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桜庭かなめ

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特別編9

前編『半日期間』

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特別編9



 7月8日、月曜日。
 昨日は七夕で、夕方から夜にかけてあけぼの荘主催の七夕そうめんパーティーが実施された。そのときは雨が降っておらず、夜には星空も見えるほどだった。
 しかし、今日は起きたときから雨がシトシトと降っており、空気もジメッとしている。今日は一日中雨が降り続く予報だ。週間予報でも曇りや雨と予想されている日が多いので、梅雨はまだしばらく続きそうだ。

「次、桐生君」

 3時間目の現代文の授業。現代文を担当し、担任でもある霧嶋一佳きりしまいちか先生から、俺・桐生由弦きりゅうゆづるの名前が呼ばれる。
 はい、と返事して、俺は霧嶋先生のいる教卓へと向かう。

「期末試験もよくできていたわ。満点よ。素晴らしいわ。今後もこの調子で勉強するように」

 霧嶋先生は落ち着いた笑顔で、俺に現代文の期末試験の答案を渡してくれた。名前の横の得点欄には『100』と赤いサインペンで書かれていた。
 はい、とさっきよりも少し大きめの声で返事をして、俺は自分の席へと戻った。

「由弦、聞こえていたよ。満点だってね」

 自分の席に戻ると、一つ前の席に座っている友人であり隣人でもある女子・姫宮風花ひめみやふうかがそんな言葉をかけてくる。

「ああ、満点だった」

 と、俺が答案を机に置くと、風花はまん丸くした目で答案を見て、「おおっ」と可愛らしい声を上げる。

「数学Ⅰと物理基礎は90点以上だったし、由弦は本当に頭がいいよね」
「みんなで勉強会をしたおかげだよ。風花達にも教えたし、俺の分からないところは風花達や美優先輩、花柳先輩に訊けたからな」
「由弦らしいね。あたしも由弦達と勉強会をしたおかげで、今のところは苦手な数Ⅰと物理も平均点くらい取れているよ」

 風花は朗らかな笑顔でそう言った。
 今日は期末試験が明けてから初めての学校だ。なので、どの授業も期末試験の答案が返却され、解説の時間となっている。
 風花に話したように、数学Ⅰと物理基礎は90点以上。今の授業の現代文は100点満点だったので、幸先のいいスタートと言えるだろう。
 風花も数学Ⅰと物理基礎は平均点くらい。勉強会で一緒に勉強したクラスメイトで友人の加藤潤かとうじゅん橋本奏はしもとかなでさんも風花と同じくらい取れている。
 また、俺の恋人の白鳥美優しらとりみゆ先輩、美優先輩の友人の花柳瑠衣はなやぎるい先輩は『結構いい調子だよ』と2時間目の終わりにメッセージをくれた。美優先輩は頭がいいし、花柳先輩も美優先輩に分からないところを訊いて試験勉強を頑張っていたもんな。
 霧嶋先生により、出席番号順に答案が返却されていき、

「由弦! 92点取れたよ!」

 風花はとても喜んだ様子でそう言い、俺に自分の答案を見せてくれた。得点欄には赤く『92』と書かれている。

「凄いな」
「中学の頃から現代文は好きだけど、ここまでの点数は全然取ったことないから嬉しいよ!」
「良かったな。おめでとう」
「うんっ、ありがとう!」

 風花は持ち前の可愛らしい笑顔でお礼を言った。風花は試験前の勉強会で頑張って勉強していたからな。普段の課題でも、分からないところを俺や美優先輩に訊いてくるし。その積み重ねが高得点に繋がったんじゃないかと思う。
 勉強会で一緒に勉強した人は、今のところ赤点科目なしか。このまま全教科赤点を取ることなく夏休みを迎えられたらいいな。



 放課後。
 放課後といっても、夕方ではなく今はお昼の12時半過ぎだ。
 期末試験が終わったため、今日から終業式の前日までは基本的に午前中の授業のみの半日期間となる。美優先輩と花柳先輩曰く、学期問わず期末試験や学年末試験後の2週間ほどは半日期間になるとのこと。

