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特別編6
プロローグ『三者面談の日』
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特別編6
6月13日、木曜日。
梅雨入りしてから1週間ほどが経った。
梅雨入りした直後は雨が降ると肌寒かったけど、今週に入ってから蒸し暑い気候に変わった。今日も朝から雨がシトシトと降っていて蒸し暑い。数日前の天気予報では、今日は肌寒くなる予報だったんだけどなぁ。
個人的に、この時期らしいジメジメとした空気が好きじゃない。だから、今まで以上に、自宅のあるアパート・あけぼの荘から陽出学院高校まで徒歩数分で良かったと思っている。校舎の中はエアコンがかかっていて涼しいので、快適な学校生活を送ることができている。
中学までは教室にエアコンがなかったから、高校は天国だと思える環境だ。そんな中で過ごしているので、今日もあっという間に時間が過ぎていった。
「それでは、これで今日の終礼を終わります。また明日」
担任の霧嶋一佳先生がそう言い、今日も放課後に突入した。
ただし、今は夕方ではなくお昼。
どうして、こんなに早く学校が終わるのかというと、午後に全クラスで三者面談があるからだ。三者面談期間は今週の火曜日から金曜日まで。その期間中は午前中のみの授業となるのだ。
ちなみに、俺・桐生由弦は今日の午後3時半から三者面談を受ける予定だ。それに伴い、今日は母親が静岡からやってきて、自宅に泊まることになっている。
「由弦。今日は三者面談頑張ってね」
俺の前の席に座っている友人であり、アパートの隣人の姫宮風花がこちらに振り返るや否やそう言ってくる。風花の顔には、持ち前の明るく可愛らしい笑みが浮かんでいる。
「まあ、由弦は中間試験の成績がとても良かったし、クラス1位で学年4位だから、面談中にお小言を言われる心配はないと思うけど」
「そうであってほしいな」
既に三者面談を受けた友人達の話によると、面談の主な内容は中間試験や部活を中心とした学校生活についてだそうだ。赤点を取ってしまったり、ギリギリだったりした友人は霧嶋先生にキツく注意されたのだとか。
「平和な三者面談になるように頑張るよ。ありがとう」
「いえいえ。それと、面談がどんな感じだったか後で教えて。あたしは明日面談だから。部活が終わったら由弦の家に行くよ。由弦のお母さんにも会いたいし」
「ああ、分かった」
明日は風花と、俺の恋人の白鳥美優先輩も三者面談を受ける予定だ。なので、母さんは明日、それぞれの母親とあけぼの荘で会うことになっている。
「じゃあ、あたしは部活の子とお昼を食べる約束をしているから。今日もそのまま練習する」
「そっか。練習頑張って」
「ありがとう! またね!」
元気よく言うと、風花はスクールバッグとエナメルバッグを持って教室を後にした。友人の加藤潤と橋本奏さんと一緒に。風花は水泳の都大会が近いので、無理せずに練習を頑張ってほしい。
教室を見渡すと、風花達のように部活のある生徒中心に教室を後にする。そんな中、俺はいつも通り、美優先輩と先輩の友人の花柳瑠衣先輩のことを待つ。
「桐生君」
気づけば、霧嶋先生が俺の近くにいた。三者面談があるからか、今日も黒いパンツスーツ姿。凜とした雰囲気の先生によく似合っている。
「今日はあなたとの三者面談があるわね。あなたには色々とお世話になっているから、保護者の方にしっかり挨拶しないと」
霧嶋先生とは学校だけでなく、プライベートでも会うことが多いからな。ゴールデンウィークには一緒に旅行へ行ったし。
あと、霧嶋先生が色々とお世話になっていると言ったのは、これまでに服が濡れたからジャージを貸したり、先生の家を掃除したり、ゴキブリを駆除したりするなどして、先生を助けることもあったからだろう。そんな俺の推測が当たっているのか、先生の頬がほんのり赤くなっている。
