アリア

桜庭かなめ

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特別編-ラブラブ!サンシャイン!!-

第30話『冷たくて、温かい。』

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 午後4時過ぎ。
 水着に着替えた美来と僕はプールサイドへと向かう。晴天で、まだまだ明るいこともあってプールには結構人がいるな。この時間帯だとホテルにチェックインした人達も遊んでいるのかな。

「昨日の海とは違って賑やかな感じがしますね」
「そうだね」

 昨日の海よりも人が多いのはもちろんのこと、時々、黄色い叫び声が聞こえるのが賑やかになっている一因かもしれない。

「あっ、あそこのサマーベッドが空いているね」
「確保しましょう」

 たくさんのサマーベッドが並んでいるけど、端の方のサマーベッド2つだけが空いている状況だった。美来は素早く動いて、その2つを無事に確保する。

「確保できましたー!」
「ありがとう」

 僕に手を振っちゃって可愛いな。やっぱり、僕の彼女である美来がここのプールにいる誰よりも一番可愛いな。今日も黒いビキニ姿がよく似合っている。
 僕は美来の確保してくれたサマーベッドに座る。今日はずっと運転をしていて、部屋に戻っても美来と色々していたので、久々にゆっくりと脚を伸ばせる。

「あぁ、いい気分だ」

 ビーチパラソルのおかげで眩しくないし。水着姿だから、穏やかに吹く風が涼しくて気持ちがいいなぁ。

「ふふっ、智也さんリラックスしていますね」
「昨日ほどじゃないけど、今日も運転をしていたからかな。気持ち良くて、段々と眠くなってきちゃったよ」
「そうですか。今日も運転お疲れ様でした。では、日焼け止めを塗るついでに軽くマッサージしましょうか」
「お言葉に甘えて。その後に美来にも日焼け止めを塗るね」
「はい、お願いします」

 僕は美来に日焼け止めを塗ってもらって、マッサージをしてもらう。昨日、来て早々部屋でマッサージをしてもらったときにも思ったけど、美来はマッサージがとても上手だな。

「どうですか? 智也さん」
「とても気持ちいいよ」

 力加減も絶妙だし……それに、大きくて柔らかいものも当たっているし。

「さっ、一通り日焼け止めを塗り終わりましたけど、もう少しやりますか?」
「疲れも大分取れたからこのくらいでいいよ。ありがとう。じゃあ、今度は僕が美来に日焼け止めを塗るよ。昨日と同じように、背中に塗ればいいかな」
「はい。お願いします」

 そう言うと、美来はサマーベッドの上にうつ伏せになり、ビキニの紐を解いた。

「じゃあ、塗るね」
「はい。……あっ」

 日焼け止めが冷たかったからか、美来はそんな声を上げた。周りに人がいるからか、美来は口元に手を当てる形で声を抑えている。

「今の感じで塗っていって大丈夫かな」
「はい。とても気持ちいいですよ」

 美来の背中に日焼け止めを塗っていく。昨日は海でたっぷりと遊んだけれど、日焼け止めのおかげで焼けずに白くて綺麗なままだ。
 背中が終わると、彼女の希望で足首も塗ることに。というか、ここは自分で塗ることができるような気が。

「このくらいでいいかな」
「あとは……ここですね」

 美来は両腕を上げる。あぁ……もしかして、

「腋も塗ってほしいの?」
「……はい」

 腋フェチの僕に気を遣っているのだろうか。
 そこも自分で塗ることができると思うし、むしろ他の人に塗ってもらったら恥ずかしそうな箇所だと思うんだけど。
 ただ、そんなことを考えている間も美来は両腕を上げており、このままの状態にするのも可哀想なので僕は美来の腋を優しく丁寧に塗っていく。今の僕のことを見ている人がいたら、大半が僕のことを変態だと思うだろうなぁ。

「はい、これで腋もOKだね」
「ありがとうございます、智也さん」
「さてと、日焼け止めも塗ったしどうする? そろそろプールに入る?」
「そうですね。いきなりウォータースライダーもきついですから、まずはプールの水に慣れましょうか」
「……そうだね」

 水に慣れるって、何だか子供やお年寄りっぽい響きだけど、美来の言うとおりだ。いきなりウォータースライダーはキツいから、まずは水に慣れておきたい。

「では、さっそく入りましょう」
「そうだね」

 美来に手を引かれてプールに連れて行かれるなんて。本当に僕がお年寄りになった気分だよ。
 僕は美来と一緒にプールに入る。プールに入るのは何年ぶりだろう。中学での授業以来……かな?

