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本編-ARIA-
第74話『電撃取材』
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――今日逮捕された氷室智也っていう男、お前の親友だろう?
鷺沼のその言葉を聞いた瞬間、全身に悪寒が走った。
いくら、大学時代の友人だからといっても、無実だと信じている親友の氷室の逮捕を報道しているマスコミ関係者。何を訊かれるのかが不安で仕方なかった。
「ああ、私の親友だが……どうして分かった?」
『大学で高校までの話をしているとき、たまに幼なじみで親友の氷室と岡村っていう名前を出していたじゃないか。年齢も俺達と同い年だしもしかしたら……と思ってさ』
「なるほど」
思い返せば、鷺沼には時々、昔話として氷室と岡村のことを話していた。年齢が同じということもあって、私の親友ではないかと感付いたということか。それならば納得である。
『それで、氷室智也が逮捕された事件についてはどうなんだ? 羽賀って警視庁で働いているから、何か知っていることがあるんじゃないか?』
「……その事件、私が担当することになったのだ」
『まじかよ! そいつは取材の甲斐がありそうだな』
「しかし、鷺沼がどのくらい知っているかによって、私が教えることのできる内容も変わってくる。もちろん、絶対に教えるわけにはいかないこともあるがな。氷室が逮捕された事件は被害者とされている少女や、逮捕の容疑がデリケートな内容だから」
第三者が考えた策略によって氷室が無実の罪で逮捕され、しかも警察関係者が関わっている可能性があることについては、今の段階では話してはならない。いくら、信頼できる鷺沼であっても。
『なるほど。現状、これまでの取材で俺達が分かっていることは、まず容疑者の氷室智也は容疑を否認している。そして、被害者の少女もこれまでに報道されている内容は全くの嘘で、強制わいせつのような行為は氷室からされたことは一切ないと言っている……ということくらいかな』
「なるほど。こちら側が公式で発表している内容と一緒だな。あと、今の段階で氷室のことを容疑者と言うのではない。正確には被疑者だ」
『細かいことを気にするなぁ、羽賀は』
「間違っていることを指摘して何が悪い。それに……何でもない」
酒が入っているからか、その勢いで『氷室のことを悪い方に誇張して報道するのではない!』と言ってしまうところだった。
『あと、これはうちの取材班が独自に調べて分かったことなんだけど、被害者の少女について……私立月が丘高校でいじめを受けていた生徒だったらしいな』
「……ああ」
『しかも、そのいじめを氷室智也が解決へと導いたっていう情報もあるんだけど、それって本当なのかな。羽賀に電話をした一番の理由は、お前が氷室智也の知り合いなら、そこら辺のことを知っているんじゃないかと思ってさ。もし、知っているなら、真偽を確かめたくてね』
なるほど、私が氷室の親友ならば、美来さんの受けたいじめを解決の方へ持っていった話を氷室から聞いているんじゃないかと考えたわけか。さすがに、そういうことに関する推測は鋭いな、鷺沼は。
「そうだ。氷室は被害者と言われている少女が学校で受けていたいじめを、解決の方向へと導いたのだ。一部の教職員によるいじめの隠蔽の事実を明らかにしてな」
『そうか。うちの人間が収集した情報は本当だったんだな』
「ああ。ただ、その内容を利用して、これまでよりも氷室に対する印象が悪くなるような報道はしないでいただきたい。そういう報道を行なったら今後、鷺沼には情報を一切提供しないし、友人としてもしばらくは付き合わないつもりだ」
鷺沼のいる放送局でも、ニュースで氷室のことを犯罪者として報道している。逮捕されてしまったのだからそれは仕方ないけども、今、私が言った情報を利用して、憶測を立てて現状よりも悪く氷室のことを報道するようなことになったら、鷺沼亮という人間を許さないつもりだ。
『分かっている。むしろ、いじめ解決の情報を手に入れて、うちの局では氷室智也が本当に強制わいせつを起こしたのかと疑念を抱き始めている状況なんだ。だからこそ、羽賀に訊いてみたんだ』
