215 / 251
特別編7
第5話『風花の戦い②-女子400mメドレーリレー-』
風花と少し話した後、俺達は風花と別れる。
昨日と同じく、俺達は陽出学院高校水泳部の後方の席に座ろうとするけど……さすがに7席連続で空いている所はない。なので、俺、美優先輩、花柳先輩が同じ列に座り、後ろの列に健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生が座る形に。
周りを見てみると……昨日より人が多いな。健一さんや由樹さんのように、昨日は用事があって来られなかったけど、今日なら来られるという人が多いのだろうか。あと、今日が日曜日なのも一因かもしれない。
それから少しすると、風花を含めた4人の生徒が立ち上がり、荷物を持って水泳部の生徒のいるエリアから離れる。早い時間に出場するのかな……と思い、霧嶋先生が昨日くれた競技日程の紙を見ると……最初の競技が女子400mメドレーリレーのタイム決勝なのか。
風花は俺達のところにやってくる。
「最初の競技が女子400mメドレーリレーなので行ってきますね! ラストの第4組に陽出学院高校が出場します」
「そうなんだ。チームメイトと一緒に頑張れよ、風花」
「頑張ってね、風花ちゃん!」
「応援しているわ、風花ちゃん」
俺が拳にした状態で右手を差し出すと、風花は笑顔でグータッチしてくれる。美優先輩と花柳先輩も俺に続く。
「チームもそうだし、自由形の選手として頑張りなさい、姫宮さん」
「昨日のように泳げればきっと大丈夫だよ、風花ちゃん」
「お母さん、みんなと一緒に応援するからね!」
「父さんも応援しているよ」
「うんっ! ありがとうございます!」
そして、俺達と同じように、風花は健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生の順番でグータッチした。これが少しでも風花の力になったら嬉しい。
風花は一緒にメドレーリレーに出場する生徒と一緒に、観客席を後にする。
そして、午前9時半。
東京都高等学校選手権水泳競技大会の2日目の競技が始まった。
『本日最初の競技は、女子400mメドレーリレーのタイム決勝になります』
予定通り、女子のメドレーリレーからのスタートだ。
霧嶋先生曰く、関東大会に進出できる条件は、昨日の個人メドレーと同じでタイム上位8位であること。ただし、4位から8位までは関東大会の標準タイムであることも条件に加わる。そのタイムは4分56秒15とのこと。
あと、霧嶋先生が進出条件をちゃんと調べていることに、健一さんと由樹さんは感心していた。
メドレーリレーなので学校対抗。
一発勝負で関東大会へ進出できるかどうかが決まる。
だからなのか、最初の競技にもかかわらず観客席はかなり盛り上がっている。学校の体育祭とかでも、リレー競技って盛り上がるよなぁ。
陽出学院高校が出るのは最終第4組だけど、この盛り上がりもあって第3組までのレースも楽しく見られる。見ていると、泳ぐ順番は背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形のようだ。つまり、風花はアンカーなのか。
霧嶋先生が教えてくれた関東大会の標準タイムを突破する高校がいくつもあって。これはかなりハイレベルな戦いになりそうだ。また、スイマーの引き継ぎが上手くいかずに失格となった高校もある。
『続いて、第4組のレースになります。なお、この競技のレースはこれで最後となります』
さあ、いよいよ風花のいる陽出学院高校のレースの時間だ。
第4組のレースに出場する生徒達が続々とプールサイドに現れる。
そして、陽出学院高校の4人も競泳水着姿で登場。俺達はもちろんのこと、水泳部のみんなも「頑張れー」と声を掛ける。風花達4人は俺達に笑顔で手を振りながら、6レーンのスタート台前に向かった。
「いよいよだね、由弦君!」
「そうですね」
「あたしが泳ぐわけじゃないのに、何だか緊張してくるわ……」
「瑠衣ちゃんの気持ち分かるよ。それに、バトンタッチが上手くいかずに失格になった高校もあるしね……」
「競泳でも、リレー競技ではバトンパスが重要だって分かりましたよね」
バトンパスに失敗して失格……という結果にならないことを祈ろう。
タイム決勝第4組は全10校で争われる。
メドレーリレーは背泳ぎからのスタート。なので、各校の第1泳者の選手はプールに入り、スタート台の方に向く。
『Take your marks』
昨日からたくさん聞いているおなじみのアナウンスが流れた後、選手達は壁に取り付けられている取っ手・スターティンググリップを両手で掴み、体をかがめる。
――パンッ!