「そうですか。今回は母が三者面談に出席します。母は先生に会うのを楽しみにしていますよ。俺も霧嶋先生の話をするときがありますし。あと、雫姉さんと心愛から話を聞いたり、ゴールデンウィークに会ったときの写真を見せてもらったりしたそうです」
「そうなのね。へ、変なことは言ってないでしょうね?」
「雫姉さんと心愛は分かりませんが、俺は言ってないです」
「それならいいわ」
いつものクールな様子でそう言い、一度頷いた。
入学直後や、ゴールデンウィークの旅行から帰ってきた後中心に、霧嶋先生のことを色々と話したけど……多分、大丈夫だろう。
「由弦君、お待たせ」
美優先輩の声が聞こえたので廊下の方を見ると、美優先輩と花柳先輩が後方の扉から教室に入ってきた。俺と目が合うと、美優先輩は優しく笑って手を振ってくる。
俺のところにやってくると、先輩達は一佳先生に軽く頭を下げる。
「今日もお迎えが来たわね、桐生君。午後の面談で会いましょう」
「はい」
「白鳥さんと花柳さん、さようなら」
「さようなら、一佳先生」
「さようなら」
先輩達が挨拶をすると、霧嶋先生は微笑んで教卓の方へ戻っていった。
俺は美優先輩と花柳先輩と一緒に下校する。
校舎の中はエアコンが効いていて涼しいけど、昇降口から出るとすぐに、ジメッとした蒸し暑い空気が俺達の体を包み込む。今も雨がシトシト降っていて……まさに梅雨らしい天気だ。
俺は美優先輩と相合い傘をする。その際、美優先輩が傘の柄を持つ俺の手をそっと握ってくれる。空気の蒸し暑さは嫌だけど、先輩の手から伝わってくる熱はとても好きだ。最近は雨が降る日は相合い傘をすることが多い。
至近距離で美優先輩と目が合うと、先輩は柔らかな笑顔を見せてくれる。そのことで頬が緩んでいくのが分かった。
「仲睦まじく相合い傘する2人っていう光景にも見慣れてきたわ。蒸し暑くても、同じ傘に入っても平気なのね」
「ジメッとした空気の蒸し暑さは嫌だけど、手から感じる由弦君の温もりは好きなの」
「俺も同じ理由です」
「2人らしいわね」
ふふっ、と上品に笑う花柳先輩。ただ、それから程なくして、あっついあっつい……と先輩は右手でYシャツの胸元部分をパタパタさせていた。シャツの間からデコルテ部分がチラッと見え、普段よりも艶やかさを感じる。
美優先輩が俺と同じようなことを考えてくれていたなんて。嬉しいなぁ。心がポカポカと温かくなってくるよ。美優先輩となら、このまま雨の中ずっと歩けそう。
「そういえば、桐生君のお母さんが来るのっていつだっけ?」
「2時頃に着く予定だと、午前中にメッセージが届きました。母が到着したら、先輩に連絡しますよ」
「了解」
「あと1時間ちょっとでお母様が来るんだね。緊張するなぁ……」
俺の手を握る美優先輩の力が強くなる。先輩のことを見ると、今の言葉通りに緊張しい様子になっていた。
美優先輩はテレビ電話で俺の両親と何度か話したことはある。ただ、実際に会ったことは一度もない。だから緊張してしまうのだろう。
「もうすぐ会うから緊張する気持ち……分かります。ゴールデンウィークの旅行で、ホテルから美優先輩のご実家へ向かっているとき、俺も緊張しましたから」
「由弦君……」
「でも、美優先輩達が一緒だったので、緊張するのと同時に安心感もあったんです。今度は俺が美優先輩を支える番です」
「もし不安だったら、あたしにそうメッセージを送って! すぐに駆けつけるから。まあ、桐生君がいれば大丈夫だと思うけど」
「……ありがとう、2人とも」
美優先輩はそうお礼を言うと、嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
美優先輩はテレビ電話だと、特に母親とは普通に話せている。それでも、実際に会うと緊張して、あまり話せなくなってしまうかもしれない。恋人としてしっかりと支えないと。
それから程なくして、あけぼの荘に到着。ここで花柳先輩とは一旦別れ、俺は美優先輩と2人で、自宅の101号室に戻る。
美優先輩は寝室に行き、私服へと着替える。
俺は三者面談があるので着替えずにキッチンに向かい、お昼ご飯を作ることに。ちなみに、お昼ご飯はこれからの季節にピッタリなそうめんだ。
