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特別編10
第6話『1学期の終わり』
7月19日、金曜日。
今日は起きたときから雨がシトシトと降り続いており、この雨はお昼まで続くという。
今日は1学期最後の日。
まずは終業式。1学期の始業式や、先日の球技大会の開会式や閉会式のように、テレビ中継の形で実施される。
中学までは始業式や終業式は基本的に校庭で、雨が降ると体育館に全校生徒が集まって実施されていた。暑い時期だから、1学期の終業式は気怠くて、校長先生の話が非常に長かった記憶がある。
移動する必要がなく、涼しい教室の中で終業式を受けられるのはとてもいい。陽出学院高校に進学して良かったと改めて思う。中学までに比べたら校長先生の話をちゃんと聞くことができた。
始業式が終わると、ロングホームルームになる。今日は1学期最後なので、
「それでは、これから通知表を配ります」
小学生のときから変わらず通知表が配布される。それもあってか、クラスの中はちょっとざわざわと。
「みなさんに陽出学院高校の通知表を配るのは初めてなので、配る前にどんな内容が書いてあるか説明します。みなさんの各教科の成績が100点満点で記載されています。40点未満は赤点で、赤点判定となっている教科には『*』のマークが付いています」
成績は100点満点で、赤点は40点未満なのか。定期試験と同じで分かりやすいな。
あと、地元にいる友達の何人かが通っている高校では30点未満が赤点とのことなので、陽出学院高校はちょっと厳しめなのかなとも思う。
「赤点判定となった教科については夏休みの特別課題や、夏休み中に学校で補習を受ける必要があります。課題をこなしたり、補習を受けたりしないと単位が取れずに留年という可能性もありますので気をつけるように」
赤点についてなので、霧嶋先生は真剣な様子でそう話した。だからか、何人かの生徒達から「やば……」とか「赤点ないといいなぁ」などといった声が。
赤点判定となった教科があると、特別課題をこなしたり、学校で補習を受けたりしないといけないのか。それは大変だな。特に補習は。中間試験も期末試験も結構良かったし、体育も苦手な水泳も頑張ったので赤点判定の教科がないと祈りたい。
「また、各教科の平均点、クラス順位、学年順位も記載されています。自分の成績がどの位置なのか確認するのもいいでしょう。……では、出席番号順に配布していきます」
そして、通知表の配布が始まる。
成績が良かったのか喜ぶ生徒、悪かったのか愕然とする生徒など様々だ。こういう光景は中学までと変わらないなぁ。
「次、加藤君」
「はい」
俺の一つ前の出席番号である加藤が呼ばれ、加藤は教卓へ向かう。
霧嶋先生から通知表を受け取り、教室前方の扉の近くで見る。
「よしっ」
と言うと、加藤はちょっとほっとした様子に。加藤は苦手な科目があるから、赤点科目がなくて良かった……と思っているのだろう。
「次、桐生君」
「はい」
いよいよ俺の番だ。
席から立ち上がって、霧嶋先生のいる教卓へ向かう。
「よく頑張ったわね、桐生君。この調子でこれからも勉強を頑張りなさい」
霧嶋先生は優しい笑顔でそう言ってくれた。先生がそう言うということは、成績はいいようだ。嬉しいな。
それにしても、霧嶋先生……学校でもプライベートでも笑顔を見せることが多くなったな。入学した頃は凛としていて、キリッとしていて、真面目で厳しそうな雰囲気の先生という印象だった。だから、こんなに柔らかい雰囲気になるとはあんまり想像できなかったな。1学期の最後の日なので、ふとそんなことを思った。
はい、と返事をして、俺は霧嶋先生から通知表を受け取った。
自分の席に戻ると、前の席に座っている風花がこちらに振り返って、
「由弦。先生に何か言われていたけど、何かあった?」
と問いかけてくる。
「よく頑張ったねって言われた」
「お褒めの言葉をもらったんだ。由弦、定期試験も良かったもんね。きっと成績もいいだろうね」
「霧嶋先生が言うからそう思ってる。さてと……見るか」
