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特別編10
第13話『私にとってもアイドルだわ』
午後4時過ぎ。
大会2日目の表彰式の模様も見届けたので、俺、美優先輩、加藤、橋本さん、霧嶋先生、大宮先生は花柳先輩の家を後にする。
夕方の時間帯に差し掛かったけど、晴れているので結構蒸し暑い。まさに夏本番といえる気候だな。
花柳先輩の家から、美優先輩と俺の住まいがあるあけぼの荘までは徒歩数分。みんなと今日の水泳大会のことを中心に話しているから、あけぼの荘の入口まではあっという間に感じられた。
「じゃあ、私達はここで」
「今日も一緒に応援できて楽しかったです。今日は加藤と橋本さんもいましたし」
「そう言ってくれて嬉しいぜ。俺も楽しかったよ」
「楽しかったね。風花がインターハイ出場を決める瞬間も見られたし」
「私も楽しかったわ。応援するのっていいわね」
「そうだね、一佳ちゃん。あたしも楽しかった」
加藤達も応援が楽しかったか。みんな、今日は陽出学院高校の水泳部員が出ると一生懸命に応援していたからな。楽しい一日になって良かった。
「桐生、白鳥先輩、またです」
「2人ともまたです!」
「2人ともまたね」
「2人ともまた会いましょう。あと、夏休み中は時々、サブロウに会いたくて夕方頃に仕事帰りに寄るかもしれないわ」
「いいですよ、一佳先生」
「ありがとう。……今日もいるかどうか確認しようかしら。晴れているし」
「分かりました」
霧嶋先生が言う「サブロウ」というのは、黒白のハチワレ模様のオスのノラ猫のこと。可愛らしい見た目や、あけぼの荘の庭に現れることから、あけぼの荘のアイドル的存在になっている。
霧嶋先生は俺が入学した直後の頃に初めて会ったときからサブロウのファンだ。サブロウ目当てに、これまでに何度もうちに来たことがある。
大宮先生もサブロウがいるかどうか興味を持ったので霧嶋先生と一緒に残り、加藤と橋本さんとはあけぼの荘の前で別れた。
4人であけぼの荘の敷地に入り、サブロウが来ているかどうかを確認するために庭へ行く。
「いた……!」
庭に行くと、桜の木で日陰になっている場所でサブロウが気持ち良さそうに寝ている。そんなサブロウを見つけた霧嶋先生がとても喜んでいる。
「会えて良かったね、一佳ちゃん」
「はいっ。サブロウに会うのは七夕に開催されたそうめんパーティー以来ですから」
「あの日以来なんだね」
「あの日は雨が降っていなかったですもんね。昨日まで梅雨だったので、私達も最近はあまり会えていなくて。なので、サブロウ君の姿を見ると安心します」
「そうですね、美優先輩」
「そうだったのね。梅雨も明けたし、この後は晴れる日が何日も続くからサブロウといっぱい会えそうね。とりあえず今の寝姿を写真に……」
霧嶋先生はそう言うと、バッグからスマホを取り出してサブロウに向ける。
――カシャカシャカシャ……。
と、シャッター音が頻繁に聞こえるけど、連写しているのだろうか。寝姿なんてそんなに変化ないと思うんだけどな。まあ、大好きなサブロウの写真ならいくら持っていてもいいのかもしれない。
俺達が会話していたからなのか。それとも、霧嶋先生が連写していたからなのか。サブロウはゆっくりと顔を上げる。そして、俺達の方を見て、
「にゃあっ」
と可愛く鳴いた。その反応に霧嶋先生は「あぁっ」と甘い声を漏らす。
「こっちを見て鳴いてくれたわ。とても可愛い。ただ、起こしちゃったわね。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。俺と美優先輩が寝ているサブロウを見つけて話していると、サブロウが起きることは普通にありますし」
「そうだね」
「それなら良かったわ」
ほっと胸を撫で下ろす霧嶋先生。気持ち良く眠っているところを邪魔してサブロウを怒らせたと思っていたのかもしれない。
「サブロウが来ましたから、水とキャットフードをあげましょう」
「そうですね、美優先輩。一旦、家に入りましょう」
