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特別編6
第2話『花柳親子』
リビングに戻り、母さんに食卓の椅子に座ってもらった直後、花柳先輩にメッセージを入れることを思い出した。
食卓に置いてある自分のスマホを手に取り、LIMEというSNSアプリを使い、花柳先輩に母が家に到着した旨のメッセージを送る。すると、程なくしてメッセージに『既読』マークがつき、
『分かったわ。すぐにそっちへ行く』
という返信が届いた。
「お待たせしました。冷たい麦茶を持ってきました」
美優先輩は俺と先輩のマグカップと、麦茶の入ったコップを乗せたお盆を持ってリビングに戻ってきた。母さんの前にコップを置き、母さんと向かい合いの椅子の前に俺と先輩のマグカップを置いた。
いただきます、と言って母さんはゴクゴクとコップ半分ほどの麦茶を飲む。
「うんっ、冷たくて美味しい」
「良かったです」
「美優先輩。花柳先輩に母が来たとメッセージを送りました。すぐに来るとのことです」
「うん、分かった」
「花柳先輩っていうのは……ああ、美優ちゃんの親友の花柳瑠衣ちゃんのことね。確か、青髪のツーサイドアップの可愛い子。由弦が送ってくれた写真や、雫と心愛が見せてくれた写真に写っていたから覚えているわ」
「瑠衣ちゃんもお母様に会うのを楽しみにしていました」
「そうなのね。私も可愛い女の子と会えるのは楽しみよ」
ほんわかとした笑みを浮かべる母さん。花柳先輩も抱きしめるのだろうか。
俺は母さんと食卓を挟んで向かい合う形で座る。美優先輩は俺の隣の椅子に腰を下ろす。
美優先輩が持ってきてくれた麦茶を一口飲む。母さんの言う通り、冷たくて美味しいな。さっき、先輩が愛の育み事情を話したことの恥ずかしさによる熱も、麦茶のおかげで引いた。
「そういえば、母さん。みんなはどうだ? 雫姉さんと心愛中心に定期的に連絡は取っているけど、こうして会うと訊きたくなってさ」
「みんな元気よ。心愛も中学生活に慣れてきたみたい」
「それは良かった」
「由弦がここに引っ越してから2ヶ月以上経って、みんな由弦のいない生活にも慣れてきたわ」
「……そうか」
俺のいない生活に慣れてきた……か。その言葉に安心すると同時に、ちょっと寂しい気持ちも胸に抱く。引っ越しの日に、トラックに乗って故郷を離れたときに抱いた寂しさとは種類の違うもので。
「由弦はどう?」
「楽しく元気に過ごせているよ。美優先輩と一緒に住んでいるからかな。連休明けに一度風邪を引いたけど、先輩が看病してくれたり、風花達がお見舞いに来たりしてくれたからすぐ元気になった」
「それなら良かったわ。美優ちゃんは由弦と一緒に住むようになってどうかな?」
「とても楽しいです。由弦君は家事がちゃんとできますから、一人暮らししていたときよりも楽ですね。あと、私は虫が大の苦手なので、虫が平気な由弦君がいてくれるのは心強いです」
「ふふっ、そうなのね。これまで、夏中心に由弦は虫の駆除で大活躍したわ。家に出る虫は毒がない限り素手で捕まえられる子だから、どんどんこき使っちゃいなさい」
「そうですね。これから夏本番なので、由弦君には活躍してもらうつもりです」
ふふっ、と美優先輩と母さんは楽しそうに笑っている。2人もだいぶ打ち解けてきたようだ。この様子なら、先輩が母さんに対して酷く緊張してしまうことはないだろう。
それからも、俺が引っ越してからのお互いの生活について話していると、
――ピンポーン。
と、インターホンが鳴った。壁に掛かっている時計で時刻を確認すると……花柳先輩にメッセージを送ってから15分くらい経っている。先輩が来たのかもしれない。
「私が出ますね」
美優先輩は椅子から立ち上がって、扉の近くにあるインターホンのモニターのところまで行く。
「はーい。あっ、瑠衣ちゃん。今行くね。……瑠衣ちゃんでした。ちょっと行ってきますね」
「分かりました」
やっぱり、花柳先輩だったか。先輩が来たと分かって、母さんは楽しげな様子に。
美優先輩がリビング後にし、それからすぐに玄関の開く音が。賑やかな話し声も聞こえてきて。これから母さんに会えるから盛り上がっているのかな?
