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第5話『同居初夜』
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食事の後片付けの様子もエリカさんにじっと見られてしまった。これも地球人の生態の観察なのか。それとも、好きな人のことを見ていたいだけなのか。エリカさんの場合は後者の可能性が高そうだ。
「さてと、これで後片付けも終わりですね」
「お疲れ様、宏斗さん。片付けまでしてもらってありがとう」
「いえいえ
」
今回は洗うものが少なかったからな。それに、エリカさんには家事をするよりも前に、家にあるものの使い方を一通り覚えてもらわないと。
「いや、もっと大切なことがあったか」
「えっ? どうかした?」
「エリカさんの部屋のことです。数日後にはリサさんとの共同の部屋になりますけど。俺の寝室の向かい側にある空き部屋を使ってください」
「うん、ありがとう」
「そのために、まずはそこの部屋にあるものを俺の寝室に動かさないと。読み終わっていずれは売ろうと思う本とかが置いてあって」
まさか、誰かと一緒に住むとは思わないから、あの部屋は物置代わりにしてしまった。
「そういうことね。まずは、どのような部屋なのかさっそく見させてくれるかな」
「分かりました」
俺はエリカさんと一緒に、寝室の向かい側にある空き部屋へと向かう。電気を点けると、部屋の中にはこの前、本棚を整理したときにいらないと判断した本が置かれていた。
「宏斗さんの寝室ほどじゃないけど、それなりに広いね」
「ええ」
1人暮らしなので、本当は2LDKの物件じゃなくても良かった。ただ、立地条件が良く家賃がそこまで高くなく、会社から住宅手当も出るのでここに住むことにした。
「お屋敷にある私の部屋よりも大分狭いけれど、本当はこのくらいの広さで事足りるんだよね」
「……そう言ってくれて安心しました」
王女様だもんな。実家での部屋がとても広かったのは当然か。どういう感じの部屋なのか一度見てみたいかも。
「あそこにある本がいらないなんだね」
「ええ。あのくらいの量なので、俺の寝室に運んじゃいますね」
「待って。魔法を使えば楽に運べるから。宏斗さん、寝室の扉を開けてもらっていい?」
「はい」
俺はエリカさんの言うとおり、寝室の扉を開ける。
空き部屋に戻ると、エリカさんは本の方に手をかざしていた。すると、本がふわっと浮く。触れてもいないのに浮いているなんて。夢に思えるけれど、現実なんだよな。
「これを寝室に運ぶね」
「お願いします」
本はエリカさんの魔法によって俺の寝室へと運ばれていく。
「端の方に置いてもらえれば」
「分かった」
俺の指示通り、本は寝室の端の方に綺麗に置かれていった。この鮮やかな流れに思わず拍手してしまう。
「おおっ、魔法凄いですね!」
「ふふっ、このくらい簡単なことだよ」
エリカさんは大きな胸を張り、ドヤ顔を見せてくる。こういう姿を見ていると、彼女が110歳の女性であることを忘れてしまうな。
「本を運ぶのって地味に体力が削られるんです。運んでもらってありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。ようやく宏斗さんの役に立てて嬉しいよ。これからも、私の魔法が使いたくなったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
自分のためとかは関係なく、ダイマ星人の魔法でどんなことができるのか興味があるな。きっと、これからやってくるリサさんも使えるだろうし。
エリカさんは一旦リビングの方へと戻っていく。ただ、それは少しの間だけで、程なくして白い箱を持って空き部屋の前に戻ってきた。
「これで空き部屋に何もなくなったから、寝具や家具などを置いていくね。必要なのは絨毯に広めのベッド、服とかを入れるタンス、ドレッサー、本棚もあった方がいいかな」
「では、明日にでもさっそく買いに行きますか?」
「ううん、その必要はないよ。今言ったものは、この箱の中にあるカプセルに入っているから。引っ越しや旅行とかに使われるの」
「そうなんですか。ダイマ王星の技術って本当に凄いです!」
こういった技術は地球人にも需要がありそう。ただ、引っ越し作業が楽になる代わりに、引っ越し業者さんを中心とした仕事が減ってしまうかな。俺は欲しいけど。
