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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第19話『声楽部コンサート』
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声楽部のコンサートまで時間があるので、僕らはナース喫茶と妹喫茶に行くことにした。最初に行ったナース喫茶に岡村と浅野さんがいたので、それからは一緒に回った。
午後1時40分。
僕らは声楽部のコンサート会場である体育館へと向かう。その間に亜依ちゃん、玲奈ちゃん、日高さん、赤城さん、花園さんと合流した。赤城さんは花園さんと楽しそうに喋っているし、この調子なら上手くいくんじゃないだろうか。
まだ前のイベントが行なわれているのか、体育館の中からは笑い声が聞こえてくる。パンフレットで予定表を見てみると、今は落語研究会による上演か。だから、音楽じゃなくて笑い声が聞こえてくるんだ。面白いんだろうな。
入り口近くにいたスタッフの女子生徒さんが、静かに入れば中にいてもいいと言ってくれたので、そのお言葉に甘えて体育館の中に入ることに。
落語研究会が人気なのか、それともこの後の声楽部のコンサートも観る人が多いのか、体育館の中にある席はほぼ満席。こんなに人がいれば、笑い声が外まで聞こえてくるのも納得だな。
後ろの方に立ち見のスペースもあるそうなので、僕らはそこで落語を見ることに。
「ふふっ……」
さっそくツボにはまったのか、羽賀は右手を口に添えて笑っている。羽賀は大御所や流行りのお笑い芸人は知っている程度で、お笑いが好きだとは聞いたことがないけど、本当は好きなのかな。あと、そんな羽賀のことを明美ちゃんがうっとりとした表情をしながら見つめている。
「あははっ! おもしれえ!」
「岡村さん笑いすぎ。確かに面白いけど……あははっ!」
岡村と有紗さんは大爆笑だな。2人にとってはとても面白いのだろう。
「あたしには落語はまだ早いのかな、智也お兄ちゃん」
「そんなことはないと思うよ。ただ、この落語が2人にとって笑っちゃうほど面白いんじゃないかな。僕も面白いとは思うけど、笑うほどじゃないし」
「なるほどです。人それぞれなんですね」
「そうそう。それでいいんだよ」
人の数だけ感性が違うんだから、周りに合わせて笑う必要なんてないんだと思う。笑うほどに面白いと思ったら笑えばいいんだ。
終盤だったこともあってか、僕らが体育館に入ってから数分ほどで落語研究会の時間が終わった。
体育館の中が明るくなり、半分以上の人が出て行く。そのことで、真ん中で結構前の方の席が空いたので、僕らはそちらに向かい、運良く固まって座ることができた。ちなみに、僕の右隣が有紗さんで、左隣が亜依ちゃんだ。
「前の方の席に座れて良かったね、玲人君、亜依ちゃん」
「そうですね。ここからなら声楽部の子達がよく見えますね」
「美来ちゃんや乃愛ちゃんの歌う姿を早く見てみたいです」
もしかしたら、美来も歌いながら僕らのことを見つけることができるかもしれない。周りのお客さんのことを考えて、僕も帽子を取ったし。
振り返ると、生徒や来客も続々と入ってきて、席はもうほとんど埋まっていた。きっと、かなりの人気があるんだろうな。あとは、この体育館では最後のプログラムっていうのも大きいのかも。
そして、コンサートの開始時刻である午後2時。体育館が暗転する。その瞬間に体育館の中が静かになっていく。
程なくして、ステージのみが明るくなり、拍手が起こった。
ステージには天羽女子の制服姿の女子7人が一列に並んで立っている。以前、美来が声楽部は全員で7人と言っていたから、声楽部全員集合かな。
ちなみに、向かって左端に美来、隣に乃愛ちゃん、右端に花音ちゃんが立っていた。やっぱり、美来の金髪は目立つなぁ。あと、僕らに背を向けているけれど、指揮棒を持った女性が立っている。この前の声楽コンクールのときに美来達と一緒にいたので、きっとあの方が顧問の先生なのだろう。
拍手が鳴り止んでから少しして、指揮者の先生が指揮棒を振った。
最初に歌われたのは、僕らも中学の合唱コンクールで歌ったことのあるほどの有名な合唱曲だった。チラッと振り返ると、後ろの席に座る羽賀と岡村は「懐かしいな」と話していた。
当時の僕らよりももちろん上手だ。マイクとかも特に使っていないのに、7人の歌声がしっかりと体育館に響いている。