「終わったー! 1学期が終わるまでずっと、お昼で学校が終わるなんて最高だね!」

 風花は俺の方に振り返ってそう言ってきた。最高だね、と言うだけあり、風花は凄く嬉しそうな笑顔を見せている。外は梅雨空でちょっと暗く感じるけど、風花の笑顔は太陽のような明るさがある。

「いいよな、お昼で学校が終わるのは」
「うんっ! 期末試験も終わったから、ちょっと夏休み気分になってる」
「ははっ、そうか」

 期末試験が終わった解放感と、学校が普段よりも早めに終わるから、夏休み気分にちょっとなっている風花の気持ちが分かるかな。

「俺も試験明けで、お昼に学校が終わるから、いつもの月曜日よりも気持ちが軽かったよ」
「あたしも。あと、いつもよりも部活がたくさんできるのも嬉しいな」
「風花は泳ぐのが大好きだもんな。関東大会も近いし、無理せずに頑張れよ」
「うん、ありがとう! 頑張るよ!」

 風花はニコッと笑ってそう言う。お昼に放課後になるから練習時間が長くなるけど、大会が近いので無理せずケガせず練習を頑張ってほしい。

「桐生。姫宮。俺達はサッカー部の方に行くよ。また明日な」
「また明日ね。風花ちゃんも途中まで一緒に行く?」
「うん、行く!」

 元気良く答えると、風花はスクールバッグと部活用のエナメルバッグを持って自分の席から立ち上がる。普段から、放課後になると3人で教室を後にすることが多い。

「じゃあ、由弦、私も水泳部に行くね」
「ああ。3人とも、また明日。部活頑張って」

 俺がそう言うと、3人は俺に向かって笑顔で手を振り、教室を後にした。
 今も雨が降っているけど、サッカー部の活動があるんだな。加藤と橋本さんもケガとか体調には気をつけて部活を頑張ってほしいな。
 美優先輩と花柳先輩が来るまで何をしていようか。そう思いつつ、机に置いてあるスマホを手に取った瞬間、

「美優先輩、瑠衣先輩、お疲れ様です!」

 という風花の元気な声が廊下から聞こえてきた。風花達はすぐ近くで美優先輩と花柳先輩と会えたのか。そう思うと、微笑ましい気分になる。

「由弦君、お疲れ様」
「お疲れ様、桐生君」

 風花の声が聞こえてから程なくして、美優先輩と花柳先輩が教室後方の扉から入ってきた。俺と目が合うと、先輩方は手を振ってくれる。そんな先輩方に俺も小さく手を振った。

「お疲れ様です、美優先輩、花柳先輩。午前中だけでしたし、全ての授業が試験の返却と解説でしたからあっという間でした」
「うちのクラスも全部試験返却と解説だったよ」
「そうだったわね。あっという間に月曜日が終わって嬉しいわ。数Bとか苦手な科目も返却されたけど、どれも赤点じゃなかったし」

 花柳先輩は明るい笑顔でそう言う。早く学校が終わったことや、赤点を取らずに済んだことを嬉しがるのは風花と似ているな。

「ふふっ、数Bのときは凄くほっとしていたよね、瑠衣ちゃん。由弦君はどうだった? 確か、2時間目の後にメッセージを送ったときは、数Ⅰと物理基礎が返されたって言っていたけど」
「その後は現代文とコミュニケーション英語Ⅰが返されました。現代文は満点、コミュニケーション英語は96点でした」
「由弦君凄いね!」
「さすがは桐生君」

 先輩方は俺にお褒めの言葉を言ってくださり、美優先輩は優しい笑顔で俺の頭を優しく撫でてくれる。期末試験を頑張ったご褒美をもらっている気分だ。

「美優先輩はどうでしたか?」
「4教科返却されたけど、どの教科も90点以上だったよ。コミュニケーション英語Ⅱは100点満点だった」
「凄いですね! さすがは美優先輩です」