エリカさんは白い箱からカプセルを取り出して、部屋の中に投げる。すると、桃色の絨毯が現れた。こういうシーン、小学生くらいの頃に読んだ漫画で見たことがあるな。
「エリカさん、絨毯を敷くのを手伝います」
「ありがとう。じゃあ、宏斗さんはそっち側を持ってくれるかな」
「はい」
エリカさんの指示で絨毯の端を持って、部屋に敷いていく。絨毯を敷くだけでも部屋の印象が変わるな。ここにも人がいるんだと思える。
「うん、いい感じに敷けたね。よし、ベッドやタンスとかを出しちゃおう」
すると、エリカさんはベッドやタンス、ドレッサー、本棚などを次々とカプセルから出していく。場所を考えずに出したこともあって、カプセルから出したものは雑に置かれていた。
「色々なものをカプセルにして持ってきたんですね! ただ、エリカさん、1つずつ出した方が良かったのでは? 特にベッドは重いですし」
「ううん、このくらいなら軽いよ」
「えっ?」
試しにベッドを持ち上げてみようとすると……ううっ、ビクともしない。下手したら腰をやってしまいそうだ。
「地球の人はあまり力がないんだね。大丈夫、私に任せて」
そう言うと、エリカさんは軽々とベッドを持ち上げ、端の方に置く。そんなことをしても、エリカさんは疲れている様子は全く見せず、息一つ乱れていなかった。ダイマ星人は筋力が凄いんだな。
その後もエリカさんは洋服タンス、ドレッサー、本棚も運ぶ。業務をするために必要かもということで書斎机と椅子も新たにカプセルから出しセッティングした。どこに置くのか考えているときもあったけれど、15分程度で終わった。
「とりあえず、このくらいでいいかな。必要なものが出たときはカプセルから出せばいいだけだし」
「お疲れ様でした。もっと時間がかかると思ったんですけど、とても早かったですね。ダイマ星人って筋力が凄いなぁ。羨ましいです」
「えへへっ」
エリカさんは頭を差し出してくるので、彼女の頭を優しく撫でてきた。こういうところも可愛らしいな。
「そういえば、ダイマ王星での引っ越しはこういう感じなんですか?」
「引っ越した友達の話を聞いたことがあるけど、そうみたいね。さすがに、お家自体はその手の人に造ってもらうそうよ」
「なるほど。カプセルに纏めることができて、家具とかを簡単に運べるなら、家の中については自分でやっちゃいますよね」
「すぐにできるからね。地球の引っ越しはどうなの?」
「家やここのようなマンションは、ダイマ王星と同じように専門の方が造りますね。カプセルとかはないので、新居に持っていくものの多くは引っ越し業者さんに運んでもらうんです。地球人はダイマ星人よりも筋力がないので、大きな家具や電化製品は何人もの人に協力してもらって指定の場所に運びます。ですから、時間や労力がかかりますね。それもあって、引っ越し休暇という特別休暇が、俺の勤める会社には設けられています」
「地球では引っ越しは手軽にできることじゃないんだね。だからこそ、引っ越しのサポートが仕事として成り立つのか。これはちゃんと王国に報告しておかないと」
この調子で地球のことを学んでいって、王国に報告されるのかな。内容によっては支部計画のための交渉に上手く使われるのだろう。今のカプセルはとても魅力的だった。
「そういえば、ベッドなどの家具をカプセルから出しましたけど、衣服は大丈夫ですか?」
「それは洋服タンスの中に入っているよ。あっ、宏斗さんなら勝手に開けて、私の服や下着を観察してもいいけれど」
「安心してください。しませんから」
「……してくれてもいいのにな」
どうしてそこでがっかりするのか。
そういえば、ダイマ星人は腰のあたりからしっぽが生えているので、それに合わせて衣服や下着が作られているのだろうか。それだけは興味があるかな。そのために、わざわざ洋服タンスを開けることはしないけど。
「エリカさんの部屋作りも終わりましたから、そろそろお風呂にしましょうか。ダイマ王星では湯船に浸かるという習慣はあるんですか?」
「人によってかな。洗浄魔法を使うことができる人は、その魔法を使って髪や体を綺麗にしているの」
「色々な魔法があるんですね」
「昔はお湯に浸かる人はいなかったの。ただ、地球調査から戻ってきた人が、日本の温泉という文化を持ち帰ってダイマ王星に温泉を作ってね。そうしたら、ダイマ星人の間で大ヒットして。今ではお風呂のある家に住んでいる人もいるし、温泉や大浴場の施設もたくさんあるよ。私やリサも温泉は大好きなの」
地球の文化がダイマ星人に気に入られているんだ。素直に嬉しいな。