「なるほどな……」
そういうことならいいのだが。しかし、今後のニュースを見るまではその言葉は信用しきれないな。
『しかし、こんなに気を乱している羽賀は初めてだな。まあ、親友が逮捕されて、その事件を調査しなきゃいけないんだから、それも仕方ないか』
「私が気を乱しているだと?」
『ああ。声色とかで分かったよ』
「……そうか。まあ、今は酒が入っているのもあるが、親友が逮捕されたという事件を扱うのは初めてだからな。それに、まだ言えないことなのだが、この事件には色々とありそうなのだよ」
まったく、よくも親友を無実の罪で逮捕してくれたなと思う。絶対に真犯人と、真犯人に協力した警察関係者を見つけ出してやるつもりだ。氷室の言うように、きちんと罪を償ってもらおうではないか。
『そうか。色々とあるということは、もしかしたら、うちの局を含めて今、報道されていることがひっくり返る可能性もあるってことか』
「……そう考えてもらってかまわない。何せ、氷室も容疑を否認していれば、被害者と言われている少女も、報道されているようなことは一切ないと言っているのだからな」
『なるほど』
「ああ。だからこそ、私が事実を突き止めるつもりだ。どんな事実だとしてもな……」
今、真犯人はどこにいて、どういう気持ちを抱いているのだろうか。氷室を嵌めることができて悦に入っているのだろうか。そうできるのも今のうちだ。私が捜査を担当したことを後悔させるくらいに、徹底的に事実を暴き出してみせよう。
『分かった。もし、提供してもいい情報が入ったら、是非うちに提供してくれよ。誠実に報道するからさ』
「……誠実にか。それはそちらの今後のやり方次第だな」
まあ、どの局よりも早く捜査の最新情報を放送したいのが本音なのだろう。
『分かった。夜にすまなかったな。情報提供に感謝するよ。ありがとう』
「気にするな」
『じゃあ、俺はこれからやらなきゃいけないことがあるから、これで失礼する』
そう言って、鷺沼の方から通話を切った。
氷室が美来さんが受けたいじめを解決の方向へ導いたという情報で、少しでも氷室に対する世間の評価が良くなればいいのだが。
今の電話で酔いから醒めてしまったな。まだ、岡村の買ってくれた日本酒が残っているから、ゆっくりと興じるとしよう。
リビングに戻ると、岡村と浅野さんが既に眠っている。そういえば、鷺沼と電話をしている途中から話し声が聞こえなくなったが、2人とも眠ってしまったからだったのか。
「浅野さん、今、眠ると家に帰れなくなりますよ」
浅野さんの肩を軽く叩いても、全く起きる気配がない。テーブルに置かれている白ワインのボトルは空になっている。ワインをたくさん呑んで眠りに落ちてしまったのか。
「……仕方ない」
寝室のベッドで寝かせるか。女性をいつまでも椅子に寝かせておいてはいけない。
浅野さんのことを抱き上げ、寝室まで連れて行き、ベッドの上で横にさせる。
ベッドが気持ちいいのか、BL関連のいい夢でも見ているのか、浅野さんは笑顔を見せている。
「……メガネを外しておくか」
何かの拍子でメガネが壊れたり、怪我をしてしまったりしては困るからな。
浅野さんのメガネを外し、近くにある机の上に置いておく。
「……ふっ、美来さんや月村さんに劣らぬ可愛さではないか」
フィクション作品ではたまに見られるケースだが、メガネを外すと印象が変わることが本当にあるのだな。普段がアレだからかもしれないが。
再びリビングに戻ると岡村が目を覚ましていた。
「あれ、浅野さんは……?」
「今、お手洗いに行っているところだ」
私の部屋で寝ていると言ったら、どんな反応をされるか分からないからな。俺も一緒にベッドで寝ると言う可能性もある。
「……そうか。俺は明日も仕事があるから、家に帰ってゆっくり寝るぜ。じゃあ、浅野さんによろしく言っておいてくれ」
「ああ、分かった」
てっきり、浅野さんと一緒に帰ると言うと思ったのだが。岡村のタイプではなかったのか。それとも、私が電話をしている間に浅野さんがBLについて話しまくったのか。それについては深く考えないでおくか。全く興味がないので。
「じゃあな、今日は楽しかった。氷室のことよろしく頼むぞ」
