片道15分の恋人

桜庭かなめ

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恋心編

4月22日(火)

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 今日も、いつもの場所で午前7時30分発八神行きの電車を待っていた。
 敢えてここにしたのは、彼女と会わないようにするためだ。僕と会うのを避けているはずであろう彼女はきっと、先頭車両の最後尾の扉といういつものこの場所には絶対に乗らないと思う。
 この場所で待っていると彼女のことを思い出してしまうな。扉が開くと彼女が待っていたあの日々が、早々に懐かしくなっていた。

『間もなく、各駅停車、八神行きが到着します』

 今日も定刻通りに7時30分発、八神行きの電車が鳴瀬駅に到着する。
 ――よし、今日からリスタートだ。
 僕はそう意気込んで、目の前の扉に視線を向けた。
 しかし、開かれた扉の先には信じられない光景が待っていた。

「嘘だろ……」

 そんな言葉を漏らしてしまうくらい、僕にとっては信じがたい光景を目にしたんだ。

「……おはようございます」

 そう。いつもの場所に彼女が乗っていたのだ。彼女は照れているのか頬を赤くし、微笑みながら僕のこと見ていた。
 正直、度肝を抜かれた。何でここにいるんだって。彼女と再び会えた嬉しさよりも、彼女がここにいる驚きが上回っていた。時間が止まったように思えた。

「あ、あの! 出発しちゃいますよ!」
「えっ?」

 気付いたときには、発車メロディーが鳴っていた。僕は慌てて電車に乗った。だからか、彼女の向かい合うような体勢になっている。
 程なくして、電車は鳴瀬駅を発車した。
 彼女の頬はさっきよりも赤みが増していた。彼女はチラチラと僕のことを見ている。

「あ、あの……昨日はごめんなさい。色々あって、この場所に乗ることができなくて。私から月曜日もまた話そうって言ったのに……」
「……気にしないでください。こうして、今日……ちゃんと会えたんですから。僕は嬉しいです」

 僕がそう言うと、彼女の顔はより一層赤くなった。彼女から放たれる熱が僕にも伝わってきそうだ。
 彼女はつり革の代わりのように、僕のブレザーの袖を右手で掴んだ。それが恥ずかしいのか、俯いてしまって僕と目を合わせようとしない。
 何か話した方がいいのかな。
 でも、彼女は僕の告白の手紙を読んでいるだろうし、話しかけることで変な空気になってしまわないだろうか。手紙を読んだから、彼女はきっと今のような感じになっているんだと思うし。
 満員電車で彼女との距離がとても近いからか、彼女の呼吸する声がやけにはっきりと聞こえた。彼女の温かな吐息が僕のワイシャツにかかっているため、胸元を中心に温もりが広がっている。
 駅に停車する度に彼女は胸が当たるとか関係なく密着してきた。でも、すぐに僕を拒絶しているかのごとくすぐに離れる。そんなことを繰り返す彼女を見ていると、彼女が僕に対してどう想っているのかが分からなくなってきた。

『間もなく、鏡原、鏡原。お出口は左側です』

 結局、彼女とは禄に話せずに鏡原駅に到着してしまいそうだ。

「あ、あの……」

 彼女はそう言うと、スクールバッグから二つ折りの紙切れを取り出し、僕の右手に握らせた。

「私が鏡原駅で降りて、電車が動き出してから読んでください」
「分かりました」

 今の彼女は金曜日の僕と全く同じことをしていた。だからこそ、彼女から受け取った紙切れには、告白の返事が書かれているのではと匂わせる。
 電車が鏡原駅に到着すると彼女は頭を下げて、電車から降りていった。
 僕は手紙が読むためにも、窓際の方に移動する。

 やがて、電車は鏡原駅を出発した。

 鏡原駅が見えなくなったのを確認してから、さっき彼女から受け取った紙切れをさっそく開く。
 そこには可愛らしい彼女の文字で、

『告白の手紙、読みました。とても嬉しいです。
 でも、返事は少し待ってくれませんか。金曜日からずっとあなたのことが頭から離れません。あなたのことをちゃんと考えて、付き合うかどうか決めたいです。
 あと、私的にはメガネを外すともっと素敵になるんじゃないかな、と思います。一度でいいから見てみたいな』

 そんなことが書いてあった。
 返事はまだ先か。まあ、昨日の時点で振られたと思い込んでいた僕にとっては、それでも十分嬉しいんだけどね。
 メガネの件は……さっそく明日、実行しよう。実は今日ぐらいに側にいれば彼女の顔をはっきりと見ることができる。小学生の頃から視力が落ちて、黒板とか遠くの物が見えにくくなったので、普段からメガネをかけるようになった。休日ならメガネなしでも問題なく過ごすことができる。
 また明日とは言わなかったけれど、メガネのこともあるから明日も会えるだろう。そう思いながら、僕は彼女からの手紙をバッグの中に大切にしまった。
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