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特別編4
第7話『アルバム』
そうめんが7人分もなく、冷蔵庫に食材があまりないとのことなので、霧嶋先生と大宮先生は近所のスーパーに買い物へ行った。ジャージ姿の霧嶋先生と、ワンピース姿の大宮先生がスーパーで一緒にいる場面を周りの人が見たらどう思うのだろう。
「そういえば、美優先輩。近所のスーパーでやっているタイムセールって何時からでしたっけ? 午後からなのは覚えているんですけど」
「ちょっと待ってね。チラシを持ってきたから」
美優先輩はクッションから立ち上がり、霧嶋先生の仕事机に置いてある自分のバッグからチラシを取り出す。
「ええと、午後3時からだね」
「3時ですか。それなら、まだまだゆっくりできますね」
「そうだね。ここでの時間を楽しみすぎて、タイムセールを忘れないように気を付けないと」
「そうですね」
「ふふっ。今の美優さんと由弦さんの会話を聞いていると、本当に同棲しているんだって分かりますね。キュンとします」
「ラブラブすぎて暑く感じるときもありますけどね」
「瑠衣先輩の言うこと分かります。ただ、部活で使った水着を干すためにベランダに出ると、2人の笑い声がたまに聞こえてきて。それがいいなって思いますね」
二葉さんはうっとりと、花柳先輩はちょっと呆れ気味な、風花はいつも通り明るい、三者三様の笑顔を見せる。
夜は美優先輩と一緒にテレビやBlu-rayを観て、同じタイミングで笑うことは普通にあるからなぁ。隣の部屋のベランダにいたら聞こえてもおかしくないか。
美優先輩は頬を赤くし、もじもじとした様子に。
「……ねえ、風花ちゃん。訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何ですか?」
「ちょっとこっちに来て」
美優先輩は風花の手を引き、風花を部屋の端まで連れて行く。そして、何やら耳打ちしている。
何を質問されたのか、風花の頬がすぐに赤くなる。風花は微笑むと、質問の返事をするためか美優先輩に耳打ちをした。
「教えてくれてありがとう。ほっとした」
「いえいえ」
「ねえねえ、2人とも何を話したの?」
「ごめんね、瑠衣ちゃん。さすがに教えられないかな。……は、恥ずかしくて」
「そっかぁ」
はあっ、と小さくため息をつく花柳先輩。しかし、その直後に不適な笑みを浮かべ、風花のことを見る。
「風花ちゃん。美優に何を訊かれたのか教えなさい? 先輩命令だよ?」
「えっと、その……」
戸惑った様子を見せる風花。こういうときの「先輩」の力ってかなり強いだろうなぁ。それに、風花の入部している水泳部は運動系の部活だから、先輩後輩の上下関係がしっかりしていそうだし。
「瑠衣さん。今の行為は刑法第223条・強要の未遂にあたるかと。もし、何を訊かれたのかを風花さんに言わせたら強要罪の成立となります。ただ、未遂の時点で3年以下の懲役刑ですけどね」
「……えっ、そうなんですか?」
形勢逆転。花柳先輩の顔色が一気に青ざめる。懲役刑という言葉は強いよなぁ。そんな花柳先輩を見て、二葉さんは「ふふっ」と笑う。
それにしても、二葉さんは凄いな。花柳先輩のやったことが、どの法律に触れるのかすぐに言えるなんて。現役の法学部生だし、もう六法全書を暗記していそう。
「人には訊かれたくなかったり、教えたくなかったりすることがあるのです。美優さんが部屋の端で風花さんに耳打ちした意味を、今一度、考えてみてくださいね」
「……はい。ごめんなさい、風花ちゃん。美優」
「い、いえいえ」
「後輩を恐がらせちゃダメだよ、瑠衣ちゃん」
風花も美優先輩も微笑みながら花柳先輩にそう言った。美優先輩に至っては、花柳先輩の頭を優しく撫でている。
今の一連のやり取りで、法律が存在する意義の一つが分かった気がする。
あと、俺も2人に何の話だったのかは訊かないでおこう。それに、花柳先輩に訊かれたときの美優先輩の反応で、美優先輩が風花に何を訊いたのかおおよその見当がついているし。
「では、アルバムの続きを見ましょうか」