1曲目の合唱曲が終わると、花音ちゃんがスタッフの女子生徒からマイクを受け取り、
「こんにちはー! 声楽部でーす! みなさん、今年も天羽祭を楽しんでますかー?」
『いぇーい!』
「みなさんもいい声出してますね! 私達声楽部はこの天羽祭のコンサートのために、たくさん曲を用意して、たくさん練習してきたので、最後まで聴いていってください! あと、このコンサートがいいなと思ったら、是非、今日良かった部活として声楽部に投票していってくださいね。それでは、7人全員でもう1曲歌いたいと思います」
花音ちゃんのMCのおかげで、早くも体育館の中が盛り上がっている。
次に披露された曲も僕が中学時代に音楽の授業で歌ったり、合唱コンクールで聴いたりしたことのある曲だった。
曲が終わると、再び花音ちゃんがマイクを受け取る。部長だけあって、彼女が進行役なのかな。
「ありがとうございます。コンクールなどのことも考えて、うちの声楽部では一人で歌うことが多いのですが、こうやってみんなで歌うのもいいですね。では、ここで部員の自己紹介をしていきましょうか。うちは7人だけだから1人ずつやるからね。1年生は緊張しているかもしれないから、お手本も兼ねて3年生から順番にやりましょうね。あっ、私は部長の新藤花音です。クラスではチョコバナナを売っているので、明日でもいいので買ってくださいね~」
花音ちゃんの後に3年生、2年生と自己紹介をしていく。花音ちゃんに名前を呼ばれる度に歓声が上がったり、拍手が起こったり。あと、2年生までで5人自己紹介したから、1年生は美来と乃愛ちゃんの2人なんだ。
「はい、ありがとうございました。じゃあ、いよいよ今年入部した1年生ですね。まずは、体は小さくも心と声は大きな神山乃愛ちゃん!」
すると、乃愛ちゃんは隣にいる2年生の生徒さんからマイクを受け取り、客席に向かって大きく手を振る。
「初めまして、1年生の神山乃愛です! コンクール並みに緊張しますけど、美来や先輩方と一緒なので本当に楽しいです! あと、美来もそうですけど、クラスではメイド喫茶をやっているので、みんな遊びに来てくださいね! 精一杯におもてなししまーす!」
「写真を見せてもらったんですけど2人のメイドさん可愛かったなぁ。今日はバナナ売っていたから、明日は遊びに行くね。みなさんも1年2組のメイド喫茶に遊びに行ってください。神山乃愛ちゃんでした。そして、最後に紹介するのは、この夏に天羽女子高校に舞い降りた金髪の天使、朝比奈美来ちゃん!」
すると、今日一番と言っていいほどの歓声や拍手が巻き起こる。
美来は一度お辞儀をして、乃愛ちゃんからマイクを受け取って大きく手を振った。
「みなさん、こんにちは。乃愛ちゃんと同じ1年2組の朝比奈美来です。去年の天羽祭にも遊びに来ていて、この声楽部のコンサートを見ていました。ただ、他の高校に進学して、まあ……本当に色々なことがあって、6月の終わり頃に天羽女子に転入してきました。クラスでは乃愛ちゃんを含めてたくさん友達ができて、声楽部で楽しく歌うこともできて本当に嬉しいです。天羽女子の生徒として、天羽祭を楽しんでいます! 乃愛ちゃんも言っていましたけど、メイド喫茶にも遊びに来てくださいね、ご主人様、お嬢様」
そう言ってはにかむ美来。メイドさんの言葉をコンサートステージで言うのはさすがだと思う。
「ねえ、美来ちゃん。天羽女子の生徒はもう知っている人が多いけど、彼氏と一緒に住んでいるんだよね」
「そうです」
美来がそう答えると、女性達の黄色い声が響き渡る。変な反応をする人が多くなくて良かったよ。
「その彼氏さん、私も今日会ったけど素敵な人だよね。きっと、その方はこの体育館に来てくれていると思うけど、美来ちゃんは見つけた?」
「はい、来てます。1曲目が終わってすぐに見つけました。智也さーん!」
まさか、MCの中で僕の名前が出るなんて。自己紹介の流れになったとき、彼氏の話をするだろうとは思っていたけど。いやぁ、恥ずかしいな。
「ほらほら、智也君。手を振ってあげなよ」
「はい。美来ー!」
大きな声でそう言って、僕は美来に向かって大きく手を振った。もちろん、多くの人が僕の方を見てきたので、何度もお辞儀をした。
「彼氏さん、結構前の方で見てくれていますね。これも愛の力でしょうか。美来ちゃんは彼氏さんのどんなところが好き?」
「話すと長くなってしまいそうですね。ただ、一番好きなところは……笑顔が素敵で、優しくて、抱きしめるときとかに感じる温もりや匂いでしょうか」
