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本編-ARIA-
第97話『君は太陽』
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報道陣の前から離れて、僕は羽賀の運転する車の助手席に乗る。
これから、美来の家に向かうけど、すぐに捜査ができるようにと途中で浅野さんの家へ向かうことになった。
「すまないな、氷室。美来さんや月村さんと早く会いたいとは思うが」
さっき、美来に連絡したら既に家に帰っていて、有紗さんも美来の家にいるらしい。羽賀の友人である鷺沼さんが勤めている報道局に一緒に行ったからな。
「気にするな。それに2日間も勾留されていたんだ。あと、1時間もすれば2人に会えるんだから」
「……そうか。すまなかった、氷室。無実の罪で逮捕してしまって。警察を代表して改めて謝罪する」
「羽賀が捜査してくれて良かったよ。黒幕『TKS』も羽賀に捜査させたのは、最大の失敗だったな」
「私は警察官でもあり、氷室の親友なのだ。氷室が無実だというのが事実だと信じて捜査しただけだ。『TKS』はそれを分かっていなかった」
「……そうだな」
まったく、昔から羽賀は考えがブレない男だ。安心できるな。
僕が無実と証明されて、釈放されたのは『TKS』にとっても予想外だろう。釈放されてすぐなのでまだ動きは見せていないようだけど、今後も気をつけないといけないな。
「これからどうやって捜査を進めていくんだ?」
「黒幕が『TKS』であることは分かっている。なので、まずはその『TKS』が誰なのかを突き止めることからだ。おそらく、諸澄司だろうが」
「やっぱり、その可能性が一番高いよな」
「『TKS』の正体が判明したら、どうやって『TKS』を追い詰めるかを考えなければならない。まだ、証拠が揃っていないし、これから有力な証拠が手に入るのも期待できないのが現状だな」
「Tubutterのアカウントも消されているもんな。まあ、あれはアカウントを削除しても、何日間かは復活できる仕組みになっているし、運営会社に連絡すればデータを取得できると思う。佐相さんが『TKS』から指示を受けたのは今週の月曜日のことだし。ただ、『TKS』のことが分かっても、身元がバレないように、ネットカフェのような誰でも利用できる場所からTubutterをやっていたかもしれない」
「ああ……」
佐相さんに計画を指示した『TKS』のTubutterアカウントについては今、羽賀の部下の警察官に捜査してもらっているようだ。
「『TKS』は氷室や私が釈放されたことに動揺して、冷静な判断ができなくなっている可能性も考えられる。できれば早く『TKS』が誰なのかを特定して、ハッタリでも何でもいいので上手いこと自白を引き出せればいいが」
「……お前、意外と勢いで物事を進めるところがあるんだな」
てっきり、証拠や証言を揃えて、理詰めで捜査をしていくかと思ったら。
しかし、羽賀の言うとおり……なかなか証拠が手に入れられなかったら、上手いこと自白させた方がいいかもしれない。僕が無実だと証明され、釈放されたのはおそらく『TKS』にとっては不測の事態だろうから。
「場合によっては、氷室に協力してもらうかもしれない。『TKS』が氷室のことを恨んでいるのは今でも変わらないだろう。それだけ危険が伴ってしまうのだが」
「それは十分に承知しているよ。ぜひ、協力させてくれ」
「……分かった。そのときはよろしく頼む。あとは私と入れ替わりで逮捕された佐相警視と柚葉さんに取り調べをするか。柚葉さんからは一通り話を聞けたが、もしかしたら新たな有力な証言を得られるかもしれない」
「そうなるといいよな」
柚葉さんは協力的に話してくれるだろうけど、佐相警視がきちんと話してくれるかどうか。黙秘しそうな気がする。
そんなこと話していると、車は段々と減速していき、やがて停車した。停車した場所のすぐ側にアパートがあるけれど。
「浅野さんのアパートに到着した。今から彼女の部屋に行ってくる」
「分かった」
羽賀は車を降りてアパートの方に向かった。
さすがに、謹慎処分を受けた浅野さんのアパートには報道陣はいないか。
「……晴れてるなぁ」
夏の日差しがとても眩しい。
2日間だけだけど、警視庁に勾留されていたからか、青い空を見ていると解放感……ではなく開放感に浸ってしまうな。冤罪でも逮捕されてしまったら、ほとんどの確率で起訴されるとも聞いたことがあったので、僕もそうなるんじゃないかと何度も不安になった。