「あたしも見ていい?」
「いいぞ」
俺は通知表を机に置いて、風花と一緒に見ていく。
5教科についてはどれも90点以上で、霧嶋先生が担当する現代文と古典は100点満点だ。大宮先生が担当する家庭科も90点以上、保健や選択芸術の音楽も80点以上。苦手な水泳の授業もあった体育も81点でほっとしている。これも、ゴールデンウィーク中に行った旅行で風花と美優先輩から泳ぎ方を教えてもらったからだろう。
クラス順位は1位、学年順位は3位か。この成績を維持すれば、来年も特待生になれるだろう。
「凄くいい成績だね! クラス1位で学年3位だし。さすがは由弦」
「ありがとう」
実際に成績や順位を見て嬉しい気持ちになったけど、風花に褒められてその気持ちが膨らんだ。
「授業の分からないところはすぐに先輩方に訊いているからかな。学校にいるときは先生方に訊いているし。それに、定期試験に向けてみんなと勉強したから。風花達の分からないところを教えることで理解が深まっているし。周りの人達のおかげだよ」
「由弦らしいね。……由弦の教え方は分かりやすいし、成績がいいのは納得だね」
それが本心からの言葉だと示すように、風花は納得した笑顔になっている。その反応もまた、嬉しい気持ちを膨らませてくれる。
「あたしはどんな成績だろうなぁ。赤点はないと信じたいけど。特に苦手な数学Aや物理基礎とか」
風花は浮かない表情でそう言う。苦手科目があると、赤点判定になっているんじゃないかと不安になってしまうか。しかも、通知表を配る前に、霧嶋先生が赤点科目の課題や補習のことについて説明していたから。
「風花は中間も期末も赤点を取っていなかったし、特に期末は苦手な科目も平均点近く取れていたから、赤点科目はないんじゃないか? 普段の課題もちゃんと提出しているもんな」
「うん。出来はともかく、忘れずに提出はしてる」
「だったら赤点はないと思うぞ」
「……由弦がそう言ってくれると、不安も取れてきた」
風花は微笑みながらそう言った。通知表を見たら笑顔になれるような成績がついていたらいいな。
それからも通知表は配られていく。そして、
「次、橋本さん」
「はい」
橋本さんは教卓に行き、霧嶋先生から通知表をもらう。
彼氏の加藤のように、教室前方の扉の近くで通知表を見ると、
「良かった……」
と、ほっと胸を撫で下ろしていた。その反応は加藤にそっくりだ。橋本さんも苦手な科目があるから、きっと、赤点科目がなくてほっとした様子なのだろう。
「次、姫宮さん」
「はいっ」
風花は席から立ち上がって、教卓にいる霧嶋先生のところへ向かう。
霧嶋先生から通知表を受け取ると、加藤や橋本さんのように通知表を見ることはなく席に戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
「……一緒に見てほしいな。ちょっと緊張してるから」
「分かった」
「ありがとう」
お礼を言うと、風花は俺の机に通知表を置いた。
風花の通知表を見てみると……古典以外の文系科目と体育がかなりいいな。特に体育は96点と満点近い。英語科目や選択芸術の音楽も良く、数Ⅰや古典、家庭科も平均くらい取れている。特に苦手と言っていた数Aと物理基礎も平均よりは低いけど50点台なので、赤点ギリギリでもない。もちろん、赤点判定の『*』が付いている科目は一つもなかった。
クラス順位は13位で、学年順位は138位だ。
「文系科目と体育中心にいい成績だな。赤点もないし」
「ありがとう! 赤点科目がなくて良かったよ。これで夏休み中は心置きなく水泳ができるし、明日からの関東大会で思いっきり泳げそうだよ」
風花は安心した様子でそう言う。もし、赤点科目があって、夏休み中に補習があったらそちらを優先しないといけないからな。
また、明日からの3日間、風花はインターハイ進出がかかっている関東大会に出場する。赤点科目もなかったので、これで大会に集中できそうか。
「良かったな、風花。あと、明日から大会頑張って」
