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特別編8
第6話『七夕の準備』
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7月1日から5日間かけて、1学期の期末試験が実施された。俺や風花など1年生にとっては高校最初の期末試験だ。
部活動の禁止期間になってから毎日、美優先輩や風花達と一緒に勉強したこともあり、どの教科も手応えがあった。家庭科や保健、選択芸術の音楽といった期末で初めて試験が実施された教科もちゃんとできた。これなら、中間試験と同じくらいの点数を取り、来年度も特待生に選出されるのも大丈夫そうな気がする。
美優先輩も全ての教科について結構できたようだ。さすがである。
風花、花柳先輩、加藤、橋本さんも勉強会のおかげで何とか乗り越えられたらしい。苦手な科目についても、とりあえずは赤点の心配はなさそうとのこと。実際に赤点回避になると願おう。
7月6日、土曜日。
期末試験明けであること。この先、終業式の日まで基本的にお昼に下校すること。その日程が2週間ほど続いたら、高校最初の夏休みに突入すること。明日は七夕そうめんパーティーがあること。それらのことで、いつも以上に開放的な気分になれている土曜日だ。
朝食後。俺は美優先輩と自分の分のコーヒーを淹れ、ソファーでくつろいでいる。自分のアイスコーヒーを一口飲むと……うん、美味しくできている。勉強中に飲むコーヒーもいいけど、今のようにゆっくりしているときに飲むコーヒーも凄くいい。
「後片付け終わったよ」
「ありがとうございます。お疲れ様でした。美優先輩の分のアイスコーヒーを淹れました。ちゃんと砂糖を入れてあります」
「ありがとう、由弦君」
嬉しそうに言うと、美優先輩は俺のすぐ隣に腰を下ろし、自分のアイスコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい。苦味と甘味のバランスがちょうどいいね。本当に由弦君はコーヒーを作るのが上手だよね」
「ありがとうございます。先輩に美味しいって言ってもらえて嬉しいです」
俺がそう言うと、美優先輩は「ふふっ」と上品に笑い、アイスコーヒーをもう一口。そんな先輩がとても大人っぽく見える。先輩の服装が、デニムパンツとノースリーブの縦ニットだからなのも大人っぽい理由の一つかも。そんな先輩を見ながら、俺もアイスコーヒーを一口。……さっきよりも旨みが増した気がする。
「由弦君。何だかいつも以上にまったりしてるね」
「期末試験が終わりましたからね。あと2週間くらいで夏休みですし。それに、明日はそうめんパーティーもありますから、開放感に凄く浸れているんです」
「ふふっ、そうなんだ。私もいつも以上にいい気分で土曜日を迎えられたよ。試験が終わったし、明日はそうめんパーティーがあるし。それに……もうすぐ夏休みで、由弦君と一緒にいられる時間が多くなるから。凄く楽しみなの」
俺にニコッと笑いかけながらそう言う美優先輩。そんな先輩がとても可愛くて。先輩の言葉が嬉しくて。俺は自然と先輩に顔を近づけ、キスする。
美優先輩と唇が重なった瞬間、先輩の匂いとコーヒーの香りが同時に香ってきて。先輩の唇から、甘味のあるコーヒーの味がほのかに感じられて。その味は自分のコーヒーよりも断然美味しくて。
自分からそっと唇を離すと、目の前には恍惚とした表情で俺を見つめる美優先輩が。
「俺も美優先輩と一緒に過ごす夏休みが楽しみです」
「嬉しいっ。一緒に夏休みを楽しく過ごそうね」
「はい」
恋人ができて、しかも同棲している状況で夏休みを迎えるのは今年が初めてだ。きっと、今年が一番楽しい夏休みになるだろう。
それからは、朝食後の食休みを兼ねて、アイスコーヒーを飲みながら昨日の深夜に録画したアニメを観る。お互いに原作漫画を読んだことのあるアニメなので、美優先輩とたくさん喋りながら。