 美優先輩はとても頭がいいし、課題や勉強会で分からないことを質問すると分かりやすく教えてくれるからなぁ。どの教科も90点以上で、満点の科目があったのも納得だ。
 美優先輩の頭を優しく撫でると、先輩は柔和な笑顔を見せて「えへへっ」と笑った。その姿はちょっと幼げに見えて。こういった姿も可愛いなと思う。

「由弦君、瑠衣ちゃん、私達も帰ろうか」
「そうね、美優」
「帰りましょうか。今日はお昼の準備をしていませんし、どこかお店に行って食べますか?」
「そうだね。駅の方に行って、お昼ご飯を食べようか」
「いいわね!」
「分かりました。あと……今日みたいに、学期末に半日で終わる日の放課後って、先輩方はどうやって過ごしていますか? これまではお昼に終わるのは定期試験や三者面談くらいで、家にすぐに帰ることが多かったので……」
「お昼に終わるから、まずは学校の食堂か駅前のお店でお昼ご飯を食べるかな。そのあとは駅前のショッピングセンターで買い物をすることが多いよね」
「そうね。ショッピングセンター中心に駅周辺のお店に行くことが多いわ。あとは、誰かの家でアニメや映画のBlu-rayを観たり、カラオケに行ったりしたこともあるわ」
「そうなんですね」

 最寄り駅の伯分寺はくぶんじ駅の周りには色々なお店があるから、駅の方に行くことが多いか。お店に行って遊ぶのも、家でゆっくりと過ごすのも楽しそうだ。

「由弦君と瑠衣ちゃんは何かしたいことはある?」
「桐生君の好きなことでかまわないわ。君は1年生で、半日期間は今日が初めてだから」
「ありがとうございます。今、先輩方の言ったことの中では……カラオケに行くのが興味ありますね。カラオケは春休みに引っ越す直前に、地元で友達と行ったとき以来ですし。先輩方の歌声を聴いてみたいです」
「私も由弦君の歌声を聴いてみたいな!」
「興味あるわね」
「じゃあ、お昼ご飯を食べたら、駅前のカラオケに行こうか!」
「はい! そうしましょう」
「楽しみだわ」

 美優先輩は落ち着いた綺麗な声をしているから、どんな歌声になるのかが楽しみだ。もちろん、どんな曲を歌うのかも。花柳先輩は結構可愛い声をしているから、花柳先輩の歌声にも興味がある。

「カラオケいいわね。私も学生時代には試験が終わったときなどに友達と行ったわ。楽しんでらっしゃい。ただ、帰るのがあまり遅くならないように」

 気付けば、霧嶋先生が俺達のすぐ側まで来ていた。今日はジーンズパンツにノースリーブのブラウスというカジュアルさも感じられる服装だし、微笑んでいるので結構柔らかい印象だ。
 霧嶋先生もいい声をしているから、先生の歌声も興味があるな。

「分かりました、霧嶋先生」
「気をつけますね、一佳先生」
「気をつけまーす。あと、今日の一佳先生の服装も似合ってますね」
「ノースリーブだから涼しげで素敵だよね、瑠衣ちゃん」
「似合っていると思います」

 季節が夏になってから、霧嶋先生はカジュアルさを感じられる服装で学校に来るようになった。最近は蒸し暑いのもあり、今日のようにノースリーブや袖があまりないトップスを着ることも多い。

「ありがとう。3人にそう言ってもらえて嬉しいわ」

 頬をほんのりと赤くしながらも、霧嶋先生は嬉しそうな笑顔でそう言った。可愛い担任の先生だ。最近はこうして笑うことも増えたから、男子生徒中心に先生の人気が高まっているらしい。それも納得だ。
 その後、俺は美優先輩と花柳先輩と一緒に教室を後にするのであった。
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