号砲が鳴り、陽出学院高校の女子の400mメドレーリレーがスタートした!
6レーンを泳ぐ陽出学院高校の生徒は綺麗に蹴伸びする。15mくらいのところで浮き上がり、背泳ぎを始める。全体を見ると……4レーンから7レーンの高校と先頭争いを繰り広げている。
「頑張れー!」
「いいスタートだよー!」
近くに水泳部の生徒達が座っているからか、応援だけでなく、スタートの良さを褒める声も聞こえてくる。
陽出学院高校の生徒が出ているので、昨日と同じように、俺、美優先輩、花柳先輩、霧嶋先生、大宮先生は「頑張れ!」とか「その調子!」と大きな声で声援を送る。また、
「陽出学院頑張ってー!」
と、背後から由樹さんの明るい応援の声が時折聞こえてくる。さすがは母親だけあって、風花と声の雰囲気が似ているな。
それに対して、健一さんは……全然声が聞こえないな。スポーツ観戦するときは静かに見るタイプなのだろうか。
みんなの応援の様子を気にしていたら、第1泳者がスタート台に近づいてきた。依然として、陽出学院高校は先頭争いを繰り広げている。
4レーンから7レーンまでほぼ同着でスタート地点に到着し、第2泳者にバトンパス。
「おおっ、凄い」
バトンパスが行なわれた瞬間、背後から健一さんの声が聞こえた。どうやら、たまには声を出すようだ。
第2泳者は平泳ぎ。
背泳ぎでは4レーンから7レーンまでの4校が先頭争いを繰り広げていたが、ここで陽出学院高校と隣の7レーンの高校が前に出てきた。陽出学院高校にとって最大のライバルは7レーンの高校になりそうか。
7レーンの高校と先頭争いを繰り広げ、ほぼ同じタイミングで150mのターンを行なう。
7レーンの高校の生徒は後半に強いのだろうか。ターンし終わったら、どんどん加速していき、陽出学院高校の生徒と差を広げ始める。そんな展開になったからか、俺達や水泳部の生徒達の応援の声がより大きくなる。また、
「焦らないで! 自分のペースで!」
というアドバイスが、水泳部の生徒達のいる席から聞こえてくる。7レーンの高校には差を広げられているが、それ以外の高校が迫ってくることはなく、2位をしっかりキープできている。だから、今は焦らずに自分のペースで泳ぐのがいいのだろう。
アドバイスが選手に届いたのだろうか。7レーンの生徒とは体1つ以上の差がついてしまったけど、陽出学院高校は2位で第3泳者にバトンパスを行なうことができた。
第3泳者はバタフライ。
陽出学院高校はさっそく、1位の7レーンの高校との差を詰め始めていく。バタフライ担当の選手は自己ベストタイムが速いのだろうか。
「さっそく差を縮めてきたね、由弦君」
「ええ。いい流れですよね」
「……でも、差を縮めてきているのはうちだけじゃないわ。4レーンの子もかなり速い」
花柳先輩が真剣な様子でそう言うので、4レーンの高校の子を見てみると……かなり速いな。今は7レーンの高校、陽出学院高校に続いて3位で泳いでいる。このペースだと、バタフライの間に4レーンの高校に逆転されてしまうかもしれない。
先頭の7レーンの高校と体半分ほどの差で、陽出学院高校は2位で250mのターンをする。
陽出学院高校の生徒はペースを崩すことなく泳ぎ、ターンをしてすぐに7レーンの高校に追いつき、そのまま1位に躍り出た。7レーンの高校との差を広げ始める。
ただ、バタフライを速く泳ぐのは陽出学院高校だけではない。
4レーンの高校が物凄い速さで泳いでおり、7レーンの生徒を追い抜き、陽出学院高校にも迫ってきている。まさに猛追だ。
第3泳者の生徒がスタート地点に近づいてきたため、アンカーの風花がスタート台に立つ。
4レーンの高校の猛追があったけど、体1つ近い差を付けて、陽出学院高校は先頭でアンカーの風花にバトンが渡った!