今後、夏期休暇を取ったときには、エリカさんやリサさんを温泉に連れて行くのも考えておくか。
「うちのお風呂はそういった施設のお風呂よりも大分狭いと思いますが、十分に入浴を楽しむことができると思います。もちろん、エリカさんから先に入ってください」
「分かった。今夜はそうさせてもらうね」
今夜はってことは、いつかは一緒に入ろうと思っているのかな。
湯船にお湯が溜まるまでの間に、蛇口やシャワーの使い方などをエリカさんに教える。エリカさん曰く、ダイマ王星は水道がきちんと整備されており、お屋敷の浴室にもシャワーがあるとのこと。そのこともあってか、飲み込みは早かった。
ついでに、キッチンにあるIHやシンク、電子レンジ、炊飯器などの使い方も今のうちに教えておいた。ダイマ王星に似たような機械があるとのことで、これについても覚えが早かった。
湯船のお湯張りもできたので、さっき言ったとおりエリカさん、俺の順番でお風呂に入った。
エリカさんはお風呂に満足したそうで、1人で入るならこのくらいの広さがちょうどいいとのこと。あと、エリカさんの着る桃色のワンピース型の寝間着には、しっぽ用の穴が空いており、そこからしっぽを出していた。
そういえば、俺がお風呂に入ったとき、浴室には見たことのないボトルがいくつかあったな。それには文字らしきものが書かれていたけれど、全く意味が分からなかった。多分、ダイマ王星の言葉で『シャンプー』や『ボディーソープ』って書かれていると思うけど。きっと、エリカさんが持参したものだろう。
「あぁ、気持ち良かった」
「地球のお風呂もいいね。宏斗さんはもう寝る?」
「そうですね。もう寝ようかなと思います」
「そっか。私も宏斗さんを探し回って疲れたから寝ようかな」
その後、洗面所でエリカさんと隣同士に立って歯を磨き、俺は自分の寝室に入った。クーラーを付けて、俺はベッドに横になる。
「まさか、異星人の王女様と一緒に暮らすことになるとは……」
今朝、目覚めたときには想像もできなかったことだ。ただ、20年前のあの夜に見た流れ星の正体が分かったことはとても嬉しかった。
これからどうなっていくのやら。今はエリカさんだけだけど、数日以内に彼女のメイドであるリサさんという女性も来るし。
「なるようにしかならないか」
エリカさんとリサさんに粗相がないように気を付けよう。あと、エリカさんからのプロポーズについても考えていかないと。
――コンコン。
うん? ノック音が聞こえるな。エリカさん、何かあったのかな。
「はい」
ゆっくりと扉を開けると、そこには枕を持ったエリカさんが。
「ねえ、宏斗さん。今夜……一緒に寝てもいいかな」
エリカさんは申し訳なさそうな表情をしながら、上目遣いで俺のことを見てくる。俺よりもずっと年上なのに、2人の妹と重なる部分が多いな。
「いいですよ、どうぞ」
「ありがとう!」
エリカさんはとても嬉しそうな様子で寝室の中に入ってきた。もしかしたら、これから基本的にはエリカさんと一緒に寝ることになるかもしれないな。
ベッドから落ちないように、エリカさんを壁側に寝かせる形で彼女と一緒にベッドに入る。その途端にエリカさんが俺の左腕を抱きしめてくるのでドキッとする。
「この広さ、私は好きだな」
「そう言ってくれて良かった。エリカさんの部屋にあるのはこのベッドとさほど変わらないですけど、お屋敷のベッドは広いんですか?」
「そうだね。このベッドの数倍くらいの広さはあるかな」
「……それはとても広そうですね」
そんなベッドで寝てきた人が、よく俺のベッドを気に入ってくれたなと思う。あと、このベッドが気に入っているってことは、また20年近く眠りそうな気がする。
「エリカさん。今度は20年眠ってしまわないように気を付けてくださいね」
「二度目の爆睡はないから! ただ、なかなか起きそうになかったら、起こしてくれると嬉しいな」
「分かりました」
お昼くらいまでに起きなかったら起こせばいいかな。
「宏斗さんの温もりや匂いを感じながら寝られるなんて幸せだな」
「そうですか」
「……明日からもよろしくね、宏斗さん。いずれはリサも来るけれど」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
すると、エリカさんは俺の頬にキスをして、幸せそうな笑みを浮かべながら目を瞑った。20年眠り続けただけあってか、すぐに寝息を立て始めている。
「……可愛い人だ」
