アリア

桜庭かなめ

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特別編-Looking back 10 years of LOVE-

第5話『16歳になったときのこと』

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 午後1時半。
 昼食のパスタを食べ終え、僕が後片付けをする。その間に美来が2人分のホットコーヒーを淹れておいてくれた。
 後片付けを終えた僕は、リビングのソファーに腰を下ろし、美来の淹れてくれたホットコーヒーを飲んで一息つく。

「うん、美味しい」
「ありがとうございます。では、さっそく続きを話しましょうか」
「うん」

 性的な話で午前の部が終わっちゃったからな。午後の部はどんなことから話してくれるんだろう。

「ただ、午前中にも言ったように、智也さんを見つけてからの8年間は基本的にやっていることは変わりません。それについては話したので、結婚できる年齢である16歳になったときの話をしましょう」
「急に最近の話になるんだね」

 美来の誕生日は確か4月の半ばだっけ。ということは、僕と再会する1ヶ月くらい前のことか。今からだと4ヶ月くらい前か。でも、そのときって。

「でも、思い出して大丈夫? 月が丘高校のときの話だけど」
「……そのときから告白されることはありましたが、まだいじめは全然ありませんでしたから」
「それならいいけど」
「ふふっ、智也さんは優しいですね。では、スタートです!」

 楽しそうだからいいか。美来が16歳になったときの話を聞いてみることにしよう。


*****


 以前にも言ったことがあると思いますが、4月15日が私の誕生日です。今年の誕生日で16歳になりました。

「今日も告白されちゃったよ。断るのが大変だった……」

 智也さんのことは「運命の人」と称して、友達やクラスメイトに話していました。その人のことが大好きだと話していたのに、私に告白する生徒が絶えませんでした。私が断り続けるので、付き合うことができるかどうかゲーム感覚で告白する人もいたようです。
 誕生日のことについても話していたので、この日は特に告白する方が多くて。自分をプレゼントするって告白する人もいましたね。もちろん、受け取りませんでした。

「彼氏はいらない。智也さんにプレゼントするの。私を恋人として……」

 私の頭には智也さんにしかいませんでした。告白されたときはずっと智也さんのことを考えるようにしました。
 今年の誕生日には友達やクラスメイトからプレゼントをもらいました。お菓子とか、文房具とか、髪留めとか。
 ただ、一番のプレゼントは16歳になったことで。結婚できる権利をもらえたことです。そして、智也さんと再会できるという自分自身へのプレゼント。

「やっと智也さんと会うことができるんだ」

 結婚できる年齢になっても、好きな気持ちが変わっていないならそのときに考えよう。
 あの日、プロポーズした私に智也さんが言ってくれたその言葉を胸に刻み、早く16歳にならないかと待ち望んでいました。およそ10年経って、ようやくそのときを迎えられたのです。

「ううっ、でも……会えるとなると緊張する」

 この時点で、智也さんが1人で暮らしをしているあのアパートについては知っていました。今年の誕生日は金曜日でしたし、週末一緒に過ごすことも考えればベストタイミングです。前から16歳になったこの日に智也さんと会おうと決めていました。
 荷造りはしてあったので、午後6時過ぎに智也さんのアパートへと向かいました。
 部屋番号も確認して、玄関の前で待っていたんですが……ドキドキしすぎてしまって、このまま会っても智也さんとまともに話せないと思って、その日は寮に戻りました。


*****


 美来の誕生日である4月15日は確か……呑み会だった気がするな。4月の金曜日は新入社員の歓迎会や、僕も4月に異動をしたので僕自身の歓迎会があった。

「美来の誕生日にも、玄関の前で待っていてくれたんだね」
「……はい。でも、緊張しすぎて帰っちゃいました」
「そっか。まあ、その日も呑み会で午後11時くらいに帰ってきたから、もし待ち続けてくれていたら……相当待たせていたことになっていたんだね」
「仮にそうなっていても全然気にしません。10年近くも会わずにいられたんです。2年近くは見つけることすらできていなかった。なので、智也さんの家の前で数時間待つくらいなら平気ですよ」

 理由が理由だけに、今の言葉にはかなりの説得力があるな。さすがは美来だ。
 美来の誕生日は4月15日。僕と再会したのは……5月の半ばだったはず。

「じゃあ、1ヶ月近く毎週末、アパートの玄関前に来ては緊張し寮に帰ったって感じなのかな」
「それが主な理由ですけど、この1ヶ月の間にいじめも始まりました。こんな自分が智也さんと再会していいのかなと思うくらいに気持ちがへこんでしまったときもあって。会うのが怖くなって帰ったときもありました」
「そうだったんだ……」

 いじめって恐ろしいものだな。あそこまで僕のことを好きな美来が、僕と会うことが怖くなってしまうなんて。
 思い返せば、再会して初めて僕の家に泊まるとき、僕の家にどうしても泊まりたいっていう雰囲気だったもんな。もちろん、僕の側にいたい気持ちが一番だろうけど、寮には帰りたくないのもあったんだろう。

「ただ、16歳になってからだったので、いつでも勇気を出せば智也さんと再会できると思っていました。それを心の支えにしていたんです。もし、15歳までに同じ目に遭っていたら……どうなっていたんでしょうかね。助けてほしいと智也さんのところへ会いに行っていたのかな」
「そういうときは、いつでも僕に頼っていいんだよ。きっと、15歳までの美来と再会しても、僕は美来の側にいたと思うよ。遊園地で迷子になっていたときのようにね」
「……私って、なんて幸せ者なのでしょう」

 うふふっ、と美来は両手を頬に当ててニコニコしている。本当に幸せそうだ。

「智也さんはやはり私の王子様です」
「表現が大げさだなぁ」
「そのくらいに智也さんは素敵な方で、私のことを何度も助けてくれたんですよ! そんな方を王子様と言わなければ何と呼べばいいんですか!」
「夫でいいんじゃないの?」
「……えへへっ」

 そう声を漏らすと、美来は顔を真っ赤にして僕の膝の上に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫か?」
「あまりにも幸せで体が火照ってしまいました。智也さんのお膝の上でちょっと休憩してもいいですか?」
「それはかまわないけど、体が火照ったって。気分は悪くないか? この時期、熱中症とかに気をつけないと……」
「大丈夫です。それに、夫の膝の上は心地よいですから」

 美来、とても嬉しそうな表情をしている。
 本当は膝枕をしたかっただけだったりして。そんなことを考えながら、彼女を膝枕した状態でコーヒーを飲むのであった。
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