「うんっ。インターハイ出場を決められるように頑張るよ。……順位はクラス13位で、学年で138位ってなかなかいいんじゃない?」
「そうだな」
クラスは36人で、学年全体では350人以上いる。どちらも全体の上半分だし、風花の言う通りなかなかいいんじゃないかと思う。きっと、文系科目と体育を中心に成績のいい教科がいくつもあるからだろうな。
「こういう成績を取れたのは、分からないところを由弦とか先輩方に訊いたり、試験のときはみんなと勉強したりしたからだろうね」
「そうだな。風花は分からないところを質問して理解するように努めているし。それが成績に繋がったんだと思う」
「そう言ってくれて嬉しいな。ありがとう。……あと、これからも分からないところを訊くと思う。そのときはよろしくね」
「分かった」
これからも友人として、隣の部屋に住むご近所さんとして風花の助けになれればと思う。
それからも通知表の配布が続いた。
通知表の配布が終わると、霧嶋先生から夏休みの課題一覧のプリントと、現代文と古典の課題のプリントが配布された。
その後は課題のある教科について各教科を担当する先生が教室にやってきて、教科によっては夏休み中の課題のプリントや冊子が配布される。1ヶ月以上ある夏休みの課題なのでなかなかの量だ。
また、赤点判定を受けたのか、一部の生徒が個別に課題のようなものを受け取ることも。そういった生徒の机を見ると結構な量があって。赤点の教科がなくて良かったと思う。
全教科が終わった後、担任の霧嶋先生が戻ってきて、終礼の時間に。
「みなさん、今日で1学期が終わり、明日から夏休みが始まります。怪我や病気には気をつけて、高校生最初の夏休みを楽しくて充実した時間にしてください。曜日の関係で、2学期は9月2日からです。9月2日にまた会いましょう。では、これにて終礼を終わります。委員長、号令をお願いします」
その後、委員長の号令で挨拶をして、これにて1学期の日程が終了した。
『夏休みだー!』
挨拶をし終わった後、夏休みになった嬉しさのあまりか何人もの生徒が大きな声を上げた。そのうちの2人は風花と橋本さんである。学校も終わったし、夏休みが始まったと思うのは自然なことか。
終礼が終わって、さっそく教室を去る生徒が何人かいる。部活があるのか。それとも、今は11時半過ぎなのでお昼を食べに行ったのだろうか。
「由弦、1学期お疲れ様! 夏休みだね!」
風花は俺の方に振り返って、満面の笑顔でそう言ってくれる。今も外は雨が降っているけど、風花の笑顔は輝いている。可愛いな。
「1学期お疲れ様、風花。高校最初の夏休みだな」
「うんっ!」
「桐生、姫宮、お疲れ」
「2人とも1学期お疲れ様!」
加藤と橋本さんが俺達のところにやってくる。1学期が終わったのもあって、2人もいい笑顔になっている。
「赤点科目がなかったから、これで夏休みは思いっきりサッカーができるぜ。オフのときは奏とデートしたいな」
「そうだね、潤! お泊まりもしたいね。あと、私も赤点科目なかったよ」
「2人とも良かったな」
「良かったね! あたしも数Aとか物理基礎とか不安な科目があったけど、赤点科目なしで乗り越えられたよ!」
「良かったね、風花!」
お互いに赤点科目がなかったことの喜びか、風花と橋本さんは笑顔で抱きしめ合っている。微笑ましい光景だ。
あと、加藤と橋本さんが通知表をもらった直後に、通知表を見てほっとしていた様子だけど、あれは赤点科目がなかったからだったんだろうな。
「桐生はどうだった? 先生に何か言われてたけど」
「結構良かったよ」
「クラス1位、学年3位だったよね」
「ああ」
「おおっ、そりゃすげえ。さすがだな」
「さすがだよね」
「ありがとう」
何度褒められても嬉しいものだ。
「みんな、1学期お疲れ様」
「おつかれー」
教室後方の扉から、美優先輩と花柳先輩が教室の中に入ってきた。2人は笑顔で俺達に手を振りながらこちらにやってくる。そんな先輩方に、俺達は声を揃えて「お疲れ様です」と挨拶した。
「みんな、成績はどうだったかしら?」
花柳先輩がそう問いかけてくる。1学期も終わるし、通知表も渡されるから成績について訊かれるよな。
