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特別編-浅野狂騒曲-
第8話『華麗なる目覚め』
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6月9日、木曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中は薄暗い。
部屋に掛けてある時計を見ると、今は午前6時前か。日付が変わった直後くらいに眠ったはずなのに、かなり目覚めがいいな。酔いが残っていたことで、短い時間でも深い眠りにつけたのかな。あとは、退職日までの有給休暇消化期間中だからか。
有紗さんと美来はぐっすりと眠っているけど、有紗さんの方は仕事があると思うのでそろそろ起こした方がいいかな。
「うんっ……」
美来は僕のことをしっかりと抱きしめている。昨日、眠るときは腕を絡ませていたのに、眠っている間に俺の体を抱きしめる形に変わっている。
「ごめんな、美来……」
美来が起きないように、静かに彼女の抱擁を解く。
「ううん……」
美来、あからさまに嫌そうな表情をしている。もしかして、夢の中で僕に抱擁を解かれてしまったのかな。ちょっと悪いことをしてしまったかも。
有紗さん、ワイシャツ姿で相変わらずぐっすりと眠っている。起こすことに気を引けてしまうけど、有紗さんには仕事があるからな。
「有紗さん、起きてください」
有紗さんの肩を軽く叩くけれど、有紗さんは全く起きる気配がない。
「こうなったら……」
カーテンを開けて、陽の光を浴びせれば有紗さんも起きるだろう。
カーテンを開けると空はどんよりとした曇り空で、ぽつぽつと雨が降っている。今年もいよいよ梅雨入りかな。
そんな天気なので、カーテンを開けても幾らか明るくなっただけで、眩しいとは程遠かった。有紗さんは依然として起きる気配無し。
「有紗さん! 今日も仕事があるんで――」
「ともやさぁん!」
寝ぼけたのか、美来が俺の右足にしがみついてくる。そのせいで、僕はバランスを崩してしまう。
「うわっ!」
有紗さんの上に倒れないよう、俺はとっさにベッドの上に両手を突いた。ただ、この体勢だとまるで有紗さんを押し倒したように思えるな。これで、有紗さんが目を覚ましたら、とんでもない誤解をされそうな。
「智也君……」
目を覚ましちゃったよ、有紗さん。
「もう、ダメだよ……あたしのことを襲おうだなんて。美来ちゃんっていう彼女が側で寝ているのに……」
とんでもない誤解をされちゃったよ。有紗さん、顔を真っ赤にして俺のことを見つめている。
「でも、どうしてもって言うなら、智也君のことを受け入れても……いいよ。でも、その前にシャワーを浴びさせてくれるかな」
「有紗さんを襲うつもりなんて全然ありませんよ」
「はっきりと言わないでよ、もう。ちょっと寂しい気持ちになるじゃない。でも、いつもよりも気持ちのいい目覚めになったよ、ありがとう」
有紗さんは可愛らしい笑みを浮かべる。こうして定期的に会えるのでいいけど、彼女のいる職場から離れなければいけないのは寂しいな。
「あの……さ、智也君。さすがにずっとこのままだと、ドキドキしてきちゃうというか。あたしの方が智也君を襲いたくなっちゃうよ」
「それはさすがに――」
「と・も・や・さん?」
急に寒気がしてきたぞ。
振り返ると、そこには物凄い形相で僕のことを見ている美来がいた。僕がベッドに倒れたときに目を覚ましちゃったのかな。
「美来、これはね……」
「……智也さん」
「は、はい!」
「どうして私のことを襲おうとしないんですか! 私にはもう飽きてしまったんですか! 歳が近い有紗さんの方が魅力的なんですか?」
美来にまでとんでもない誤解をされる始末。有紗さんが嬉しそうに微笑んでいるから更なる誤解を招くことになるのでは。美来、今にも泣きそうなんだけれど。
「そんなことないよ。というか、そもそも有紗さんのことは襲ってないから」
「それなら、どうして有紗さんは嬉しそうな表情をしているんですか?」
「……気持ちのいい目覚めができたからよ、美来ちゃん。もちろん、智也君に襲われたからじゃないから安心して」
「それならいいですが……」
良かった、美来の誤解も解くことができて。まったく、2人ともすぐに誤解をしちゃうんだから……と思うけれど、今回は僕のせいでもあるし。