「一番って言っておきながら3つ4つ言っているじゃない。それだけ好きだってことだね」
あははっ、と会場から笑いが。2人きりだったらドキドキできるけど、こんなにも周りに人がいると恥ずかしい。ただ、当の本人が楽しそうなのでいいか。
「そういえば、うちのクラスでは普通のチョコバナナだけじゃなくて、いちごのチョコバナナも売っていて、それを彼氏さんが買ってくれたんですよ! 美味しかったですか?」
「えっ、お、美味しかったです!」
花音ちゃんのクラスの宣伝に使われてしまった。そのことで再び笑いが。後ろから、ゲラゲラ笑っている岡村が何度も僕の肩を叩いてくる。
「いちごチョコバナナを彼から一口もらったですけどとても美味しかったです。話を戻しますが、今日も明日もコンサートでは楽しく歌いたいと思います。もちろん、天羽祭も楽しみたいです。よろしくお願いします!」
美来はそう言って深くお辞儀をした。途中で僕のことまで話題に上がるからどうなるかと思ったけど、上手く自己紹介を締めたな。
「はい、みなさん自己紹介ありがとうございました。あと、1年生の乃愛ちゃんと美来ちゃん、部長の私が、先月行なわれた声楽コンクールの予選を通過することができました。3人で今月の本選に挑みます。通過すれば12月の全国大会に進むことができます。みなさん、応援よろしくお願いします!」
「がんばれー!」
「応援してるよー!」
3年生であり、部長だけあって花音ちゃんは会場を盛り上げるのが上手だな。
その後は部員それぞれが独唱を披露。美来はもちろんのこと、乃愛ちゃんや花音ちゃん達もとても上手だった。
最後のJ-POPコーナーでは声楽部の生徒だけではなく、来場した人もみんなで歌って盛り上がった。
「今日のコンサートはこれで終わります! 明日も今日と同じように午後2時からコンサートを行ないますので、是非遊びに来てください! あと、今日の残りの天羽祭も楽しんでいってくださいね! 今日はありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
声楽部全員がお礼を言ってお辞儀をすると、今日一番の拍手が贈られた。もちろん、僕も精一杯の拍手を彼女達に贈った。
声楽部の生徒による上手な歌が聴くことができて、最後はみんなで盛り上がることができるので、声楽部のコンサートは人気があるのかなと思った。明日も絶対にコンサートを聴こうと思う。
あと、美来と会ったら彼女のことをぎゅっと抱きしめよう。
午後1時40分。
僕らは声楽部のコンサート会場である体育館へと向かう。その間に亜依ちゃん、玲奈ちゃん、日高さん、赤城さん、花園さんと合流した。赤城さんは花園さんと楽しそうに喋っているし、この調子なら上手くいくんじゃないだろうか。
まだ前のイベントが行なわれているのか、体育館の中からは笑い声が聞こえてくる。パンフレットで予定表を見てみると、今は落語研究会による上演か。だから、音楽じゃなくて笑い声が聞こえてくるんだ。面白いんだろうな。
入り口近くにいたスタッフの女子生徒さんが、静かに入れば中にいてもいいと言ってくれたので、そのお言葉に甘えて体育館の中に入ることに。
落語研究会が人気なのか、それともこの後の声楽部のコンサートも観る人が多いのか、体育館の中にある席はほぼ満席。こんなに人がいれば、笑い声が外まで聞こえてくるのも納得だな。
後ろの方に立ち見のスペースもあるそうなので、僕らはそこで落語を見ることに。
「ふふっ……」
さっそくツボにはまったのか、羽賀は右手を口に添えて笑っている。羽賀は大御所や流行りのお笑い芸人は知っている程度で、お笑いが好きだとは聞いたことがないけど、本当は好きなのかな。あと、そんな羽賀のことを明美ちゃんがうっとりとした表情をしながら見つめている。
「あははっ! おもしれえ!」
「岡村さん笑いすぎ。確かに面白いけど……あははっ!」
岡村と有紗さんは大爆笑だな。2人にとってはとても面白いのだろう。
「あたしには落語はまだ早いのかな、智也お兄ちゃん」
「そんなことはないと思うよ。ただ、この落語が2人にとって笑っちゃうほど面白いんじゃないかな。僕も面白いとは思うけど、笑うほどじゃないし」
「なるほどです。人それぞれなんですね」
「そうそう。それでいいんだよ」
人の数だけ感性が違うんだから、周りに合わせて笑う必要なんてないんだと思う。笑うほどに面白いと思ったら笑えばいいんだ。
終盤だったこともあってか、僕らが体育館に入ってから数分ほどで落語研究会の時間が終わった。
