管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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特別編

第4話『1人で来た理由』

 美優先輩はこの公園に1人で来たのか。先輩が悲しそうな表情を見せているので、何か嫌なことがあったのだと思われる。

「美優ちゃんはここに1人で来たんだね。ただ、美優ちゃんの顔を見ていると、何かあったのかなって思うんだけど。どうかな?」
「……うん」

 しっかりと頷く美優先輩。

「そっか。1人で考えるのもいいけど、誰かにお話してみるのもいいんじゃないかな。もちろん、俺は美優ちゃんを馬鹿にしたりしないから」
「……ほんと?」
「うん。約束するよ」

 俺は右手の小指を美優先輩に差し出す。
 美優先輩は右手の小指のみを立てて、俺の小指と引っかけ合う。先輩の小指、ちっちゃくて可愛いな。

「やくそくだよ。うそついたら、はりを……100まんぼんだっけ? のんでね!」
「わ、分かった。嘘ついたら、針を100万本飲むよ」

 俺の知っている指切りは、嘘ついたら針を1000本飲むだけで済むんだけどな。その1000倍の針を飲まなきゃいけないのか。これは大変だ。まあ、1000本でも大変だろうけど。
 そもそも、実際に針を100万本飲んだらどうなってしまうんだろう? 死ぬ可能性もありそうだ。

「じゃあ、美優ちゃん。何があったのかお兄ちゃんに教えてくれるかな?」
「……うん。ママのすきなマグカップをわったの。そのことをママにすごくしかられて。ママはあかりばかりかわいがるから、わたしはもういらないとおもって。それで、いえでしたの。そうしたら、ここにきてて」
「そうだったんだね」

 両眼に涙を浮かべている美優先輩の頭を優しく撫でる。
 マグカップを割り、麻子さんに叱られ、家出をしたのか。それは美優先輩が昨日の夜に話してくれた内容だった。このときの話だったんだな。

「ここにきたら、ゆづるおにいちゃんがねてて。わたし、おとこのこはにがてなの。でも、おにいちゃんはやさしそうだから、ここにすわったの」
「そうだったんだね」

 そういえば、あけぼの荘に引っ越してきたとき、美優先輩は男子と接するのは苦手な方だと言っていたな。この頃から苦手だったんだ。それでも、俺が優しそうだからという理由で、隣に座って起きるのを待っていたとは。あぁ、可愛すぎる。ニヤニヤしてしまいそうだけど、今は堪えないと。

「美優ちゃんはママのマグカップを割ったんだ。それって、ぶつかったりしたから? それとも、自分で落としたり、叩いたりして割ったの?」
「……じぶんでおとしたの」
「そっか……」

 わざとマグカップを割ったから、麻子さんは美優先輩を厳しく叱ったんだ。先輩にとってそれがとても辛かったのだろう。ただ、先輩が辛かったのは叱られたことだけではなさそうだ。

「ママは朱莉ちゃんばかり可愛がるんだ」
「うん。あかりっていうのは、きょねんうまれたいもうとなの」
「そうなんだね」

 朱莉あかりちゃんは中学1年生だから、12年前だとまだ赤ちゃんか。それだと、麻子さんも朱莉ちゃんのことばかり構ってしまうのは仕方ない。そんな麻子さんを見て、美優先輩が朱莉ちゃんに嫉妬するのも。

「朱莉ちゃんばかり構っているからイライラして、ママの好きなマグカップを割っちゃったのかな」
「……うん。それに、マグカップをわれば、ママがわたしをみてくれるかなって」
「……そうか。その気持ちは分かるよ。俺にも妹がいてさ。それまで自分をたくさん見てくれた母さんが、妹が産まれてからは、妹の方ばかり一緒にいるんだよな。それが嫌で寂しかったのを、美優ちゃんの話を聞いて思い出したよ」
「……わたしも、いやだし、さみしいよ」

 母親に対する本音を口にしたからか、美優先輩は両眼から大粒の涙をポロポロこぼす。俺はそんな先輩の目元をハンカチでそっと拭った。

「じゃあ、その気持ちをママに伝えてみよう。きっと、ママは美優ちゃんの言葉をきちんと受け止めてくれると思うよ」
「そうかな……」
「きっとね。ただ、そんな気持ちがあったとはいえ、ママのマグカップを割ったのはいけないことだよ。気に入っていたそうだから、よりショックなんじゃないかな。マグカップのことはちゃんと謝ろうね。美優ちゃんのママなら、寂しい気持ちを伝えて、マグカップを割ったことを謝ればきっと許してくれると思うよ」

