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特別編10
第5話『美優先輩は雷が怖い。』
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7月18日、木曜日。
球技大会があった昨日とは打って変わって、今日の天気は朝から雨だ。時間が経つにつれて雨脚は強くなっていき、夜にはかなり強い雨が降るそうだ。一部の地域では雷雨となる予報になっている。
昨日の球技大会ではずっと曇りで、たまに雲の切れ間から青空が見えるときもあった。今日の空模様を見ると、昨日はとても運が良かったのだと実感する。そんなことを思いながら、1学期最後の授業を受けていった。
夜。
美優先輩と一緒に入浴した後、リビングのテレビで先輩も俺も好きなラブコメのアニメを観ていると、外から『ザーッ』という雨音が聞こえてきた。
「雨が強くなってきたみたいだね」
「ええ。結構大きな雨音ですし、かなり強そうです。今朝の天気予報通りですね。雷雨になってしまいますかね?」
「ど、どうだろうね。一部の地域だって言っていたし、な、ならない確率が高いんじゃないかな?」
時々、美優先輩は声を詰まらせながらそう言った。さっきまでよりも先輩の顔色が良くないように見えるけど、それは気のせいだろうか。
一部地域とも言っていたし、美優先輩の言う通り、雷雨にならない確率の方が高そうか。地元の静岡に住んでいた頃も、天気予報で『一部地域では雨が降ります』と言っていたけど雨が降らないってことは普通にあったし。
雨音が大きいので、音のボリュームを少し上げて、ラブコメアニメを観ていく。美優先輩とソファーで寄り添い、アイスコーヒーを飲みながら。こうして先輩と一緒にアニメを観ることはよくあり、楽しくて幸せな気持ちになれる時間だ。
美優先輩と一緒にアニメを楽しんでいると、
――ゴロゴロ。
外から、雨音と一緒にそんな音が聞こえてきた。その後すぐに、また『ゴロゴロ』という音が。今度ははっきりと。
「雷ですかね」
「……きっとそうだろうね。一部地域になっちゃったみたいだね……」
美優先輩は苦笑いをしながら弱々しい声でそう言ってくる。この様子からして。
「もしかして、美優先輩って――」
――ドーン!
「きゃああっ!」
かなり大きな音が鳴って地響きがした瞬間、美優先輩は絶叫して俺のことを横から抱きしめてくる。顔を俺の右肩に付けて。先輩の体が小刻みに震えていて。
今の反応を見て確信を持った。これまで、美優先輩の絶叫を聞くのは先輩が苦手なゴキブリを見つけたときくらいだし。
「今の雷は凄かったですね。あと、美優先輩って……雷が苦手なんですね」
落ち着いた声でそう言うと、美優先輩はゆっくりと顔を上げて、
「……うん」
と、小さな声で返事をして首肯した。先輩の目には涙が浮かんでいて。やっぱり、美優先輩は雷が苦手か。
「小さい頃から雷が苦手で。大きくなってからは、遠くでゴロゴロと聞こえるくらいなら大丈夫になってきたんだけど、今みたいに近くに落ちた雷はもうダメで。その前に、雷が鳴り始めたときから怖くなってて……」
「鳴り始めたときから音がはっきり聞こえましたもんね」
あのくらいの音でも怖さを感じるから、「一部地域になっちゃったみたいだね」って言ったときの先輩の声が弱々しかったんだな。あと、雨が降り始めたとき、先輩が言葉を詰まらせて、顔色がちょっと悪い気がしたのも、雷が鳴るかもしれない怖さによるものだったのか。
「あと、ピカッて光るのもちょっと苦手」
「突然光るとビックリしますもんね。……ここに住み始めて3ヶ月半くらいが経ちますけど、先輩が雷が苦手なのは初めて知りました」