「さあ、どうぞ」
美優先輩の声が聞こえ、リビングの扉が開く。美優先輩が最初に入り、それに続いて、ハーフパンツにノースリーブの襟付きブラウス姿の花柳先輩と、ジーンズにフレンチスリーブのブラウス姿の小柄な女性が入ってきた。女性は花柳先輩よりも背が小さくて、ショートボブの青髪で……あっ、先輩のお母さんだ。ゴールデンウィークの旅行から帰り、荷物とお土産を先輩の家に運んだときに会っただけなので、思い出すまでに時間がかかってしまった。
花柳親子が部屋に入ってきたので、母さんは椅子から立ち上がり、2人の方へ向く。3人は軽く頭を下げる。
「お母様。こちら、花柳瑠衣ちゃんとお母さんの亜衣さんです。そして、ワンピース姿の女性が、由弦君のお母様の香織さんです」
「初めまして、花柳瑠衣です。美優の親友で、桐生君とは料理部の先輩後輩の関係です。よろしくお願いします。あと、桐生君のお母さんに会うと言ったら、母が是非挨拶したいと言ったので連れてきました」
「花柳亜衣です、初めまして。娘がいつもお世話になっています。桐生君は後輩ですが、部活では料理をてきぱきこなして、勉強の方も英語や古典などを教えてもらうこともあると訊いています。本当にしっかりした息子さんで」
穏やかな笑みを浮かべて話す亜衣さん。
美優先輩が体調を崩したときとかに、花柳先輩に勉強を教えたことがある。その事実を言われたからか、花柳先輩は頬をほんのり赤くし、恥ずかしそうにしている。そんな先輩が可愛らしく見えて。
「息子についてそこまで褒められると恐縮してしまいます。桐生由弦の母の香織といいます、初めまして。息子がいつもお世話になっております。今後ともよろしくお願いします」
落ち着いた口調で挨拶すると、母さんはさっきよりも深めに頭を下げた。そんな母さんに合わせてか、花柳親子も先ほどよりも深く頭を下げた。
「雫さんと心愛さんが持ってきたアルバムやホームビデオで、香織さんの姿は知っていました。ただ、実際にこうして会うと……本当に綺麗で可愛いです!」
「瑠衣から話は聞いていましたけど、とても素敵です。背も高くて、プロポーションも抜群で。背がとても小さい私にとってはとても羨ましいです」
「ふふっ、ありがとうございます。瑠衣ちゃんも亜衣さんもとても可愛いです。亜衣さんは瑠衣ちゃんの姉妹だと思ったほどですよ」
花柳先輩の姉妹か。果たして、母さんは亜衣さんのことを先輩の姉だと思ったのか。それとも、妹だと思ったのか。……後者の可能性が高そうだ。亜衣さんは花柳先輩よりも小柄で、物凄く可愛らしい顔立ちだから。おまけに幼げな声色だし。
「2人を抱きしめたいほどに可愛いです」
「私は抱きしめていいですよ~」
「即答するとは思わなかったよ、お母さん。あ、あたしもいいですよ!」
「では、お言葉に甘えて。2人いっぺんに」
ぎゅーっ、と言いながら、母さんは花柳親子のことを抱きしめる。その瞬間、本日一番といっていいほどの幸せな笑みを浮かべる。
花柳先輩を抱きしめるのは予想していたけど、まさか母親の亜衣さんも一緒に抱きしめる展開になるとは。亜衣さんは可愛らしい雰囲気だから抱きたい気持ちを抱かせたのかも。
「あぁ……小さくて可愛い親子を抱けて幸せ」
「大人の女性に抱きしめられているって感じがします。いいですね。お母さんに抱きしめられるのとは違う感覚です」
「大人になって、結婚して、母親になっても、こうして抱きしめられるのっていいですね。香織さんだからでしょうか。あと、胸が柔らかくて気持ちいい……」
母さんはもちろんのこと、花柳先輩と亜衣さんも柔らかい笑顔になっている。母さんによるハグは、どうやら3人にとってとてもいい体験になっているようだ。そんな3人を見ていると微笑ましい気分になる。
それから3時過ぎまで、5人で冷たい麦茶を飲みながら、陽出学院高校のことや俺の故郷の静岡のこと、母さんと亜衣さんの高校時代のことなどを語り合うのであった。
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美優先輩は俺と先輩のマグカップと、麦茶の入ったコップを乗せたお盆を持ってリビングに戻ってきた。母さんの前にコップを置き、母さんと向かい合いの椅子の前に俺と先輩のマグカップを置いた。
いただきます、と言って母さんはゴクゴクとコップ半分ほどの麦茶を飲む。
「うんっ、冷たくて美味しい」
「良かったです」
「美優先輩。花柳先輩に母が来たとメッセージを送りました。すぐに来るとのことです」
「うん、分かった」
「花柳先輩っていうのは……ああ、美優ちゃんの親友の花柳瑠衣ちゃんのことね。確か、青髪のツーサイドアップの可愛い子。由弦が送ってくれた写真や、雫と心愛が見せてくれた写真に写っていたから覚えているわ」
「瑠衣ちゃんもお母様に会うのを楽しみにしていました」
「そうなのね。私も可愛い女の子と会えるのは楽しみよ」