麺を茹でるためのお湯を沸かしている間に、ハム、きゅうり、今朝作っておいた薄焼き卵を細切りにしていく。ちなみに、これらの具材は美優先輩の家でもそうめんのときに食べるそうだ。
具材を切っている間に、着替え終わった美優先輩が来た。ロングスカートにノースリーブの縦ニットという大人な雰囲気も感じさせる服装だ。そんな先輩に、そうめんのつけ汁と薬味を準備してもらった。
具材を切り終わったので、2人分のそうめんを茹でる。
茹でた後に冷たい水で麺を締め、ざるに一口サイズで盛りつけて完成だ。この盛りつけ方法は白鳥家流。俺の実家では氷水につけていたけど、ざるに盛ると麺が延びにくいので、この盛りつけ法を採用した。
美優先輩と俺の分のざると、そうめんの具材が乗ったお皿をリビングの食卓へ持っていく。
「美味しそう。じゃあ、食べようか!」
「はい。いただきます」
「いただきますっ」
美優先輩の作ってくれたつけ汁に、薬味のねぎとごまを入れる。そのつけ汁に、ざるから取った一口分のそうめんをつけて食べる。
「うん、冷たくて美味しいです」
「美味しいね。冷たいものが本当に美味しい季節になったよね」
「ですね。あと、そうめんを食べると夏って感じがします。実家では、夏になるとそうめんをよく食べていたので」
「うちもそうだったなぁ。特に夏休みはたくさん食べてた」
「うちも食べてました」
「そうなんだね」
ふふっ、と美優先輩は楽しそうに笑う。夏休みになると、そうめんをたくさん食べる家って結構あるのかもしれない。
それからも、美優先輩と楽しく喋りながらそうめんを食べ、俺はもちろん先輩も完食した。
昼食の後片付けをした後は母さんが来るまで、今日の授業で出た課題をする。たまに、分からない部分を美優先輩に質問しながら。
――ピンポーン。
インターホンが鳴り響く。部屋の時計を見ると、針が午後2時近くを指していた。母さんが来る時間だ。課題に集中していたからあっという間だったな。
「母かもしれません。俺が出ますね」
そう言い、扉の近くにあるモニターのスイッチを押す。すると、画面にネイビー色のワンピースを着た女性……俺の母親の姿が映っていたのであった。
6月13日、木曜日。
梅雨入りしてから1週間ほどが経った。
梅雨入りした直後は雨が降ると肌寒かったけど、今週に入ってから蒸し暑い気候に変わった。今日も朝から雨がシトシトと降っていて蒸し暑い。数日前の天気予報では、今日は肌寒くなる予報だったんだけどなぁ。
個人的に、この時期らしいジメジメとした空気が好きじゃない。だから、今まで以上に、自宅のあるアパート・あけぼの荘から陽出学院高校まで徒歩数分で良かったと思っている。校舎の中はエアコンがかかっていて涼しいので、快適な学校生活を送ることができている。
中学までは教室にエアコンがなかったから、高校は天国だと思える環境だ。そんな中で過ごしているので、今日もあっという間に時間が過ぎていった。
「それでは、これで今日の終礼を終わります。また明日」
担任の霧嶋一佳先生がそう言い、今日も放課後に突入した。
ただし、今は夕方ではなくお昼。
どうして、こんなに早く学校が終わるのかというと、午後に全クラスで三者面談があるからだ。三者面談期間は今週の火曜日から金曜日まで。その期間中は午前中のみの授業となるのだ。
ちなみに、俺・桐生由弦は今日の午後3時半から三者面談を受ける予定だ。それに伴い、今日は母親が静岡からやってきて、自宅に泊まることになっている。
「由弦。今日は三者面談頑張ってね」
俺の前の席に座っている友人であり、アパートの隣人の姫宮風花がこちらに振り返るや否やそう言ってくる。風花の顔には、持ち前の明るく可愛らしい笑みが浮かんでいる。
「まあ、由弦は中間試験の成績がとても良かったし、クラス1位で学年4位だから、面談中にお小言を言われる心配はないと思うけど」
「そうであってほしいな」
既に三者面談を受けた友人達の話によると、面談の主な内容は中間試験や部活を中心とした学校生活についてだそうだ。赤点を取ってしまったり、ギリギリだったりした友人は霧嶋先生にキツく注意されたのだとか。