「面白かったですね」
「うんっ! 絵柄も声も合っていたし、来週以降も楽しみだよ」
「そうですね」
「……じゃあ、食休みもできたから、笹を外に出して飾り付けをしようか」
「はい。やりましょう」
何日か前に美優先輩から教えてもらったけど、あけぼの荘に飾る笹は造花。短冊や吹き流し、網飾りといった飾り付けのものと一緒に、201号室の横の倉庫にしまわれているとのこと。
俺と美優先輩は101号室を出る。
今の天気は曇り。ただ、エアコンのかかったリビングにいたから、陽差しはなくても結構蒸し暑く感じる。
「暑いですね……」
「そうだねぇ。7月に入ってから一週間くらい経つもんね。あと、この週末は雨が降らない予報だから運がいいよね」
「そうですね。昨日の夜まで雨が降り続きましたし。予報だと、また雨が降り出すのは明日の夜遅くですもんね」
そのため、現段階では予定通りに七夕そうめんパーティーを開催するつもりだ。天気予報が悪い方に外れないことを祈る。
階段で2階に上がり、201号室の横にある倉庫の中へ。
倉庫の中は結構広く、あけぼの荘関連の備品が色々置かれている。
端の方に、青々とした造花の笹が。笹はスタンドに刺さっており、俺の身長よりも高い。パッと見たところ2m以上はあるかな。
「こうして目の前で見ると、綺麗で立派な笹ですね。一目見ただけでは造花だとは分かりませんね」
「そうだね。この笹はあけぼの荘が今の建物になって、伯父夫婦が管理するようになった年の夏に買ったらしいの。だから、もう10年くらい経つかな」
「10年ものの笹ですか。造花ですし、室内に閉まってありますから、今もこうして綺麗なんでしょうね」
「そうだね。えっと、笹に飾るものは確か、この段ボールに入っていたかな……」
そう言って、笹の近くにある段ボールの蓋を開ける。
中にはいくつものビニール袋が。その袋を一つ一つ確認してみると、吹き流しや網飾り、紙衣などといった七夕飾りにはおなじみのものが入っている。まだ飾っていないけど、こういうものを見るだけで七夕気分になってくるなぁ。
「あっ、この袋には短冊が入っていますね。結構入っているんで、明日のパーティーでは余裕で足りそうですね」
「そうだね。実はその短冊……去年の七夕の前に駅前のショッピングセンターで買ったの。次の年以降もパーティーをするだろうからって多めにね」
「そうだったんですね」
何十枚もあるし、少なくとも俺の高校在学中はこの袋に入っている短冊で足りそうだ。
「じゃあ、この段ボールと笹を外に出して、飾り付けをしようか」
「分かりました。では、俺が外に出しますね」
「うん、お願いします」
俺は倉庫から七夕飾りの入った段ボールと造花の笹を外に出し、アパートの玄関近くまで運んでいく。どちらもそんなに重くないけど、蒸し暑い中でやっているのでちょっとした労働気分だ。
「ありがとう、由弦君。それじゃあ、飾り付けを始めようか」
「はい。ただ、どんな風に飾っていきましょう?」
「スマホに去年の笹の写真があるから、それを見てみる?」
「見てみたいです」
「分かった」
美優先輩はそう言うと、デニムパンツのポケットからスマホを取り出す。微笑みながらスマホを操作している先輩を見ていると、何だか大学生っぽく見えてくる。
「あった。これが去年の七夕に飾った笹だよ」
そう言い、美優先輩は俺にスマホの画面を見せてくる。画面には吹き流しや網飾りなどの七夕飾りが飾られた笹が映っている。上から下まで笹の葉部分に満遍なく飾られているな。あと、七夕飾りの色がカラフルなため、綺麗で華やかな印象だ。
「綺麗に飾られていますね」
「嬉しいな。去年は初めてやったから、私と伯父夫婦で飾り付けをしたの」
「そうだったんですか。カラフルで綺麗です。華やかさもあって」