「赤点なしで乗り越えられました!」
「私もです。不安な教科もありましたけど、赤点はありませんでした」
「俺もです」
「結構良かったです」
「クラス1位で学年3位だったんですよ、由弦は」
「へえ、そうなんだ。みんな赤点なしで良かった。あと、桐生君はさすがだね」
「そうだね。みんないい成績で良かったよ。あと、由弦君は凄いね」
花柳先輩と美優先輩は俺達の成績のことについて褒め、美優先輩は俺の頭を優しく撫でてくれる。そんな先輩の顔にはいつもの優しい笑みが浮かんでいて。これまでに何人もの人から成績について褒められたけど、今が一番嬉しいな。
「美優先輩と瑠衣先輩はどうでした?」
「結構良かったよ」
「あたしも良かったわ。理系科目は不安だったけど、赤点判定は一つもなかったし。あと、美優は結構良かったって言っているけど、クラス3位で学年17位だったわ」
「そうでしたか! 美優先輩凄いです! 瑠衣先輩も赤点科目がなくて良かったですね。理系苦手だって言っていましたし」
「2人ともいい成績だったんですね。特に美優先輩はさすがです」
「そうだな、桐生」
「先輩方は勉強を分かりやすく教えてくれましたもんね」
橋本さんの言葉に1年生3人が頷く。普段の勉強や課題で分からないところを教えてくれるし、定期試験前の勉強会では美優先輩と花柳先輩が一緒だったから、先輩方に質問する場面が何度もあったからな。
さっき、美優先輩が俺の頭を撫でてくれたので、今度は俺が先輩の頭を撫でる。美優先輩はやんわりとした笑みを浮かべた。
「白鳥さん、花柳さん、お疲れ様。2人とも成績が良かったみたいで何よりだわ」
霧嶋先生がこちらにやってきて、穏やかな笑顔でそう言った。美優先輩と花柳先輩は普段からプライベートでも交流のある生徒だから、2人の成績が気になっていたのかもしれない。
美優先輩と花柳先輩は霧嶋先生に笑顔で「ありがとうございます」と言った。
それからちょっとの間、7人で談笑した。夏休み中は学校に来る予定はないので、教室での時間を噛みしめながら。
今日は起きたときから雨がシトシトと降り続いており、この雨はお昼まで続くという。
今日は1学期最後の日。
まずは終業式。1学期の始業式や、先日の球技大会の開会式や閉会式のように、テレビ中継の形で実施される。
中学までは始業式や終業式は基本的に校庭で、雨が降ると体育館に全校生徒が集まって実施されていた。暑い時期だから、1学期の終業式は気怠くて、校長先生の話が非常に長かった記憶がある。
移動する必要がなく、涼しい教室の中で終業式を受けられるのはとてもいい。陽出学院高校に進学して良かったと改めて思う。中学までに比べたら校長先生の話をちゃんと聞くことができた。
始業式が終わると、ロングホームルームになる。今日は1学期最後なので、
「それでは、これから通知表を配ります」
小学生のときから変わらず通知表が配布される。それもあってか、クラスの中はちょっとざわざわと。
「みなさんに陽出学院高校の通知表を配るのは初めてなので、配る前にどんな内容が書いてあるか説明します。みなさんの各教科の成績が100点満点で記載されています。40点未満は赤点で、赤点判定となっている教科には『*』のマークが付いています」
成績は100点満点で、赤点は40点未満なのか。定期試験と同じで分かりやすいな。
あと、地元にいる友達の何人かが通っている高校では30点未満が赤点とのことなので、陽出学院高校はちょっと厳しめなのかなとも思う。
「赤点判定となった教科については夏休みの特別課題や、夏休み中に学校で補習を受ける必要があります。課題をこなしたり、補習を受けたりしないと単位が取れずに留年という可能性もありますので気をつけるように」
赤点についてなので、霧嶋先生は真剣な様子でそう話した。だからか、何人かの生徒達から「やば……」とか「赤点ないといいなぁ」などといった声が。
赤点判定となった教科があると、特別課題をこなしたり、学校で補習を受けたりしないといけないのか。それは大変だな。特に補習は。中間試験も期末試験も結構良かったし、体育も苦手な水泳も頑張ったので赤点判定の教科がないと祈りたい。