体育館の中が明るくなり、半分以上の人が出て行く。そのことで、真ん中で結構前の方の席が空いたので、僕らはそちらに向かい、運良く固まって座ることができた。ちなみに、僕の右隣が有紗さんで、左隣が亜依ちゃんだ。
「前の方の席に座れて良かったね、玲人君、亜依ちゃん」
「そうですね。ここからなら声楽部の子達がよく見えますね」
「美来ちゃんや乃愛ちゃんの歌う姿を早く見てみたいです」
もしかしたら、美来も歌いながら僕らのことを見つけることができるかもしれない。周りのお客さんのことを考えて、僕も帽子を取ったし。
振り返ると、生徒や来客も続々と入ってきて、席はもうほとんど埋まっていた。きっと、かなりの人気があるんだろうな。あとは、この体育館では最後のプログラムっていうのも大きいのかも。
そして、コンサートの開始時刻である午後2時。体育館が暗転する。その瞬間に体育館の中が静かになっていく。
程なくして、ステージのみが明るくなり、拍手が起こった。
ステージには天羽女子の制服姿の女子7人が一列に並んで立っている。以前、美来が声楽部は全員で7人と言っていたから、声楽部全員集合かな。
ちなみに、向かって左端に美来、隣に乃愛ちゃん、右端に花音ちゃんが立っていた。やっぱり、美来の金髪は目立つなぁ。あと、僕らに背を向けているけれど、指揮棒を持った女性が立っている。この前の声楽コンクールのときに美来達と一緒にいたので、きっとあの方が顧問の先生なのだろう。
拍手が鳴り止んでから少しして、指揮者の先生が指揮棒を振った。
最初に歌われたのは、僕らも中学の合唱コンクールで歌ったことのあるほどの有名な合唱曲だった。チラッと振り返ると、後ろの席に座る羽賀と岡村は「懐かしいな」と話していた。
当時の僕らよりももちろん上手だ。マイクとかも特に使っていないのに、7人の歌声がしっかりと体育館に響いている。
1曲目の合唱曲が終わると、花音ちゃんがスタッフの女子生徒からマイクを受け取り、
「こんにちはー! 声楽部でーす! みなさん、今年も天羽祭を楽しんでますかー?」
『いぇーい!』
「みなさんもいい声出してますね! 私達声楽部はこの天羽祭のコンサートのために、たくさん曲を用意して、たくさん練習してきたので、最後まで聴いていってください! あと、このコンサートがいいなと思ったら、是非、今日良かった部活として声楽部に投票していってくださいね。それでは、7人全員でもう1曲歌いたいと思います」
花音ちゃんのMCのおかげで、早くも体育館の中が盛り上がっている。
次に披露された曲も僕が中学時代に音楽の授業で歌ったり、合唱コンクールで聴いたりしたことのある曲だった。
曲が終わると、再び花音ちゃんがマイクを受け取る。部長だけあって、彼女が進行役なのかな。
「ありがとうございます。コンクールなどのことも考えて、うちの声楽部では一人で歌うことが多いのですが、こうやってみんなで歌うのもいいですね。では、ここで部員の自己紹介をしていきましょうか。うちは7人だけだから1人ずつやるからね。1年生は緊張しているかもしれないから、お手本も兼ねて3年生から順番にやりましょうね。あっ、私は部長の新藤花音です。クラスではチョコバナナを売っているので、明日でもいいので買ってくださいね~」
花音ちゃんの後に3年生、2年生と自己紹介をしていく。花音ちゃんに名前を呼ばれる度に歓声が上がったり、拍手が起こったり。あと、2年生までで5人自己紹介したから、1年生は美来と乃愛ちゃんの2人なんだ。
「はい、ありがとうございました。じゃあ、いよいよ今年入部した1年生ですね。まずは、体は小さくも心と声は大きな神山乃愛ちゃん!」
すると、乃愛ちゃんは隣にいる2年生の生徒さんからマイクを受け取り、客席に向かって大きく手を振る。
「初めまして、1年生の神山乃愛です! コンクール並みに緊張しますけど、美来や先輩方と一緒なので本当に楽しいです! あと、美来もそうですけど、クラスではメイド喫茶をやっているので、みんな遊びに来てくださいね! 精一杯におもてなししまーす!」
「写真を見せてもらったんですけど2人のメイドさん可愛かったなぁ。今日はバナナ売っていたから、明日は遊びに行くね。みなさんも1年2組のメイド喫茶に遊びに行ってください。神山乃愛ちゃんでした。そして、最後に紹介するのは、この夏に天羽女子高校に舞い降りた金髪の天使、朝比奈美来ちゃん!」
すると、今日一番と言っていいほどの歓声や拍手が巻き起こる。