「ねえ、智也君。シャワーを借りていいかしら、昨日、お酒を呑んで酔っ払ったまま眠っちゃったから……」
「いいですよ」
「では、その間にカレーを温めておきましょう」
そういえば、美来が昨日作ったチキンカレー……まだ一口も食べていなかったな。一晩寝かせるとより美味しくなるから楽しみだ。
有紗さんがシャワーを浴びている間、美来は朝食の仕度をする。温めたカレーの匂いが食欲を誘う。
有紗さんがシャワーから出てきてから、3人で朝食のカレーを食べることに。やっぱり、美来の作ったチキンカレーはとても美味しいな。カレーで一番好きなのはチキンカレーなので嬉しいよ。こうした平和な時間を過ごせることに幸せを感じるのであった。
*****
午前6時過ぎ。
ううっ、お酒を呑んでいつもよりも気持ちの良い中で眠ったのですが、昨日の朝比奈さんが頭に焼き付いているためか、ちょっと怖い夢を見てしまいました。羽賀さんと氷室さんが仲良くしているところに、朝比奈さんが割って入ってしまうなんて。
「現実ではそれが自然なのですがね……」
朝比奈さんが悪いわけではありません。ただ、朝比奈さんのあの言葉でBL信仰について考え直す必要があると思いました。
「それにしても、昨日の朝比奈さんは恐かった……」
笑顔のまま注意されるというのは恐いですね。はっきりと表情に出してくれる方がまだいいです。
「どうも、羽賀さんと氷室さんのカップリングを妄想してしまいます。これからは羽賀さんと岡村さんのカップリングに路線を変えた方がいいでしょうね」
確か、岡村さんには彼女がいないということでしたから、朝比奈さんのように注意する方はいないでしょう。そうですよ、羽賀さんには氷室さん以外にも岡村さんという立派な親友がいるではないですか!
「それに、氷室さんは朝比奈さんと付き合うことになったので、そのことに傷心している羽賀さんに岡村さんが、と考えると……ふふっ」
あっ、このカップリングかなりいいかもしれません。かなり萌えてきましたよ! どうして今まで気付かなかったのでしょう。
「そういえば、羽賀さんが昨晩のことを話してくれる約束をしていましたね」
どんな展開になったのかが気になって仕方ないです。あぁ、どうなったんでしょう。今から興奮してきます。
何だか、今日はとても楽しい1日になりそうな気がしてきました。今日もお仕事頑張ります!
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中は薄暗い。
部屋に掛けてある時計を見ると、今は午前6時前か。日付が変わった直後くらいに眠ったはずなのに、かなり目覚めがいいな。酔いが残っていたことで、短い時間でも深い眠りにつけたのかな。あとは、退職日までの有給休暇消化期間中だからか。
有紗さんと美来はぐっすりと眠っているけど、有紗さんの方は仕事があると思うのでそろそろ起こした方がいいかな。
「うんっ……」
美来は僕のことをしっかりと抱きしめている。昨日、眠るときは腕を絡ませていたのに、眠っている間に俺の体を抱きしめる形に変わっている。
「ごめんな、美来……」
美来が起きないように、静かに彼女の抱擁を解く。
「ううん……」
美来、あからさまに嫌そうな表情をしている。もしかして、夢の中で僕に抱擁を解かれてしまったのかな。ちょっと悪いことをしてしまったかも。
有紗さん、ワイシャツ姿で相変わらずぐっすりと眠っている。起こすことに気を引けてしまうけど、有紗さんには仕事があるからな。
「有紗さん、起きてください」
有紗さんの肩を軽く叩くけれど、有紗さんは全く起きる気配がない。
「こうなったら……」
カーテンを開けて、陽の光を浴びせれば有紗さんも起きるだろう。
カーテンを開けると空はどんよりとした曇り空で、ぽつぽつと雨が降っている。今年もいよいよ梅雨入りかな。
そんな天気なので、カーテンを開けても幾らか明るくなっただけで、眩しいとは程遠かった。有紗さんは依然として起きる気配無し。
「有紗さん! 今日も仕事があるんで――」
「ともやさぁん!」
寝ぼけたのか、美来が俺の右足にしがみついてくる。そのせいで、僕はバランスを崩してしまう。
「うわっ!」
有紗さんの上に倒れないよう、俺はとっさにベッドの上に両手を突いた。ただ、この体勢だとまるで有紗さんを押し倒したように思えるな。これで、有紗さんが目を覚ましたら、とんでもない誤解をされそうな。
「智也君……」