「みんなには感謝だなぁ」
何の不安もなくて、あったかいところにいると段々と眠くなってきたな。疲れも溜まっているし。
「すまないな、遅れてしまった」
「遅くなりました」
意識を失いかけたとき、羽賀と浅野さんが車に戻ってきた。
「ちょっと眠りそうになってました」
「疲れが溜まっているだろうから、それは仕方ない」
「浅野さんも良かったですね。羽賀の懲戒解雇撤回と同時に謹慎処分が撤回されて」
「いえいえ。それに楽しかったですよ。家でずっと妄想していましたから。羽賀さんと氷室さんが独房で2人きりなっていたら何をやっていたのかなって」
「……そ、そうですか」
一昨日、取り調べを受けたときから思っていたけど、浅野さんって重度な腐女子なんじゃないだろうか。この様子では謹慎処分を受けても全くダメージはなかったと思われる。まあ、今回については不当な処分だからなぁ。
「ちなみに、私が家を訪ねたら寝間着を血だらけにした彼女が出てきた」
「妄想をしたら捗っちゃって、鼻が赤く大洪水になってしまいました」
あははっ、と笑っているけど、大洪水になるほど鼻から血が出ていたら結構まずいのでは。謹慎中なのに妄想に耽っているとは。羽賀の作戦が必ず上手くいくと信じていたのだろう。そう思っておこう。
「で、実際はどうだったんですか?」
「……佐相警視の温情ということで、氷室のいる独房に連れて行かされましたよ。2人きりでしたから、今朝の柚葉さんとの話をしていました」
「おおっ! 氷室さんの件については許せませんが、最後の最後にいいプレーをしてくれましたね。あと、氷室さん、釈放おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
「車を発進させるぞ、氷室」
「ああ、頼む」
美来の家に向かって羽賀の車は出発する。
僕と羽賀が隣同士で座っているので、浅野さんは興奮してマシンガントークを繰り広げるかと思ったら、妄想に浸っているのかうっとりとした表情で物思いに耽っているようだ。こちらとしては有り難い。
段々と知っている景色となり、やがて美来の家が見えてきた。
「マスコミはちらほらいるけど、これでも少なくなったのかな?」
「ああ。昨日、美来さんを警視庁に連れて行くときが一番多かった。それに比べれば今はかなり少なくなっているな」
「……そうか」
羽賀の車は停車して、僕達は車から降りる。
すると、僕の姿が見えたせいか残っていたマスコミ関係者が僕の所に駈け寄ってくる。
「先ほど、警視庁でも言いましたが、そっと見守っていてください。お願いします」
僕はそれだけを言って、羽賀や浅野さんと一緒に美来の家へと向かう。
――ピンポーン。
インターホンを鳴らしてみても、誰からも応答がない。
どうしたのだろうと思ったとき、ガチャ、と玄関の鍵が開く音が聞こえた。もう、僕が帰ってきたんだと思っているんだろう。
扉が開かれると、そこに立っていたのは私服姿の美来と有紗さんだった。
「……ただいま」
今の状況で言うべき言葉は、やっぱりこれだと思って。僕の家じゃないけれど。ただ、久しぶりに美来と有紗さんのいる場所に帰ってきた気がしたから。
すると、美来は涙を流し、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて、
「おかえりなさい、智也さん」
そう言うと、僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。その返事をするように、僕も美来のことをぎゅっと抱きしめる。彼女の柔らかさ、匂い……それらをひさしぶりに感じられて、ようやく僕は自由になれたのだと思った。
「もう、美来ちゃんばっかりずるいな」
「ごめんなさい、つい……」
「……いいの。智也君、言ってたもんね。美来ちゃんのことを抱きしめたいって。でも、あたしのことも抱きしめてほしいな」
有紗さんはそう言うと、美来が僕から離れる前に僕に抱きついてきた。そのことで、僕と有紗さんが美来を挟む形になってしまったけど。
「んんっ! 有紗さん!」
「智也君からさっさと離れない罰だぞぉ」
そう言いながらも、有紗さんはとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。そういえば、美来も気付けば有紗さんのことを名前で呼ぶようになったな。僕が勾留されている間に、2人の距離がまた縮まったのかもしれない。