美来は一度お辞儀をして、乃愛ちゃんからマイクを受け取って大きく手を振った。
「みなさん、こんにちは。乃愛ちゃんと同じ1年2組の朝比奈美来です。去年の天羽祭にも遊びに来ていて、この声楽部のコンサートを見ていました。ただ、他の高校に進学して、まあ……本当に色々なことがあって、6月の終わり頃に天羽女子に転入してきました。クラスでは乃愛ちゃんを含めてたくさん友達ができて、声楽部で楽しく歌うこともできて本当に嬉しいです。天羽女子の生徒として、天羽祭を楽しんでいます! 乃愛ちゃんも言っていましたけど、メイド喫茶にも遊びに来てくださいね、ご主人様、お嬢様」
そう言ってはにかむ美来。メイドさんの言葉をコンサートステージで言うのはさすがだと思う。
「ねえ、美来ちゃん。天羽女子の生徒はもう知っている人が多いけど、彼氏と一緒に住んでいるんだよね」
「そうです」
美来がそう答えると、女性達の黄色い声が響き渡る。変な反応をする人が多くなくて良かったよ。
「その彼氏さん、私も今日会ったけど素敵な人だよね。きっと、その方はこの体育館に来てくれていると思うけど、美来ちゃんは見つけた?」
「はい、来てます。1曲目が終わってすぐに見つけました。智也さーん!」
まさか、MCの中で僕の名前が出るなんて。自己紹介の流れになったとき、彼氏の話をするだろうとは思っていたけど。いやぁ、恥ずかしいな。
「ほらほら、智也君。手を振ってあげなよ」
「はい。美来ー!」
大きな声でそう言って、僕は美来に向かって大きく手を振った。もちろん、多くの人が僕の方を見てきたので、何度もお辞儀をした。
「彼氏さん、結構前の方で見てくれていますね。これも愛の力でしょうか。美来ちゃんは彼氏さんのどんなところが好き?」
「話すと長くなってしまいそうですね。ただ、一番好きなところは……笑顔が素敵で、優しくて、抱きしめるときとかに感じる温もりや匂いでしょうか」
「一番って言っておきながら3つ4つ言っているじゃない。それだけ好きだってことだね」
あははっ、と会場から笑いが。2人きりだったらドキドキできるけど、こんなにも周りに人がいると恥ずかしい。ただ、当の本人が楽しそうなのでいいか。
「そういえば、うちのクラスでは普通のチョコバナナだけじゃなくて、いちごのチョコバナナも売っていて、それを彼氏さんが買ってくれたんですよ! 美味しかったですか?」
「えっ、お、美味しかったです!」
花音ちゃんのクラスの宣伝に使われてしまった。そのことで再び笑いが。後ろから、ゲラゲラ笑っている岡村が何度も僕の肩を叩いてくる。
「いちごチョコバナナを彼から一口もらったですけどとても美味しかったです。話を戻しますが、今日も明日もコンサートでは楽しく歌いたいと思います。もちろん、天羽祭も楽しみたいです。よろしくお願いします!」
美来はそう言って深くお辞儀をした。途中で僕のことまで話題に上がるからどうなるかと思ったけど、上手く自己紹介を締めたな。
「はい、みなさん自己紹介ありがとうございました。あと、1年生の乃愛ちゃんと美来ちゃん、部長の私が、先月行なわれた声楽コンクールの予選を通過することができました。3人で今月の本選に挑みます。通過すれば12月の全国大会に進むことができます。みなさん、応援よろしくお願いします!」
「がんばれー!」
「応援してるよー!」
3年生であり、部長だけあって花音ちゃんは会場を盛り上げるのが上手だな。
その後は部員それぞれが独唱を披露。美来はもちろんのこと、乃愛ちゃんや花音ちゃん達もとても上手だった。
最後のJ-POPコーナーでは声楽部の生徒だけではなく、来場した人もみんなで歌って盛り上がった。
「今日のコンサートはこれで終わります! 明日も今日と同じように午後2時からコンサートを行ないますので、是非遊びに来てください! あと、今日の残りの天羽祭も楽しんでいってくださいね! 今日はありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
声楽部全員がお礼を言ってお辞儀をすると、今日一番の拍手が贈られた。もちろん、僕も精一杯の拍手を彼女達に贈った。
声楽部の生徒による上手な歌が聴くことができて、最後はみんなで盛り上がることができるので、声楽部のコンサートは人気があるのかなと思った。明日も絶対にコンサートを聴こうと思う。
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