エリカさんが起きないように、そっと頭を撫でる。そのことでふんわりと甘い匂いがしてきて。ドキドキもするけれど、まったりとした気持ちが一番強いな。
「おやすみ」
それから程なくして俺も眠りに落ちてゆく。
エリカさんとの初めての一日は、こうして静かに終わるのであった。
「さてと、これで後片付けも終わりですね」
「お疲れ様、宏斗さん。片付けまでしてもらってありがとう」
「いえいえ
」
今回は洗うものが少なかったからな。それに、エリカさんには家事をするよりも前に、家にあるものの使い方を一通り覚えてもらわないと。
「いや、もっと大切なことがあったか」
「えっ? どうかした?」
「エリカさんの部屋のことです。数日後にはリサさんとの共同の部屋になりますけど。俺の寝室の向かい側にある空き部屋を使ってください」
「うん、ありがとう」
「そのために、まずはそこの部屋にあるものを俺の寝室に動かさないと。読み終わっていずれは売ろうと思う本とかが置いてあって」
まさか、誰かと一緒に住むとは思わないから、あの部屋は物置代わりにしてしまった。
「そういうことね。まずは、どのような部屋なのかさっそく見させてくれるかな」
「分かりました」
俺はエリカさんと一緒に、寝室の向かい側にある空き部屋へと向かう。電気を点けると、部屋の中にはこの前、本棚を整理したときにいらないと判断した本が置かれていた。
「宏斗さんの寝室ほどじゃないけど、それなりに広いね」
「ええ」
1人暮らしなので、本当は2LDKの物件じゃなくても良かった。ただ、立地条件が良く家賃がそこまで高くなく、会社から住宅手当も出るのでここに住むことにした。
「お屋敷にある私の部屋よりも大分狭いけれど、本当はこのくらいの広さで事足りるんだよね」
「……そう言ってくれて安心しました」
王女様だもんな。実家での部屋がとても広かったのは当然か。どういう感じの部屋なのか一度見てみたいかも。
「あそこにある本がいらないなんだね」
「ええ。あのくらいの量なので、俺の寝室に運んじゃいますね」
「待って。魔法を使えば楽に運べるから。宏斗さん、寝室の扉を開けてもらっていい?」
「はい」
俺はエリカさんの言うとおり、寝室の扉を開ける。
空き部屋に戻ると、エリカさんは本の方に手をかざしていた。すると、本がふわっと浮く。触れてもいないのに浮いているなんて。夢に思えるけれど、現実なんだよな。
「これを寝室に運ぶね」
「お願いします」
本はエリカさんの魔法によって俺の寝室へと運ばれていく。
「端の方に置いてもらえれば」
「分かった」
俺の指示通り、本は寝室の端の方に綺麗に置かれていった。この鮮やかな流れに思わず拍手してしまう。
「おおっ、魔法凄いですね!」
「ふふっ、このくらい簡単なことだよ」
エリカさんは大きな胸を張り、ドヤ顔を見せてくる。こういう姿を見ていると、彼女が110歳の女性であることを忘れてしまうな。
「本を運ぶのって地味に体力が削られるんです。運んでもらってありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。ようやく宏斗さんの役に立てて嬉しいよ。これからも、私の魔法が使いたくなったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
自分のためとかは関係なく、ダイマ星人の魔法でどんなことができるのか興味があるな。きっと、これからやってくるリサさんも使えるだろうし。
エリカさんは一旦リビングの方へと戻っていく。ただ、それは少しの間だけで、程なくして白い箱を持って空き部屋の前に戻ってきた。
「これで空き部屋に何もなくなったから、寝具や家具などを置いていくね。必要なのは絨毯に広めのベッド、服とかを入れるタンス、ドレッサー、本棚もあった方がいいかな」
「では、明日にでもさっそく買いに行きますか?」
「ううん、その必要はないよ。今言ったものは、この箱の中にあるカプセルに入っているから。引っ越しや旅行とかに使われるの」
「そうなんですか。ダイマ王星の技術って本当に凄いです!」
こういった技術は地球人にも需要がありそう。ただ、引っ越し作業が楽になる代わりに、引っ越し業者さんを中心とした仕事が減ってしまうかな。俺は欲しいけど。
エリカさんは白い箱からカプセルを取り出して、部屋の中に投げる。すると、桃色の絨毯が現れた。こういうシーン、小学生くらいの頃に読んだ漫画で見たことがあるな。
「エリカさん、絨毯を敷くのを手伝います」
「ありがとう。じゃあ、宏斗さんはそっち側を持ってくれるかな」
