恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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続編

第29話『部活動⑥-部活動対抗リレー-』

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 午後0時10分。
 予定よりも10分遅れて、1時間の昼休みに入った。生徒達は校舎に戻ってお昼ご飯を食べることに。
 今日は体育祭なので、普段とは違って、火村さん、和男、清水さん、葉月さんと6人で一緒にお昼ご飯を食べた。葉月さんは「お昼ご飯なので一時休戦ッス」とお弁当と水筒を持って2組の教室に遊びに来たのだ。
 俺の弁当は唐揚げにハンバーグに玉子焼き、きんぴらごぼう、ミニトマトなど王道のおかずが入っていた。だからか、小学校の運動会のお昼休みに、家族全員で両親が作った重箱弁当を食べたことを思い出した。
 また、氷織が俺のために甘めの玉子焼きを作ってきてくれ、食べさせてもくれて。それもあって、凄くパワーがついた。これで、午後に出場する混合リレーも全力を出せそうだ。



 午後1時10分。
 これから、体育祭午後の部がスタートする。
 最初の種目は部活動対抗リレー。昼休みに氷織や和男、葉月さんから聞いた話だと、文化部部門、女子運動部部門、男子運動部部門の3レースが行なわれるそうだ。また、文化部部門は男女混合とのこと。
 氷織と葉月さんは文芸部のメンバーとして文化部部門に、和男は陸上部のメンバーとして男子運動部部門に出場するとのこと。
 部活動対抗リレーに出ない俺は、火村さんと清水さんと一緒にうちのクラスのブルーシートから応援することに。去年もこの種目は盛り上がっていたし、今年もどんなレースになるのか楽しみだ。

『午後1時10分になりました! これから、体育祭午後の部をスタートします!』

 放送委員会の男子生徒による放送が入り、会場から拍手が起こる。そんな雰囲気に乗っかって俺達も拍手。

『午後の部最初の種目は部活動対抗リレーです。事前に参加希望を出した部活、そして先生チームが6人でのリレー形式で対戦します』

 そういえば、去年も部活動対抗リレーで先生達が走っていたっけ。それもあるから、このリレーは盛り上がるのかもしれない。

『笠ヶ谷高校には様々な部活があります。そのため、文化部部門、女子運動部部門、男子運動部部門の3レースを行ないします。文化部部門のレースのみ男女混合です。また、全ての部門で先生方によって作られたチームが出場します。それを含めて楽しんでください! まずは文化部部門のレースです!』

「氷織と沙綾が出るレースね!」
「そうだね、恭子ちゃん!」
「よし、文芸部を応援しよう」

 俺がそう言うと、火村さんと清水さんはしっかりと頷いた。
 ちなみに、氷織はアンカー前、葉月さんはアンカーとして出場する。それぞれ、チーム対抗混合リレー、女子リレーで走る順番と同じなので、2人とも「対抗リレーのいい練習になる」と言っていた。
 放送によると、文化部部門のレースに出場する部活は文芸部の他に、吹奏楽部、料理部、美術部、軽音楽部、演劇部だ。また、バトンは普通のものではなく、それぞれの部活にあるものを使う。文芸部は……冊子のようなものを持っている。部誌かな。
 それぞれの部活の第1走者がスタート地点に立つ。
 ――パンッ!
 号砲が鳴り響き、文化部部門のレースがスタートした。
 序盤から結構盛り上がっている。チーム対抗ではなく部活対抗だからだろうか。そして、先生チームも一生懸命走っているからだろうか。
 女子と混合のチーム対抗リレーと同じく、トラック半周を走り次の走者にバトンを渡す。

『バトンを見ると……トップは吹奏楽部、2位は演劇部です! そこから少し差が開いて、文芸部、軽音楽部となっています!』

「吹奏楽部と演劇部は速いね!」
「速いわね、美羽。吹奏楽部と演劇部は体力が必要みたいで、体力作りも重要だって友達から聞いたことがあるわ」
「そうなんだ。考えてみると……吹奏楽部は楽器の演奏、演劇部は全身を使って演技するもんね。だから、体力は重要なんだろうなぁ」

 それを考えると、吹奏楽部と演劇部が他の部活よりも足が速いのも納得かな。

「でも、文芸部には氷織と葉月さんがいるからね」
「ええ。2人とも速かったし、トップに食い込める可能性はありそうね」
「男子もいるレースだけど、2人なら期待できそうだよね!」