「今までは雷が鳴ってもピカッと光るだけだったり、遠くから小さい音が聞こえたりしたくらいだったからね。……ちなみに、由弦君って雷はどう?」
「今は平気です。小学校の低学年くらいまでは苦手でしたけど」
「そうなんだ! 雷が平気だなんて凄いね!」
美優先輩はそう言うと、微笑みながら俺のことを見つめてくる。こういうことでも先輩から凄いって言われると嬉しいものだ。
「じゃあ、今みたいに由弦君がいるときに雷が鳴ったら、由弦君の側にいようかな」
「俺で良ければいくらでも」
美優先輩の頭を優しく撫でると、先輩の顔に柔らかい笑みが浮かぶ。今も雷が鳴っているけど、俺が側にいることで先輩が少しでも気持ちが落ち着いたら嬉しい。
「そういえば、雫姉さんと心愛も雷が苦手なので、実家にいた頃は雷が鳴ると俺の部屋に来て、今の美優先輩みたいに俺にしがみついていましたね」
「そうだったんだ。妹の朱莉と葵も雷が苦手だから、実家にいた頃は3人で寄り添っていたなぁ。みんなで『雷早く終わって!』って言ったこともあったよ」
「そうでしたか。うちも姉さんと心愛が言うときがありました」
そういったときのことを思い出すよ。
そういえば、俺が実家を出てから、雷が鳴るときにはどうしているんだろう? 雫姉さんと心愛が2人で寄り添っているのだろうか。
「……あと、雷が鳴ると、心愛はよく両手で耳を塞ぐんです。俺も小さい頃は塞いでいました」
「そうなんだ。単純な方法だけど、音を小さく感じられるからいいよね」
「そうですね。ただ、雷雨が長く続いた日があって、そのときは『耳を塞ぐのが疲れたから、お兄ちゃんの手であたしの耳を塞いでほしい』って頼んできて。その頃は俺は平気になっていたので、心愛の両耳を塞いであげました」
「ふふっ、そうだったんだ。……その話を聞くと、私も由弦君に耳を塞いでほしくなるよ。いいかな?」
「いいですよ」
可愛いお願いをしてくる先輩だ。
雷の話題で盛り上がっていたから忘れていたけど、今はアニメを観ている途中だった。耳を塞いだら美優先輩がアニメを楽しめないだろうから、アニメを一時停止する。
耳を塞ぎやすいように、美優先輩は俺の方を向いてソファーの上に座る。
失礼します、と言って俺は両手で美優先輩の耳を塞ぐ。先輩の肌の温もりや髪の柔らかさが伝わってきて気持ちがいい。
「どうですか? 美優先輩」
耳を塞いでいるので、いつもよりも大きな声で美優先輩に問いかける。
「いい感じだよ。雷の音が小さく聞こえるし。それに、由弦君の手が温かくて気持ちいいよ」
美優先輩はやんわりとした笑顔で、俺の目を見つめながらそう答えてくれる。雷の音が小さくなるだけでなく、先輩に癒やし効果を与えられているか。良かった。気付けば頬が緩んでいるのが分かった。
そういえば、心愛も俺が耳を塞いであげると、今の美優先輩のように柔らかい笑顔になっていたっけ。だから、懐かしい気分になってくる。
「由弦君に触られているし、至近距離で見つめ合っているから、段々ドキドキしてきた。心臓の鼓動が響くから、その音で雷の音がより聞こえなくなってる」
「おぉ、そうですか!」
大きな声で返事をすると、美優先輩はニコッとした笑顔で頷いてくれた。可愛い。
確かに、恋人に顔を触れて、近くから見つめ合うとドキドキするよな。ドキドキしてきたと言うだけあって、美優先輩の頬がほんのりと赤くなっており、顔から伝わる熱が強くなってきた。
それにしても、今も強い雷雨が続いている。たまに、『ゴロゴロ』と大きめの雷鳴も聞こえてきて。ただ、俺に耳を塞がれてドキドキしているからか、美優先輩は笑顔のまま。
しかし、美優先輩の耳を両手で塞いでから数分ほど。
――ドーン!!
