あざとい妹、これ如何に。

桜庭かなめ

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エピローグ『一緒に寝よう?』

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 昨日は栞奈とお風呂に一緒に入ったので、今日も一緒に入るのかと思ったら……そんなことはなかった。
 昼間はずっと曇天だったこともあってか、陽が沈んだ後は更に寒くなり、お風呂がより気持ち良く思えた。昨日のように栞奈と一緒なのもいいけれど、1人でゆっくりとするのもいいよね。
 お風呂に入ったことで程良く眠気が襲ってきたので、歯を磨いて、部屋に戻るとベッドに直行した。明日は休みだし、たっぷりと眠るか。
 ――コンコン。
 そろそろ眠りに入ろうか、ってときにノック音が聞こえた。

「はーい」

 人がせっかく眠ろうとしていたのに、誰なんだよ。

「お兄ちゃん、一緒に寝よう?」

 扉を開けると、そこには枕を持った寝間着姿の栞奈が立っていた。まあ、こんなときにノックをしてくる奴は栞奈しかいないと思っていたけど、一緒に寝ようだなんて。断ってもどうせ自分の部屋に帰らないだろう。

「いいよ、入って」
「うん、ありがとう。お邪魔します」

 きっと、後は眠るだけだと思うので、部屋の照明ではなくベッドライトを点けることに。

「落ちるといけないから、先にベッドに入れ」
「ありがとう、お兄ちゃん。あっ、そうだ」
「うん?」

 栞奈は寝間着のズボンも半分だけ下ろし、トレーナーを胸のあたりまで上げる。

「お前、何をする気なんだ?」
「ただ、今の下着……今日、お兄ちゃんが選んでくれた下着だから見せたくて」
「……そうか」

 ベッドライトしか点けていなかったから、すぐには分からなかったけれど……よく見れば、栞奈が着けている下着は、学校の帰りに行ったランジェリーショップで選んだ水色の下着だった。

「似合ってるな。だから、さっさと着直しなさい。風邪引くから」
「はーい。それにしても、お兄ちゃん……私が下着見せようとしたとき、変なことを考えてなかった?」
「……突然、兄貴に下着を見せようとするお前から、そんなことを訊かれる筋合いはないと思うんだけど」

 というか、一緒に寝たいと部屋にやってきて、俺の部屋に入った途端にパジャマを脱ぎだしたら何をやるつもりなんだって普通は考えるだろう。

「床に落ちないためにも、ほら、先にベッドに入って」
「はーい」

 栞奈がベッドに入った後、俺もベッドに入る。

「さすがに、2人だとちょっと狭いね」
「まあ……ダブルベッドじゃないからな。高校生2人じゃさすがに……ね」
「しょうがないね」

 だからなのか、栞奈は俺の方を向いて腕や脚を絡ませてくる。
 小学生くらいの頃はたまに一緒に寝ていたけれど、当時はこのベッドでちょうど良かったのになぁ。

「あったかいね」
「……腕と脚を絡ませてるもんな、お前」

 むしろ、俺にとってはちょっと暑いくらいだけど……まあ、我慢できなくなったら、手や足をふとんから出せばいいか。

「お兄ちゃんの匂いだ。ふふっ」
「あまり変なこと言うなよ」

 それに、俺のベッドに俺と一緒に入っていたら、俺の匂いは嫌でも感じるだろ。

「……でも、安心する」
「そうかい」
 兄の匂いを感じて安心するというのも、年頃の女の子としてどうかと思う。俺にとっては……兄として嬉しいけど。

「今は金曜日の夜だね」
「……ああ」
「……いくら起きていても大丈夫なんだよね」
「明日と明後日は学校が休みだからなぁ」

 だからこそ、たっぷりと寝ようと思っていたのに……こいつのせいで眠気がなくなってしまったよ。

「じゃあ、お兄ちゃんとベッドの上で色々なことをしても大丈夫だってことだ」
「……寝ようぜ。寒い夜には布団の中に入って眠るに限るぞ」

 もう、栞奈のあざとい行動や言動には翻弄されないぞ。何かを企んでいるんだろうが、俺は何としてでも眠るからな。

「もう、お兄ちゃんったらノリが悪い」
「ノリが悪いって。兄としては当然の対応だと思うぞ。というか、ノリが良くて妹と色々とやっちゃったらどうするんだよ」
「……何をやっちゃうのかな?」