「平和な三者面談になるように頑張るよ。ありがとう」
「いえいえ。それと、面談がどんな感じだったか後で教えて。あたしは明日面談だから。部活が終わったら由弦の家に行くよ。由弦のお母さんにも会いたいし」
「ああ、分かった」
明日は風花と、俺の恋人の白鳥美優先輩も三者面談を受ける予定だ。なので、母さんは明日、それぞれの母親とあけぼの荘で会うことになっている。
「じゃあ、あたしは部活の子とお昼を食べる約束をしているから。今日もそのまま練習する」
「そっか。練習頑張って」
「ありがとう! またね!」
元気よく言うと、風花はスクールバッグとエナメルバッグを持って教室を後にした。友人の加藤潤と橋本奏さんと一緒に。風花は水泳の都大会が近いので、無理せずに練習を頑張ってほしい。
教室を見渡すと、風花達のように部活のある生徒中心に教室を後にする。そんな中、俺はいつも通り、美優先輩と先輩の友人の花柳瑠衣先輩のことを待つ。
「桐生君」
気づけば、霧嶋先生が俺の近くにいた。三者面談があるからか、今日も黒いパンツスーツ姿。凜とした雰囲気の先生によく似合っている。
「今日はあなたとの三者面談があるわね。あなたには色々とお世話になっているから、保護者の方にしっかり挨拶しないと」
霧嶋先生とは学校だけでなく、プライベートでも会うことが多いからな。ゴールデンウィークには一緒に旅行へ行ったし。
あと、霧嶋先生が色々とお世話になっていると言ったのは、これまでに服が濡れたからジャージを貸したり、先生の家を掃除したり、ゴキブリを駆除したりするなどして、先生を助けることもあったからだろう。そんな俺の推測が当たっているのか、先生の頬がほんのり赤くなっている。
「そうですか。今回は母が三者面談に出席します。母は先生に会うのを楽しみにしていますよ。俺も霧嶋先生の話をするときがありますし。あと、雫姉さんと心愛から話を聞いたり、ゴールデンウィークに会ったときの写真を見せてもらったりしたそうです」
「そうなのね。へ、変なことは言ってないでしょうね?」
「雫姉さんと心愛は分かりませんが、俺は言ってないです」
「それならいいわ」
いつものクールな様子でそう言い、一度頷いた。
入学直後や、ゴールデンウィークの旅行から帰ってきた後中心に、霧嶋先生のことを色々と話したけど……多分、大丈夫だろう。
「由弦君、お待たせ」
美優先輩の声が聞こえたので廊下の方を見ると、美優先輩と花柳先輩が後方の扉から教室に入ってきた。俺と目が合うと、美優先輩は優しく笑って手を振ってくる。
俺のところにやってくると、先輩達は一佳先生に軽く頭を下げる。
「今日もお迎えが来たわね、桐生君。午後の面談で会いましょう」
「はい」
「白鳥さんと花柳さん、さようなら」
「さようなら、一佳先生」
「さようなら」
先輩達が挨拶をすると、霧嶋先生は微笑んで教卓の方へ戻っていった。
俺は美優先輩と花柳先輩と一緒に下校する。
校舎の中はエアコンが効いていて涼しいけど、昇降口から出るとすぐに、ジメッとした蒸し暑い空気が俺達の体を包み込む。今も雨がシトシト降っていて……まさに梅雨らしい天気だ。
俺は美優先輩と相合い傘をする。その際、美優先輩が傘の柄を持つ俺の手をそっと握ってくれる。空気の蒸し暑さは嫌だけど、先輩の手から伝わってくる熱はとても好きだ。最近は雨が降る日は相合い傘をすることが多い。
至近距離で美優先輩と目が合うと、先輩は柔らかな笑顔を見せてくれる。そのことで頬が緩んでいくのが分かった。
「仲睦まじく相合い傘する2人っていう光景にも見慣れてきたわ。蒸し暑くても、同じ傘に入っても平気なのね」
「ジメッとした空気の蒸し暑さは嫌だけど、手から感じる由弦君の温もりは好きなの」
「俺も同じ理由です」
「2人らしいわね」
ふふっ、と上品に笑う花柳先輩。ただ、それから程なくして、あっついあっつい……と先輩は右手でYシャツの胸元部分をパタパタさせていた。シャツの間からデコルテ部分がチラッと見え、普段よりも艶やかさを感じる。
美優先輩が俺と同じようなことを考えてくれていたなんて。嬉しいなぁ。心がポカポカと温かくなってくるよ。美優先輩となら、このまま雨の中ずっと歩けそう。
