恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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続編

第28話『体育祭⑤-大縄跳び-』

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 借り物競走が終わって少しの間は、1年の頃にクラスメイトだった俺の友達や、氷織の文芸部の友人や先輩後輩がやってきて「借り物競走凄かったね」という言葉をたくさんかけられた。
 俺が出る残りの種目は、午後にあるラストのチーム対抗混合リレーだけ。それまではブルーシートでゆっくりしたり、みんなを応援したりしよう。
 借り物競走の後も種目は続き、午前中の競技はいよいよ終盤戦に。

『次の種目は大縄跳びです! 大縄跳びに出場する生徒のみなさんはグラウンドへ出てください。係の生徒が、クラスの書かれた紙を持っています。自分のクラスの紙を持つ生徒のところに集まってください』

 おっ、次は大縄か。この種目には和男や清水さんなど、クラスの半数近くの生徒が出場する。

「和男、清水さん、頑張って」
「頑張ってくださいね、倉木さん、清水さん」
「2人とも頑張りなさい!」
「ありがとう! みんな!」
「おう! 俺は体岡と一緒に大縄を回すのを頑張るぜ!」

 楽しそうに言う和男。和男は大縄を回す係なのか。そういえば、種目決めのときに「大縄は跳ぶのも回すのも楽しめる」って言っていたっけ。あと、和男は体が大きくて体力もかなりあるから、跳ぶよりも縄を回す方が適役か。
 和男や清水さん、体岡など、大縄跳びに出場する生徒が続々とグラウンドへ。

「2年2組のみなさんは、こちらに集まってくださーい!」

 そうアナウンスする女子生徒が結構近くにいた。その女子生徒は青い文字で『2-2』と書かれた紙を持っており、彼女の右肩には纏められた大縄が掛かっている。和男達はその女子生徒の近くに集まる。
 どうやら、ここからでもうちのクラスの大縄跳びの様子をしっかりと見られそうだ。

『大縄跳びは8の字跳びの形で行われ、3分間に飛んだ回数で競います。また、途中で引っかかった場合も、飛んだ回数のカウントはゼロに戻りません。順位は学年ごとに決め、その順位に応じてチームに点数が入ります。参加する生徒で一丸となり、学年1位を目指して頑張ってください!』

 そんな放送の後、『おー!』という声がグラウンドから聞こえる。手を突き上げている生徒もいて。
 同学年の中に同チームのクラスはない。だから、学年ごとに順位を決める形式なのか。うちのクラスが2年生の中で1位になるように応援しよう。

「大縄かぁ。あたしの卒業した小中学校では、クラス全員参加の大縄跳びがあったわ。8の字じゃなくて、全員で一緒に飛ぶ形だから、体育の時間や放課後に練習させられたっけ……」
「私は中学のときにクラス対抗の大縄跳びがありましたね。恭子さんの学校と同じく全員飛ぶ形で。明斗さんはどうでしたか?」
「俺も中学のときにあったな」

 どの中学校でも、体育祭にはクラス対抗で大縄跳びをするのが定番なのだろうか。

「俺も全員一緒に跳ぶやつだったから練習も結構やったな。全員一緒は難しいから、8の字でも良くないかって思うこともあった」
「あたしも同じことを思ったわ。あと、あたしが引っかかっちゃうこともあったからさ。どうせ引っかかるなら、1人ずつ縄に入る8の字の方がマシだ……って思ったわ。引っかかってもあまりにらまれずに済みそうだし」

 不満げに話す火村さん。引っかかって、結構にらまれたことがあったのかな。そんな火村さんの頭を氷織が撫でる。

「私も引っかかって、周囲から視線が集まったときは何とも言えない気分になりましたね。気楽そうに飛べる8の字の方が好きです」
「あたしもっ!」

 自分と同じで嬉しいのか、火村さんは氷織の腕をぎゅっと掴んで「えへへっ」と笑う。
 俺達が大縄トークをしている間に、グラウンドでは各クラスの飛ぶ準備が完了していた。うちのクラスは和男と体岡が縄を持っており、飛ぶ生徒達の先頭に清水さんが立っている。
 うちのクラスを担当する係の女子生徒の隣には高橋先生の姿が。クラス単位で闘うから、すぐ近くで応援しようということかな?

「みんな~、頑張ってね~」

 と、高橋先生はいつもの柔らかな笑顔で声を掛けている。先生が側にいれば、大縄を跳ぶクラスメイト達の緊張がほぐれそうだ。

『どのクラスも準備ができたみたいですね! では、参加するみなさんも、応援するみなさんも一緒にカウントダウンをしましょう! 5からいきますよ!』

 その放送もあり、会場全体が盛り上がっていく。今年の放送委員も場を盛り上げるのが上手だなぁ。

『行きますよー! せーの! 5! 4! 3! 2! 1! ゼロー!』

 いよいよ、クラス対抗の大縄飛びが始まった。
 和男と体岡によって大縄が回され、清水さんを先頭に8の字飛びがスタートする。
 勢いよく清水さんが大縄に入り「ぴょん」とスムーズに飛ぶので、その流れで後ろに並ぶ生徒もいい流れで飛んでいく。

