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第26話『新しい学校生活様式』
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5月8日、金曜日。
今日も朝からよく晴れている。5月に入ってからずっと晴れているけど、日を追うごとに日差しが強くなっている気がする。今が初夏だと言われるのも納得な暑さだ。僕はワイシャツ1枚だけど、隣で歩く撫子はベストも着ている。暑そうにしていないので、撫子にとってはちょうどいいのかも。
「今日で学校が終わるなんて。得した気分だね、兄さん」
「そうだね。今年のゴールデンウィークは水曜日まで休みだったからね」
2日学校行って、2日休む。普段の半分以下の日数で週末の休みに突入するから、撫子の言う通り得した気分になる。
「今日を乗り越えて、また休みに入ろう。金曜日だから、撫子は部活があるんだよね」
「そうだよ。楽しみだな。兄さんは放課後にバイトがあるんだよね。頑張って」
「ありがとう」
撫子の今の一言で、今日の学校とバイトを頑張れそう。
武蔵栄高校に到着すると……今日は教室A棟前に人が集まっていない。今日は向日葵が告白されるイベントがなかったのか。それとも、既に行われた後なのか。向日葵なら後者もあり得そう。
撫子と別れ、僕は教室A棟の中に入る。
2年1組の下駄箱に行くけど、そこには向日葵の姿はない。靴入れは扉付きなので、向日葵が登校しているかどうかここでは判別できない。
上履きに履き替え、賑やかなエレベーターホールの横を歩き、人の声があまり聞こえてこない階段へ。
螺旋のような階段の構造もあって、自分の足音がやけに響く。僕は2年1組の教室がある4階へと向かう。
後方の扉から教室に入ると……窓側最後尾の席に向日葵が座っている。向日葵は福山さんと楽しそうに話している。一瞬、どうしてあそこに2人がいるのかと思ったけど、昨日の夜に席替えしたんだったな。
僕は新しい席……向日葵の右隣の席へ。
「向日葵、福山さん、おはよう」
机にスクールバッグを置き、向日葵と福山さんに挨拶をする。
向日葵は微笑み、福山さんはいつも通りのほがらかな笑みを浮かべ僕に小さく手を振りながら、こちらを見てくる。
「おはよう、桔梗」
「おはよう、加瀬君」
「おはよう。向日葵、新しい席に座ってみてどうだ?」
「教室が凄く広く感じる。4階だから窓から見える景色がいいね。あと、ここなら気楽に授業が聞けそう」
「きっと聞けるんじゃないかな」
僕もそうだったし。
僕の方は一つ右にズレただけで、一番後ろの席なのは変わらない。きっと、新しい席でも気楽に授業を聞けそうだ。そんなことを思いながら、僕は新しい自分の席に座った。
「桔梗はどうなの? そこの席に座ってみて」
「前の席からの風景が好きだったから、一つズレただけなのは良かったよ。後ろだから気楽だし」
「そう。それは良かったわね」
「ははっ、どうも。福山さんはどう? 真ん中あたりの席だよね」
「うん。ひまちゃんと離れるのは寂しいけど、前の方じゃないのが救いかな」
「そっか」
「席は離れるけど、お昼ご飯は一緒に食べようね、愛華」
「もちろんだよ、ひまちゃん」
福山さんは優しい笑みを浮かべて向日葵の頭を撫でる。すると、向日葵はとても嬉しそうな表情になる。もしかしたら、これからはすぐ近くで2人がお昼ご飯を食べることになるかもしれないな。
それから数分後に、担任の涼風先生が教室にやってきて朝礼が行われた。
そして、席替えをしてから初めての授業が始まる。
前と変わらず番後ろの席なので、気持ちを楽にして授業を受けられる。昨日はいいくじを引けて良かったと思う。
前の僕の席に座っている向日葵がどんな感じなのか気になり、何度かチラッと見ると……向日葵は落ち着いて授業を聞いているようだった。
授業間の10分休憩で向日葵に新しい席の感想を聞くと、後ろだから気が楽で、壁にちょっと寄り掛かるとリラックスできていいそうだ。前に座っていた席なので、何だか嬉しくなったのであった。
昼休み。
席替えしたし、岡嶋と津川さんに、お昼ご飯をどこで食べるか訊こうかな。そのために席を立ち上がった瞬間、2人がお昼ご飯を持って僕のところにやってきた。
