アリア

桜庭かなめ

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特別編-ラブラブ!サンシャイン!!-

第28話『恋人岬』

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 午後2時過ぎ。
 ロープウェイ乗り場を出発してから30分余り。途中で美来のおかげで興奮することもあったけど、特に渋滞やトラブルが起きることなく恋人岬に向かっている。

「智也さん、恋人岬まであと3kmという看板がありました」
「あったね。もうすぐ恋人岬か」

 海岸線を走っており、結構遠くまで見えている。岬っぽいところも見えているので、あそこが恋人岬かな?

「晴れているからきっと岬からもいい景色が見ることができると思うよ」
「どんな景色か楽しみです」

 どんよりとした曇り空とか、雨が降っていたらちょっと寂しい感じもするけれど。本当に晴れていて良かった。
 10分くらいで恋人岬に到着した。鍾乳洞やロープウェイとは違って駐車場は結構空いている。パンフレットにも恋愛に関して縁起のいいスポットって書いてあるのに。
 例の通り、車を駐車するときに美来が嬉しそうにしている。僕との距離感なのか、僕の恰好なのか……美来がキュンとなる要素があるのかな。駐車をし終わったし、美来に訊いてみようかな。

「ねえ、美来」
「何ですか?」
「僕が車を駐車するときにいつもキュンとなっているみたいだけど、どういうところがいいのかな?」
「そういう風に訊かれると何だか恥ずかしいですね」

 美来は顔を赤くしてデレデレしているけど、普段はもっと恥ずかしい言葉を平気で言っているような気がする。

「智也さんとの距離感もそうですし、駐車をするときの真剣な表情、後ろを確認するときにふわりと香る智也さんの匂いがたまらなくて……」
「……なるほどね」

 美来にとって嬉しい要素がいくつもあるからキュンとしたってことか。美来が助手席に座る理由の一つなんだろうな。
 車から降りると、これまで訪れた2つのスポットよりは人が少ないけど、よく見てみるとカップルや夫婦が多いな。さすがは恋愛関係の縁起場所だ。

「さすがは恋愛スポットですね!」
「そうだね」

 そういえば、昔……伊豆に旅行へ行ったときに、ここみたいな岬に来たな。そこも恋人岬って呼ばれていたような気がする。

「智也さん、向こうに鐘がありますよ。一緒に鳴らしてみましょうか」
「うん」

 そうだ、あのとき行った恋人岬にも鐘があったな。父さんと母さんが楽しそうに鐘を鳴らしていたっけ。当時、幼かった僕は母さんと一緒に鳴らした。
 僕は美来に手を引かれる形で鐘の前まで行く。鐘には紐が垂れ下がっており、あれを引くと鐘が鳴るってことかな。

「横の看板には……この鐘は恋の鐘と言って、恋人と5回鳴らすと恋愛が成就するらしいですよ。私達の場合は必要ないかもしれませんが、これからもこの関係を続けられるように……という意味を込めて一緒に鳴らしましょうか」
「そうそう、こういうゲン担ぎは大切にした方がいいよ。それに、ここで一緒に鳴らせば美来ともっと仲良くなって、そしてずっと一緒にいられるような気がする」
「そうですね。じゃあ、鳴らしましょうか!」

 僕は美来と一緒に鐘の紐を掴み、
 ――カーン、カーン、カーン、カーン、カーン。
 恋の鐘を5回鳴らした。岬ということもあってか、鐘の音がよく響く。こういう鐘って教会にもあるし、恋愛に関して縁起のいい鐘だと知ると、不意に純白のウェディングドレス姿の美来を思い浮かんだ。

「いい音ですね。心の奥まで響いてきました」

 さすがは声楽部に所属しているだけあって、音に関する感性が長けている。僕にはただの大きな鐘の音にしか思えなかったけど。綺麗な音だなとは思ったけどさ。
 振り返ると岬にいた大半の人がこちらの方を見ていた。まあ、大きな鐘の音が5回も鳴り響いたわけだからな。

「きっと、私達のことを恋人同士だと思っているでしょうね」
「だろうね。それに、そこの看板に書いてあった通り、恋の鐘を5回鳴らしたから」
「そうですね。そして、何よりもこんなにも仲良くしているんですから!」

