管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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特別編7

第5話『風花の戦い②-女子400mメドレーリレー-』

 風花と少し話した後、俺達は風花と別れる。
 昨日と同じく、俺達は陽出学院高校水泳部の後方の席に座ろうとするけど……さすがに7席連続で空いている所はない。なので、俺、美優先輩、花柳先輩が同じ列に座り、後ろの列に健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生が座る形に。
 周りを見てみると……昨日より人が多いな。健一さんや由樹さんのように、昨日は用事があって来られなかったけど、今日なら来られるという人が多いのだろうか。あと、今日が日曜日なのも一因かもしれない。
 それから少しすると、風花を含めた4人の生徒が立ち上がり、荷物を持って水泳部の生徒のいるエリアから離れる。早い時間に出場するのかな……と思い、霧嶋先生が昨日くれた競技日程の紙を見ると……最初の競技が女子400mメドレーリレーのタイム決勝なのか。
 風花は俺達のところにやってくる。

「最初の競技が女子400mメドレーリレーなので行ってきますね! ラストの第4組に陽出学院高校が出場します」
「そうなんだ。チームメイトと一緒に頑張れよ、風花」
「頑張ってね、風花ちゃん!」
「応援しているわ、風花ちゃん」

 俺が拳にした状態で右手を差し出すと、風花は笑顔でグータッチしてくれる。美優先輩と花柳先輩も俺に続く。

「チームもそうだし、自由形の選手として頑張りなさい、姫宮さん」
「昨日のように泳げればきっと大丈夫だよ、風花ちゃん」
「お母さん、みんなと一緒に応援するからね!」
「父さんも応援しているよ」
「うんっ! ありがとうございます!」

 そして、俺達と同じように、風花は健一さん、由樹さん、霧嶋先生、大宮先生の順番でグータッチした。これが少しでも風花の力になったら嬉しい。
 風花は一緒にメドレーリレーに出場する生徒と一緒に、観客席を後にする。
 そして、午前9時半。
 東京都高等学校選手権水泳競技大会の2日目の競技が始まった。

『本日最初の競技は、女子400mメドレーリレーのタイム決勝になります』

 予定通り、女子のメドレーリレーからのスタートだ。
 霧嶋先生曰く、関東大会に進出できる条件は、昨日の個人メドレーと同じでタイム上位8位であること。ただし、4位から8位までは関東大会の標準タイムであることも条件に加わる。そのタイムは4分56秒15とのこと。
 あと、霧嶋先生が進出条件をちゃんと調べていることに、健一さんと由樹さんは感心していた。
 メドレーリレーなので学校対抗。
 一発勝負で関東大会へ進出できるかどうかが決まる。
 だからなのか、最初の競技にもかかわらず観客席はかなり盛り上がっている。学校の体育祭とかでも、リレー競技って盛り上がるよなぁ。
 陽出学院高校が出るのは最終第4組だけど、この盛り上がりもあって第3組までのレースも楽しく見られる。見ていると、泳ぐ順番は背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形のようだ。つまり、風花はアンカーなのか。
 霧嶋先生が教えてくれた関東大会の標準タイムを突破する高校がいくつもあって。これはかなりハイレベルな戦いになりそうだ。また、スイマーの引き継ぎが上手くいかずに失格となった高校もある。

『続いて、第4組のレースになります。なお、この競技のレースはこれで最後となります』

 さあ、いよいよ風花のいる陽出学院高校のレースの時間だ。
 第4組のレースに出場する生徒達が続々とプールサイドに現れる。
 そして、陽出学院高校の4人も競泳水着姿で登場。俺達はもちろんのこと、水泳部のみんなも「頑張れー」と声を掛ける。風花達4人は俺達に笑顔で手を振りながら、6レーンのスタート台前に向かった。

「いよいよだね、由弦君!」
「そうですね」
「あたしが泳ぐわけじゃないのに、何だか緊張してくるわ……」
「瑠衣ちゃんの気持ち分かるよ。それに、バトンタッチが上手くいかずに失格になった高校もあるしね……」
「競泳でも、リレー競技ではバトンパスが重要だって分かりましたよね」