「加瀬、一緒に昼飯食おうぜ」
「一緒に食べましょう、加瀬君」
「それはいいけど、僕のところで食べるのか? 2人とどこで食べようか相談しようと思っていたんだけど」
「今まで後ろの方にあった俺と加瀬の席で食べていたから、これからもそれがいいんじゃないかと思って。ちーも了承してくれた」
「それに、授業は前の方にある自分の席で受けるから、お昼くらいは後ろの席で食べたくて」
「そっか。2人がそう言うなら、僕はそれでいいよ。席を動かないのは楽だし」
次の席替えまでの間は、自分の席でお昼ご飯を食べることになるか。
「ひまちゃん、お昼ご飯一緒に食べよう」
福山さんがランチバッグを持って向日葵の席にやってきていた。
「うん! ここで食べるの?」
「うん。今までと違って窓側で食べてみたいなって。たまに景色を眺めたら、お昼ご飯も美味しくなりそうだし」
「なるほどね。じゃあ、ここで食べよっか」
「うんっ」
福山さんはランチバッグを向日葵の机に置く。向日葵の前の座席の椅子を向日葵の方に向け、ゆっくりと腰を下ろした。
今朝予想していたように、僕からかなり近いところで向日葵と福山さんがお昼ご飯を食べるんだな。
「ねえ、宝来さん、福山さん。あたし達3人も一緒に食べてもいいかな? 宝来さんと福山さんとお話ししてみたいし」
「いい考えじゃないか、ちー。俺はかまわないぜ」
「向日葵と福山さんさえ良ければ、僕もいいけど」
福山さんはいいよって言いそうだけど、向日葵はどう反応するか。以前に比べたら話すようにはなったし、映画の帰りに一緒にラーメンを食べたことはある。
「ひまちゃん、どうかな?」
柔らかな声色で向日葵に問いかける福山さん。穏やかな笑みを見せていることもあって、福山さんがとても大人の女性に見えてくる。
福山さんに問いかけられ、向日葵は少しの間無言。自分の机を見つめている。僕らと食べようかどうか考えているのだろう。
そして、15秒くらい経ったとき、向日葵は小さく頷いて僕らの方に顔を向ける。
「いいわよ。その……3人となら一緒に食べても。班で食べること以外で、学校で男子とはほとんど食べたことないけど。桔梗とは映画の帰りに一緒にお昼ご飯を食べたし、岡嶋君は津川さんの彼氏だから」
「じゃあ、ひまちゃんがOKを出したから、私も一緒に食べるね」
「2人ともありがとう!」
提案した津川さんは大喜び。
「じゃあ、加瀬君の机を宝来さんの机をくっつけようか」
「それがいいかな。隣同士になるけど、向日葵はそれでいいか?」
「ええ、別にいいわよ」
「ありがとう」
僕は自分の机を向日葵の机とくっつける。
椅子も動かして、向日葵の隣に座った。普段は通路を作るために開けているからか、向日葵と距離がかなり近く感じる。向日葵が左隣にいるからか、連休初日に映画館で向日葵と隣同士に座ったときのことを思い出す。向日葵と目が合うと、彼女はほんのりと頬を赤くし、向かい合っている福山さんを見た。
岡嶋と津川さんは近くにある椅子を借り、僕の机の近くに座る。向日葵と福山さんと話したいと言っていたので、津川さんは僕の正面。岡嶋は僕の右斜め前に座る。
弁当の入った包みと水筒を机に出す。包みを解いて、弁当箱の蓋を開ける。
「……おっ、今日も美味しそうだ」
「本当ね。桔梗のお弁当美味しそう」
「そうだね、ひまちゃん」
「お弁当って桔梗が作るの? それとも撫子ちゃん?」
「基本的には母親が作ってくれるよ。ただ、今日のおかずだと……このひじきの煮物は昨日の夜ご飯に僕が作ったものだね」
「へえ、そうなの。桔梗って料理ができるんだ」
「母親や撫子ほどじゃないけど、一応はあと、この玉子焼きは今朝、撫子が作ってくれたんだ。このハンバーグも、数日前の夕食と一緒にお弁当用にタネを作っていたのを見た」
「……物凄く嬉しそうに話すわね」
「だって、撫子が作ってくれたからね」
午前中の授業を頑張れた理由の一つは、撫子の作ったおかずがお弁当の中に入っているからだ。玉子焼きとハンバーグを食べれば、午後の授業と放課後のバイトも頑張れると思う。
「たまに、加瀬からおかずをもらうけど、撫子ちゃんの作ったおかずは全然くれないよな」