「また、各教科の平均点、クラス順位、学年順位も記載されています。自分の成績がどの位置なのか確認するのもいいでしょう。……では、出席番号順に配布していきます」
そして、通知表の配布が始まる。
成績が良かったのか喜ぶ生徒、悪かったのか愕然とする生徒など様々だ。こういう光景は中学までと変わらないなぁ。
「次、加藤君」
「はい」
俺の一つ前の出席番号である加藤が呼ばれ、加藤は教卓へ向かう。
霧嶋先生から通知表を受け取り、教室前方の扉の近くで見る。
「よしっ」
と言うと、加藤はちょっとほっとした様子に。加藤は苦手な科目があるから、赤点科目がなくて良かった……と思っているのだろう。
「次、桐生君」
「はい」
いよいよ俺の番だ。
席から立ち上がって、霧嶋先生のいる教卓へ向かう。
「よく頑張ったわね、桐生君。この調子でこれからも勉強を頑張りなさい」
霧嶋先生は優しい笑顔でそう言ってくれた。先生がそう言うということは、成績はいいようだ。嬉しいな。
それにしても、霧嶋先生……学校でもプライベートでも笑顔を見せることが多くなったな。入学した頃は凛としていて、キリッとしていて、真面目で厳しそうな雰囲気の先生という印象だった。だから、こんなに柔らかい雰囲気になるとはあんまり想像できなかったな。1学期の最後の日なので、ふとそんなことを思った。
はい、と返事をして、俺は霧嶋先生から通知表を受け取った。
自分の席に戻ると、前の席に座っている風花がこちらに振り返って、
「由弦。先生に何か言われていたけど、何かあった?」
と問いかけてくる。
「よく頑張ったねって言われた」
「お褒めの言葉をもらったんだ。由弦、定期試験も良かったもんね。きっと成績もいいだろうね」
「霧嶋先生が言うからそう思ってる。さてと……見るか」
「あたしも見ていい?」
「いいぞ」
俺は通知表を机に置いて、風花と一緒に見ていく。
5教科についてはどれも90点以上で、霧嶋先生が担当する現代文と古典は100点満点だ。大宮先生が担当する家庭科も90点以上、保健や選択芸術の音楽も80点以上。苦手な水泳の授業もあった体育も81点でほっとしている。これも、ゴールデンウィーク中に行った旅行で風花と美優先輩から泳ぎ方を教えてもらったからだろう。
クラス順位は1位、学年順位は3位か。この成績を維持すれば、来年も特待生になれるだろう。
「凄くいい成績だね! クラス1位で学年3位だし。さすがは由弦」
「ありがとう」
実際に成績や順位を見て嬉しい気持ちになったけど、風花に褒められてその気持ちが膨らんだ。
「授業の分からないところはすぐに先輩方に訊いているからかな。学校にいるときは先生方に訊いているし。それに、定期試験に向けてみんなと勉強したから。風花達の分からないところを教えることで理解が深まっているし。周りの人達のおかげだよ」
「由弦らしいね。……由弦の教え方は分かりやすいし、成績がいいのは納得だね」
それが本心からの言葉だと示すように、風花は納得した笑顔になっている。その反応もまた、嬉しい気持ちを膨らませてくれる。
「あたしはどんな成績だろうなぁ。赤点はないと信じたいけど。特に苦手な数学Aや物理基礎とか」
風花は浮かない表情でそう言う。苦手科目があると、赤点判定になっているんじゃないかと不安になってしまうか。しかも、通知表を配る前に、霧嶋先生が赤点科目の課題や補習のことについて説明していたから。
「風花は中間も期末も赤点を取っていなかったし、特に期末は苦手な科目も平均点近く取れていたから、赤点科目はないんじゃないか? 普段の課題もちゃんと提出しているもんな」
「うん。出来はともかく、忘れずに提出はしてる」
「だったら赤点はないと思うぞ」
「……由弦がそう言ってくれると、不安も取れてきた」
風花は微笑みながらそう言った。通知表を見たら笑顔になれるような成績がついていたらいいな。
それからも通知表は配られていく。そして、
「次、橋本さん」
「はい」