二葉さんはそう言うと、アルバムのページをめくる。そのページには大人の男性と女性と手を繋ぐ、幼き日の霧嶋先生が写っていた。この写真の霧嶋先生も笑顔だ。
「この一佳先生も可愛いですね! 先生と手を繋いでいる人って、御両親ですか?」
「そうですよ、風花さん」
やっぱり、御両親だったか。お父様の方はメガネをかけていることもあってか、とても真面目そうな印象を受ける。お母様の方は柔らかくて優しい雰囲気だ。ただ、2人ともしっかりしているように見える。
「御両親も教師なんですよね。私、前にここへ来たときに一佳先生から聞きました」
「ええ、そうです。両親はそれぞれの母校である高校で教鞭を執っていて。父は数学を、母は国語を教えています」
「そうなんですか。一佳先生はお母様と同じ国語教師なんですね」
「ええ。お姉ちゃんは両親が大好きで、尊敬もしていて。ジャンルを問わず小説や漫画、新書が好きなので、母と同じ国語を教える道を選んだんです」
そういえば、本人も御両親を尊敬していると言っていたな。お父様は完璧を良しとする人で、お母様はしっかりとしていて優しい人だと。
「両親は同い年で、大学で出会ったんです。入学直後にあった教職課程のガイダンスで隣同士の席に座って、意気投合したみたいです」
「一佳先生の御両親らしい感じがしますね。どんな方なんですか? あたしは美優達と違ってここに来るのは初めてなので、あまり知らなくて。やっぱり、先生のように真面目でクールな方なんですか? でも、二葉さんは柔らかい雰囲気ですし……」
「ふふっ、なかなか想像できないですか。娘から見ても両親はしっかりしていますね。父は真面目で完璧と言っていいほどにきっちりしてますね。母はとても柔らかくて、ユーモアもあって。両親とも優しくてしっかりしてます。あと、理系教科は父に、文系教科は母とお姉ちゃんに教えてもらいました」
「そうなんですか。御両親とお姉さんが教師なのは心強いですよね」
いいなぁ、と花柳先輩は呟いている。中間試験に向けた勉強会のときは、美優先輩やあけぼの荘に住んでいる2年生と3年生の住人にたくさん質問していたから。
その後もアルバムを見ていく。
どうやら、このアルバムは時系列になっているようで、ページをめくる度に霧嶋先生は成長していき、やがて、妹の二葉さんが登場した。霧嶋先生のアルバムだからだろうけど、先生と一緒に写っている写真がほとんどだ。
「うわあっ、小さい頃から二葉さん可愛いですね!」
「そう言われると照れてしまいますね、風花さん」
「風花ちゃんの言うとおりですよ。二葉さんと一緒に写る一佳先生も可愛いな。寄り添ったり、抱きしめたりするのも分かります。私にも妹が2人いますけど、とっても可愛くて」
「あたしも中学の妹がいますから、気持ちが分かりますね。生意気なところもありますから、たまに喧嘩しますけど。あたしと妹が小さいときは特に、兄が可愛がってくれました」
「あたしは一人っ子だからなぁ。でも、弟や妹がいれば、写真を撮るときには一佳先生のようにしていたのかな」
妹が2人いる美優先輩、兄と妹がいる風花、一人っ子の花柳先輩だと、霧嶋先生と二葉さんの写る写真を見たときの感想はそれぞれ違うんだな。
自分のアルバムを見られるのは恥ずかしいけど、他の人のアルバムを見るのは結構楽しいな。
「由弦さんはどうです? 由弦さんにはお姉さんだけでなく、妹さんがいるとお姉ちゃんから聞きましたが」
「はい、中学1年の妹がいますね。2人は静岡の実家に住んでいます。小さい頃は姉からも妹からもベッタリされてました。姉も妹も可愛いですから、霧嶋先生が二葉さんを抱きしめる気持ちも分かりますね」
「仲が良くて何よりです。今のように、女性ばかりの場所でも落ち着いているのは、美優さんと同棲しているだけでなく、姉妹がいるからなんですね」
「それぞれの友人と遊ぶのにも付き合わされましたし、今のような状況には慣れてます。もちろん、美優先輩と寄り添ったり、抱きしめ合ったりするとドキドキしますけど」
「ふふっ、嬉しい言葉だね」
そう言うと、美優先輩は嬉しそうな様子で俺の左腕をぎゅっと抱きしめてくる。そのことで甘い匂いがふんわりと香ってきて。あと、左腕に胸が当たってドキドキしてくるな。
「ただいま」