「これだけはダメなんだって言うよね。くれてもほんの一口。加瀬君らしいけど」
「2人とも、桔梗がシスコンだって知っているんだ」
「まあな。本人からシスコンだって言われたことはないけど」
自分からシスコンだって言う人はあんまりいないと思うよ。
「入学のときからの加瀬を見ていれば分かるよな、ちー」
「そうだね。加瀬君の家で、撫子ちゃんも一緒に定期試験の勉強したことあるし」
「ふふっ、やっぱり分かっているんだ」
「加瀬君と毎日お昼ご飯を食べているだけのことはあるね」
向日葵と福山さんは楽しそうに笑う。まさか、以前僕にキモいとも言っていたシスコンのことで、向日葵がこんなにもいい笑顔を見せてくれるとは。僕らを取り巻く空気も和んだ気がする。さすがは撫子だな。
向日葵と福山さんは机にお弁当箱を出す。バドミントン部に入っているからか、福山さんの方が箱が大きめ。それぞれ、お弁当箱の蓋を開ける。
「2人のお弁当も美味しそうだね。2人はお弁当って自分で作るの?」
「私は早起きできたら作るね。料理は好きだし。今日はお母さん」
「あたしは全て両親のどっちか。あたし、料理はあんまり得意じゃなくて……」
「へえ、そうなんだ」
何だか意外だな。向日葵が料理が得意じゃないとは。勉強も頑張って学年2位になるほどだから、それ以外のことも苦手な分野は普通にできるようにしているイメージがあった。福山さんの料理好きはイメージ通りだ。
――ぐううっ。
「全員の弁当を見たら、腹減ってきたぜ」
「そろそろお昼ご飯食べようか。じゃあ、一緒に食べようって言ったあたしが言うね。いただきます!」
『いただきます!』
そして、僕らは5人でお昼ご飯を食べ始める。
さっそく撫子の作った玉子焼きを食べると……甘くて美味しいなぁ。そんな僕が面白かいのか、みんなクスクスと笑っている。
連休が明けて日が浅いのもあり、連休中のことをメインに話しながら楽しくお昼ご飯を食べた。向日葵も僕との連休中の話をするときは恥ずかしそうにすることもあったけど、何度も笑顔を見せてくれた。
この5人でお昼ご飯を食べることは、僕らにとっての学校生活での新しい様式になったのであった。
今日も朝からよく晴れている。5月に入ってからずっと晴れているけど、日を追うごとに日差しが強くなっている気がする。今が初夏だと言われるのも納得な暑さだ。僕はワイシャツ1枚だけど、隣で歩く撫子はベストも着ている。暑そうにしていないので、撫子にとってはちょうどいいのかも。
「今日で学校が終わるなんて。得した気分だね、兄さん」
「そうだね。今年のゴールデンウィークは水曜日まで休みだったからね」
2日学校行って、2日休む。普段の半分以下の日数で週末の休みに突入するから、撫子の言う通り得した気分になる。
「今日を乗り越えて、また休みに入ろう。金曜日だから、撫子は部活があるんだよね」
「そうだよ。楽しみだな。兄さんは放課後にバイトがあるんだよね。頑張って」
「ありがとう」
撫子の今の一言で、今日の学校とバイトを頑張れそう。
武蔵栄高校に到着すると……今日は教室A棟前に人が集まっていない。今日は向日葵が告白されるイベントがなかったのか。それとも、既に行われた後なのか。向日葵なら後者もあり得そう。
撫子と別れ、僕は教室A棟の中に入る。
2年1組の下駄箱に行くけど、そこには向日葵の姿はない。靴入れは扉付きなので、向日葵が登校しているかどうかここでは判別できない。
上履きに履き替え、賑やかなエレベーターホールの横を歩き、人の声があまり聞こえてこない階段へ。
螺旋のような階段の構造もあって、自分の足音がやけに響く。僕は2年1組の教室がある4階へと向かう。
後方の扉から教室に入ると……窓側最後尾の席に向日葵が座っている。向日葵は福山さんと楽しそうに話している。一瞬、どうしてあそこに2人がいるのかと思ったけど、昨日の夜に席替えしたんだったな。
僕は新しい席……向日葵の右隣の席へ。
「向日葵、福山さん、おはよう」
机にスクールバッグを置き、向日葵と福山さんに挨拶をする。
向日葵は微笑み、福山さんはいつも通りのほがらかな笑みを浮かべ僕に小さく手を振りながら、こちらを見てくる。