「分かっている。私に任せておけ」
岡村は1人で私の家を後にした。
浅野さんは私の部屋で眠っているから、リビングで日本酒を呑みながら、氷室が逮捕された事件についてじっくりと考えることにするか。
鷺沼のその言葉を聞いた瞬間、全身に悪寒が走った。
いくら、大学時代の友人だからといっても、無実だと信じている親友の氷室の逮捕を報道しているマスコミ関係者。何を訊かれるのかが不安で仕方なかった。
「ああ、私の親友だが……どうして分かった?」
『大学で高校までの話をしているとき、たまに幼なじみで親友の氷室と岡村っていう名前を出していたじゃないか。年齢も俺達と同い年だしもしかしたら……と思ってさ』
「なるほど」
思い返せば、鷺沼には時々、昔話として氷室と岡村のことを話していた。年齢が同じということもあって、私の親友ではないかと感付いたということか。それならば納得である。
『それで、氷室智也が逮捕された事件についてはどうなんだ? 羽賀って警視庁で働いているから、何か知っていることがあるんじゃないか?』
「……その事件、私が担当することになったのだ」
『まじかよ! そいつは取材の甲斐がありそうだな』
「しかし、鷺沼がどのくらい知っているかによって、私が教えることのできる内容も変わってくる。もちろん、絶対に教えるわけにはいかないこともあるがな。氷室が逮捕された事件は被害者とされている少女や、逮捕の容疑がデリケートな内容だから」
第三者が考えた策略によって氷室が無実の罪で逮捕され、しかも警察関係者が関わっている可能性があることについては、今の段階では話してはならない。いくら、信頼できる鷺沼であっても。
『なるほど。現状、これまでの取材で俺達が分かっていることは、まず容疑者の氷室智也は容疑を否認している。そして、被害者の少女もこれまでに報道されている内容は全くの嘘で、強制わいせつのような行為は氷室からされたことは一切ないと言っている……ということくらいかな』
「なるほど。こちら側が公式で発表している内容と一緒だな。あと、今の段階で氷室のことを容疑者と言うのではない。正確には被疑者だ」
『細かいことを気にするなぁ、羽賀は』
「間違っていることを指摘して何が悪い。それに……何でもない」
酒が入っているからか、その勢いで『氷室のことを悪い方に誇張して報道するのではない!』と言ってしまうところだった。
『あと、これはうちの取材班が独自に調べて分かったことなんだけど、被害者の少女について……私立月が丘高校でいじめを受けていた生徒だったらしいな』
「……ああ」
『しかも、そのいじめを氷室智也が解決へと導いたっていう情報もあるんだけど、それって本当なのかな。羽賀に電話をした一番の理由は、お前が氷室智也の知り合いなら、そこら辺のことを知っているんじゃないかと思ってさ。もし、知っているなら、真偽を確かめたくてね』
なるほど、私が氷室の親友ならば、美来さんの受けたいじめを解決の方へ持っていった話を氷室から聞いているんじゃないかと考えたわけか。さすがに、そういうことに関する推測は鋭いな、鷺沼は。
「そうだ。氷室は被害者と言われている少女が学校で受けていたいじめを、解決の方向へと導いたのだ。一部の教職員によるいじめの隠蔽の事実を明らかにしてな」
『そうか。うちの人間が収集した情報は本当だったんだな』
「ああ。ただ、その内容を利用して、これまでよりも氷室に対する印象が悪くなるような報道はしないでいただきたい。そういう報道を行なったら今後、鷺沼には情報を一切提供しないし、友人としてもしばらくは付き合わないつもりだ」
鷺沼のいる放送局でも、ニュースで氷室のことを犯罪者として報道している。逮捕されてしまったのだからそれは仕方ないけども、今、私が言った情報を利用して、憶測を立てて現状よりも悪く氷室のことを報道するようなことになったら、鷺沼亮という人間を許さないつもりだ。
『分かっている。むしろ、いじめ解決の情報を手に入れて、うちの局では氷室智也が本当に強制わいせつを起こしたのかと疑念を抱き始めている状況なんだ。だからこそ、羽賀に訊いてみたんだ』
「なるほどな……」
そういうことならいいのだが。しかし、今後のニュースを見るまではその言葉は信用しきれないな。