 バトンパスに失敗して失格……という結果にならないことを祈ろう。
 タイム決勝第4組は全10校で争われる。
 メドレーリレーは背泳ぎからのスタート。なので、各校の第1泳者の選手はプールに入り、スタート台の方に向く。

『Take your marks』

 昨日からたくさん聞いているおなじみのアナウンスが流れた後、選手達は壁に取り付けられている取っ手・スターティンググリップを両手で掴み、体をかがめる。
 ――パンッ!
 号砲が鳴り、陽出学院高校の女子の400mメドレーリレーがスタートした!
 6レーンを泳ぐ陽出学院高校の生徒は綺麗に蹴伸びする。15mくらいのところで浮き上がり、背泳ぎを始める。全体を見ると……4レーンから7レーンの高校と先頭争いを繰り広げている。

「頑張れー!」
「いいスタートだよー!」

 近くに水泳部の生徒達が座っているからか、応援だけでなく、スタートの良さを褒める声も聞こえてくる。
 陽出学院高校の生徒が出ているので、昨日と同じように、俺、美優先輩、花柳先輩、霧嶋先生、大宮先生は「頑張れ!」とか「その調子!」と大きな声で声援を送る。また、

「陽出学院頑張ってー!」

 と、背後から由樹さんの明るい応援の声が時折聞こえてくる。さすがは母親だけあって、風花と声の雰囲気が似ているな。
 それに対して、健一さんは……全然声が聞こえないな。スポーツ観戦するときは静かに見るタイプなのだろうか。
 みんなの応援の様子を気にしていたら、第1泳者がスタート台に近づいてきた。依然として、陽出学院高校は先頭争いを繰り広げている。
 4レーンから7レーンまでほぼ同着でスタート地点に到着し、第2泳者にバトンパス。

「おおっ、凄い」

 バトンパスが行なわれた瞬間、背後から健一さんの声が聞こえた。どうやら、たまには声を出すようだ。
 第2泳者は平泳ぎ。
 背泳ぎでは4レーンから7レーンまでの4校が先頭争いを繰り広げていたが、ここで陽出学院高校と隣の7レーンの高校が前に出てきた。陽出学院高校にとって最大のライバルは7レーンの高校になりそうか。
 7レーンの高校と先頭争いを繰り広げ、ほぼ同じタイミングで150mのターンを行なう。
 7レーンの高校の生徒は後半に強いのだろうか。ターンし終わったら、どんどん加速していき、陽出学院高校の生徒と差を広げ始める。そんな展開になったからか、俺達や水泳部の生徒達の応援の声がより大きくなる。また、

「焦らないで! 自分のペースで!」

 というアドバイスが、水泳部の生徒達のいる席から聞こえてくる。7レーンの高校には差を広げられているが、それ以外の高校が迫ってくることはなく、2位をしっかりキープできている。だから、今は焦らずに自分のペースで泳ぐのがいいのだろう。
 アドバイスが選手に届いたのだろうか。7レーンの生徒とは体1つ以上の差がついてしまったけど、陽出学院高校は2位で第3泳者にバトンパスを行なうことができた。
 第3泳者はバタフライ。
 陽出学院高校はさっそく、1位の7レーンの高校との差を詰め始めていく。バタフライ担当の選手は自己ベストタイムが速いのだろうか。