「ありがとう。去年のパーティーでは、あけぼの荘に住むみんなや瑠衣ちゃん、大宮先生が綺麗だって言ってくれたなぁ。今年もこの写真みたいな感じで飾ろうか」
「ええ、そうしましょう。写真のような笹を生で見てみたいですし」
「決定だね。……でも、去年みたいに飾るなら、脚立を持ってきた方がいいかな。上の方まで飾るから。去年も脚立に乗って飾ったし」
「……ちょっと待ってください。この高さなら……」
俺は笹の側に立ち、右腕を上げてみる。軽く背伸びもして、一番上にある笹に軽く触った。
「ほら。腕を上げて、軽く背伸びすれば一番上まで届きますよ」
「凄いね!」
明るい笑顔になり、普段よりも高めの声でそう言ってくれる美優先輩。軽くだけど拍手までしているし。ここまでの反応をされるとは思わなかったな。
「由弦君が届くから、上の方の飾り付けは由弦君にお願いしてもいいかな?」
「分かりました」
「じゃあ、始めようか」
「はい」
美優先輩と俺は造花の笹に七夕の飾り付けをしていく。
さっき見せてもらった写真を思い出しながら、俺は上の方にある笹の葉に、吹き流しなど大きめのものを中心に飾っていく。
こうして、笹に七夕の飾りを付けるのはいつ以来だろう? 地元で七夕祭りが開催されるから、短冊については去年まで毎年会場にある笹に飾っていた。
「上の方の飾り付けも順調だね、由弦君」
「ええ。背伸びも軽くすればいいですし、さっき写真を見せてもらいましたから」
「そっか。引き続きよろしくね」
「はい」
「……それにしても、まさか恋人と一緒に笹の七夕飾りをするなんて。去年、飾り付けをしているときには想像もしなかったよ。管理人としてここに住んでいる間は、毎年七夕飾りをするだろうとは思っていたけど。去年の私に教えても信じてくれないかも」
「ははっ、そうですか。俺も想像していませんでした。きっと、俺の方も……今の状況を話したら信じてくれないでしょうね。ただ、陽出学院に合格することには喜んでいるかも」
「受験生だもんね」
ふふっ、と楽しそうに笑いながら、美優先輩は持っている網飾りを笹に飾り付ける。
「でも、来年と再来年も……私達がここに住んでいる限りは、こうして由弦君と一緒に七夕飾りをするんだろうなって思うよ」
優しい声色でそう言い、美優先輩は俺のことを見つめる。そんな先輩と目が合うと、頬が緩んでいくのが分かった。
「実際にそうなるように頑張りましょうね」
「そうだねっ。約束だよ」
美優先輩は俺のすぐ側まで近づき、背伸びをして俺にキスしてきた。誓いのキスってことかな。蒸し暑い中で飾り付けをして、ちょっと汗も掻くほどだけど、先輩の唇から伝わってくる温もりは優しく心地良くて。いつまでも感じていたいほどだ。
数秒ほどして、美優先輩の方から唇を離す。さっきまでとは違い、先輩の笑顔がほんのりと赤らんでいた。
それからも、俺達は七夕の飾り付けをしていき、
「このくらいでいいんじゃないかな」
段ボールに入っている大半の七夕飾りを笹に飾ったとき、美優先輩はそう言った。
何歩か下がって、美優先輩と一緒に飾り付けた笹を見てみると……うん、あの写真に映っていたような笹のように、結構綺麗に飾られている。
「いい感じに飾れましたね」
「そうだね。じゃあ、飾るのはこれで終わりにしようか」
「はい。お疲れ様でした、美優先輩」
「由弦君もお疲れ様。最初から役割分担したし、去年よりも早く終わったよ。ありがとう」
「いえいえ。先輩と飾り付けするの楽しかったです」
「そう言ってくれて良かった。じゃあ、今年も笹の写真を撮ろうっと。由弦君にもLIMEで送るね」
「ありがとうございます」
それから、美優先輩は飾り付けをした笹の写真を撮影する。撮った写真を見ているときの先輩はとても嬉しそうで。また、先輩のお願いで、笹の隣に俺が立つ写真や、笹をバックに先輩とのツーショット写真も撮影した。