「はい」
エリカさんの指示で絨毯の端を持って、部屋に敷いていく。絨毯を敷くだけでも部屋の印象が変わるな。ここにも人がいるんだと思える。
「うん、いい感じに敷けたね。よし、ベッドやタンスとかを出しちゃおう」
すると、エリカさんはベッドやタンス、ドレッサー、本棚などを次々とカプセルから出していく。場所を考えずに出したこともあって、カプセルから出したものは雑に置かれていた。
「色々なものをカプセルにして持ってきたんですね! ただ、エリカさん、1つずつ出した方が良かったのでは? 特にベッドは重いですし」
「ううん、このくらいなら軽いよ」
「えっ?」
試しにベッドを持ち上げてみようとすると……ううっ、ビクともしない。下手したら腰をやってしまいそうだ。
「地球の人はあまり力がないんだね。大丈夫、私に任せて」
そう言うと、エリカさんは軽々とベッドを持ち上げ、端の方に置く。そんなことをしても、エリカさんは疲れている様子は全く見せず、息一つ乱れていなかった。ダイマ星人は筋力が凄いんだな。
その後もエリカさんは洋服タンス、ドレッサー、本棚も運ぶ。業務をするために必要かもということで書斎机と椅子も新たにカプセルから出しセッティングした。どこに置くのか考えているときもあったけれど、15分程度で終わった。
「とりあえず、このくらいでいいかな。必要なものが出たときはカプセルから出せばいいだけだし」
「お疲れ様でした。もっと時間がかかると思ったんですけど、とても早かったですね。ダイマ星人って筋力が凄いなぁ。羨ましいです」
「えへへっ」
エリカさんは頭を差し出してくるので、彼女の頭を優しく撫でてきた。こういうところも可愛らしいな。
「そういえば、ダイマ王星での引っ越しはこういう感じなんですか?」
「引っ越した友達の話を聞いたことがあるけど、そうみたいね。さすがに、お家自体はその手の人に造ってもらうそうよ」
「なるほど。カプセルに纏めることができて、家具とかを簡単に運べるなら、家の中については自分でやっちゃいますよね」
「すぐにできるからね。地球の引っ越しはどうなの?」
「家やここのようなマンションは、ダイマ王星と同じように専門の方が造りますね。カプセルとかはないので、新居に持っていくものの多くは引っ越し業者さんに運んでもらうんです。地球人はダイマ星人よりも筋力がないので、大きな家具や電化製品は何人もの人に協力してもらって指定の場所に運びます。ですから、時間や労力がかかりますね。それもあって、引っ越し休暇という特別休暇が、俺の勤める会社には設けられています」
「地球では引っ越しは手軽にできることじゃないんだね。だからこそ、引っ越しのサポートが仕事として成り立つのか。これはちゃんと王国に報告しておかないと」
この調子で地球のことを学んでいって、王国に報告されるのかな。内容によっては支部計画のための交渉に上手く使われるのだろう。今のカプセルはとても魅力的だった。
「そういえば、ベッドなどの家具をカプセルから出しましたけど、衣服は大丈夫ですか?」
「それは洋服タンスの中に入っているよ。あっ、宏斗さんなら勝手に開けて、私の服や下着を観察してもいいけれど」
「安心してください。しませんから」
「……してくれてもいいのにな」
どうしてそこでがっかりするのか。
そういえば、ダイマ星人は腰のあたりからしっぽが生えているので、それに合わせて衣服や下着が作られているのだろうか。それだけは興味があるかな。そのために、わざわざ洋服タンスを開けることはしないけど。
「エリカさんの部屋作りも終わりましたから、そろそろお風呂にしましょうか。ダイマ王星では湯船に浸かるという習慣はあるんですか?」
「人によってかな。洗浄魔法を使うことができる人は、その魔法を使って髪や体を綺麗にしているの」
「色々な魔法があるんですね」
「昔はお湯に浸かる人はいなかったの。ただ、地球調査から戻ってきた人が、日本の温泉という文化を持ち帰ってダイマ王星に温泉を作ってね。そうしたら、ダイマ星人の間で大ヒットして。今ではお風呂のある家に住んでいる人もいるし、温泉や大浴場の施設もたくさんあるよ。私やリサも温泉は大好きなの」
地球の文化がダイマ星人に気に入られているんだ。素直に嬉しいな。
今後、夏期休暇を取ったときには、エリカさんやリサさんを温泉に連れて行くのも考えておくか。
「うちのお風呂はそういった施設のお風呂よりも大分狭いと思いますが、十分に入浴を楽しむことができると思います。もちろん、エリカさんから先に入ってください」