「ただいま~。無事に材料買えたわ。これから一佳ちゃんとお昼ご飯を作るね」
霧嶋先生と大宮先生が買い物から帰ってきた。
ワンピース姿の大宮先生は爽やかな笑顔を浮かべているけど、長袖に長ズボンのジャージ姿の霧嶋先生は暑そうだ。そんな2人はこちらには来ずに、キッチンの方へと入る。料理部顧問の大宮先生が一緒だから大丈夫かな。
ページをめくっていく度に霧嶋姉妹が成長していくなぁ。
あと、アルバムという形で、短時間で見ているから気付いたことだけど、霧嶋先生って二葉さんが産まれたのを機に、凜々しい雰囲気が身につくようになったんだな。
「あっ、一佳先生のセーラー服姿かわいい!」
「可愛いわよね、風花ちゃん。中学に入学した頃から、背が結構高かったんですね」
「成長期が早くて、背は小学生の間にかなり伸びたわ。中学に入学した頃は165cmくらいあったと思う」
「今の私よりも大きいですね。スラッとしていて羨ましい……」
美優先輩は目を輝かせながら、紺色のセーラー服姿の霧嶋先生を見ている。
霧嶋先生は女性として高身長だけど、それは中学の頃からだったんだな。二葉さんも霧嶋先生よりも少し低い程度だから、高身長な血筋なのかな。
「背の伸びる勢いが凄いから、将来は2mを越すんじゃないかって当時は不安だったわ。ただ、実際には中学生になった途端、背が伸びなくなって、最終的には今の170cmに収まったわ」
「あたしは逆に中学生になってから、背は一気に伸びましたね」
高身長なのは同じだけど、姉妹で背の伸びる時期は違うようだ。
「おっ、制服が変わりましたね。今度は黒いブレザーです」
「それは高校の制服ね、姫宮さん。ちなみに、二葉も同じ高校に通ったわ」
「そうなんですね!」
「高校生になると、今の一佳先生と結構雰囲気が近くなりますね。背も高くてスタイルもいいから羨ましい……」
今度は花柳先輩が目を輝かせて、高校時代の制服姿の霧嶋先生を見ている。花柳先輩が羨ましがるのも納得……かな?
キッチンの方を見ると、霧嶋先生は得意げな笑みを浮かべながら調理に取りかかっていた。アルバムを見始めたときは恥ずかしそうにしていたけど。
その後、大学時代となり、大学の卒業式の写真も貼られている。赤い着物姿の霧嶋先生はとても美しかった。
いよいよ、陽出学院の教師時代の写真だと思いながら、俺がページをめくった瞬間、
「……私達が写っている写真ばかりだね」
「そうですね」
ゴールデンウィークに俺達と旅行に行ったときの写真や、サブロウとの写真、芽衣ちゃんとのツーショット写真など、今年度になってから撮られた写真ばかり。そして、最後に貼ってあったのは、
「一佳先生。昨日、由弦のスマホで自撮りした7人での写真を、さっそくプリントアウトしてアルバムに貼ったんですね」
ニヤニヤしながら問いかける風花。
すると、霧嶋先生は頬を赤くする。
「す、素敵な写真だったから。昨日の仕事帰りにプリントアウトしたの」
「一佳先生かわいい~!」
「は、花柳さんまでニヤニヤしないで!」
もう! と霧嶋先生は不機嫌な様子に。先生の頬の赤みが見る見るうちに顔全体へと広がっていった。
風花や花柳先輩のようにニヤニヤはしないけど、昨日自撮りした写真をさっそくアルバムに貼る霧嶋先生が可愛くて。そんな先生を見ていたから、気付けば頬が緩んでいた。美優先輩もとても柔らかい笑みを浮かべていて。大宮先生や二葉さんも同じだ。
「お姉ちゃんは、陽出学院でとても素敵な生徒さんや先生と出会ったんですね。それは旅行のお土産を持ってきてくれたときに分かっていましたが。ただ、今日……こうして会って、みなさんとお話しできて良かったです。今日のように迷惑を掛けてしまうこともあると思いますが、これからもお姉ちゃんのことを宜しくお願いします」
二葉さんはそう言って、俺達に深く頭を下げる。
霧嶋姉妹の5人は互いに視線を送り合い、頷き合う。そして、大宮先生が霧嶋先生の肩を抱いて、
「いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」
優しい口調でそう言った。その直後に朗らかな笑顔になる霧嶋先生が印象的だった。