第3泳者がスタート地点の壁に触れた瞬間、風花はスタート台から勢い良く飛び込む。15m近く潜った後、風花はクロールで泳ぎ始める。
最後の第4泳者は自由形。ルール上、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ以外の泳ぎ方であれば何でもいいことになっているそうだけど、全員クロールで泳いでいる。
どの高校もアンカーになったからか、観客席がより一層盛り上がっている。
「風花、頑張れ!」
「頑張って、風花ちゃーん!」
「昨日と同じように泳げばいいんだよ! 風花ちゃん!」
「姫宮さん! あなたなら大丈夫よ! 自分を信じて!」
「いい泳ぎができているよ、風花ちゃん!」
昨日から観戦している俺達はもちろんのこと、
「風花! いいぞ!」
「その調子よ! ふうかー!」
両親の健一さんと由樹さんも大きな声で風花を応援する。さすがに、娘が泳いでいると健一さんも力のこもった声を出すんだな。
さすがに得意な泳法だけあって、風花のクロールはとても速い。バタフライで猛追していた4レーンの高校との差を再び広げている。
2位の4レーンの高校の選手とは体1つ以上の差を付け、風花は先頭で350mのターンを行なう。
2位以下の高校とは結構な差が付いているけど、最後のターンをしたので、俺達も水泳部もみんなも盛り上がる。
そして、6レーンのスタート台近くには、水泳帽やゴーグルを外した第1泳者から第3泳者の3人が風花のことを待っている。声を掛けたり、両手で大きく手招きしていたり。リレーならではのいい光景だと思う。
風花はペースを崩すことなく、このレース1位でゴールした! タイムは4分25秒33!
『やったー!』
風花がゴールした瞬間、俺達の座っているエリアでは多くの人からそんな声が発せられる。昨日の個人メドレーのときのように、俺と美優先輩は抱きしめ合い、美優先輩の後ろから花柳先輩が抱きしめる形に。
後ろの列を見ると、健一さんと由樹さんが、霧嶋先生と大宮先生がそれぞれ抱きしめ合っている。みんな嬉しそうだけど、健一さんは目に涙を浮かべており、霧嶋先生は涙をポロポロと流していた。
「風花が1位でゴールしたな、由樹……」
「そうね、あなた。風花はよくやったわ」
「ああ……」
目から一筋の涙を流す健一さんの頭を由樹さんは微笑みながら撫でている。個人的には逆のイメージがあったので意外だ。
プールサイドの方を見ると、陽出学院高校の4人が嬉しそうな笑顔でこちらに向けて手を振っていた。俺達はそんな4人に「おめでとう!」と言って大きく手を振った。
その後、電光掲示板に全チームの結果が表示され、陽出学院高校は全体のタイム1位となり、関東大会進出の切符を手にした。
最初の種目で、しかもチーム競技で関東大会に進出を決められたので、風花はもちろんのこと、陽出学院高校にとってもいいスタートを切れたんじゃないだろうか。
それから15分ほど経って、メドレーリレーに出た4人が観客席に戻ってくる。全体1位&関東大会進出を決めたので、水泳部のみんなはとても喜んだ様子でハイタッチしている。
そして、ハイタッチタイムが終わると、風花が俺達のところにやってくる。
「1位になって、関東大会の出場を決められました! 応援ありがとうございます!」
とても嬉しそうな様子で、風花はそう報告してくれた。そんな風花に俺達7人は、
『おめでとう!』
と言ってハイタッチする。7人の中では俺が最初にハイタッチしたけど、風花の手はとても温かくて。
また、健一さんは頭を撫で、由樹さんはぎゅっと抱きしめていて。自由形が終わった後にも、またこういう光景を見たいと思うのであった。
昨日と同じく、俺達は陽出学院高校水泳部の後方の席に座ろうとするけど……さすがに7席連続で空いている所はない。なので、俺、美優先輩、花柳先輩が同じ列に座り、後ろの列に健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生が座る形に。