『しかし、こんなに気を乱している羽賀は初めてだな。まあ、親友が逮捕されて、その事件を調査しなきゃいけないんだから、それも仕方ないか』
「私が気を乱しているだと?」
『ああ。声色とかで分かったよ』
「……そうか。まあ、今は酒が入っているのもあるが、親友が逮捕されたという事件を扱うのは初めてだからな。それに、まだ言えないことなのだが、この事件には色々とありそうなのだよ」
まったく、よくも親友を無実の罪で逮捕してくれたなと思う。絶対に真犯人と、真犯人に協力した警察関係者を見つけ出してやるつもりだ。氷室の言うように、きちんと罪を償ってもらおうではないか。
『そうか。色々とあるということは、もしかしたら、うちの局を含めて今、報道されていることがひっくり返る可能性もあるってことか』
「……そう考えてもらってかまわない。何せ、氷室も容疑を否認していれば、被害者と言われている少女も、報道されているようなことは一切ないと言っているのだからな」
『なるほど』
「ああ。だからこそ、私が事実を突き止めるつもりだ。どんな事実だとしてもな……」
今、真犯人はどこにいて、どういう気持ちを抱いているのだろうか。氷室を嵌めることができて悦に入っているのだろうか。そうできるのも今のうちだ。私が捜査を担当したことを後悔させるくらいに、徹底的に事実を暴き出してみせよう。
『分かった。もし、提供してもいい情報が入ったら、是非うちに提供してくれよ。誠実に報道するからさ』
「……誠実にか。それはそちらの今後のやり方次第だな」
まあ、どの局よりも早く捜査の最新情報を放送したいのが本音なのだろう。
『分かった。夜にすまなかったな。情報提供に感謝するよ。ありがとう』
「気にするな」
『じゃあ、俺はこれからやらなきゃいけないことがあるから、これで失礼する』
そう言って、鷺沼の方から通話を切った。
氷室が美来さんが受けたいじめを解決の方向へ導いたという情報で、少しでも氷室に対する世間の評価が良くなればいいのだが。
今の電話で酔いから醒めてしまったな。まだ、岡村の買ってくれた日本酒が残っているから、ゆっくりと興じるとしよう。
リビングに戻ると、岡村と浅野さんが既に眠っている。そういえば、鷺沼と電話をしている途中から話し声が聞こえなくなったが、2人とも眠ってしまったからだったのか。
「浅野さん、今、眠ると家に帰れなくなりますよ」
浅野さんの肩を軽く叩いても、全く起きる気配がない。テーブルに置かれている白ワインのボトルは空になっている。ワインをたくさん呑んで眠りに落ちてしまったのか。
「……仕方ない」
寝室のベッドで寝かせるか。女性をいつまでも椅子に寝かせておいてはいけない。
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ベッドが気持ちいいのか、BL関連のいい夢でも見ているのか、浅野さんは笑顔を見せている。
「……メガネを外しておくか」
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フィクション作品ではたまに見られるケースだが、メガネを外すと印象が変わることが本当にあるのだな。普段がアレだからかもしれないが。
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「あれ、浅野さんは……?」
「今、お手洗いに行っているところだ」
私の部屋で寝ていると言ったら、どんな反応をされるか分からないからな。俺も一緒にベッドで寝ると言う可能性もある。
「……そうか。俺は明日も仕事があるから、家に帰ってゆっくり寝るぜ。じゃあ、浅野さんによろしく言っておいてくれ」
「ああ、分かった」
てっきり、浅野さんと一緒に帰ると言うと思ったのだが。岡村のタイプではなかったのか。それとも、私が電話をしている間に浅野さんがBLについて話しまくったのか。それについては深く考えないでおくか。全く興味がないので。
「じゃあな、今日は楽しかった。氷室のことよろしく頼むぞ」
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