「そうね。お邪魔します」
「お邪魔します」
俺と美優先輩は霧嶋先生と大宮先生と一緒に帰宅する。
リビングに行くと、ベランダにサブロウがいるのが見える。「水とキャットフード」という美優先輩の言葉に反応して、ベランダまで来たのかもしれない。
霧嶋先生はバッグを食卓に置き、窓を開ける。
すると、サブロウはリビングに入ってきて、霧嶋先生の前で香箱座りをする。先生はサブロウの前に座って、さっそくサブロウのことを撫で始める。
「ふふっ、久しぶりにあなたに会えて嬉しいわ」
「にゃぉん」
「それはサブロウも私に会えて嬉しいってことかしら? そうだと嬉しいわ」
「なーう」
「あぁ……可愛くてたまらない。今日もいい毛並みでとてもいい触り心地だし……」
サブロウにデレッデレだな、霧嶋先生。可愛い見た目だし、触らせてくれるし、自分に向けて鳴いてくれたらそりゃ可愛いよなぁ。さすがはあけぼの荘のアイドルだ。
「本当に可愛いよね~」
そう言って、大宮先生は霧嶋先生の隣に座ってサブロウの背中を撫でる。
「水とキャットフードを用意しますから、それまでは先生達がサブロウ君の相手をしていてください」
『はーい』
美優先輩のお願いに、霧嶋先生と大宮先生が声を揃えて返事する。こういう光景は新鮮だし、生徒と先生の立場が逆転しているような感じがして面白い。
俺と美優先輩はキッチンに行き、俺が水を、美優先輩がキャットフードをそれぞれ用意する。その間、リビングから、
「あっ、頭スリスリしてきました。かわいい……」
「可愛いね。あと、ゴロゴロ言ってる。一佳ちゃんの撫で方が上手なんだろうね」
「そうだと嬉しいですね。あと、成実さんに背中を撫でられるのも気持ちいいんじゃないでしょうか」
「そうだといいなぁ」
という霧嶋先生と大宮先生の楽しげな会話やサブロウの鳴き声が聞こえてきて。リビングの方をチラッと見ると、先生方は柔らかい笑顔になっていて。
「サブロウ君。お水とキャットフードが用意できたよ」
「にゃーん」
俺がお水の入ったお皿を、美優先輩がキャットフードの入ったお皿をそれぞれサブロウの前に置く。それと同時に、霧嶋先生と大宮先生は撫でるのを止めた。
サブロウはさっそくキャットフードを食べ始める。可愛いな。カリッ、カリッ、という咀嚼音を食べてくれているんだと実感できて嬉しい気持ちになる。
キャットフードを食べる中、サブロウはたまに水も飲んでいる。梅雨明けして夏本番の暑い時期になったし、水分補給もしていて安心だ。また、そんなサブロウのことを、
「食事をする姿も可愛いわぁ」
霧嶋先生がサブロウのすぐ近くでうつ伏せになり両手で頬杖をした体勢で見守っている。ニコニコとした笑顔で、両脚をバタバタとさせていて可愛いな。
「サブロウ君可愛いですね。そんなサブロウ君を近くから見守っている一佳先生も可愛いですが」
「そうだね、美優ちゃん」
「可愛いですよね」
「……ちょ、ちょっと照れてしまいますね」
と、霧嶋先生ははにかみながら言う。そんな先生も可愛らしい。
ただ、サブロウの力もあってか、照れくさそうな様子はすぐになくなり、再びニコニコとした笑顔で、食事をしているサブロウの姿を見る。最近は学校でも可愛かったり、柔らかかったりする笑顔を見せるようになったけど、ここまで可愛い姿を見せることは全然ない。こういう姿の霧嶋先生を引き出せるサブロウはさすがだ。
お腹が空いていたり、喉が渇いていたりしていたのだろうか。サブロウは休憩を挟むことなく、キャットフードを完食し、水も完飲した。
「エサを全部食べて、水を全部飲んだわね。偉いわ、サブロウ」
「にゃぁん」
食事を終えたサブロウはその場で寝転がり、リラックスした体勢に。そんなサブロウの頭から背中に掛けて、霧嶋先生は優しく撫でている。
「きっと、美味しかったのね。料理部の2人が用意したものだものね~」
「ふふっ。まあ、キャットフードは市販のものですけどね」
「水は水道水ですね。ただ、用意したものを完飲完食してくれるのは嬉しいですね」