それから程なくして、お昼ご飯のそうめんが完成し、7人でいただくことに。冷たくてさっぱりとしていて美味しい。大宮先生が作った甘めの錦糸卵も美味しいなぁ。
そうめんを食べるのは去年の夏休み以来なのもあり、今年も夏が来たのだと実感するのであった。
「そういえば、美優先輩。近所のスーパーでやっているタイムセールって何時からでしたっけ? 午後からなのは覚えているんですけど」
「ちょっと待ってね。チラシを持ってきたから」
美優先輩はクッションから立ち上がり、霧嶋先生の仕事机に置いてある自分のバッグからチラシを取り出す。
「ええと、午後3時からだね」
「3時ですか。それなら、まだまだゆっくりできますね」
「そうだね。ここでの時間を楽しみすぎて、タイムセールを忘れないように気を付けないと」
「そうですね」
「ふふっ。今の美優さんと由弦さんの会話を聞いていると、本当に同棲しているんだって分かりますね。キュンとします」
「ラブラブすぎて暑く感じるときもありますけどね」
「瑠衣先輩の言うこと分かります。ただ、部活で使った水着を干すためにベランダに出ると、2人の笑い声がたまに聞こえてきて。それがいいなって思いますね」
二葉さんはうっとりと、花柳先輩はちょっと呆れ気味な、風花はいつも通り明るい、三者三様の笑顔を見せる。
夜は美優先輩と一緒にテレビやBlu-rayを観て、同じタイミングで笑うことは普通にあるからなぁ。隣の部屋のベランダにいたら聞こえてもおかしくないか。
美優先輩は頬を赤くし、もじもじとした様子に。
「……ねえ、風花ちゃん。訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何ですか?」
「ちょっとこっちに来て」
美優先輩は風花の手を引き、風花を部屋の端まで連れて行く。そして、何やら耳打ちしている。
何を質問されたのか、風花の頬がすぐに赤くなる。風花は微笑むと、質問の返事をするためか美優先輩に耳打ちをした。
「教えてくれてありがとう。ほっとした」
「いえいえ」
「ねえねえ、2人とも何を話したの?」
「ごめんね、瑠衣ちゃん。さすがに教えられないかな。……は、恥ずかしくて」
「そっかぁ」
はあっ、と小さくため息をつく花柳先輩。しかし、その直後に不適な笑みを浮かべ、風花のことを見る。
「風花ちゃん。美優に何を訊かれたのか教えなさい? 先輩命令だよ?」
「えっと、その……」
戸惑った様子を見せる風花。こういうときの「先輩」の力ってかなり強いだろうなぁ。それに、風花の入部している水泳部は運動系の部活だから、先輩後輩の上下関係がしっかりしていそうだし。
「瑠衣さん。今の行為は刑法第223条・強要の未遂にあたるかと。もし、何を訊かれたのかを風花さんに言わせたら強要罪の成立となります。ただ、未遂の時点で3年以下の懲役刑ですけどね」
「……えっ、そうなんですか?」
形勢逆転。花柳先輩の顔色が一気に青ざめる。懲役刑という言葉は強いよなぁ。そんな花柳先輩を見て、二葉さんは「ふふっ」と笑う。
それにしても、二葉さんは凄いな。花柳先輩のやったことが、どの法律に触れるのかすぐに言えるなんて。現役の法学部生だし、もう六法全書を暗記していそう。
「人には訊かれたくなかったり、教えたくなかったりすることがあるのです。美優さんが部屋の端で風花さんに耳打ちした意味を、今一度、考えてみてくださいね」
「……はい。ごめんなさい、風花ちゃん。美優」
「い、いえいえ」
「後輩を恐がらせちゃダメだよ、瑠衣ちゃん」
風花も美優先輩も微笑みながら花柳先輩にそう言った。美優先輩に至っては、花柳先輩の頭を優しく撫でている。
今の一連のやり取りで、法律が存在する意義の一つが分かった気がする。
あと、俺も2人に何の話だったのかは訊かないでおこう。それに、花柳先輩に訊かれたときの美優先輩の反応で、美優先輩が風花に何を訊いたのかおおよその見当がついているし。
「では、アルバムの続きを見ましょうか」
二葉さんはそう言うと、アルバムのページをめくる。そのページには大人の男性と女性と手を繋ぐ、幼き日の霧嶋先生が写っていた。この写真の霧嶋先生も笑顔だ。
「この一佳先生も可愛いですね! 先生と手を繋いでいる人って、御両親ですか?」