 そう言うのも、ゴールデンウィークに美優先輩の実家から帰る際、麻子さんは美優先輩のことを優しそうに抱きしめていたから。あのときの麻子さんの様子を思い返すと、離れていても娘を想う優しさを感じるのだ。きっと、この時代の麻子さんも娘への愛情は深いんじゃないだろうか。

「ただ、朱莉ちゃんはまだ赤ちゃんだからね。美優ちゃんよりも体も強くなくて、自分でできることも少ないんだ。美優ちゃんのように、こうしてお話もできないだろうし」
「……うん」
「だから、朱莉ちゃんのことをたくさん気にかけないといけないんだ。だから、朱莉ちゃんが産まれる前と比べて、美優ちゃんを見ることが減ったんだと思う。それでも、ママは今も美優ちゃんを変わらずに大好きだと思うよ。それに、美優ちゃんが赤ちゃんの頃は、きっと今の朱莉ちゃんと同じように、ママやパパがたくさん見てくれていたんじゃないかな」
「……そうだといいな」

 健二さんと麻子さんなら、きっとそうだったに違いない。
 ちなみに、俺の赤ちゃんの頃は、両親以上に雫姉さんが一番可愛がっていたそうだ。そう考えると、雫姉さんって俺が産まれた頃から基本的な部分は全然変わっていないんだな。

「……わたし、ママにあやまりたい。あかりにもやさしくなれるかな」

 美優先輩は真剣な表情で俺のことを見つめながらそう言ってきた。どうやら、自分がやったことがどういうことだったのかが分かったようだ。あと、朱莉ちゃんに優しくなれるのかどうかまで言うところが先輩らしい。

「きっと、美優ちゃんならママに謝って、これからは朱莉ちゃんに優しくなれると思うよ」
「……うん!」

 今のように諫めるのが正解だったのだろうか思ったけど、美優先輩が納得してくれたようで一安心。
 美優先輩は元気よくベンチから降りるけど、すぐに俺の方に振り返り、悲しそうな様子で俺を見つめてきた。

「おうちにかえりたいけど……このこうえん、はじめてきたの。だから、おうちまでのみちがわからないよ……」

 ううっ、と美優先輩は再び泣き始める。きっと、お母さんに叱られたことばかり考えて、気付いたらこの公園まで来ちゃったんだろうな。
 美優先輩の実家の住所は知っているけど、ここで俺がそれを口にしたら色々まずいことになりそうだ。う~ん、こうなったら。

「美優ちゃん。実は俺、これから友達の家に行く約束をしているんだ。その友達の住所が……」

 美優先輩が自分の家の住所をしっかりと覚えていると信じ、俺は先輩の実家の住所に近い番地を言ってみる。
 すると、美優先輩はぱあっ、と明るい表情になる。

「わたしのいえのじゅうしょとすごくにてる!」
「おっ、凄く似ているんだ。じゃあ、きっと美優ちゃんのお家と結構近いんだろうね。じゃあ、友達の家に行くついでに、美優ちゃんのお家の前まで送ってあげるよ」
「うん、ありがとう!」

 笑顔でお礼を言ってくれるときの可愛らしさは現代と変わらないな。
 俺もここの土地勘は全くないので、スマホを使ってこの公園から美優先輩の実家までの道のりを検索してみるか。タイムスリップしたこの時代で俺のスマホって使えるのかな。時刻表示はこの時代のものになってはいるけど。
 スマホの画面を見ると……おっ、電波がつながっている。なので、ネットで実家までの道の検索することができた。スマホを使えて本当に良かったよ。

「……分かったよ。15分くらい歩けば、美優ちゃんのお家の近くに着きそうだね。じゃあ、さっそく行こうか」
「うんっ!」

 すっかりと元気な様子になった美優先輩は、俺の左手をしっかりと掴んでくる。現代の美優先輩よりも小さな手だけど、手から伝わる温もりは変わらない。
 美優先輩の歩幅に合わせて、俺達は先輩の実家に向かって歩き出した。
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