「さっそく差を縮めてきたね、由弦君」
「ええ。いい流れですよね」
「……でも、差を縮めてきているのはうちだけじゃないわ。4レーンの子もかなり速い」

 花柳先輩が真剣な様子でそう言うので、4レーンの高校の子を見てみると……かなり速いな。今は7レーンの高校、陽出学院高校に続いて3位で泳いでいる。このペースだと、バタフライの間に4レーンの高校に逆転されてしまうかもしれない。
 先頭の7レーンの高校と体半分ほどの差で、陽出学院高校は2位で250mのターンをする。
 陽出学院高校の生徒はペースを崩すことなく泳ぎ、ターンをしてすぐに7レーンの高校に追いつき、そのまま1位に躍り出た。7レーンの高校との差を広げ始める。
 ただ、バタフライを速く泳ぐのは陽出学院高校だけではない。
 4レーンの高校が物凄い速さで泳いでおり、7レーンの生徒を追い抜き、陽出学院高校にも迫ってきている。まさに猛追だ。
 第3泳者の生徒がスタート地点に近づいてきたため、アンカーの風花がスタート台に立つ。
 4レーンの高校の猛追があったけど、体1つ近い差を付けて、陽出学院高校は先頭でアンカーの風花にバトンが渡った!
 第3泳者がスタート地点の壁に触れた瞬間、風花はスタート台から勢い良く飛び込む。15m近く潜った後、風花はクロールで泳ぎ始める。
 最後の第4泳者は自由形。ルール上、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ以外の泳ぎ方であれば何でもいいことになっているそうだけど、全員クロールで泳いでいる。
 どの高校もアンカーになったからか、観客席がより一層盛り上がっている。

「風花、頑張れ!」
「頑張って、風花ちゃーん!」
「昨日と同じように泳げばいいんだよ! 風花ちゃん!」
「姫宮さん! あなたなら大丈夫よ! 自分を信じて!」
「いい泳ぎができているよ、風花ちゃん!」

 昨日から観戦している俺達はもちろんのこと、

「風花! いいぞ!」
「その調子よ! ふうかー!」

 両親の健一さんと由樹さんも大きな声で風花を応援する。さすがに、娘が泳いでいると健一さんも力のこもった声を出すんだな。
 さすがに得意な泳法だけあって、風花のクロールはとても速い。バタフライで猛追していた4レーンの高校との差を再び広げている。
 2位の4レーンの高校の選手とは体1つ以上の差を付け、風花は先頭で350mのターンを行なう。
 2位以下の高校とは結構な差が付いているけど、最後のターンをしたので、俺達も水泳部もみんなも盛り上がる。
 そして、6レーンのスタート台近くには、水泳帽やゴーグルを外した第1泳者から第3泳者の3人が風花のことを待っている。声を掛けたり、両手で大きく手招きしていたり。リレーならではのいい光景だと思う。
 風花はペースを崩すことなく、このレース1位でゴールした! タイムは4分25秒33!

『やったー!』

 風花がゴールした瞬間、俺達の座っているエリアでは多くの人からそんな声が発せられる。昨日の個人メドレーのときのように、俺と美優先輩は抱きしめ合い、美優先輩の後ろから花柳先輩が抱きしめる形に。
 後ろの列を見ると、健一さんと由樹さんが、霧嶋先生と大宮先生がそれぞれ抱きしめ合っている。みんな嬉しそうだけど、健一さんは目に涙を浮かべており、霧嶋先生は涙をポロポロと流していた。

「風花が1位でゴールしたな、由樹……」
「そうね、あなた。風花はよくやったわ」
「ああ……」

 目から一筋の涙を流す健一さんの頭を由樹さんは微笑みながら撫でている。個人的には逆のイメージがあったので意外だ。
 プールサイドの方を見ると、陽出学院高校の4人が嬉しそうな笑顔でこちらに向けて手を振っていた。俺達はそんな4人に「おめでとう!」と言って大きく手を振った。
 その後、電光掲示板に全チームの結果が表示され、陽出学院高校は全体のタイム1位となり、関東大会進出の切符を手にした。
 最初の種目で、しかもチーム競技で関東大会に進出を決められたので、風花はもちろんのこと、陽出学院高校にとってもいいスタートを切れたんじゃないだろうか。
 それから15分ほど経って、メドレーリレーに出た4人が観客席に戻ってくる。全体1位&関東大会進出を決めたので、水泳部のみんなはとても喜んだ様子でハイタッチしている。
 そして、ハイタッチタイムが終わると、風花が俺達のところにやってくる。

「1位になって、関東大会の出場を決められました! 応援ありがとうございます!」

 とても嬉しそうな様子で、風花はそう報告してくれた。そんな風花に俺達7人は、

『おめでとう!』

 と言ってハイタッチする。7人の中では俺が最初にハイタッチしたけど、風花の手はとても温かくて。
 また、健一さんは頭を撫で、由樹さんはぎゅっと抱きしめていて。自由形が終わった後にも、またこういう光景を見たいと思うのであった。
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