 清水さんはそう言うと、火村さんはうんうんと頷き合っている。
 レースは進んでいき、いよいよ終盤戦に。文芸部は3位でアンカー前の氷織にバトンが渡った。

「氷織、頑張れ!」
「頑張って、氷織!」
「氷織ちゃん、頑張ってー!」

 俺達は氷織に向かって声援を送る。
 氷織は100m走のときと同じように、美しいフォームで走り、2位の演劇部と差が縮まっていく。
 また、俺達の目の前を走ったときの氷織の姿がとても美しくて。そのときに見えた氷織の真剣な表情がかっこよくて。火村さんはそんな氷織をうっとりと見つめていた。
 氷織の健闘もあって、2位の演劇部との差がかなり縮まった状態で、アンカーの葉月さんにバトンパスをした。

「葉月さん、頑張れ!」
「2位いけるわよ! 沙綾!」
「演劇部抜いちゃえー!」

 アンカーなのもあり、俺達は氷織のときより大きな声で応援する。
 パン食い競走でも見せていた葉月さんの足の速さは、ここでも見事に発揮される。葉月さんは走り始めてすぐに2位の演劇部に追いつき、抜いていく。
 しかし、演劇部のアンカーの男子生徒は意地を見せ、葉月さんとの差は広げず、じりじりと差を縮めていく。

『ゴール! 吹奏楽部が1位でゴールしました!』

 文芸部と演劇部の2位争いに集中していたからか、吹奏楽部の方は全く気にしていなかった。そうか、吹奏楽部が1位を守って優勝したのか。
 葉月さんと演劇部の男子生徒も終盤であり、2人は並んで走っている。どっちが2位になってもおかしくない。

「沙綾さん! 頑張って!」

 グラウンドから、既に走り終わった氷織が大きな声で葉月さんに声援を送る。
 氷織の声が葉月さんの力に変わったのだろうか。葉月さんが男子生徒よりも少し前に出て、胸を張った状態になってゴールラインを突破した。

『2位は文芸部です! 文芸部でーす!』
『おおおっ!』

 文芸部が終盤で追い上げて逆転したことや、最後まで演劇部と2位争いを繰り広げたこと。そして、今の熱い実況もあって、1位の吹奏楽部がゴールしたときよりも会場が盛り上がる。

「やったわ! 文芸部2位よ!」
「氷織ちゃんも沙綾ちゃんも凄いよ!」

 文芸部が2位になったことの嬉しさからか、火村さんと清水さんは嬉しそうに抱きしめ合っていた。

『ラスト一周になるまでは演劇部との差が開いていましたが、最後の2人の部員によって文芸部が見事に逆転しました! 演劇部は3位のゴールでしたが、こちらも素晴らしい走りでした! そして、軽音楽部、美術部、料理部。……最後に先生チームもゴールです!』

 全チームがゴールしたのもあり、会場からは拍手が。俺達も拍手を送る。

「文芸部のレースとは思えなかったな!」
「ああ、熱いリレーだった!」

 という男子生徒達の話し声が聞こえてきたので、俺は心の中で何度も頷いた。
 グラウンドの方を見ると、葉月さんは嬉しそうに氷織のところへ駆け寄って、氷織のことを抱きしめていた。氷織もニッコリ笑っており、両手を葉月さんの背中に回していた。そんな2人に、文芸部の他の走者が集まっていて。2位という結果に大満足といった感じに見えた。

「みなさん、ただいまです」
「2位になれたッス!」

 文芸部部門の走者達がグラウンドを後にし、氷織と葉月さんがうちのクラスのブルーシートに帰ってきた。

「2人ともお疲れ様。氷織から凄い追い上げだったね」
「特に沙綾が演劇部との2位争いをしているときは燃えたわ!」
「手に汗握ったよね」
「私もグラウンドで興奮してしまいました。沙綾さん凄いです!」
「どうもッス! 演劇部のアンカーの男子も粘ったッスからね。とにかく前に行こうって考えて、ゴールするときも胸を突き出したッス。2位になれて良かったッス」