「分かった。今夜はそうさせてもらうね」
今夜はってことは、いつかは一緒に入ろうと思っているのかな。
湯船にお湯が溜まるまでの間に、蛇口やシャワーの使い方などをエリカさんに教える。エリカさん曰く、ダイマ王星は水道がきちんと整備されており、お屋敷の浴室にもシャワーがあるとのこと。そのこともあってか、飲み込みは早かった。
ついでに、キッチンにあるIHやシンク、電子レンジ、炊飯器などの使い方も今のうちに教えておいた。ダイマ王星に似たような機械があるとのことで、これについても覚えが早かった。
湯船のお湯張りもできたので、さっき言ったとおりエリカさん、俺の順番でお風呂に入った。
エリカさんはお風呂に満足したそうで、1人で入るならこのくらいの広さがちょうどいいとのこと。あと、エリカさんの着る桃色のワンピース型の寝間着には、しっぽ用の穴が空いており、そこからしっぽを出していた。
そういえば、俺がお風呂に入ったとき、浴室には見たことのないボトルがいくつかあったな。それには文字らしきものが書かれていたけれど、全く意味が分からなかった。多分、ダイマ王星の言葉で『シャンプー』や『ボディーソープ』って書かれていると思うけど。きっと、エリカさんが持参したものだろう。
「あぁ、気持ち良かった」
「地球のお風呂もいいね。宏斗さんはもう寝る?」
「そうですね。もう寝ようかなと思います」
「そっか。私も宏斗さんを探し回って疲れたから寝ようかな」
その後、洗面所でエリカさんと隣同士に立って歯を磨き、俺は自分の寝室に入った。クーラーを付けて、俺はベッドに横になる。
「まさか、異星人の王女様と一緒に暮らすことになるとは……」
今朝、目覚めたときには想像もできなかったことだ。ただ、20年前のあの夜に見た流れ星の正体が分かったことはとても嬉しかった。
これからどうなっていくのやら。今はエリカさんだけだけど、数日以内に彼女のメイドであるリサさんという女性も来るし。
「なるようにしかならないか」
エリカさんとリサさんに粗相がないように気を付けよう。あと、エリカさんからのプロポーズについても考えていかないと。
――コンコン。
うん? ノック音が聞こえるな。エリカさん、何かあったのかな。
「はい」
ゆっくりと扉を開けると、そこには枕を持ったエリカさんが。
「ねえ、宏斗さん。今夜……一緒に寝てもいいかな」
エリカさんは申し訳なさそうな表情をしながら、上目遣いで俺のことを見てくる。俺よりもずっと年上なのに、2人の妹と重なる部分が多いな。
「いいですよ、どうぞ」
「ありがとう!」
エリカさんはとても嬉しそうな様子で寝室の中に入ってきた。もしかしたら、これから基本的にはエリカさんと一緒に寝ることになるかもしれないな。
ベッドから落ちないように、エリカさんを壁側に寝かせる形で彼女と一緒にベッドに入る。その途端にエリカさんが俺の左腕を抱きしめてくるのでドキッとする。
「この広さ、私は好きだな」
「そう言ってくれて良かった。エリカさんの部屋にあるのはこのベッドとさほど変わらないですけど、お屋敷のベッドは広いんですか?」
「そうだね。このベッドの数倍くらいの広さはあるかな」
「……それはとても広そうですね」
そんなベッドで寝てきた人が、よく俺のベッドを気に入ってくれたなと思う。あと、このベッドが気に入っているってことは、また20年近く眠りそうな気がする。
「エリカさん。今度は20年眠ってしまわないように気を付けてくださいね」
「二度目の爆睡はないから! ただ、なかなか起きそうになかったら、起こしてくれると嬉しいな」
「分かりました」
お昼くらいまでに起きなかったら起こせばいいかな。
「宏斗さんの温もりや匂いを感じながら寝られるなんて幸せだな」
「そうですか」
「……明日からもよろしくね、宏斗さん。いずれはリサも来るけれど」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
すると、エリカさんは俺の頬にキスをして、幸せそうな笑みを浮かべながら目を瞑った。20年眠り続けただけあってか、すぐに寝息を立て始めている。
「……可愛い人だ」
エリカさんが起きないように、そっと頭を撫でる。そのことでふんわりと甘い匂いがしてきて。ドキドキもするけれど、まったりとした気持ちが一番強いな。
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