橋本さんは教卓に行き、霧嶋先生から通知表をもらう。
彼氏の加藤のように、教室前方の扉の近くで通知表を見ると、
「良かった……」
と、ほっと胸を撫で下ろしていた。その反応は加藤にそっくりだ。橋本さんも苦手な科目があるから、きっと、赤点科目がなくてほっとした様子なのだろう。
「次、姫宮さん」
「はいっ」
風花は席から立ち上がって、教卓にいる霧嶋先生のところへ向かう。
霧嶋先生から通知表を受け取ると、加藤や橋本さんのように通知表を見ることはなく席に戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
「……一緒に見てほしいな。ちょっと緊張してるから」
「分かった」
「ありがとう」
お礼を言うと、風花は俺の机に通知表を置いた。
風花の通知表を見てみると……古典以外の文系科目と体育がかなりいいな。特に体育は96点と満点近い。英語科目や選択芸術の音楽も良く、数Ⅰや古典、家庭科も平均くらい取れている。特に苦手と言っていた数Aと物理基礎も平均よりは低いけど50点台なので、赤点ギリギリでもない。もちろん、赤点判定の『*』が付いている科目は一つもなかった。
クラス順位は13位で、学年順位は138位だ。
「文系科目と体育中心にいい成績だな。赤点もないし」
「ありがとう! 赤点科目がなくて良かったよ。これで夏休み中は心置きなく水泳ができるし、明日からの関東大会で思いっきり泳げそうだよ」
風花は安心した様子でそう言う。もし、赤点科目があって、夏休み中に補習があったらそちらを優先しないといけないからな。
また、明日からの3日間、風花はインターハイ進出がかかっている関東大会に出場する。赤点科目もなかったので、これで大会に集中できそうか。
「良かったな、風花。あと、明日から大会頑張って」
「うんっ。インターハイ出場を決められるように頑張るよ。……順位はクラス13位で、学年で138位ってなかなかいいんじゃない?」
「そうだな」
クラスは36人で、学年全体では350人以上いる。どちらも全体の上半分だし、風花の言う通りなかなかいいんじゃないかと思う。きっと、文系科目と体育を中心に成績のいい教科がいくつもあるからだろうな。
「こういう成績を取れたのは、分からないところを由弦とか先輩方に訊いたり、試験のときはみんなと勉強したりしたからだろうね」
「そうだな。風花は分からないところを質問して理解するように努めているし。それが成績に繋がったんだと思う」
「そう言ってくれて嬉しいな。ありがとう。……あと、これからも分からないところを訊くと思う。そのときはよろしくね」
「分かった」
これからも友人として、隣の部屋に住むご近所さんとして風花の助けになれればと思う。
それからも通知表の配布が続いた。
通知表の配布が終わると、霧嶋先生から夏休みの課題一覧のプリントと、現代文と古典の課題のプリントが配布された。
その後は課題のある教科について各教科を担当する先生が教室にやってきて、教科によっては夏休み中の課題のプリントや冊子が配布される。1ヶ月以上ある夏休みの課題なのでなかなかの量だ。
また、赤点判定を受けたのか、一部の生徒が個別に課題のようなものを受け取ることも。そういった生徒の机を見ると結構な量があって。赤点の教科がなくて良かったと思う。
全教科が終わった後、担任の霧嶋先生が戻ってきて、終礼の時間に。
「みなさん、今日で1学期が終わり、明日から夏休みが始まります。怪我や病気には気をつけて、高校生最初の夏休みを楽しくて充実した時間にしてください。曜日の関係で、2学期は9月2日からです。9月2日にまた会いましょう。では、これにて終礼を終わります。委員長、号令をお願いします」
その後、委員長の号令で挨拶をして、これにて1学期の日程が終了した。
『夏休みだー!』
挨拶をし終わった後、夏休みになった嬉しさのあまりか何人もの生徒が大きな声を上げた。そのうちの2人は風花と橋本さんである。学校も終わったし、夏休みが始まったと思うのは自然なことか。