「そうですよ、風花さん」
やっぱり、御両親だったか。お父様の方はメガネをかけていることもあってか、とても真面目そうな印象を受ける。お母様の方は柔らかくて優しい雰囲気だ。ただ、2人ともしっかりしているように見える。
「御両親も教師なんですよね。私、前にここへ来たときに一佳先生から聞きました」
「ええ、そうです。両親はそれぞれの母校である高校で教鞭を執っていて。父は数学を、母は国語を教えています」
「そうなんですか。一佳先生はお母様と同じ国語教師なんですね」
「ええ。お姉ちゃんは両親が大好きで、尊敬もしていて。ジャンルを問わず小説や漫画、新書が好きなので、母と同じ国語を教える道を選んだんです」
そういえば、本人も御両親を尊敬していると言っていたな。お父様は完璧を良しとする人で、お母様はしっかりとしていて優しい人だと。
「両親は同い年で、大学で出会ったんです。入学直後にあった教職課程のガイダンスで隣同士の席に座って、意気投合したみたいです」
「一佳先生の御両親らしい感じがしますね。どんな方なんですか? あたしは美優達と違ってここに来るのは初めてなので、あまり知らなくて。やっぱり、先生のように真面目でクールな方なんですか? でも、二葉さんは柔らかい雰囲気ですし……」
「ふふっ、なかなか想像できないですか。娘から見ても両親はしっかりしていますね。父は真面目で完璧と言っていいほどにきっちりしてますね。母はとても柔らかくて、ユーモアもあって。両親とも優しくてしっかりしてます。あと、理系教科は父に、文系教科は母とお姉ちゃんに教えてもらいました」
「そうなんですか。御両親とお姉さんが教師なのは心強いですよね」
いいなぁ、と花柳先輩は呟いている。中間試験に向けた勉強会のときは、美優先輩やあけぼの荘に住んでいる2年生と3年生の住人にたくさん質問していたから。
その後もアルバムを見ていく。
どうやら、このアルバムは時系列になっているようで、ページをめくる度に霧嶋先生は成長していき、やがて、妹の二葉さんが登場した。霧嶋先生のアルバムだからだろうけど、先生と一緒に写っている写真がほとんどだ。
「うわあっ、小さい頃から二葉さん可愛いですね!」
「そう言われると照れてしまいますね、風花さん」
「風花ちゃんの言うとおりですよ。二葉さんと一緒に写る一佳先生も可愛いな。寄り添ったり、抱きしめたりするのも分かります。私にも妹が2人いますけど、とっても可愛くて」
「あたしも中学の妹がいますから、気持ちが分かりますね。生意気なところもありますから、たまに喧嘩しますけど。あたしと妹が小さいときは特に、兄が可愛がってくれました」
「あたしは一人っ子だからなぁ。でも、弟や妹がいれば、写真を撮るときには一佳先生のようにしていたのかな」
妹が2人いる美優先輩、兄と妹がいる風花、一人っ子の花柳先輩だと、霧嶋先生と二葉さんの写る写真を見たときの感想はそれぞれ違うんだな。
自分のアルバムを見られるのは恥ずかしいけど、他の人のアルバムを見るのは結構楽しいな。
「由弦さんはどうです? 由弦さんにはお姉さんだけでなく、妹さんがいるとお姉ちゃんから聞きましたが」
「はい、中学1年の妹がいますね。2人は静岡の実家に住んでいます。小さい頃は姉からも妹からもベッタリされてました。姉も妹も可愛いですから、霧嶋先生が二葉さんを抱きしめる気持ちも分かりますね」
「仲が良くて何よりです。今のように、女性ばかりの場所でも落ち着いているのは、美優さんと同棲しているだけでなく、姉妹がいるからなんですね」
「それぞれの友人と遊ぶのにも付き合わされましたし、今のような状況には慣れてます。もちろん、美優先輩と寄り添ったり、抱きしめ合ったりするとドキドキしますけど」
「ふふっ、嬉しい言葉だね」
そう言うと、美優先輩は嬉しそうな様子で俺の左腕をぎゅっと抱きしめてくる。そのことで甘い匂いがふんわりと香ってきて。あと、左腕に胸が当たってドキドキしてくるな。
「ただいま」
「ただいま~。無事に材料買えたわ。これから一佳ちゃんとお昼ご飯を作るね」
霧嶋先生と大宮先生が買い物から帰ってきた。