と、今日一番の雷鳴が鳴り響いた。地響きも伝わってきて。これはかなり近くに落ちたようだ。俺もちょっとビックリした。
かなり大きな音だったけど、美優先輩はどうだろうか。
「……い、今のは凄かったね」
引きつった笑顔でそう言う美優先輩。そんな先輩の顔色はちょっと悪くなっていて。この様子からして、今の雷鳴が聞こえてしまったようだ。地響きもあったし、怖くなってしまったのだろう。
「そうですね」
耳を塞いでも、今みたいに地響きがするほどの雷だとはっきり聞こえてしまうよな。小さい頃は耳を塞いでも雷が聞こえると、ちょっとした絶望感を抱いたものだ。この雷地獄はいつまで続くのかと。
「でも、さっきの大きな雷が落ちたときよりはマシだよ。これも由弦君が耳を塞いでくれたおかげだよ」
美優先輩は微笑みながらそう言ってくれた。さっきの大きな雷では絶叫していたけど、今回の雷では特に叫んではいなかった。だから、耳を塞いだ効果が結構あるのだと分かる。
「良かったです!」
美優先輩の役に立てて何よりだ。
それから雷雨がおさまるまでは10分ほど続いた。その間、俺は美優先輩の耳を塞いで、大きな声で話し続けて。幸い、地響きがするほどの大きな雷は鳴らなかったので、先輩はずっと笑顔を見せてくれていた。
「おさまりましたね」
雷鳴がほとんど聞こえなくなったので、美優先輩の両耳から両手を離した。雷雨の時間帯が過ぎたのだと分かったのか、先輩はほっと胸を撫で下ろす。
「最初に大きな音が聞こえたときは凄く怖かったけど、由弦君のおかげでこれまでよりマシだったよ。ありがとう、由弦君」
「いえいえ。美優先輩のためになれて良かったです」
「ありがとう」
そうお礼を言うと、美優先輩は俺にキスしてきた。先輩の唇からは、アニメを観ながら飲んでいるコーヒーの香りが香ってきて。
数秒ほどキスをした後、美優先輩の方から唇を離す。雷の音も聞こえないし、キスもしたから、先輩の顔にはいつもの可愛らしい笑みが浮かんでいる。
「これからも……今日みたいに大きな雷の音がしたときには由弦君に耳を塞いでもらおうかな。……でも、私の耳をずっと塞いでいたら疲れちゃうか」
「特に疲れは感じなかったですよ。先輩に触れていましたし、見つめ合っていましたから俺にとってはいい時間でした」
「ふふっ、そっか」
「俺に耳を塞いでほしいときにはいつでも言ってください」
「うんっ、ありがとう」
美優先輩は可愛らしい笑顔でお礼を言った。これからは雷が鳴ると先輩の耳を塞ぐのが恒例になるかもしれないな。
アニメを観るのを再開する。ただ、雷の一件があってか、美優先輩はさっきよりも寄り添ってきて。それがとても可愛く思えた。
球技大会があった昨日とは打って変わって、今日の天気は朝から雨だ。時間が経つにつれて雨脚は強くなっていき、夜にはかなり強い雨が降るそうだ。一部の地域では雷雨となる予報になっている。
昨日の球技大会ではずっと曇りで、たまに雲の切れ間から青空が見えるときもあった。今日の空模様を見ると、昨日はとても運が良かったのだと実感する。そんなことを思いながら、1学期最後の授業を受けていった。
夜。
美優先輩と一緒に入浴した後、リビングのテレビで先輩も俺も好きなラブコメのアニメを観ていると、外から『ザーッ』という雨音が聞こえてきた。
「雨が強くなってきたみたいだね」
「ええ。結構大きな雨音ですし、かなり強そうです。今朝の天気予報通りですね。雷雨になってしまいますかね?」
「ど、どうだろうね。一部の地域だって言っていたし、な、ならない確率が高いんじゃないかな?」
時々、美優先輩は声を詰まらせながらそう言った。さっきまでよりも先輩の顔色が良くないように見えるけど、それは気のせいだろうか。
一部地域とも言っていたし、美優先輩の言う通り、雷雨にならない確率の方が高そうか。地元の静岡に住んでいた頃も、天気予報で『一部地域では雨が降ります』と言っていたけど雨が降らないってことは普通にあったし。
雨音が大きいので、音のボリュームを少し上げて、ラブコメアニメを観ていく。美優先輩とソファーで寄り添い、アイスコーヒーを飲みながら。こうして先輩と一緒にアニメを観ることはよくあり、楽しくて幸せな気持ちになれる時間だ。
美優先輩と一緒にアニメを楽しんでいると、
――ゴロゴロ。
外から、雨音と一緒にそんな音が聞こえてきた。その後すぐに、また『ゴロゴロ』という音が。今度ははっきりと。
「雷ですかね」
「……きっとそうだろうね。一部地域になっちゃったみたいだね……」
美優先輩は苦笑いをしながら弱々しい声でそう言ってくる。この様子からして。
「もしかして、美優先輩って――」
――ドーン!