逮捕されてから2日ちょっとしか経っていないし、この2日の間に2人と面会はしたけれど、何だか凄くひさしぶりに会ったような気がして。
まだ、事件は終わっていないけど、せめても今だけは3人での安らかな時間を過ごさせてください。
これから、美来の家に向かうけど、すぐに捜査ができるようにと途中で浅野さんの家へ向かうことになった。
「すまないな、氷室。美来さんや月村さんと早く会いたいとは思うが」
さっき、美来に連絡したら既に家に帰っていて、有紗さんも美来の家にいるらしい。羽賀の友人である鷺沼さんが勤めている報道局に一緒に行ったからな。
「気にするな。それに2日間も勾留されていたんだ。あと、1時間もすれば2人に会えるんだから」
「……そうか。すまなかった、氷室。無実の罪で逮捕してしまって。警察を代表して改めて謝罪する」
「羽賀が捜査してくれて良かったよ。黒幕『TKS』も羽賀に捜査させたのは、最大の失敗だったな」
「私は警察官でもあり、氷室の親友なのだ。氷室が無実だというのが事実だと信じて捜査しただけだ。『TKS』はそれを分かっていなかった」
「……そうだな」
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僕が無実と証明されて、釈放されたのは『TKS』にとっても予想外だろう。釈放されてすぐなのでまだ動きは見せていないようだけど、今後も気をつけないといけないな。
「これからどうやって捜査を進めていくんだ?」
「黒幕が『TKS』であることは分かっている。なので、まずはその『TKS』が誰なのかを突き止めることからだ。おそらく、諸澄司だろうが」
「やっぱり、その可能性が一番高いよな」
「『TKS』の正体が判明したら、どうやって『TKS』を追い詰めるかを考えなければならない。まだ、証拠が揃っていないし、これから有力な証拠が手に入るのも期待できないのが現状だな」
「Tubutterのアカウントも消されているもんな。まあ、あれはアカウントを削除しても、何日間かは復活できる仕組みになっているし、運営会社に連絡すればデータを取得できると思う。佐相さんが『TKS』から指示を受けたのは今週の月曜日のことだし。ただ、『TKS』のことが分かっても、身元がバレないように、ネットカフェのような誰でも利用できる場所からTubutterをやっていたかもしれない」
「ああ……」
佐相さんに計画を指示した『TKS』のTubutterアカウントについては今、羽賀の部下の警察官に捜査してもらっているようだ。
「『TKS』は氷室や私が釈放されたことに動揺して、冷静な判断ができなくなっている可能性も考えられる。できれば早く『TKS』が誰なのかを特定して、ハッタリでも何でもいいので上手いこと自白を引き出せればいいが」
「……お前、意外と勢いで物事を進めるところがあるんだな」
てっきり、証拠や証言を揃えて、理詰めで捜査をしていくかと思ったら。
しかし、羽賀の言うとおり……なかなか証拠が手に入れられなかったら、上手いこと自白させた方がいいかもしれない。僕が無実だと証明され、釈放されたのはおそらく『TKS』にとっては不測の事態だろうから。
「場合によっては、氷室に協力してもらうかもしれない。『TKS』が氷室のことを恨んでいるのは今でも変わらないだろう。それだけ危険が伴ってしまうのだが」
「それは十分に承知しているよ。ぜひ、協力させてくれ」
「……分かった。そのときはよろしく頼む。あとは私と入れ替わりで逮捕された佐相警視と柚葉さんに取り調べをするか。柚葉さんからは一通り話を聞けたが、もしかしたら新たな有力な証言を得られるかもしれない」
「そうなるといいよな」
柚葉さんは協力的に話してくれるだろうけど、佐相警視がきちんと話してくれるかどうか。黙秘しそうな気がする。
そんなこと話していると、車は段々と減速していき、やがて停車した。停車した場所のすぐ側にアパートがあるけれど。
「浅野さんのアパートに到着した。今から彼女の部屋に行ってくる」
「分かった」
羽賀は車を降りてアパートの方に向かった。
さすがに、謹慎処分を受けた浅野さんのアパートには報道陣はいないか。
「……晴れてるなぁ」
夏の日差しがとても眩しい。
2日間だけだけど、警視庁に勾留されていたからか、青い空を見ていると解放感……ではなく開放感に浸ってしまうな。冤罪でも逮捕されてしまったら、ほとんどの確率で起訴されるとも聞いたことがあったので、僕もそうなるんじゃないかと何度も不安になった。
「みんなには感謝だなぁ」
何の不安もなくて、あったかいところにいると段々と眠くなってきたな。疲れも溜まっているし。
