。
没落したレーウ家の血筋が数百年影の中で守り続けてきた姿だった。
私はかつてハイベルクという名の男の婚約者だった。しかし今私の隣に彼はいない。ハイベルクと侯爵家の令嬢ランダ・イリサールが視線を交わしたあの日から、運命の歯車は狂い始めた……。
思えば半年前の婚約破棄は私にとってこの上ない解放でしかなかった。王宮の庭園でハイベルクが私から距離を取っていったあの日。彼の隣にはランダが寄り添っていた。
「レーウ、君との婚約を白紙に戻したい」
「……」
「君の嫉妬深さとランダに対する執拗な嫌がらせには……正直辟易している」
ハイベルクの言葉に怒りも悲しみも覚えなかった。私には見えていた未来があったから。
理路は整然と進んでいった。彼らが愛に溺れ周囲が見えなくなるほど私の計画は霧の中へと隠れていった。ランダの近くにはある貴族が居た。イリサール家が協力していた不穏な資金移動の先にはいつもその影がちらついていた。
彼らは知らない。私がランダに仕掛けていた嫌がらせの正体を。
彼女の執事が隣国ヴォルガ帝国の密偵と接触している現場を偶然目撃するように仕向けることを。彼女の私室から不正な資金洗浄の証拠となる台帳を盗み出すための騒動を起こすことを。世間が私を没落貴族家の嫉妬に狂った伯爵令嬢と蔑んでいる間、私は準備を進めた。
ハイベルクは国民からの支持は厚かった。王国騎士団の団長にまで登り詰めた彼の地位と名声は天にまで届こうとしていた。彼女達はハイベルクという盾を得てさらに大胆な計画の駒として動いていた。
アマンニ公爵を筆頭とする帝国派の貴族達は母方に異国の血を引くハイベルクに関しては快く思っていなかった。
……ため息をつく。
「後には戻れない……いえ、戻る必要などないわ」
私には私が決めた未来がある。感情を切り捨て理論で武装した私にもはや迷いはなかった。私邸から窓の外の雨に濡れる王都を見下ろした。
家が没落したのは王国の不浄に関わりすぎたからだ……そしてその血が途絶えることもない。私達はこの国が異国からの毒によって崩壊するのを防ぐ盾でなければならない……毒を制するには同じ毒が必要になるときもある。今は私がその毒だ。
「レーウ様」
「入りなさい」
「ドッター様より連絡がありました。今夜予定通り例の場所でと」
影のように静かに現れた執事が発する言葉に私は小さく頷いた。
理論で武装し勇気で道を切り開く。私が今日まで耐え忍んできた屈辱の日々のすべてはこれから始まる惨劇で全てが報われる。舞踏会。そこが彼らにとっての終幕の舞台となり、私にとっての始まりの舞台となる。
私は手元の古い羊皮紙を暖炉の火に投げ入れた。そこにはかつての私がハイベルクに宛てて書いた想いの内容があった。
炎が紙を飲み込み黒く焦げて消えていく。
(ハイベルク。貴方の愛した無垢なランダがどれほどの過ちを犯したか、あなたはいずれ知ることになりますわ。私は……)
「構いませんわ」
その道が王国のすべてを敵に回す悪役の道であったとしても。
アマンニ公爵が主催した公爵邸舞踏会。その開催日が刻一刻と迫っている。
鏡の中に映った自分……レーウを冷徹に見つめる。
その瞳にはかつてのハイベルクの婚約者としての甘さは微塵も残っていない。
没落したレーウ家の血筋が数百年影の中で守り続けてきた姿だった。
私はかつてハイベルクという名の男の婚約者だった。しかし今私の隣に彼はいない。ハイベルクと侯爵家の令嬢ランダ・イリサールが視線を交わしたあの日から、運命の歯車は狂い始めた……。
思えば半年前の婚約破棄は私にとってこの上ない解放でしかなかった。王宮の庭園でハイベルクが私から距離を取っていったあの日。彼の隣にはランダが寄り添っていた。
「レーウ、君との婚約を白紙に戻したい」
「……」
「君の嫉妬深さとランダに対する執拗な嫌がらせには……正直辟易している」
ハイベルクの言葉に怒りも悲しみも覚えなかった。私には見えていた未来があったから。
理路は整然と進んでいった。彼らが愛に溺れ周囲が見えなくなるほど私の計画は霧の中へと隠れていった。ランダの近くにはある貴族が居た。イリサール家が協力していた不穏な資金移動の先にはいつもその影がちらついていた。
彼らは知らない。私がランダに仕掛けていた嫌がらせの正体を。
彼女の執事が隣国ヴォルガ帝国の密偵と接触している現場を偶然目撃するように仕向けることを。彼女の私室から不正な資金洗浄の証拠となる台帳を盗み出すための騒動を起こすことを。世間が私を没落貴族家の嫉妬に狂った伯爵令嬢と蔑んでいる間、私は準備を進めた。
ハイベルクは国民からの支持は厚かった。王国騎士団の団長にまで登り詰めた彼の地位と名声は天にまで届こうとしていた。彼女達はハイベルクという盾を得てさらに大胆な計画の駒として動いていた。
アマンニ公爵を筆頭とする帝国派の貴族達は母方に異国の血を引くハイベルクに関しては快く思っていなかった。
……ため息をつく。
「後には戻れない……いえ、戻る必要などないわ」
私には私が決めた未来がある。感情を切り捨て理論で武装した私にもはや迷いはなかった。私邸から窓の外の雨に濡れる王都を見下ろした。
家が没落したのは王国の不浄に関わりすぎたからだ……そしてその血が途絶えることもない。私達はこの国が異国からの毒によって崩壊するのを防ぐ盾でなければならない……毒を制するには同じ毒が必要になるときもある。今は私がその毒だ。
「レーウ様」
「入りなさい」
「ドッター様より連絡がありました。今夜予定通り例の場所でと」
影のように静かに現れた執事が発する言葉に私は小さく頷いた。
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私は手元の古い羊皮紙を暖炉の火に投げ入れた。そこにはかつての私がハイベルクに宛てて書いた想いの内容があった。
炎が紙を飲み込み黒く焦げて消えていく。
(ハイベルク。貴方の愛した無垢なランダがどれほどの過ちを犯したか、あなたはいずれ知ることになりますわ。私は……)
「構いませんわ」
その道が王国のすべてを敵に回す悪役の道であったとしても。
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