「きゃああっ!」
かなり大きな音が鳴って地響きがした瞬間、美優先輩は絶叫して俺のことを横から抱きしめてくる。顔を俺の右肩に付けて。先輩の体が小刻みに震えていて。
今の反応を見て確信を持った。これまで、美優先輩の絶叫を聞くのは先輩が苦手なゴキブリを見つけたときくらいだし。
「今の雷は凄かったですね。あと、美優先輩って……雷が苦手なんですね」
落ち着いた声でそう言うと、美優先輩はゆっくりと顔を上げて、
「……うん」
と、小さな声で返事をして首肯した。先輩の目には涙が浮かんでいて。やっぱり、美優先輩は雷が苦手か。
「小さい頃から雷が苦手で。大きくなってからは、遠くでゴロゴロと聞こえるくらいなら大丈夫になってきたんだけど、今みたいに近くに落ちた雷はもうダメで。その前に、雷が鳴り始めたときから怖くなってて……」
「鳴り始めたときから音がはっきり聞こえましたもんね」
あのくらいの音でも怖さを感じるから、「一部地域になっちゃったみたいだね」って言ったときの先輩の声が弱々しかったんだな。あと、雨が降り始めたとき、先輩が言葉を詰まらせて、顔色がちょっと悪い気がしたのも、雷が鳴るかもしれない怖さによるものだったのか。
「あと、ピカッて光るのもちょっと苦手」
「突然光るとビックリしますもんね。……ここに住み始めて3ヶ月半くらいが経ちますけど、先輩が雷が苦手なのは初めて知りました」
「今までは雷が鳴ってもピカッと光るだけだったり、遠くから小さい音が聞こえたりしたくらいだったからね。……ちなみに、由弦君って雷はどう?」
「今は平気です。小学校の低学年くらいまでは苦手でしたけど」
「そうなんだ! 雷が平気だなんて凄いね!」
美優先輩はそう言うと、微笑みながら俺のことを見つめてくる。こういうことでも先輩から凄いって言われると嬉しいものだ。
「じゃあ、今みたいに由弦君がいるときに雷が鳴ったら、由弦君の側にいようかな」
「俺で良ければいくらでも」
美優先輩の頭を優しく撫でると、先輩の顔に柔らかい笑みが浮かぶ。今も雷が鳴っているけど、俺が側にいることで先輩が少しでも気持ちが落ち着いたら嬉しい。
「そういえば、雫姉さんと心愛も雷が苦手なので、実家にいた頃は雷が鳴ると俺の部屋に来て、今の美優先輩みたいに俺にしがみついていましたね」
「そうだったんだ。妹の朱莉と葵も雷が苦手だから、実家にいた頃は3人で寄り添っていたなぁ。みんなで『雷早く終わって!』って言ったこともあったよ」
「そうでしたか。うちも姉さんと心愛が言うときがありました」
そういったときのことを思い出すよ。
そういえば、俺が実家を出てから、雷が鳴るときにはどうしているんだろう? 雫姉さんと心愛が2人で寄り添っているのだろうか。
「……あと、雷が鳴ると、心愛はよく両手で耳を塞ぐんです。俺も小さい頃は塞いでいました」
「そうなんだ。単純な方法だけど、音を小さく感じられるからいいよね」
「そうですね。ただ、雷雨が長く続いた日があって、そのときは『耳を塞ぐのが疲れたから、お兄ちゃんの手であたしの耳を塞いでほしい』って頼んできて。その頃は俺は平気になっていたので、心愛の両耳を塞いであげました」
「ふふっ、そうだったんだ。……その話を聞くと、私も由弦君に耳を塞いでほしくなるよ。いいかな?」
「いいですよ」
可愛いお願いをしてくる先輩だ。
雷の話題で盛り上がっていたから忘れていたけど、今はアニメを観ている途中だった。耳を塞いだら美優先輩がアニメを楽しめないだろうから、アニメを一時停止する。
耳を塞ぎやすいように、美優先輩は俺の方を向いてソファーの上に座る。
失礼します、と言って俺は両手で美優先輩の耳を塞ぐ。先輩の肌の温もりや髪の柔らかさが伝わってきて気持ちがいい。
「どうですか? 美優先輩」
耳を塞いでいるので、いつもよりも大きな声で美優先輩に問いかける。