「そうだね。伯父夫婦の話だと、ノラ猫だからサブロウ君がここに来始めたときは残すこともあったみたいだけど。私が来た頃には、今みたいに完食することが多くなってたよ」
「そうでしたか。……食事を残さないでくれて嬉しいよ」
「私も嬉しいよ」
「偉いね、サブロウ」
俺、美優先輩、大宮先生もサブロウのことを優しく撫でる。さっき、霧嶋先生が言っていたようにいい撫で心地だ。気持ちがいい。癒やされる。
みんなに撫でられて気持ちいいのだろうか。サブロウは、
「にゃぁん」
と可愛らしく鳴いて、その場でゴロンゴロンする。
「あぁ、ゴロンゴロンしたぁ!」
霧嶋先生は甘い声でそう言う。そんな先生はうっとりとした様子で。
「本当に可愛いわぁ。あけぼの荘のアイドルだけのことはあるわね。私にとってもサブロウはアイドルだわ。一番のアイドルね」
「ふふっ、一佳先生、本当にサブロウ君のことを気に入ってくれていますね」
「ですね。あけぼの荘のどの住人よりも気に入っていそうです」
「職員室でも、たまにスマホでサブロウの写真を見ているわよね」
「とっても可愛いですから。大好きなサブロウの写真を見ると癒やされて、仕事の疲れが取れるんですよね。元気にもなれて。それもあって、たまに仕事帰りにサブロウに会いたくなるんです」
そういったときのことを思い出しているのか、霧嶋先生は優しい笑顔で話してくれる。
霧嶋先生の言うこと……分かるなぁ。俺も授業の合間の休み時間に美優先輩の写真を見ると、元気になれたり、授業の疲れが取れたりしたことがあったし。
「今日はみんなと一緒に姫宮さん達がインターハイ出場を決める瞬間を見ることができたし、サブロウと戯れることもできたから最高の一日だわ。明日からまた仕事を頑張れそう」
ふふっ、と霧嶋先生は優しく笑いながらサブロウのことを撫でる。先生にとって最高の休日になったか。良かった。
それからしばらくの間、サブロウはリビングにいてくれた。
俺達はサブロウのことを撫でたり、霧嶋先生のスマホで写真をいっぱい撮ったりして。サブロウと一緒に撮ることも。その間、霧嶋先生はとても幸せそうにしていた。
大会2日目の表彰式の模様も見届けたので、俺、美優先輩、加藤、橋本さん、霧嶋先生、大宮先生は花柳先輩の家を後にする。
夕方の時間帯に差し掛かったけど、晴れているので結構蒸し暑い。まさに夏本番といえる気候だな。
花柳先輩の家から、美優先輩と俺の住まいがあるあけぼの荘までは徒歩数分。みんなと今日の水泳大会のことを中心に話しているから、あけぼの荘の入口まではあっという間に感じられた。
「じゃあ、私達はここで」
「今日も一緒に応援できて楽しかったです。今日は加藤と橋本さんもいましたし」
「そう言ってくれて嬉しいぜ。俺も楽しかったよ」
「楽しかったね。風花がインターハイ出場を決める瞬間も見られたし」
「私も楽しかったわ。応援するのっていいわね」
「そうだね、一佳ちゃん。あたしも楽しかった」
加藤達も応援が楽しかったか。みんな、今日は陽出学院高校の水泳部員が出ると一生懸命に応援していたからな。楽しい一日になって良かった。
「桐生、白鳥先輩、またです」
「2人ともまたです!」
「2人ともまたね」
「2人ともまた会いましょう。あと、夏休み中は時々、サブロウに会いたくて夕方頃に仕事帰りに寄るかもしれないわ」
「いいですよ、一佳先生」
「ありがとう。……今日もいるかどうか確認しようかしら。晴れているし」
「分かりました」
霧嶋先生が言う「サブロウ」というのは、黒白のハチワレ模様のオスのノラ猫のこと。可愛らしい見た目や、あけぼの荘の庭に現れることから、あけぼの荘のアイドル的存在になっている。
霧嶋先生は俺が入学した直後の頃に初めて会ったときからサブロウのファンだ。サブロウ目当てに、これまでに何度もうちに来たことがある。
大宮先生もサブロウがいるかどうか興味を持ったので霧嶋先生と一緒に残り、加藤と橋本さんとはあけぼの荘の前で別れた。
4人であけぼの荘の敷地に入り、サブロウが来ているかどうかを確認するために庭へ行く。
「いた……!」