「冷たくて気持ちいいですね」
「そうだね」

 今日も暑いからプールが気持ちいいな。僕にとってはお腹の上、美来にとっては胸くらいの深さだ。
 広大な海に比べたら人口密度がさすがに高いけど、気を付けていないと誰かに当たってしまいそうなほどの混み具合ではない。ホテルのプールだから、このくらいの人の多さで済んでいるんだろうな。

「そーれ!」
「うわっ!」

 突然、美来に水を掛けられた。ちょっとビックリした。でも、海水ではないので目が痛くならないのがいいな。

「やったな。それっ!」
「きゃっ!」

 美来、とっても嬉しそうだな。あぁ、スマートフォンとかデジカメがあったら写真を撮りたいけど、今は持っていないからこの可愛らしい姿を心に刻んでおこう。

「冷たくて気持ちがいいですね」
「そうだね。こうして水に入っていると、夏休みの旅行に来ているんだなって思えるよ」

 旅先で海やプールに入るのも中学生以来だと思うから。当時は40日以上の夏休みがあっても短いと思ったのに、社会人になった今は10日くらい連続で休みがあるととても嬉しく思う。美来と一緒にいられるからかな。

「いつまでも美来とこうした時間が過ごせるといいんだけどなぁ……」

 強くそう思っているからなのか、つい言葉に出てしまった。

「……何でしょう。とても嬉しい気持ちもあるのですが、何だか智也さんに哀愁が漂っているように思えます。そろそろ陽が傾き始めるからでしょうか」
「……今はそういうことにしておいてくれるかな」

 もっと休みが欲しいなぁっていうのが本音だけど。引越しをして、旅行も行って……美来と一緒にここまで濃密な時間を過ごすと、休みが残り3日という事実が切なく感じてくる。
 ――ぎゅっ。
 僕がそんなことを考えていると、美来が僕のことを抱きしめてきた。

「智也さんはいつもお仕事を頑張っていますし、今日は運転を頑張ってくれました。本当にありがとうございます。この旅行も、お休みも……いつかは終わってしまいますが、だからこそ楽しい時間にしたいです」

 いつか終わるからか。
 確かに、終わりがあるからこそ今のような時間が映えるのかもしれないな。その時間を楽しく過ごしたいと思えてくる。

「……美来がいれば本当に楽しい時間になると思うよ。いや、既になっているかな」
「じゃあ、もっと楽しい時間にしましょうよ」
「……うん」
「それにしても、智也さんを抱きしめていると温かくていいですね。プールの水の冷たさもいいですけど、温かいと心地よくていいです」
「肌と肌が直接触れているからね」
「……ええ、それに何だかこうしていると……イチャイチャしているときみたい」

 美来に耳元でそう囁かれる。
 彼女の生温かい吐息がくすぐったくて、僕は全身の力が抜けてしまう。そのことで、美来を抱きしめたままプールに沈んでしまった。水の中って意外と冷たくて、ちょっと不思議な感覚に包まれる。

「ぷはっ!」
「と、智也さん……ごめんなさい。大丈夫でしたか?」
「それはこっちのセリフだよ。美来の方は大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。ビックリしましたけど。さっきの言葉……智也さんには刺激が強すぎましたか?」

 美来、ニヤニヤしているぞ。返答次第ではからかってやろうっていう気満々って感じに見える。

「凄くドキドキしたよ。まあ、冷たい水に身を包んだらシャキッとしたけれどね」
「そうですか」
「本当に、今日の美来はいつも以上にたくさんドキドキさせてくれるね。今夜はどれだけ可愛い美来の姿が見られるのかな」

 僕がそう言うと、美来は顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにする。こんなにも顔が赤くなるのは初めてなんじゃないだろうか。
 気分を変えたかったのか、美来はプールに全身を沈ませた。
 静かに水面から顔だけを出して、

「……こ、今夜は旅行最後の夜ですから、智也さんと一緒に楽しい時間にしたいなと思います」

 そう言って、可愛らしくはにかんだ。

「……そうだね。体調がおかしくならない程度に楽しい時間にしよう」

 今回の旅行の夜というのはもう今夜しかない。だから、美来と一緒に忘れられない時間にしたいな。

「ただ、その前に……ウォータースライダーで一緒に気持ち良くなりませんか? スリルがあって怖いかもしれませんが……」
「ああ、分かった。水には慣れたからね」

 ウォータースライダーの方を見てみると……あっ、今……チューブに乗った女性2人が黄色い声を上げながら滑り終えたな。2人で一緒に滑ることができるんだ。
 昔は割と絶叫系のアトラクションに行っていたけれど、ひさしぶりだからどうだろうな。まずは一度、美来と一緒にウォータースライダーをやってみることにしよう。
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