「すまないな、遅れてしまった」
「遅くなりました」
意識を失いかけたとき、羽賀と浅野さんが車に戻ってきた。
「ちょっと眠りそうになってました」
「疲れが溜まっているだろうから、それは仕方ない」
「浅野さんも良かったですね。羽賀の懲戒解雇撤回と同時に謹慎処分が撤回されて」
「いえいえ。それに楽しかったですよ。家でずっと妄想していましたから。羽賀さんと氷室さんが独房で2人きりなっていたら何をやっていたのかなって」
「……そ、そうですか」
一昨日、取り調べを受けたときから思っていたけど、浅野さんって重度な腐女子なんじゃないだろうか。この様子では謹慎処分を受けても全くダメージはなかったと思われる。まあ、今回については不当な処分だからなぁ。
「ちなみに、私が家を訪ねたら寝間着を血だらけにした彼女が出てきた」
「妄想をしたら捗っちゃって、鼻が赤く大洪水になってしまいました」
あははっ、と笑っているけど、大洪水になるほど鼻から血が出ていたら結構まずいのでは。謹慎中なのに妄想に耽っているとは。羽賀の作戦が必ず上手くいくと信じていたのだろう。そう思っておこう。
「で、実際はどうだったんですか?」
「……佐相警視の温情ということで、氷室のいる独房に連れて行かされましたよ。2人きりでしたから、今朝の柚葉さんとの話をしていました」
「おおっ! 氷室さんの件については許せませんが、最後の最後にいいプレーをしてくれましたね。あと、氷室さん、釈放おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
「車を発進させるぞ、氷室」
「ああ、頼む」
美来の家に向かって羽賀の車は出発する。
僕と羽賀が隣同士で座っているので、浅野さんは興奮してマシンガントークを繰り広げるかと思ったら、妄想に浸っているのかうっとりとした表情で物思いに耽っているようだ。こちらとしては有り難い。
段々と知っている景色となり、やがて美来の家が見えてきた。
「マスコミはちらほらいるけど、これでも少なくなったのかな?」
「ああ。昨日、美来さんを警視庁に連れて行くときが一番多かった。それに比べれば今はかなり少なくなっているな」
「……そうか」
羽賀の車は停車して、僕達は車から降りる。
すると、僕の姿が見えたせいか残っていたマスコミ関係者が僕の所に駈け寄ってくる。
「先ほど、警視庁でも言いましたが、そっと見守っていてください。お願いします」
僕はそれだけを言って、羽賀や浅野さんと一緒に美来の家へと向かう。
――ピンポーン。
インターホンを鳴らしてみても、誰からも応答がない。
どうしたのだろうと思ったとき、ガチャ、と玄関の鍵が開く音が聞こえた。もう、僕が帰ってきたんだと思っているんだろう。
扉が開かれると、そこに立っていたのは私服姿の美来と有紗さんだった。
「……ただいま」
今の状況で言うべき言葉は、やっぱりこれだと思って。僕の家じゃないけれど。ただ、久しぶりに美来と有紗さんのいる場所に帰ってきた気がしたから。
すると、美来は涙を流し、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて、
「おかえりなさい、智也さん」
そう言うと、僕のことをぎゅっと抱きしめてきた。その返事をするように、僕も美来のことをぎゅっと抱きしめる。彼女の柔らかさ、匂い……それらをひさしぶりに感じられて、ようやく僕は自由になれたのだと思った。
「もう、美来ちゃんばっかりずるいな」
「ごめんなさい、つい……」
「……いいの。智也君、言ってたもんね。美来ちゃんのことを抱きしめたいって。でも、あたしのことも抱きしめてほしいな」
有紗さんはそう言うと、美来が僕から離れる前に僕に抱きついてきた。そのことで、僕と有紗さんが美来を挟む形になってしまったけど。
「んんっ! 有紗さん!」
「智也君からさっさと離れない罰だぞぉ」
そう言いながらも、有紗さんはとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。そういえば、美来も気付けば有紗さんのことを名前で呼ぶようになったな。僕が勾留されている間に、2人の距離がまた縮まったのかもしれない。
逮捕されてから2日ちょっとしか経っていないし、この2日の間に2人と面会はしたけれど、何だか凄くひさしぶりに会ったような気がして。
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