「おはよう、桔梗」
「おはよう、加瀬君」
「おはよう。向日葵、新しい席に座ってみてどうだ?」
「教室が凄く広く感じる。4階だから窓から見える景色がいいね。あと、ここなら気楽に授業が聞けそう」
「きっと聞けるんじゃないかな」
僕もそうだったし。
僕の方は一つ右にズレただけで、一番後ろの席なのは変わらない。きっと、新しい席でも気楽に授業を聞けそうだ。そんなことを思いながら、僕は新しい自分の席に座った。
「桔梗はどうなの? そこの席に座ってみて」
「前の席からの風景が好きだったから、一つズレただけなのは良かったよ。後ろだから気楽だし」
「そう。それは良かったわね」
「ははっ、どうも。福山さんはどう? 真ん中あたりの席だよね」
「うん。ひまちゃんと離れるのは寂しいけど、前の方じゃないのが救いかな」
「そっか」
「席は離れるけど、お昼ご飯は一緒に食べようね、愛華」
「もちろんだよ、ひまちゃん」
福山さんは優しい笑みを浮かべて向日葵の頭を撫でる。すると、向日葵はとても嬉しそうな表情になる。もしかしたら、これからはすぐ近くで2人がお昼ご飯を食べることになるかもしれないな。
それから数分後に、担任の涼風先生が教室にやってきて朝礼が行われた。
そして、席替えをしてから初めての授業が始まる。
前と変わらず番後ろの席なので、気持ちを楽にして授業を受けられる。昨日はいいくじを引けて良かったと思う。
前の僕の席に座っている向日葵がどんな感じなのか気になり、何度かチラッと見ると……向日葵は落ち着いて授業を聞いているようだった。
授業間の10分休憩で向日葵に新しい席の感想を聞くと、後ろだから気が楽で、壁にちょっと寄り掛かるとリラックスできていいそうだ。前に座っていた席なので、何だか嬉しくなったのであった。
昼休み。
席替えしたし、岡嶋と津川さんに、お昼ご飯をどこで食べるか訊こうかな。そのために席を立ち上がった瞬間、2人がお昼ご飯を持って僕のところにやってきた。
「加瀬、一緒に昼飯食おうぜ」
「一緒に食べましょう、加瀬君」
「それはいいけど、僕のところで食べるのか? 2人とどこで食べようか相談しようと思っていたんだけど」
「今まで後ろの方にあった俺と加瀬の席で食べていたから、これからもそれがいいんじゃないかと思って。ちーも了承してくれた」
「それに、授業は前の方にある自分の席で受けるから、お昼くらいは後ろの席で食べたくて」
「そっか。2人がそう言うなら、僕はそれでいいよ。席を動かないのは楽だし」
次の席替えまでの間は、自分の席でお昼ご飯を食べることになるか。
「ひまちゃん、お昼ご飯一緒に食べよう」
福山さんがランチバッグを持って向日葵の席にやってきていた。
「うん! ここで食べるの?」
「うん。今までと違って窓側で食べてみたいなって。たまに景色を眺めたら、お昼ご飯も美味しくなりそうだし」
「なるほどね。じゃあ、ここで食べよっか」
「うんっ」
福山さんはランチバッグを向日葵の机に置く。向日葵の前の座席の椅子を向日葵の方に向け、ゆっくりと腰を下ろした。
今朝予想していたように、僕からかなり近いところで向日葵と福山さんがお昼ご飯を食べるんだな。
「ねえ、宝来さん、福山さん。あたし達3人も一緒に食べてもいいかな? 宝来さんと福山さんとお話ししてみたいし」
「いい考えじゃないか、ちー。俺はかまわないぜ」
「向日葵と福山さんさえ良ければ、僕もいいけど」
福山さんはいいよって言いそうだけど、向日葵はどう反応するか。以前に比べたら話すようにはなったし、映画の帰りに一緒にラーメンを食べたことはある。
「ひまちゃん、どうかな?」
柔らかな声色で向日葵に問いかける福山さん。穏やかな笑みを見せていることもあって、福山さんがとても大人の女性に見えてくる。
福山さんに問いかけられ、向日葵は少しの間無言。自分の机を見つめている。僕らと食べようかどうか考えているのだろう。
そして、15秒くらい経ったとき、向日葵は小さく頷いて僕らの方に顔を向ける。
「いいわよ。その……3人となら一緒に食べても。班で食べること以外で、学校で男子とはほとんど食べたことないけど。桔梗とは映画の帰りに一緒にお昼ご飯を食べたし、岡嶋君は津川さんの彼氏だから」
