あなたを振った人とは正反対なあたしでも恋人にしてくれますか?

桜庭かなめ

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エピローグ『いつまでも』

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「先輩の家に行って、2人きりでゆっくり過ごしたいです」

 香奈からそんなお願いをされたので、俺達は公園を後にして俺の家に向かった。
 帰宅すると母さんがいるため、俺達が恋人として付き合い始めたことをさっそく報告する。すると、母さんは嬉しそうな反応を見せ、

「良かったわね! おめでとう! 仲良く付き合っていってね。あと、これで香奈ちゃんの目標にグッと近づいたわね」

 と言った。それを受け、香奈はとびきりの笑顔で「はいっ!」と返事をしていた。
 香奈の目標……ああ、母さんのことを『お義母様』と呼ぶことか。あのときは香奈の好意が凄く強いと思うくらいだったけど、恋人同士になった今だと現実的なことに思えてくる。香奈の夢を叶えさせてあげたいな。
 母さんへの報告が終わり、俺は香奈と一緒に自分の部屋に行く。

「どうぞ、香奈」
「お、お邪魔します」

 香奈は俺の部屋の中に入る。そんな香奈は可愛らしい笑顔を浮かべているが、ほんのり赤みを帯びていた。

「今までに何度か来たことがありますけど、恋人になってから来るのは初めてなのでちょっとドキドキします」
「……俺もドキドキしてる」

 2人きりの俺の部屋でどんな風に過ごすのだろうかと。香奈と恋人になったから、色々なことを想像してしまって。香奈が嫌がるようなことはしないように気をつけないと。あと、初めて連れてきたような新鮮な感覚もある。

「な、何か冷たいものを持ってくるよ。香奈は何が飲みたい?」
「ア、アイスコーヒーをお願いします」
「アイスコーヒーだな。分かった。香奈は適当な場所でくつろいでいてくれ」
「分かりました」

 スクールバッグを勉強机に置いて、俺は部屋を一旦出る。
 一階に降り、キッチンで香奈と自分の分のアイスコーヒーを淹れる。
 コーヒーのいいお供になりそうなお菓子を探しにリビングに行き、棚を確認。すると、チョコレートマシュマロが。これならコーヒーにも合うし、香奈も喜んでくれそうだ。マシュマロをラタン製のボウルに出した。
 コーヒーの入ったマグカップと、マシュマロの入ったボウルを乗せたトレーを持って部屋に戻る。すると、部屋の中では、香奈がベッドの側にあるクッションに座り、スマートフォンを弄っていた。

「ただいま、香奈。コーヒーとチョコマシュマロを持ってきたよ」
「おかえりなさい。彩実達に遥翔先輩と付き合い始めたって報告のメッセージを送っています。付き合い始めたら教えてって言われていて」
「そうなんだ。俺も瀬谷と栗林にメッセージを送ろうかな。実は終礼が終わったときに、香奈に告白の返事をするんだって伝えてさ。そのときに吉報をいつでも待っているって言われたから」
「そうだったんですね」
「あとは千晴にも送っておくか」
「いいですね! あたしも千晴ちゃんに送ろうっと」

 そう言う香奈の表情はとても楽しそうで。将来、義理の妹になる可能性が高いからな。
 ローテーブルにアイスコーヒーとチョコマシュマロを置く。そのとき、
 ――プルルッ。
 ブレザーのポケットに入れてあるスマートフォンが鳴る。トレーを勉強机に置き、さっそくスマホを確認すると……LIMEを通じて、星崎から1着の新着メッセージが届いたと通知が。通知をタップすると、

『香奈ちゃんから聞きました! 恋人同士になったんですね! おめでとうございます! そして、ありがとうございます!』

 星崎との個別トークにそんなメッセージが表示された。俺と香奈が付き合ったことを嬉しく思う気持ちがとてもよく伝わってくる。文末の『ありがとうございます』の一言から、香奈のことを本当に大切に想っていると分かる。気付けば頬が緩んでいた。