笹の飾り付けも終わり、そうめんパーティーで必要な材料は昨日の放課後に買った。あとは明日、開催の時間が近づいたら、会場のセッティングをしたり、そうめんや具材の準備をしたりしよう。
部活動の禁止期間になってから毎日、美優先輩や風花達と一緒に勉強したこともあり、どの教科も手応えがあった。家庭科や保健、選択芸術の音楽といった期末で初めて試験が実施された教科もちゃんとできた。これなら、中間試験と同じくらいの点数を取り、来年度も特待生に選出されるのも大丈夫そうな気がする。
美優先輩も全ての教科について結構できたようだ。さすがである。
風花、花柳先輩、加藤、橋本さんも勉強会のおかげで何とか乗り越えられたらしい。苦手な科目についても、とりあえずは赤点の心配はなさそうとのこと。実際に赤点回避になると願おう。
7月6日、土曜日。
期末試験明けであること。この先、終業式の日まで基本的にお昼に下校すること。その日程が2週間ほど続いたら、高校最初の夏休みに突入すること。明日は七夕そうめんパーティーがあること。それらのことで、いつも以上に開放的な気分になれている土曜日だ。
朝食後。俺は美優先輩と自分の分のコーヒーを淹れ、ソファーでくつろいでいる。自分のアイスコーヒーを一口飲むと……うん、美味しくできている。勉強中に飲むコーヒーもいいけど、今のようにゆっくりしているときに飲むコーヒーも凄くいい。
「後片付け終わったよ」
「ありがとうございます。お疲れ様でした。美優先輩の分のアイスコーヒーを淹れました。ちゃんと砂糖を入れてあります」
「ありがとう、由弦君」
嬉しそうに言うと、美優先輩は俺のすぐ隣に腰を下ろし、自分のアイスコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい。苦味と甘味のバランスがちょうどいいね。本当に由弦君はコーヒーを作るのが上手だよね」
「ありがとうございます。先輩に美味しいって言ってもらえて嬉しいです」
俺がそう言うと、美優先輩は「ふふっ」と上品に笑い、アイスコーヒーをもう一口。そんな先輩がとても大人っぽく見える。先輩の服装が、デニムパンツとノースリーブの縦ニットだからなのも大人っぽい理由の一つかも。そんな先輩を見ながら、俺もアイスコーヒーを一口。……さっきよりも旨みが増した気がする。
「由弦君。何だかいつも以上にまったりしてるね」
「期末試験が終わりましたからね。あと2週間くらいで夏休みですし。それに、明日はそうめんパーティーもありますから、開放感に凄く浸れているんです」
「ふふっ、そうなんだ。私もいつも以上にいい気分で土曜日を迎えられたよ。試験が終わったし、明日はそうめんパーティーがあるし。それに……もうすぐ夏休みで、由弦君と一緒にいられる時間が多くなるから。凄く楽しみなの」
俺にニコッと笑いかけながらそう言う美優先輩。そんな先輩がとても可愛くて。先輩の言葉が嬉しくて。俺は自然と先輩に顔を近づけ、キスする。
美優先輩と唇が重なった瞬間、先輩の匂いとコーヒーの香りが同時に香ってきて。先輩の唇から、甘味のあるコーヒーの味がほのかに感じられて。その味は自分のコーヒーよりも断然美味しくて。
自分からそっと唇を離すと、目の前には恍惚とした表情で俺を見つめる美優先輩が。
「俺も美優先輩と一緒に過ごす夏休みが楽しみです」
「嬉しいっ。一緒に夏休みを楽しく過ごそうね」
「はい」
恋人ができて、しかも同棲している状況で夏休みを迎えるのは今年が初めてだ。きっと、今年が一番楽しい夏休みになるだろう。
それからは、朝食後の食休みを兼ねて、アイスコーヒーを飲みながら昨日の深夜に録画したアニメを観る。お互いに原作漫画を読んだことのあるアニメなので、美優先輩とたくさん喋りながら。
「面白かったですね」
「うんっ! 絵柄も声も合っていたし、来週以降も楽しみだよ」
「そうですね」
「……じゃあ、食休みもできたから、笹を外に出して飾り付けをしようか」
「はい。やりましょう」