「いい感じだよ。雷の音が小さく聞こえるし。それに、由弦君の手が温かくて気持ちいいよ」
美優先輩はやんわりとした笑顔で、俺の目を見つめながらそう答えてくれる。雷の音が小さくなるだけでなく、先輩に癒やし効果を与えられているか。良かった。気付けば頬が緩んでいるのが分かった。
そういえば、心愛も俺が耳を塞いであげると、今の美優先輩のように柔らかい笑顔になっていたっけ。だから、懐かしい気分になってくる。
「由弦君に触られているし、至近距離で見つめ合っているから、段々ドキドキしてきた。心臓の鼓動が響くから、その音で雷の音がより聞こえなくなってる」
「おぉ、そうですか!」
大きな声で返事をすると、美優先輩はニコッとした笑顔で頷いてくれた。可愛い。
確かに、恋人に顔を触れて、近くから見つめ合うとドキドキするよな。ドキドキしてきたと言うだけあって、美優先輩の頬がほんのりと赤くなっており、顔から伝わる熱が強くなってきた。
それにしても、今も強い雷雨が続いている。たまに、『ゴロゴロ』と大きめの雷鳴も聞こえてきて。ただ、俺に耳を塞がれてドキドキしているからか、美優先輩は笑顔のまま。
しかし、美優先輩の耳を両手で塞いでから数分ほど。
――ドーン!!
と、今日一番の雷鳴が鳴り響いた。地響きも伝わってきて。これはかなり近くに落ちたようだ。俺もちょっとビックリした。
かなり大きな音だったけど、美優先輩はどうだろうか。
「……い、今のは凄かったね」
引きつった笑顔でそう言う美優先輩。そんな先輩の顔色はちょっと悪くなっていて。この様子からして、今の雷鳴が聞こえてしまったようだ。地響きもあったし、怖くなってしまったのだろう。
「そうですね」
耳を塞いでも、今みたいに地響きがするほどの雷だとはっきり聞こえてしまうよな。小さい頃は耳を塞いでも雷が聞こえると、ちょっとした絶望感を抱いたものだ。この雷地獄はいつまで続くのかと。
「でも、さっきの大きな雷が落ちたときよりはマシだよ。これも由弦君が耳を塞いでくれたおかげだよ」
美優先輩は微笑みながらそう言ってくれた。さっきの大きな雷では絶叫していたけど、今回の雷では特に叫んではいなかった。だから、耳を塞いだ効果が結構あるのだと分かる。
「良かったです!」
美優先輩の役に立てて何よりだ。
それから雷雨がおさまるまでは10分ほど続いた。その間、俺は美優先輩の耳を塞いで、大きな声で話し続けて。幸い、地響きがするほどの大きな雷は鳴らなかったので、先輩はずっと笑顔を見せてくれていた。
「おさまりましたね」
雷鳴がほとんど聞こえなくなったので、美優先輩の両耳から両手を離した。雷雨の時間帯が過ぎたのだと分かったのか、先輩はほっと胸を撫で下ろす。
「最初に大きな音が聞こえたときは凄く怖かったけど、由弦君のおかげでこれまでよりマシだったよ。ありがとう、由弦君」
「いえいえ。美優先輩のためになれて良かったです」
「ありがとう」
そうお礼を言うと、美優先輩は俺にキスしてきた。先輩の唇からは、アニメを観ながら飲んでいるコーヒーの香りが香ってきて。
数秒ほどキスをした後、美優先輩の方から唇を離す。雷の音も聞こえないし、キスもしたから、先輩の顔にはいつもの可愛らしい笑みが浮かんでいる。
「これからも……今日みたいに大きな雷の音がしたときには由弦君に耳を塞いでもらおうかな。……でも、私の耳をずっと塞いでいたら疲れちゃうか」
「特に疲れは感じなかったですよ。先輩に触れていましたし、見つめ合っていましたから俺にとってはいい時間でした」
「ふふっ、そっか」
「俺に耳を塞いでほしいときにはいつでも言ってください」
「うんっ、ありがとう」
美優先輩は可愛らしい笑顔でお礼を言った。これからは雷が鳴ると先輩の耳を塞ぐのが恒例になるかもしれないな。
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