庭に行くと、桜の木で日陰になっている場所でサブロウが気持ち良さそうに寝ている。そんなサブロウを見つけた霧嶋先生がとても喜んでいる。
「会えて良かったね、一佳ちゃん」
「はいっ。サブロウに会うのは七夕に開催されたそうめんパーティー以来ですから」
「あの日以来なんだね」
「あの日は雨が降っていなかったですもんね。昨日まで梅雨だったので、私達も最近はあまり会えていなくて。なので、サブロウ君の姿を見ると安心します」
「そうですね、美優先輩」
「そうだったのね。梅雨も明けたし、この後は晴れる日が何日も続くからサブロウといっぱい会えそうね。とりあえず今の寝姿を写真に……」
霧嶋先生はそう言うと、バッグからスマホを取り出してサブロウに向ける。
――カシャカシャカシャ……。
と、シャッター音が頻繁に聞こえるけど、連写しているのだろうか。寝姿なんてそんなに変化ないと思うんだけどな。まあ、大好きなサブロウの写真ならいくら持っていてもいいのかもしれない。
俺達が会話していたからなのか。それとも、霧嶋先生が連写していたからなのか。サブロウはゆっくりと顔を上げる。そして、俺達の方を見て、
「にゃあっ」
と可愛く鳴いた。その反応に霧嶋先生は「あぁっ」と甘い声を漏らす。
「こっちを見て鳴いてくれたわ。とても可愛い。ただ、起こしちゃったわね。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。俺と美優先輩が寝ているサブロウを見つけて話していると、サブロウが起きることは普通にありますし」
「そうだね」
「それなら良かったわ」
ほっと胸を撫で下ろす霧嶋先生。気持ち良く眠っているところを邪魔してサブロウを怒らせたと思っていたのかもしれない。
「サブロウが来ましたから、水とキャットフードをあげましょう」
「そうですね、美優先輩。一旦、家に入りましょう」
「そうね。お邪魔します」
「お邪魔します」
俺と美優先輩は霧嶋先生と大宮先生と一緒に帰宅する。
リビングに行くと、ベランダにサブロウがいるのが見える。「水とキャットフード」という美優先輩の言葉に反応して、ベランダまで来たのかもしれない。
霧嶋先生はバッグを食卓に置き、窓を開ける。
すると、サブロウはリビングに入ってきて、霧嶋先生の前で香箱座りをする。先生はサブロウの前に座って、さっそくサブロウのことを撫で始める。
「ふふっ、久しぶりにあなたに会えて嬉しいわ」
「にゃぉん」
「それはサブロウも私に会えて嬉しいってことかしら? そうだと嬉しいわ」
「なーう」
「あぁ……可愛くてたまらない。今日もいい毛並みでとてもいい触り心地だし……」
サブロウにデレッデレだな、霧嶋先生。可愛い見た目だし、触らせてくれるし、自分に向けて鳴いてくれたらそりゃ可愛いよなぁ。さすがはあけぼの荘のアイドルだ。
「本当に可愛いよね~」
そう言って、大宮先生は霧嶋先生の隣に座ってサブロウの背中を撫でる。
「水とキャットフードを用意しますから、それまでは先生達がサブロウ君の相手をしていてください」
『はーい』
美優先輩のお願いに、霧嶋先生と大宮先生が声を揃えて返事する。こういう光景は新鮮だし、生徒と先生の立場が逆転しているような感じがして面白い。
俺と美優先輩はキッチンに行き、俺が水を、美優先輩がキャットフードをそれぞれ用意する。その間、リビングから、
「あっ、頭スリスリしてきました。かわいい……」
「可愛いね。あと、ゴロゴロ言ってる。一佳ちゃんの撫で方が上手なんだろうね」
「そうだと嬉しいですね。あと、成実さんに背中を撫でられるのも気持ちいいんじゃないでしょうか」
「そうだといいなぁ」
という霧嶋先生と大宮先生の楽しげな会話やサブロウの鳴き声が聞こえてきて。リビングの方をチラッと見ると、先生方は柔らかい笑顔になっていて。
「サブロウ君。お水とキャットフードが用意できたよ」
「にゃーん」
俺がお水の入ったお皿を、美優先輩がキャットフードの入ったお皿をそれぞれサブロウの前に置く。それと同時に、霧嶋先生と大宮先生は撫でるのを止めた。