『ありがとう。香奈を大切にして、一緒に幸せになるよ』

 という返信を送った。星崎に「香奈が俺と付き合って良かった」と思ってもらえるようにしないと。

「星崎からおめでとうのメッセージが届いてた」
「先輩にも来たんですね!」

 香奈はとても嬉しそうな様子でそう言った。
 俺は瀬谷と栗林のグループトークと千晴との個別トークに、香奈と恋人として付き合い始めた旨のメッセージを送る。3人とも部活中だから、休憩のときにでも見てくれるだろう。
 ローテーブルに戻ると、香奈が自分の座っている隣のクッションをポンポンと叩く。

「ここに座ってくださいっ」
「ああ」

 俺は香奈ご指定のクッションに腰を下ろし、アイスコーヒーを一口飲む。

「うん、美味しくできてる」
「コーヒー入れるの上手ですよね。チョコマシュマロも甘くて美味しいです。コーヒーにも合いますし」
「喜んでくれて良かった」
「ふふっ。遥翔先輩、チョコマシュマロを食べさせてあげます」
「ありがとう。じゃあ、香奈にも」
「はいっ」

 俺と香奈はボウルからチョコマシュマロを一つずつ掴んで、相手の口元まで持っていく。

「遥翔先輩、あ~ん」
「香奈もあーん」
「あ~ん」

 俺は香奈とチョコマシュマロを食べさせ合う。昼休みに香奈から玉子焼きを食べさせてもらったときは緊張したのに、今はそれが一切なくて。
 このマシュマロは何度も食べたことがある。でも、香奈が食べさせてくれるからか、今が一番甘く感じられる。

「美味しいな」
「ええ。遥翔先輩に食べさせてもらったのでより美味しいです」
「俺もそう思った」
「嬉しいですっ」

 可愛らしい笑顔を見せながらそう言うと、香奈は俺にゆっくり寄り掛かってくる。互いに制服を着ているけど、香奈に触れている右腕からは温もりを感じられる。今まで、香奈と寄り添うことは何度もあったけど、恋人になったからかこうすることが結構嬉しく感じる。
 ――プルルッ。プルルッ。
 おっ、スマートフォンが鳴ったな。鳴り方や響きからして、俺のスマホも香奈のスマホも鳴っている可能性が高そうだ。
 俺達はローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取り、スマホを確認する。すると、千晴からLIMEを通じてメッセージが届いたと通知が。通知をタップする。

『おめでとう、お兄ちゃん! 香奈さんと仲良く付き合ってね!』

 千晴との個別トークにそんなメッセージが表示された。星崎からのメッセージも嬉しかったけど、千晴からおめでとうって言われるとより嬉しいな。

「千晴からおめでとうってメッセージが来てる」
「あたしにも千晴ちゃんからおめでとうのメッセージが来ました。嬉しいですね」

 えへへっ、と香奈はスマホの画面を見ながら笑っている。可愛い。
 きっと、千晴は部活の休憩に入って、俺達から送られた交際開始報告のメッセージを見たのだろう。千晴の嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ。
 千晴に「ありがとう」と返信を送る。今の香奈さん呼びもいいけど、「お姉ちゃん」って呼ぶ姿も見てみたいものだ。
 ――プルルッ。プルルッ。
 千晴に返信を送った直後、瀬谷と栗林とのグループトークにメッセージが送信されたという通知が表示される。彼らも報告メッセージを見たのかな?

『最高の吉報が届いたな! 空岡、おめでとう!』
『香奈ちゃんと仲良く付き合ってね!』

 グループトークを開くと、瀬谷と栗林のメッセージが表示される。2人の喜ぶ顔が目に浮かぶ。2人ともありがとうと返信を送った。

「瀬谷と栗林からもおめでとうって来たよ。嬉しいなぁ」
「良かったですね、先輩。あたしも、友達からたくさんおめでとうってメッセージが来てます。本当に嬉しいです」
「良かったな、香奈」
「はいっ!」

 元気よく返事をすると、俺のことを見つめながらニコッと笑ってくれる。香奈の笑顔は素敵だけど、個人的には今の明るい笑顔が一番いいな。

「あの、遥翔先輩。先輩と2人きりになって、みんなにおめでとうって言われたら……もっと先輩とくっつきたくなっちゃいました。先輩と抱きしめ合って、たくさんキスしたいです」
「……俺も」
「はいっ!」