 そう言うと、栞奈は俺の腹の上に跨ぎ、笑みを浮かべながら俺のことを見下ろす。こいつ……昔よりも重くなったな。

「ねえねえ、答えてよ」
「……お前をくすぐって悶えさせる、とか」
「ふふっ、何なのそれ。てっきり、私で童貞を卒業するんだと思った」
「……だからさぁ、そういうことを言うんじゃない」

 まったく、俺のことを馬鹿にして。そういうことにムカッとするけれど、それでも目が離せない可愛らしい妹なのだ。

「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」
「お兄ちゃんはさ……これからもずっと私の側にいてくれる?」

 真剣な表情をして、栞奈はそう訊いてきた。
 まさか、最近になって昔のように栞奈が距離感を詰めてきたのは……今言った想いがあるからなのかな。

「……何をきっかけに、俺が栞奈から離れるかもしれないと思ったんだよ」
「えっ、いや、その……クラスメイトの女子の中にお兄ちゃんのことをいいなぁ、って言う子がいて。それを聞いたら、気持ちがざわついちゃって」
「……そ、そっか。ちなみに、その女の子はどんな感じの子なの?」
「なに? 興味あるの? お兄ちゃん、女子に興味なんてなさそうじゃん!」
「……俺も男だからなぁ」
「ううっ……」

 な、何だか泣きそうな感じだ。
 ただ、今の反応でさっきの栞奈の言葉の真意が分かった。俺のことをいいって言ってくれる女の子と俺が万が一付き合うことになったら、宿題教えたり、お風呂に入ったり、お昼ご飯食べたり、下着を選んでもらったりするのができなくなるから嫌なんだろうな。俺との時間がなくなるって。

「分かった分かった、だから泣くな。俺は栞奈の側にいるよ。色々と心配だからさ」
「な、何よそれ! 私のことを馬鹿にして……」
「……お前だって俺のことをたまにバカにしてるじゃないか。それでも、俺にとっては気にかけたい妹だよ、栞奈は」

 心配で仕方ないときもあるからな。栞奈のことを信じたい気持ちもあるけど、近くにいられるんだったら、側にいて栞奈を守りたい気持ちもある。

「……ありがとう、お兄ちゃん。大好き」

 そう言うと、程なくして頬に温かくて柔らかい感触が。

「……ふふっ」

 栞奈はとても嬉しそうな笑みを俺に見せてくれる。まったく、頬にキスなんて……兄として大好きな妹がすることなのかねぇ?
 そんなことを考えている間に、栞奈は再び俺の横で寝そべり、腕や脚を絡ませる。

「今日は何だかいい夢が見られそう。おやすみ、お兄ちゃん」
「……おやすみ、栞奈」

 栞奈はすぐに寝息を立て始める。昔から寝付きがいいからな、こいつ。

「あっ、お兄ちゃん。何か私にするんだったら起こしてよね」
「……何もしないよ」

 狸寝入りだったのか。栞奈、パッチリとした目で俺のことをじっと見ている。いつの間にこんな技を身につけたんだろう。

「じゃあ、今度こそおやすみ」
「……ああ」

 栞奈は目を閉じて再び寝息を立てる。
 まったく、こういうあざとい行動や言動を、家族以外にはあまりしないでほしいな。世の中、何が起こるか分からないから。
 それでも、何かあったときは兄としてできる限りことをしよう。どんなにあざとくても、俺にとってはたった一人の大切な可愛い妹だからな。



『あざとい妹、これ如何に。』 おわり
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