「そういえば、桐生君のお母さんが来るのっていつだっけ?」
「2時頃に着く予定だと、午前中にメッセージが届きました。母が到着したら、先輩に連絡しますよ」
「了解」
「あと1時間ちょっとでお母様が来るんだね。緊張するなぁ……」
俺の手を握る美優先輩の力が強くなる。先輩のことを見ると、今の言葉通りに緊張しい様子になっていた。
美優先輩はテレビ電話で俺の両親と何度か話したことはある。ただ、実際に会ったことは一度もない。だから緊張してしまうのだろう。
「もうすぐ会うから緊張する気持ち……分かります。ゴールデンウィークの旅行で、ホテルから美優先輩のご実家へ向かっているとき、俺も緊張しましたから」
「由弦君……」
「でも、美優先輩達が一緒だったので、緊張するのと同時に安心感もあったんです。今度は俺が美優先輩を支える番です」
「もし不安だったら、あたしにそうメッセージを送って! すぐに駆けつけるから。まあ、桐生君がいれば大丈夫だと思うけど」
「……ありがとう、2人とも」
美優先輩はそうお礼を言うと、嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
美優先輩はテレビ電話だと、特に母親とは普通に話せている。それでも、実際に会うと緊張して、あまり話せなくなってしまうかもしれない。恋人としてしっかりと支えないと。
それから程なくして、あけぼの荘に到着。ここで花柳先輩とは一旦別れ、俺は美優先輩と2人で、自宅の101号室に戻る。
美優先輩は寝室に行き、私服へと着替える。
俺は三者面談があるので着替えずにキッチンに向かい、お昼ご飯を作ることに。ちなみに、お昼ご飯はこれからの季節にピッタリなそうめんだ。
麺を茹でるためのお湯を沸かしている間に、ハム、きゅうり、今朝作っておいた薄焼き卵を細切りにしていく。ちなみに、これらの具材は美優先輩の家でもそうめんのときに食べるそうだ。
具材を切っている間に、着替え終わった美優先輩が来た。ロングスカートにノースリーブの縦ニットという大人な雰囲気も感じさせる服装だ。そんな先輩に、そうめんのつけ汁と薬味を準備してもらった。
具材を切り終わったので、2人分のそうめんを茹でる。
茹でた後に冷たい水で麺を締め、ざるに一口サイズで盛りつけて完成だ。この盛りつけ方法は白鳥家流。俺の実家では氷水につけていたけど、ざるに盛ると麺が延びにくいので、この盛りつけ法を採用した。
美優先輩と俺の分のざると、そうめんの具材が乗ったお皿をリビングの食卓へ持っていく。
「美味しそう。じゃあ、食べようか!」
「はい。いただきます」
「いただきますっ」
美優先輩の作ってくれたつけ汁に、薬味のねぎとごまを入れる。そのつけ汁に、ざるから取った一口分のそうめんをつけて食べる。
「うん、冷たくて美味しいです」
「美味しいね。冷たいものが本当に美味しい季節になったよね」
「ですね。あと、そうめんを食べると夏って感じがします。実家では、夏になるとそうめんをよく食べていたので」
「うちもそうだったなぁ。特に夏休みはたくさん食べてた」
「うちも食べてました」
「そうなんだね」
ふふっ、と美優先輩は楽しそうに笑う。夏休みになると、そうめんをたくさん食べる家って結構あるのかもしれない。
それからも、美優先輩と楽しく喋りながらそうめんを食べ、俺はもちろん先輩も完食した。
昼食の後片付けをした後は母さんが来るまで、今日の授業で出た課題をする。たまに、分からない部分を美優先輩に質問しながら。
――ピンポーン。
インターホンが鳴り響く。部屋の時計を見ると、針が午後2時近くを指していた。母さんが来る時間だ。課題に集中していたからあっという間だったな。
「母かもしれません。俺が出ますね」
そう言い、扉の近くにあるモニターのスイッチを押す。すると、画面にネイビー色のワンピースを着た女性……俺の母親の姿が映っていたのであった。
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