周りを見てみると……昨日より人が多いな。健一さんや由樹さんのように、昨日は用事があって来られなかったけど、今日なら来られるという人が多いのだろうか。あと、今日が日曜日なのも一因かもしれない。
それから少しすると、風花を含めた4人の生徒が立ち上がり、荷物を持って水泳部の生徒のいるエリアから離れる。早い時間に出場するのかな……と思い、霧嶋先生が昨日くれた競技日程の紙を見ると……最初の競技が女子400mメドレーリレーのタイム決勝なのか。
風花は俺達のところにやってくる。
「最初の競技が女子400mメドレーリレーなので行ってきますね! ラストの第4組に陽出学院高校が出場します」
「そうなんだ。チームメイトと一緒に頑張れよ、風花」
「頑張ってね、風花ちゃん!」
「応援しているわ、風花ちゃん」
俺が拳にした状態で右手を差し出すと、風花は笑顔でグータッチしてくれる。美優先輩と花柳先輩も俺に続く。
「チームもそうだし、自由形の選手として頑張りなさい、姫宮さん」
「昨日のように泳げればきっと大丈夫だよ、風花ちゃん」
「お母さん、みんなと一緒に応援するからね!」
「父さんも応援しているよ」
「うんっ! ありがとうございます!」
そして、俺達と同じように、風花は健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生の順番でグータッチした。これが少しでも風花の力になったら嬉しい。
風花は一緒にメドレーリレーに出場する生徒と一緒に、観客席を後にする。
そして、午前9時半。
東京都高等学校選手権水泳競技大会の2日目の競技が始まった。
『本日最初の競技は、女子400mメドレーリレーのタイム決勝になります』
予定通り、女子のメドレーリレーからのスタートだ。
霧嶋先生曰く、関東大会に進出できる条件は、昨日の個人メドレーと同じでタイム上位8位であること。ただし、4位から8位までは関東大会の標準タイムであることも条件に加わる。そのタイムは4分56秒15とのこと。
あと、霧嶋先生が進出条件をちゃんと調べていることに、健一さんと由樹さんは感心していた。
メドレーリレーなので学校対抗。
一発勝負で関東大会へ進出できるかどうかが決まる。
だからなのか、最初の競技にもかかわらず観客席はかなり盛り上がっている。学校の体育祭とかでも、リレー競技って盛り上がるよなぁ。
陽出学院高校が出るのは最終第4組だけど、この盛り上がりもあって第3組までのレースも楽しく見られる。見ていると、泳ぐ順番は背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形のようだ。つまり、風花はアンカーなのか。
霧嶋先生が教えてくれた関東大会の標準タイムを突破する高校がいくつもあって。これはかなりハイレベルな戦いになりそうだ。また、スイマーの引き継ぎが上手くいかずに失格となった高校もある。
『続いて、第4組のレースになります。なお、この競技のレースはこれで最後となります』
さあ、いよいよ風花のいる陽出学院高校のレースの時間だ。
第4組のレースに出場する生徒達が続々とプールサイドに現れる。
そして、陽出学院高校の4人も競泳水着姿で登場。俺達はもちろんのこと、水泳部のみんなも「頑張れー」と声を掛ける。風花達4人は俺達に笑顔で手を振りながら、6レーンのスタート台前に向かった。
「いよいよだね、由弦君!」
「そうですね」
「あたしが泳ぐわけじゃないのに、何だか緊張してくるわ……」
「瑠衣ちゃんの気持ち分かるよ。それに、バトンタッチが上手くいかずに失格になった高校もあるしね……」
「競泳でも、リレー競技ではバトンパスが重要だって分かりましたよね」
バトンパスに失敗して失格……という結果にならないことを祈ろう。
タイム決勝第4組は全10校で争われる。
メドレーリレーは背泳ぎからのスタート。なので、各校の第1泳者の選手はプールに入り、スタート台の方に向く。
『Take your marks』
昨日からたくさん聞いているおなじみのアナウンスが流れた後、選手達は壁に取り付けられている取っ手・スターティンググリップを両手で掴み、体をかがめる。
――パンッ!