終礼が終わって、さっそく教室を去る生徒が何人かいる。部活があるのか。それとも、今は11時半過ぎなのでお昼を食べに行ったのだろうか。
「由弦、1学期お疲れ様! 夏休みだね!」
風花は俺の方に振り返って、満面の笑顔でそう言ってくれる。今も外は雨が降っているけど、風花の笑顔は輝いている。可愛いな。
「1学期お疲れ様、風花。高校最初の夏休みだな」
「うんっ!」
「桐生、姫宮、お疲れ」
「2人とも1学期お疲れ様!」
加藤と橋本さんが俺達のところにやってくる。1学期が終わったのもあって、2人もいい笑顔になっている。
「赤点科目がなかったから、これで夏休みは思いっきりサッカーができるぜ。オフのときは奏とデートしたいな」
「そうだね、潤! お泊まりもしたいね。あと、私も赤点科目なかったよ」
「2人とも良かったな」
「良かったね! あたしも数Aとか物理基礎とか不安な科目があったけど、赤点科目なしで乗り越えられたよ!」
「良かったね、風花!」
お互いに赤点科目がなかったことの喜びか、風花と橋本さんは笑顔で抱きしめ合っている。微笑ましい光景だ。
あと、加藤と橋本さんが通知表をもらった直後に、通知表を見てほっとしていた様子だけど、あれは赤点科目がなかったからだったんだろうな。
「桐生はどうだった? 先生に何か言われてたけど」
「結構良かったよ」
「クラス1位、学年3位だったよね」
「ああ」
「おおっ、そりゃすげえ。さすがだな」
「さすがだよね」
「ありがとう」
何度褒められても嬉しいものだ。
「みんな、1学期お疲れ様」
「おつかれー」
教室後方の扉から、美優先輩と花柳先輩が教室の中に入ってきた。2人は笑顔で俺達に手を振りながらこちらにやってくる。そんな先輩方に、俺達は声を揃えて「お疲れ様です」と挨拶した。
「みんな、成績はどうだったかしら?」
花柳先輩がそう問いかけてくる。1学期も終わるし、通知表も渡されるから成績について訊かれるよな。
「赤点なしで乗り越えられました!」
「私もです。不安な教科もありましたけど、赤点はありませんでした」
「俺もです」
「結構良かったです」
「クラス1位で学年3位だったんですよ、由弦は」
「へえ、そうなんだ。みんな赤点なしで良かった。あと、桐生君はさすがだね」
「そうだね。みんないい成績で良かったよ。あと、由弦君は凄いね」
花柳先輩と美優先輩は俺達の成績のことについて褒め、美優先輩は俺の頭を優しく撫でてくれる。そんな先輩の顔にはいつもの優しい笑みが浮かんでいて。これまでに何人もの人から成績について褒められたけど、今が一番嬉しいな。
「美優先輩と瑠衣先輩はどうでした?」
「結構良かったよ」
「あたしも良かったわ。理系科目は不安だったけど、赤点判定は一つもなかったし。あと、美優は結構良かったって言っているけど、クラス3位で学年17位だったわ」
「そうでしたか! 美優先輩凄いです! 瑠衣先輩も赤点科目がなくて良かったですね。理系苦手だって言っていましたし」
「2人ともいい成績だったんですね。特に美優先輩はさすがです」
「そうだな、桐生」
「先輩方は勉強を分かりやすく教えてくれましたもんね」
橋本さんの言葉に1年生3人が頷く。普段の勉強や課題で分からないところを教えてくれるし、定期試験前の勉強会では美優先輩と花柳先輩が一緒だったから、先輩方に質問する場面が何度もあったからな。
さっき、美優先輩が俺の頭を撫でてくれたので、今度は俺が先輩の頭を撫でる。美優先輩はやんわりとした笑みを浮かべた。
「白鳥さん、花柳さん、お疲れ様。2人とも成績が良かったみたいで何よりだわ」
霧嶋先生がこちらにやってきて、穏やかな笑顔でそう言った。美優先輩と花柳先輩は普段からプライベートでも交流のある生徒だから、2人の成績が気になっていたのかもしれない。
美優先輩と花柳先輩は霧嶋先生に笑顔で「ありがとうございます」と言った。
それからちょっとの間、7人で談笑した。夏休み中は学校に来る予定はないので、教室での時間を噛みしめながら。
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