何日か前に美優先輩から教えてもらったけど、あけぼの荘に飾る笹は造花。短冊や吹き流し、網飾りといった飾り付けのものと一緒に、201号室の横の倉庫にしまわれているとのこと。
俺と美優先輩は101号室を出る。
今の天気は曇り。ただ、エアコンのかかったリビングにいたから、陽差しはなくても結構蒸し暑く感じる。
「暑いですね……」
「そうだねぇ。7月に入ってから一週間くらい経つもんね。あと、この週末は雨が降らない予報だから運がいいよね」
「そうですね。昨日の夜まで雨が降り続きましたし。予報だと、また雨が降り出すのは明日の夜遅くですもんね」
そのため、現段階では予定通りに七夕そうめんパーティーを開催するつもりだ。天気予報が悪い方に外れないことを祈る。
階段で2階に上がり、201号室の横にある倉庫の中へ。
倉庫の中は結構広く、あけぼの荘関連の備品が色々置かれている。
端の方に、青々とした造花の笹が。笹はスタンドに刺さっており、俺の身長よりも高い。パッと見たところ2m以上はあるかな。
「こうして目の前で見ると、綺麗で立派な笹ですね。一目見ただけでは造花だとは分かりませんね」
「そうだね。この笹はあけぼの荘が今の建物になって、伯父夫婦が管理するようになった年の夏に買ったらしいの。だから、もう10年くらい経つかな」
「10年ものの笹ですか。造花ですし、室内に閉まってありますから、今もこうして綺麗なんでしょうね」
「そうだね。えっと、笹に飾るものは確か、この段ボールに入っていたかな……」
そう言って、笹の近くにある段ボールの蓋を開ける。
中にはいくつものビニール袋が。その袋を一つ一つ確認してみると、吹き流しや網飾り、紙衣などといった七夕飾りにはおなじみのものが入っている。まだ飾っていないけど、こういうものを見るだけで七夕気分になってくるなぁ。
「あっ、この袋には短冊が入っていますね。結構入っているんで、明日のパーティーでは余裕で足りそうですね」
「そうだね。実はその短冊……去年の七夕の前に駅前のショッピングセンターで買ったの。次の年以降もパーティーをするだろうからって多めにね」
「そうだったんですね」
何十枚もあるし、少なくとも俺の高校在学中はこの袋に入っている短冊で足りそうだ。
「じゃあ、この段ボールと笹を外に出して、飾り付けをしようか」
「分かりました。では、俺が外に出しますね」
「うん、お願いします」
俺は倉庫から七夕飾りの入った段ボールと造花の笹を外に出し、アパートの玄関近くまで運んでいく。どちらもそんなに重くないけど、蒸し暑い中でやっているのでちょっとした労働気分だ。
「ありがとう、由弦君。それじゃあ、飾り付けを始めようか」
「はい。ただ、どんな風に飾っていきましょう?」
「スマホに去年の笹の写真があるから、それを見てみる?」
「見てみたいです」
「分かった」
美優先輩はそう言うと、デニムパンツのポケットからスマホを取り出す。微笑みながらスマホを操作している先輩を見ていると、何だか大学生っぽく見えてくる。
「あった。これが去年の七夕に飾った笹だよ」
そう言い、美優先輩は俺にスマホの画面を見せてくる。画面には吹き流しや網飾りなどの七夕飾りが飾られた笹が映っている。上から下まで笹の葉部分に満遍なく飾られているな。あと、七夕飾りの色がカラフルなため、綺麗で華やかな印象だ。
「綺麗に飾られていますね」
「嬉しいな。去年は初めてやったから、私と伯父夫婦で飾り付けをしたの」
「そうだったんですか。カラフルで綺麗です。華やかさもあって」
「ありがとう。去年のパーティーでは、あけぼの荘に住むみんなや瑠衣ちゃん、大宮先生が綺麗だって言ってくれたなぁ。今年もこの写真みたいな感じで飾ろうか」
「ええ、そうしましょう。写真のような笹を生で見てみたいですし」
「決定だね。……でも、去年みたいに飾るなら、脚立を持ってきた方がいいかな。上の方まで飾るから。去年も脚立に乗って飾ったし」