号砲が鳴り、陽出学院高校の女子の400mメドレーリレーがスタートした!
6レーンを泳ぐ陽出学院高校の生徒は綺麗に蹴伸びする。15mくらいのところで浮き上がり、背泳ぎを始める。全体を見ると……4レーンから7レーンの高校と先頭争いを繰り広げている。
「頑張れー!」
「いいスタートだよー!」
近くに水泳部の生徒達が座っているからか、応援だけでなく、スタートの良さを褒める声も聞こえてくる。
陽出学院高校の生徒が出ているので、昨日と同じように、俺、美優先輩、花柳先輩、霧嶋先生、大宮先生は「頑張れ!」とか「その調子!」と大きな声で声援を送る。また、
「陽出学院頑張ってー!」
と、背後から由樹さんの明るい応援の声が時折聞こえてくる。さすがは母親だけあって、風花と声の雰囲気が似ているな。
それに対して、健一さんは……全然声が聞こえないな。スポーツ観戦するときは静かに見るタイプなのだろうか。
みんなの応援の様子を気にしていたら、第1泳者がスタート台に近づいてきた。依然として、陽出学院高校は先頭争いを繰り広げている。
4レーンから7レーンまでほぼ同着でスタート地点に到着し、第2泳者にバトンパス。
「おおっ、凄い」
バトンパスが行なわれた瞬間、背後から健一さんの声が聞こえた。どうやら、たまには声を出すようだ。
第2泳者は平泳ぎ。
背泳ぎでは4レーンから7レーンまでの4校が先頭争いを繰り広げていたが、ここで陽出学院高校と隣の7レーンの高校が前に出てきた。陽出学院高校にとって最大のライバルは7レーンの高校になりそうか。
7レーンの高校と先頭争いを繰り広げ、ほぼ同じタイミングで150mのターンを行なう。
7レーンの高校の生徒は後半に強いのだろうか。ターンし終わったら、どんどん加速していき、陽出学院高校の生徒と差を広げ始める。そんな展開になったからか、俺達や水泳部の生徒達の応援の声がより大きくなる。また、
「焦らないで! 自分のペースで!」
というアドバイスが、水泳部の生徒達のいる席から聞こえてくる。7レーンの高校には差を広げられているが、それ以外の高校が迫ってくることはなく、2位をしっかりキープできている。だから、今は焦らずに自分のペースで泳ぐのがいいのだろう。
アドバイスが選手に届いたのだろうか。7レーンの生徒とは体1つ以上の差がついてしまったけど、陽出学院高校は2位で第3泳者にバトンパスを行なうことができた。
第3泳者はバタフライ。
陽出学院高校はさっそく、1位の7レーンの高校との差を詰め始めていく。バタフライ担当の選手は自己ベストタイムが速いのだろうか。
「さっそく差を縮めてきたね、由弦君」
「ええ。いい流れですよね」
「……でも、差を縮めてきているのはうちだけじゃないわ。4レーンの子もかなり速い」
花柳先輩が真剣な様子でそう言うので、4レーンの高校の子を見てみると……かなり速いな。今は7レーンの高校、陽出学院高校に続いて3位で泳いでいる。このペースだと、バタフライの間に4レーンの高校に逆転されてしまうかもしれない。
先頭の7レーンの高校と体半分ほどの差で、陽出学院高校は2位で250mのターンをする。
陽出学院高校の生徒はペースを崩すことなく泳ぎ、ターンをしてすぐに7レーンの高校に追いつき、そのまま1位に躍り出た。7レーンの高校との差を広げ始める。
ただ、バタフライを速く泳ぐのは陽出学院高校だけではない。
4レーンの高校が物凄い速さで泳いでおり、7レーンの生徒を追い抜き、陽出学院高校にも迫ってきている。まさに猛追だ。
第3泳者の生徒がスタート地点に近づいてきたため、アンカーの風花がスタート台に立つ。
4レーンの高校の猛追があったけど、体1つ近い差を付けて、陽出学院高校は先頭でアンカーの風花にバトンが渡った!