ほんわかとした笑みを浮かべる母さん。花柳先輩も抱きしめるのだろうか。
俺は母さんと食卓を挟んで向かい合う形で座る。美優先輩は俺の隣の椅子に腰を下ろす。
美優先輩が持ってきてくれた麦茶を一口飲む。母さんの言う通り、冷たくて美味しいな。さっき、先輩が愛の育み事情を話したことの恥ずかしさによる熱も、麦茶のおかげで引いた。
「そういえば、母さん。みんなはどうだ? 雫姉さんと心愛中心に定期的に連絡は取っているけど、こうして会うと訊きたくなってさ」
「みんな元気よ。心愛も中学生活に慣れてきたみたい」
「それは良かった」
「由弦がここに引っ越してから2ヶ月以上経って、みんな由弦のいない生活にも慣れてきたわ」
「……そうか」
俺のいない生活に慣れてきた……か。その言葉に安心すると同時に、ちょっと寂しい気持ちも胸に抱く。引っ越しの日に、トラックに乗って故郷を離れたときに抱いた寂しさとは種類の違うもので。
「由弦はどう?」
「楽しく元気に過ごせているよ。美優先輩と一緒に住んでいるからかな。連休明けに一度風邪を引いたけど、先輩が看病してくれたり、風花達がお見舞いに来たりしてくれたからすぐ元気になった」
「それなら良かったわ。美優ちゃんは由弦と一緒に住むようになってどうかな?」
「とても楽しいです。由弦君は家事がちゃんとできますから、一人暮らししていたときよりも楽ですね。あと、私は虫が大の苦手なので、虫が平気な由弦君がいてくれるのは心強いです」
「ふふっ、そうなのね。これまで、夏中心に由弦は虫の駆除で大活躍したわ。家に出る虫は毒がない限り素手で捕まえられる子だから、どんどんこき使っちゃいなさい」
「そうですね。これから夏本番なので、由弦君には活躍してもらうつもりです」
ふふっ、と美優先輩と母さんは楽しそうに笑っている。2人もだいぶ打ち解けてきたようだ。この様子なら、先輩が母さんに対して酷く緊張してしまうことはないだろう。
それからも、俺が引っ越してからのお互いの生活について話していると、
――ピンポーン。
と、インターホンが鳴った。壁に掛かっている時計で時刻を確認すると……花柳先輩にメッセージを送ってから15分くらい経っている。先輩が来たのかもしれない。
「私が出ますね」
美優先輩は椅子から立ち上がって、扉の近くにあるインターホンのモニターのところまで行く。
「はーい。あっ、瑠衣ちゃん。今行くね。……瑠衣ちゃんでした。ちょっと行ってきますね」
「分かりました」
やっぱり、花柳先輩だったか。先輩が来たと分かって、母さんは楽しげな様子に。
美優先輩がリビング後にし、それからすぐに玄関の開く音が。賑やかな話し声も聞こえてきて。これから母さんに会えるから盛り上がっているのかな?
「さあ、どうぞ」
美優先輩の声が聞こえ、リビングの扉が開く。美優先輩が最初に入り、それに続いて、ハーフパンツにノースリーブの襟付きブラウス姿の花柳先輩と、ジーンズにフレンチスリーブのブラウス姿の小柄な女性が入ってきた。女性は花柳先輩よりも背が小さくて、ショートボブの青髪で……あっ、先輩のお母さんだ。ゴールデンウィークの旅行から帰り、荷物とお土産を先輩の家に運んだときに会っただけなので、思い出すまでに時間がかかってしまった。
花柳親子が部屋に入ってきたので、母さんは椅子から立ち上がり、2人の方へ向く。3人は軽く頭を下げる。
「お母様。こちら、花柳瑠衣ちゃんとお母さんの亜衣さんです。そして、ワンピース姿の女性が、由弦君のお母様の香織さんです」
「初めまして、花柳瑠衣です。美優の親友で、桐生君とは料理部の先輩後輩の関係です。よろしくお願いします。あと、桐生君のお母さんに会うと言ったら、母が是非挨拶したいと言ったので連れてきました」
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穏やかな笑みを浮かべて話す亜衣さん。
美優先輩が体調を崩したときとかに、花柳先輩に勉強を教えたことがある。その事実を言われたからか、花柳先輩は頬をほんのり赤くし、恥ずかしそうにしている。そんな先輩が可愛らしく見えて。
「息子についてそこまで褒められると恐縮してしまいます。桐生由弦の母の香織といいます、初めまして。息子がいつもお世話になっております。今後ともよろしくお願いします」
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「大人になって、結婚して、母親になっても、こうして抱きしめられるのっていいですね。香織さんだからでしょうか。あと、胸が柔らかくて気持ちいい……」
母さんはもちろんのこと、花柳先輩と亜衣さんも柔らかい笑顔になっている。母さんによるハグは、どうやら3人にとってとてもいい体験になっているようだ。そんな3人を見ていると微笑ましい気分になる。
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