ワンピース姿の大宮先生は爽やかな笑顔を浮かべているけど、長袖に長ズボンのジャージ姿の霧嶋先生は暑そうだ。そんな2人はこちらには来ずに、キッチンの方へと入る。料理部顧問の大宮先生が一緒だから大丈夫かな。
ページをめくっていく度に霧嶋姉妹が成長していくなぁ。
あと、アルバムという形で、短時間で見ているから気付いたことだけど、霧嶋先生って二葉さんが産まれたのを機に、凜々しい雰囲気が身につくようになったんだな。
「あっ、一佳先生のセーラー服姿かわいい!」
「可愛いわよね、風花ちゃん。中学に入学した頃から、背が結構高かったんですね」
「成長期が早くて、背は小学生の間にかなり伸びたわ。中学に入学した頃は165cmくらいあったと思う」
「今の私よりも大きいですね。スラッとしていて羨ましい……」
美優先輩は目を輝かせながら、紺色のセーラー服姿の霧嶋先生を見ている。
霧嶋先生は女性として高身長だけど、それは中学の頃からだったんだな。二葉さんも霧嶋先生よりも少し低い程度だから、高身長な血筋なのかな。
「背の伸びる勢いが凄いから、将来は2mを越すんじゃないかって当時は不安だったわ。ただ、実際には中学生になった途端、背が伸びなくなって、最終的には今の170cmに収まったわ」
「あたしは逆に中学生になってから、背は一気に伸びましたね」
高身長なのは同じだけど、姉妹で背の伸びる時期は違うようだ。
「おっ、制服が変わりましたね。今度は黒いブレザーです」
「それは高校の制服ね、姫宮さん。ちなみに、二葉も同じ高校に通ったわ」
「そうなんですね!」
「高校生になると、今の一佳先生と結構雰囲気が近くなりますね。背も高くてスタイルもいいから羨ましい……」
今度は花柳先輩が目を輝かせて、高校時代の制服姿の霧嶋先生を見ている。花柳先輩が羨ましがるのも納得……かな?
キッチンの方を見ると、霧嶋先生は得意げな笑みを浮かべながら調理に取りかかっていた。アルバムを見始めたときは恥ずかしそうにしていたけど。
その後、大学時代となり、大学の卒業式の写真も貼られている。赤い着物姿の霧嶋先生はとても美しかった。
いよいよ、陽出学院の教師時代の写真だと思いながら、俺がページをめくった瞬間、
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「そうですね」
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「一佳先生。昨日、由弦のスマホで自撮りした7人での写真を、さっそくプリントアウトしてアルバムに貼ったんですね」
ニヤニヤしながら問いかける風花。
すると、霧嶋先生は頬を赤くする。
「す、素敵な写真だったから。昨日の仕事帰りにプリントアウトしたの」
「一佳先生かわいい~!」
「は、花柳さんまでニヤニヤしないで!」
もう! と霧嶋先生は不機嫌な様子に。先生の頬の赤みが見る見るうちに顔全体へと広がっていった。
風花や花柳先輩のようにニヤニヤはしないけど、昨日自撮りした写真をさっそくアルバムに貼る霧嶋先生が可愛くて。そんな先生を見ていたから、気付けば頬が緩んでいた。美優先輩もとても柔らかい笑みを浮かべていて。大宮先生や二葉さんも同じだ。
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霧嶋姉妹の5人は互いに視線を送り合い、頷き合う。そして、大宮先生が霧嶋先生の肩を抱いて、
「いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」
優しい口調でそう言った。その直後に朗らかな笑顔になる霧嶋先生が印象的だった。
それから程なくして、お昼ご飯のそうめんが完成し、7人でいただくことに。冷たくてさっぱりとしていて美味しい。大宮先生が作った甘めの錦糸卵も美味しいなぁ。
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田中又雄
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18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。