「みんな頑張ってくださーい!」
「頑張ってー」
「頑張れー! 和男と体岡も回すの頑張れー!」

 頑張れの一言でも良かったのかもしれないが、回しているのが親友と体育実行委員なので別に言いたかったのだ。
 飛び方が8の字跳びで、引っかかっても飛んだ回数がゼロにならないからだろうか。みんな楽しそうに飛んでいるな。清水さんは躊躇いなく縄に入っているし、飛び方も軽やかで上手だ。
 また、引っかかっても、

「気にするな! どんどんいこう!」
「行こうぜみんな!」
「引っかかることだってあるわ~。次、いきましょ~!」

 と、和男と体岡と高橋先生が笑顔でフォローする。なので、うちのクラスは結構いい雰囲気だ。
 うちのクラスは何度か引っかかることがありながらも、順調に回数を伸ばしていく。そして、

『残り……5! 4! 3! 2! 1! そこまでです!』

 3分間の大縄跳びが終了した。俺達は2組の大縄の選手達に「お疲れ様!」と労いの言葉を掛ける。すると、和男や清水さん達が笑顔でこちらに手を振ってくれた。
 各クラスの飛んだ回数を数える生徒達が、体育実行委員会本部のテントへ向かう。

「うちのクラスは何位になるでしょう?」
「何度か引っかかっていたけど、テンポは良かったし、上位に入るとは思うわ」
「俺も火村さんと同じ意見だ」

 長い間引っかからずに跳び続けたときもあったから。上位入りは十分に期待できるだろう。
 それから数分ほど経って、

『集計が終わりました! では、1年生から順に結果を発表します!』

 とアナウンスが。実況の男子生徒による巧みな話術により、会場を盛り上げながら1年生の順位を下位から発表していく。青チームのクラスは4位だった。

『では、次に2年生の順位を発表します!』

 おっ、ついに2年生の順位が発表されるか。

『まず、第6位は……白チームの1組! 跳んだ回数は70回!』

 一番下の6位ではなかったか。最下位であっても拍手の音はちゃんと聞こえてくる。

『第5位は……黄色チームの3組! 跳んだ回数は82回!』

 第5位は黄色チームのクラスか。今も総合得点は1位で勢いがあったので、ここで5位なのはちょっと意外な気がした。

『第4位は……桃色チームの5組! 跳んだ回数は88回!』

 おおっ、4位でもなかったか。

「とりあえず、上位3組には入ったか」
「そうですね。よく跳んでいましたもん」
「1位の可能性もあるわ!」

 氷織と火村さんは、自分の胸の前で両手をしっかりと握る祈りの体勢を取っている。

『ここからは跳んだ回数が一気に跳ね上がります。レベルの高い結果となりました! 続いて、第3位は……青チームの2組! 跳んだ回数は121回!』
『おおっ!』

 4位とは30回以上の差が付いているし、桁も一つ上がったからか、会場からどよめきが。

「3位だったわ……」
「でも、4位以下とはかなり差がありますし、立派な3位ですよ」

 火村さんはがっかりとした様子。そんな火村さんとは対照的に、氷織は普段通りの優しい笑顔になっている。

「氷織の言う通りだね。うちのクラスも調子が良かったけど、それよりも凄いクラスが2つあったんだな」
「そうですね。3位おめでとうございます! 頑張りましたね!」
「立派な3位よ!」
「みんなおつかれー!」

 俺達がそんな声を掛けて拍手を送ると、和男達はこちらに向かって手を振ってくる。そして、和男と清水さんが、

「おう! ありがとな!」
「ありがとう!」

 と、元気な声で返事をしてくれた。
 それからも順位が発表され、第2位は緑チームの葉月さんのクラスの4組で、跳んだ回数は125回。そして、第1位は赤チームの6組で、跳んだ回数は141回だった。2位の跳んだ回数を聞いたときは僅差で悔しい気持ちもあったけど、1位の回数を聞いたときには素直に凄いなぁと思った。実況通り、3位以上はハイレベルな結果になったな。
 2年生の後に3年生の結果が発表され、青チームのクラスは2位だった。チーム単位で考えると、まあまあな成績だったんじゃないだろうか。
 全ての結果発表が終わり、和男や清水さん達がブルーシートに戻ってきた。4位と差を付けての3位だからか、満足そうにしているクラスメイトが多い。

「みんな応援ありがとう! 3位になったよ!」
「調子が良かったから、もっと上の順位になると思ったけどな! 悔しいけど、まあ上には上がいるってことだな!」

 清水さんと和男は明るい笑顔でそう言った。悔しさはありつつも、上には上がいると前向きに考えられるのは和男らしい。和男なら、この悔しさを午後に出場する種目での原動力に変えられるだろう。
 大縄の後も競技が行なわれ、予定より10分遅れて午前中の種目は全て終了した。
 この時点で、青チームは黄色チームに続いて2位。葉月さんのいる緑チームは3位だ。午後の種目があるし、まだまだ逆転は可能だろう。
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