第3泳者がスタート地点の壁に触れた瞬間、風花はスタート台から勢い良く飛び込む。15m近く潜った後、風花はクロールで泳ぎ始める。
最後の第4泳者は自由形。ルール上、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ以外の泳ぎ方であれば何でもいいことになっているそうだけど、全員クロールで泳いでいる。
どの高校もアンカーになったからか、観客席がより一層盛り上がっている。
「風花、頑張れ!」
「頑張って、風花ちゃーん!」
「昨日と同じように泳げばいいんだよ! 風花ちゃん!」
「姫宮さん! あなたなら大丈夫よ! 自分を信じて!」
「いい泳ぎができているよ、風花ちゃん!」
昨日から観戦している俺達はもちろんのこと、
「風花! いいぞ!」
「その調子よ! ふうかー!」
両親の健一さんと由樹さんも大きな声で風花を応援する。さすがに、娘が泳いでいると健一さんも力のこもった声を出すんだな。
さすがに得意な泳法だけあって、風花のクロールはとても速い。バタフライで猛追していた4レーンの高校との差を再び広げている。
2位の4レーンの高校の選手とは体1つ以上の差を付け、風花は先頭で350mのターンを行なう。
2位以下の高校とは結構な差が付いているけど、最後のターンをしたので、俺達も水泳部もみんなも盛り上がる。
そして、6レーンのスタート台近くには、水泳帽やゴーグルを外した第1泳者から第3泳者の3人が風花のことを待っている。声を掛けたり、両手で大きく手招きしていたり。リレーならではのいい光景だと思う。
風花はペースを崩すことなく、このレース1位でゴールした! タイムは4分25秒33!
『やったー!』
風花がゴールした瞬間、俺達の座っているエリアでは多くの人からそんな声が発せられる。昨日の個人メドレーのときのように、俺と美優先輩は抱きしめ合い、美優先輩の後ろから花柳先輩が抱きしめる形に。
後ろの列を見ると、健一さんと由樹さんが、霧嶋先生と大宮先生がそれぞれ抱きしめ合っている。みんな嬉しそうだけど、健一さんは目に涙を浮かべており、霧嶋先生は涙をポロポロと流していた。
「風花が1位でゴールしたな、由樹……」
「そうね、あなた。風花はよくやったわ」
「ああ……」
目から一筋の涙を流す健一さんの頭を由樹さんは微笑みながら撫でている。個人的には逆のイメージがあったので意外だ。
プールサイドの方を見ると、陽出学院高校の4人が嬉しそうな笑顔でこちらに向けて手を振っていた。俺達はそんな4人に「おめでとう!」と言って大きく手を振った。
その後、電光掲示板に全チームの結果が表示され、陽出学院高校は全体のタイム1位となり、関東大会進出の切符を手にした。
最初の種目で、しかもチーム競技で関東大会に進出を決められたので、風花はもちろんのこと、陽出学院高校にとってもいいスタートを切れたんじゃないだろうか。
それから15分ほど経って、メドレーリレーに出た4人が観客席に戻ってくる。全体1位&関東大会進出を決めたので、水泳部のみんなはとても喜んだ様子でハイタッチしている。
そして、ハイタッチタイムが終わると、風花が俺達のところにやってくる。
「1位になって、関東大会の出場を決められました! 応援ありがとうございます!」
とても嬉しそうな様子で、風花はそう報告してくれた。そんな風花に俺達7人は、
『おめでとう!』
と言ってハイタッチする。7人の中では俺が最初にハイタッチしたけど、風花の手はとても温かくて。
また、健一さんは頭を撫で、由樹さんはぎゅっと抱きしめていて。自由形が終わった後にも、またこういう光景を見たいと思うのであった。
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2026.1.21)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。