 俺が両脚を広げると、香奈は俺と向かい合う形で脚の間に入ってきて、俺をぎゅっと抱きしめてくる。
 俺は両手を香奈の背中の方に回す。正面で向かい合っているから、公園のベンチで抱きしめ合ったときよりも密着度が高い。物理的には昨日のお見舞いのときと同じくらいかもしれない。ただ、付き合い始めたのもあり、今が一番、香奈とくっつくことができている気がする。その証拠に香奈から温もりがたくさん伝わってくる。
 至近距離で香奈と見つめ合うと、香奈はニッコリ笑って、

「大好き」

 と呟き、俺にキスしてくる。さっき、マシュマロを食べさせ合ったこともあり、温もりと唇の感触と共に、甘い匂いがはっきり伝わってくる。コーヒーの香りもして。あと、公園では俺からキスしていたので、香奈からキスされるのはこれが初めてだ。キスされるのもいいなぁ。
 少しの間キスした後、香奈から唇を離す。俺と目が合うと、香奈は真っ赤な顔に可愛らしい笑顔を浮かべる。

「自分からキスするのもいいですね」
「そうか。俺も……キスされるのもいいなって思うよ」
「ふふっ、そうですか。あと、コーヒーやマシュマロをいただいた後ですから、公園でのキスとは違って甘い香りとコーヒーの香りがしました」
「そうだね」
「……もっと香りを味わいたいです」

 甘い声でそう言うと、香奈は再び俺にキスしてくる。

「んっ……」

 香奈がそんな可愛らしい声を漏らした瞬間、俺の口の中に独特の感触のものが入り込んでくる。そのことにちょっと驚く。この状況からして、きっと香奈の舌だろう。
 香奈の舌が俺の舌に絡んできて。そのことで、さっきのキスよりもチョコマシュマロの甘味やコーヒーの苦味を段違いに強く感じられる。香奈も同じだろうか。
 唇を重ねているときよりも香奈とキスしている感じがして。そのことに興奮して、俺の方からも舌を絡ませる。その瞬間に香奈の体がピクッと震え、俺を抱きしめる力がより強くなった。そして、香奈の舌の絡ませ方が激しくなっていく。
 しばらくの間、舌を絡ませたキスをした後、香奈の方から唇を離した。
 香奈の顔はさっきのキスの後よりも赤くなっていて。はあっ、はあっ……と呼吸が乱れていたり、唇が湿ったりしているから、今までで一番といっていいほどに艶やかだ。俺と目が合い微笑むとその艶やかさがより一層増す。

「味わいたくて舌を絡ませちゃいました」
「ちょっと驚いたよ。でも、舌を絡ませるのっていいね」
「ですね。マシュマロとコーヒーの香りをより感じましたし。何よりも遥翔先輩とたっぷり触れられましたから。本当に良かったです。先輩からも絡ませてくれたのが気持ち良くて、あたしからもより絡ませちゃいました」
「ははっ。積極的になる香奈、可愛かったよ」

 俺がそう言うと、香奈は照れくさいのか「えへへっ」と声に出しながらはにかむ。その反応もまた可愛い。

「遥翔先輩と恋人になって、抱きしめ合って、キスできて。幸せです」
「俺も幸せだよ」
「……嬉しいです。キスする度に、遥翔先輩とずっと側にいたい気持ちがどんどん大きくなっていきます」
「そうだな。ずっと側にいて、一緒に幸せになろう」
「はいっ!」

 すぐ目の前から、香奈は満面の笑みを浮かべてそう返事をしてくれる。
 あの日、香奈が告白してくれたのが、今の俺に繋がる全ての始まりだった。香奈のおかげで俺は楽しい日々を過ごせている。それがこれからいつまでも続くように頑張ろう。そんな想いを胸に抱きつつ、今度は俺からキスをした。



『あなたを振った人とは正反対なあたしでも恋人にしてくれますか?』 おわり


□後書き□
これにて本作品は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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