目を覚ましちゃったよ、有紗さん。
「もう、ダメだよ……あたしのことを襲おうだなんて。美来ちゃんっていう彼女が側で寝ているのに……」
とんでもない誤解をされちゃったよ。有紗さん、顔を真っ赤にして俺のことを見つめている。
「でも、どうしてもって言うなら、智也君のことを受け入れても……いいよ。でも、その前にシャワーを浴びさせてくれるかな」
「有紗さんを襲うつもりなんて全然ありませんよ」
「はっきりと言わないでよ、もう。ちょっと寂しい気持ちになるじゃない。でも、いつもよりも気持ちのいい目覚めになったよ、ありがとう」
有紗さんは可愛らしい笑みを浮かべる。こうして定期的に会えるのでいいけど、彼女のいる職場から離れなければいけないのは寂しいな。
「あの……さ、智也君。さすがにずっとこのままだと、ドキドキしてきちゃうというか。あたしの方が智也君を襲いたくなっちゃうよ」
「それはさすがに――」
「と・も・や・さん?」
急に寒気がしてきたぞ。
振り返ると、そこには物凄い形相で僕のことを見ている美来がいた。僕がベッドに倒れたときに目を覚ましちゃったのかな。
「美来、これはね……」
「……智也さん」
「は、はい!」
「どうして私のことを襲おうとしないんですか! 私にはもう飽きてしまったんですか! 歳が近い有紗さんの方が魅力的なんですか?」
美来にまでとんでもない誤解をされる始末。有紗さんが嬉しそうに微笑んでいるから更なる誤解を招くことになるのでは。美来、今にも泣きそうなんだけれど。
「そんなことないよ。というか、そもそも有紗さんのことは襲ってないから」
「それなら、どうして有紗さんは嬉しそうな表情をしているんですか?」
「……気持ちのいい目覚めができたからよ、美来ちゃん。もちろん、智也君に襲われたからじゃないから安心して」
「それならいいですが……」
良かった、美来の誤解も解くことができて。まったく、2人ともすぐに誤解をしちゃうんだから……と思うけれど、今回は僕のせいでもあるし。
「ねえ、智也君。シャワーを借りていいかしら、昨日、お酒を呑んで酔っ払ったまま眠っちゃったから……」
「いいですよ」
「では、その間にカレーを温めておきましょう」
そういえば、美来が昨日作ったチキンカレー……まだ一口も食べていなかったな。一晩寝かせるとより美味しくなるから楽しみだ。
有紗さんがシャワーを浴びている間、美来は朝食の仕度をする。温めたカレーの匂いが食欲を誘う。
有紗さんがシャワーから出てきてから、3人で朝食のカレーを食べることに。やっぱり、美来の作ったチキンカレーはとても美味しいな。カレーで一番好きなのはチキンカレーなので嬉しいよ。こうした平和な時間を過ごせることに幸せを感じるのであった。
*****
午前6時過ぎ。
ううっ、お酒を呑んでいつもよりも気持ちの良い中で眠ったのですが、昨日の朝比奈さんが頭に焼き付いているためか、ちょっと怖い夢を見てしまいました。羽賀さんと氷室さんが仲良くしているところに、朝比奈さんが割って入ってしまうなんて。
「現実ではそれが自然なのですがね……」
朝比奈さんが悪いわけではありません。ただ、朝比奈さんのあの言葉でBL信仰について考え直す必要があると思いました。
「それにしても、昨日の朝比奈さんは恐かった……」
笑顔のまま注意されるというのは恐いですね。はっきりと表情に出してくれる方がまだいいです。
「どうも、羽賀さんと氷室さんのカップリングを妄想してしまいます。これからは羽賀さんと岡村さんのカップリングに路線を変えた方がいいでしょうね」
確か、岡村さんには彼女がいないということでしたから、朝比奈さんのように注意する方はいないでしょう。そうですよ、羽賀さんには氷室さん以外にも岡村さんという立派な親友がいるではないですか!
「それに、氷室さんは朝比奈さんと付き合うことになったので、そのことに傷心している羽賀さんに岡村さんが、と考えると……ふふっ」
あっ、このカップリングかなりいいかもしれません。かなり萌えてきましたよ! どうして今まで気付かなかったのでしょう。
「そういえば、羽賀さんが昨晩のことを話してくれる約束をしていましたね」
どんな展開になったのかが気になって仕方ないです。あぁ、どうなったんでしょう。今から興奮してきます。
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