 美来は僕に腕を絡ませて、頭をすりすりしている。確かに、仲良く見えるとは思うけど、美来の行動が犬や猫っぽい。

「周りにどう見られているのかっていうのも重要かもしれないけど、一番大切なのは僕達がこうして仲良くしていることなんじゃないかな。鐘が鳴って……ウェディングドレスを着た美来の姿が思い浮かんだんだよね。とても綺麗だった」
「……そ、そうですか」

 美来は顔を真っ赤にして、はにかみながら海の方を眺める。僕がウェディングドレスのことを言ったから照れているのかな。

「いつかは、本当のウェディングドレス姿を見たいな」
「そ、そうですね!」
「どうしたの? いつもなら僕のことをからかってくるのに」
「……ウェディング姿の私を思い浮かんだなんて言われたら、嬉しくてキュンとして……からかうようなこと、できないですよ」
「……そっか」

 何だか顔を赤くして照れているのを見ると、再会して間もないときのことを思い出すなぁ。あのときはまだ微妙な距離感があって。でも、思い返せば……当時から僕にグイグイと来ていたような。

「いつかは本当に智也さんにウェディングドレス姿を見せますからね。私達のけ、結婚式のときに……」

 そう言うと、今の言葉の約束の証としてなのか、美来は僕にキスしてきた。ちょっとの間、唇を重ねただけだったけれど、美来の温かさや柔らかさが十分に伝わってくる。

「み、美来。こんなところで……」
「……ちょっと恥ずかしいですけど、大丈夫ですよ。だってここは恋人岬で、恋愛が成就するっていう恋の鐘をきちんと5回鳴らしたんですから」
「……そうかもね」

 5回鳴らしたから誤解されない……って言おうとしたけど、ダジャレだと思われるのが嫌なので言うのは止めておこう。

「……しばらくの間は海を眺めていましょうよ。気分を落ち着かせたいので」
「分かった。僕もこの景色をもう少し眺めていたいと思っていたんだ」

 この青くて綺麗な海を美来の隣でゆっくりと眺めたいから。海は入るのもいいけど、こうして見るのもいいものだ。スマートフォンとデジカメで写真を撮った。

「何だか、この旅行中で今が一番幸せかもしれません。もちろん、これまでも楽しいと思ったり、幸せだと思ったりしたことは何度もありましたけど」
「そっか。ここに来た甲斐があったね」
「素敵な思い出がまた一つできちゃいました。ただ、智也さんと一緒にいれば、これもたくさんある幸せなことの中の一つに過ぎないですが」
「僕は何も特別なことはしていないよ。ただ、僕も美来からたくさんの幸せをもらっているし。それに、幸せなんだと思える心を持っていることが、まず幸せなんじゃないのかな。美来とならそんな心を一緒に育めそうな気がする」
「智也さん……」
「……そうだ、さっき言ってくれたけど、絶対に僕と美来の結婚式で美来のウェディングドレス姿を見せてね。いつになるかは分からないけど、そんなに遠くないと思うよ」

 美来が16歳の高校1年生だから、結婚を前提にした恋人同士という関係だけど、もっと僕に近い年齢だったり、年上だったりしたら……もう結婚に向けて具体的に動き始めていたと思う。

「……そうですね。智也さんとの約束を絶対に果たしたいです。もちろん、ずっと一緒にいたいです」
「そうだね。まあ、美来なら大丈夫でしょ。僕のことを10年間もずっと想っていてくれたんだからさ。8年も僕のことを見ていたんだし……」
「……あ、あれは……深い愛が起こしたことですよ。良かったですよ、特に何事もなく智也さんと再会することができて」

 その代わり、再会してから色々なことがあったけど。これからは平和に過ごすことができればいいけど。

「これからは私が側にいますので大丈夫ですよ、智也さん」
「……それは僕の言葉でもあるよ、美来。僕が側にいるから大丈夫だよ」
「……はい」

 美来は笑顔を見せると、再び、僕にキスをしてきた。これはもしかしたら、もうちょっと海を眺める時間が長くなりそうだな。

「それにしても、綺麗な景色ですね」
「そうだね」
「智也さんと一緒にずっと観ていたい気分です」

 そう言うと、美来はぎゅっと僕の右手を掴んできた。ちょっと痛いくらいに。僕も彼女の左手を握り返す。
 ずっと一緒に観ていたいという美来の言葉通りになっているかのように、海を眺めていると時間がゆっくりと流れていくような感じがしたのであった。
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