「じゃあ、ひまちゃんがOKを出したから、私も一緒に食べるね」
「2人ともありがとう!」
提案した津川さんは大喜び。
「じゃあ、加瀬君の机を宝来さんの机をくっつけようか」
「それがいいかな。隣同士になるけど、向日葵はそれでいいか?」
「ええ、別にいいわよ」
「ありがとう」
僕は自分の机を向日葵の机とくっつける。
椅子も動かして、向日葵の隣に座った。普段は通路を作るために開けているからか、向日葵と距離がかなり近く感じる。向日葵が左隣にいるからか、連休初日に映画館で向日葵と隣同士に座ったときのことを思い出す。向日葵と目が合うと、彼女はほんのりと頬を赤くし、向かい合っている福山さんを見た。
岡嶋と津川さんは近くにある椅子を借り、僕の机の近くに座る。向日葵と福山さんと話したいと言っていたので、津川さんは僕の正面。岡嶋は僕の右斜め前に座る。
弁当の入った包みと水筒を机に出す。包みを解いて、弁当箱の蓋を開ける。
「……おっ、今日も美味しそうだ」
「本当ね。桔梗のお弁当美味しそう」
「そうだね、ひまちゃん」
「お弁当って桔梗が作るの? それとも撫子ちゃん?」
「基本的には母親が作ってくれるよ。ただ、今日のおかずだと……このひじきの煮物は昨日の夜ご飯に僕が作ったものだね」
「へえ、そうなの。桔梗って料理ができるんだ」
「母親や撫子ほどじゃないけど、一応はあと、この玉子焼きは今朝、撫子が作ってくれたんだ。このハンバーグも、数日前の夕食と一緒にお弁当用にタネを作っていたのを見た」
「……物凄く嬉しそうに話すわね」
「だって、撫子が作ってくれたからね」
午前中の授業を頑張れた理由の一つは、撫子の作ったおかずがお弁当の中に入っているからだ。玉子焼きとハンバーグを食べれば、午後の授業と放課後のバイトも頑張れると思う。
「たまに、加瀬からおかずをもらうけど、撫子ちゃんの作ったおかずは全然くれないよな」
「これだけはダメなんだって言うよね。くれてもほんの一口。加瀬君らしいけど」
「2人とも、桔梗がシスコンだって知っているんだ」
「まあな。本人からシスコンだって言われたことはないけど」
自分からシスコンだって言う人はあんまりいないと思うよ。
「入学のときからの加瀬を見ていれば分かるよな、ちー」
「そうだね。加瀬君の家で、撫子ちゃんも一緒に定期試験の勉強したことあるし」
「ふふっ、やっぱり分かっているんだ」
「加瀬君と毎日お昼ご飯を食べているだけのことはあるね」
向日葵と福山さんは楽しそうに笑う。まさか、以前僕にキモいとも言っていたシスコンのことで、向日葵がこんなにもいい笑顔を見せてくれるとは。僕らを取り巻く空気も和んだ気がする。さすがは撫子だな。
向日葵と福山さんは机にお弁当箱を出す。バドミントン部に入っているからか、福山さんの方が箱が大きめ。それぞれ、お弁当箱の蓋を開ける。
「2人のお弁当も美味しそうだね。2人はお弁当って自分で作るの?」
「私は早起きできたら作るね。料理は好きだし。今日はお母さん」
「あたしは全て両親のどっちか。あたし、料理はあんまり得意じゃなくて……」
「へえ、そうなんだ」
何だか意外だな。向日葵が料理が得意じゃないとは。勉強も頑張って学年2位になるほどだから、それ以外のことも苦手な分野は普通にできるようにしているイメージがあった。福山さんの料理好きはイメージ通りだ。
――ぐううっ。
「全員の弁当を見たら、腹減ってきたぜ」
「そろそろお昼ご飯食べようか。じゃあ、一緒に食べようって言ったあたしが言うね。いただきます!」
『いただきます!』
そして、僕らは5人でお昼ご飯を食べ始める。
さっそく撫子の作った玉子焼きを食べると……甘くて美味しいなぁ。そんな僕が面白かいのか、みんなクスクスと笑っている。
連休が明けて日が浅いのもあり、連休中のことをメインに話しながら楽しくお昼ご飯を食べた。向日葵も僕との連休中の話をするときは恥ずかしそうにすることもあったけど、何度も笑顔を見せてくれた。
この5人でお昼ご飯を食べることは、僕らにとっての学校生活での新しい様式になったのであった。
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