「……ちょっと待ってください。この高さなら……」
俺は笹の側に立ち、右腕を上げてみる。軽く背伸びもして、一番上にある笹に軽く触った。
「ほら。腕を上げて、軽く背伸びすれば一番上まで届きますよ」
「凄いね!」
明るい笑顔になり、普段よりも高めの声でそう言ってくれる美優先輩。軽くだけど拍手までしているし。ここまでの反応をされるとは思わなかったな。
「由弦君が届くから、上の方の飾り付けは由弦君にお願いしてもいいかな?」
「分かりました」
「じゃあ、始めようか」
「はい」
美優先輩と俺は造花の笹に七夕の飾り付けをしていく。
さっき見せてもらった写真を思い出しながら、俺は上の方にある笹の葉に、吹き流しなど大きめのものを中心に飾っていく。
こうして、笹に七夕の飾りを付けるのはいつ以来だろう? 地元で七夕祭りが開催されるから、短冊については去年まで毎年会場にある笹に飾っていた。
「上の方の飾り付けも順調だね、由弦君」
「ええ。背伸びも軽くすればいいですし、さっき写真を見せてもらいましたから」
「そっか。引き続きよろしくね」
「はい」
「……それにしても、まさか恋人と一緒に笹の七夕飾りをするなんて。去年、飾り付けをしているときには想像もしなかったよ。管理人としてここに住んでいる間は、毎年七夕飾りをするだろうとは思っていたけど。去年の私に教えても信じてくれないかも」
「ははっ、そうですか。俺も想像していませんでした。きっと、俺の方も……今の状況を話したら信じてくれないでしょうね。ただ、陽出学院に合格することには喜んでいるかも」
「受験生だもんね」
ふふっ、と楽しそうに笑いながら、美優先輩は持っている網飾りを笹に飾り付ける。
「でも、来年と再来年も……私達がここに住んでいる限りは、こうして由弦君と一緒に七夕飾りをするんだろうなって思うよ」
優しい声色でそう言い、美優先輩は俺のことを見つめる。そんな先輩と目が合うと、頬が緩んでいくのが分かった。
「実際にそうなるように頑張りましょうね」
「そうだねっ。約束だよ」
美優先輩は俺のすぐ側まで近づき、背伸びをして俺にキスしてきた。誓いのキスってことかな。蒸し暑い中で飾り付けをして、ちょっと汗も掻くほどだけど、先輩の唇から伝わってくる温もりは優しく心地良くて。いつまでも感じていたいほどだ。
数秒ほどして、美優先輩の方から唇を離す。さっきまでとは違い、先輩の笑顔がほんのりと赤らんでいた。
それからも、俺達は七夕の飾り付けをしていき、
「このくらいでいいんじゃないかな」
段ボールに入っている大半の七夕飾りを笹に飾ったとき、美優先輩はそう言った。
何歩か下がって、美優先輩と一緒に飾り付けた笹を見てみると……うん、あの写真に映っていたような笹のように、結構綺麗に飾られている。
「いい感じに飾れましたね」
「そうだね。じゃあ、飾るのはこれで終わりにしようか」
「はい。お疲れ様でした、美優先輩」
「由弦君もお疲れ様。最初から役割分担したし、去年よりも早く終わったよ。ありがとう」
「いえいえ。先輩と飾り付けするの楽しかったです」
「そう言ってくれて良かった。じゃあ、今年も笹の写真を撮ろうっと。由弦君にもLIMEで送るね」
「ありがとうございます」
それから、美優先輩は飾り付けをした笹の写真を撮影する。撮った写真を見ているときの先輩はとても嬉しそうで。また、先輩のお願いで、笹の隣に俺が立つ写真や、笹をバックに先輩とのツーショット写真も撮影した。
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※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
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