サブロウはさっそくキャットフードを食べ始める。可愛いな。カリッ、カリッ、という咀嚼音を食べてくれているんだと実感できて嬉しい気持ちになる。
キャットフードを食べる中、サブロウはたまに水も飲んでいる。梅雨明けして夏本番の暑い時期になったし、水分補給もしていて安心だ。また、そんなサブロウのことを、
「食事をする姿も可愛いわぁ」
霧嶋先生がサブロウのすぐ近くでうつ伏せになり両手で頬杖をした体勢で見守っている。ニコニコとした笑顔で、両脚をバタバタとさせていて可愛いな。
「サブロウ君可愛いですね。そんなサブロウ君を近くから見守っている一佳先生も可愛いですが」
「そうだね、美優ちゃん」
「可愛いですよね」
「……ちょ、ちょっと照れてしまいますね」
と、霧嶋先生ははにかみながら言う。そんな先生も可愛らしい。
ただ、サブロウの力もあってか、照れくさそうな様子はすぐになくなり、再びニコニコとした笑顔で、食事をしているサブロウの姿を見る。最近は学校でも可愛かったり、柔らかかったりする笑顔を見せるようになったけど、ここまで可愛い姿を見せることは全然ない。こういう姿の霧嶋先生を引き出せるサブロウはさすがだ。
お腹が空いていたり、喉が渇いていたりしていたのだろうか。サブロウは休憩を挟むことなく、キャットフードを完食し、水も完飲した。
「エサを全部食べて、水を全部飲んだわね。偉いわ、サブロウ」
「にゃぁん」
食事を終えたサブロウはその場で寝転がり、リラックスした体勢に。そんなサブロウの頭から背中に掛けて、霧嶋先生は優しく撫でている。
「きっと、美味しかったのね。料理部の2人が用意したものだものね~」
「ふふっ。まあ、キャットフードは市販のものですけどね」
「水は水道水ですね。ただ、用意したものを完飲完食してくれるのは嬉しいですね」
「そうだね。伯父夫婦の話だと、ノラ猫だからサブロウ君がここに来始めたときは残すこともあったみたいだけど。私が来た頃には、今みたいに完食することが多くなってたよ」
「そうでしたか。……食事を残さないでくれて嬉しいよ」
「私も嬉しいよ」
「偉いね、サブロウ」
俺、美優先輩、大宮先生もサブロウのことを優しく撫でる。さっき、霧嶋先生が言っていたようにいい撫で心地だ。気持ちがいい。癒やされる。
みんなに撫でられて気持ちいいのだろうか。サブロウは、
「にゃぁん」
と可愛らしく鳴いて、その場でゴロンゴロンする。
「あぁ、ゴロンゴロンしたぁ!」
霧嶋先生は甘い声でそう言う。そんな先生はうっとりとした様子で。
「本当に可愛いわぁ。あけぼの荘のアイドルだけのことはあるわね。私にとってもサブロウはアイドルだわ。一番のアイドルね」
「ふふっ、一佳先生、本当にサブロウ君のことを気に入ってくれていますね」
「ですね。あけぼの荘のどの住人よりも気に入っていそうです」
「職員室でも、たまにスマホでサブロウの写真を見ているわよね」
「とっても可愛いですから。大好きなサブロウの写真を見ると癒やされて、仕事の疲れが取れるんですよね。元気にもなれて。それもあって、たまに仕事帰りにサブロウに会いたくなるんです」
そういったときのことを思い出しているのか、霧嶋先生は優しい笑顔で話してくれる。
霧嶋先生の言うこと……分かるなぁ。俺も授業の合間の休み時間に美優先輩の写真を見ると、元気になれたり、授業の疲れが取れたりしたことがあったし。
「今日はみんなと一緒に姫宮さん達がインターハイ出場を決める瞬間を見ることができたし、サブロウと戯れることもできたから最高の一日だわ。明日からまた仕事を頑張れそう」
ふふっ、と霧嶋先生は優しく笑いながらサブロウのことを撫でる。先生にとって最高の休日になったか。良かった。
それからしばらくの間、サブロウはリビングにいてくれた。
俺達はサブロウのことを撫でたり、霧嶋先生のスマホで写真をいっぱい撮ったりして。サブロウと一緒に撮ることも。その間、霧嶋先生はとても幸せそうにしていた。
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