 葉月さんが走っているときの想いを話すと、氷織と火村さん、清水さんが「よくやった」と彼女の頭を撫でた。そのことに葉月さんはとても嬉しそうにしていた。
 文化部部門のレースの後は、女子運動部部門のレースが行われる。文化部とは違って、どのチームも対外試合や公式戦でのユニフォーム姿。なので、部活動のリレーらしい雰囲気がある。
 どこも運動部だけあって、文化部部門よりも差のない展開。アンカーになると1位争いが激化し、その末に女子バスケットボール部がゴールテープを切った。陸上部の女子も出ており、清水さんがかなり応援していたが、陸上部は4位でのフィニッシュだった。

『では、次は男子運動部部門です! これが部活動対抗リレー最後のレースになります!』

 おっ、ついに和男が出る部門のレースか。

「よーし、男子も陸上部応援するよ!」

 陸上部のマネージャーであり、彼氏の和男がアンカーとして出場するので、清水さんは女子よりも応援する気満々。もちろん、俺達も陸上部を応援することに。
 アナウンスにより、男子運動部部門は陸上部の他に野球部、サッカー部、男子バスケットボール部、男子テニス部、卓球部、バドミントン部、柔道部が出場するとのこと。女子と同じように、男子もそれぞれのユニフォームを着ている。
 それぞれの部活の第1走者がスタート地点に立つ。

 ――パンッ!
『さあ、男子運動部部門のレースがスタートしました! このレースは1人1周走ります! 文化部や女子運動部のようなドラマが待っているのでしょうか!』

 いよいよ男子運動部部門のレースがスタートする。
 全8チームあって、みんな運動部の男子達。なかなか迫力がある。きっと、男子のチーム対抗リレーでもこういう感じになるんだろうな。

「男子も頑張ってー! ファイトだよー!」

 清水さんはブルーシートの先頭に立ち、一生懸命声援を送る。さすがはマネージャー。
 序盤は団子状態だが、レースが進むにつれて差が出始める。
 後半になると、陸上部とサッカー部が先頭争いを繰り広げるようになり、その少し後に野球部。そこから結構な差があって、男子バスケットボール部などの部活や先生チームが続く。
 終盤になると野球部も追い上げ、陸上部とサッカー部を逆転する。男子の方はこの3つの部活の三つ巴の戦いになりそうだ。
 ついに、アンカー勝負となり、和男は第3位でバトンを受け取った。

『さあ、バトンがアンカーに渡りました! どこの部活がゴールテープを切るのでしょうか!』

「和男君! 頑張ってー!」
「いけー! 和男!」
「倉木さん、頑張って!」
「陸上短距離男の実力を見せつけなさい! 倉木!」
「倉木君ならやれるッスよ!」

 俺達は和男に向かってそんな言葉を送る。和男が走っているので、クラスメイトの多くが和男に声援を送っている。
 和男は2位のサッカー部との差を詰め、並んだところで俺達の目の前を走っていく。その瞬間、和男の口角がちょっと上がったように見えた。
 俺達の目の前を通り過ぎた直後に、和男はサッカー部を追い抜く。1位の野球部との差もどんどん縮める。

「和男くーんっ!!」

 本日最大と言っていいほどの大きな声で、清水さんは和男の名前を叫んだ。
 すると、最後のコーナーで、ついに和男は野球部を追い抜き、そのまま野球部との差を広げながらゴールテープを切った!

『ゴール! 陸上部が1位でゴールしました! 2位は僅差で野球部! そして、3位はサッカー部です! アンカーで逆転し、陸上部が優勝です!』

「やったー! 和男君も陸上部も凄いよ!」

 清水さんは涙を流しながら大喜びして、隣にいる火村さんのことを抱きしめる。

「美羽の彼氏は凄いわね!」
「陸上部凄いッスね!」
「見事な追い上げでしたね!」
「本当に和男は凄い奴だ!」

 これが都大会で優勝する男の走りなんだな。本当に凄いよ、和男は。
 グラウンドを見ると、和男はとても嬉しそうに他の陸上部部員と抱きしめ合っていた。
 ただ、抱擁の時間はすぐに終わり、和男は嬉しそうな様子でこちらに向かって走ってくる。

「美羽! みんな! 1位取ったぜ! 応援聞こえてたぞ! ありがとな!」

 ブルーシートの前まで来て明るくそう言うと、和男は清水さんを抱きしめて持ち上げる。俺達の前を走っていくとき、和男の口角が上がったように見えたのは気のせいではなかったのかも。

「和男君! おめでとう!」

 祝福の言葉を贈り、清水さんは和男の頬にキスした。すると、和男は真っ赤な顔に満面の笑みを浮かべていて。そんな和男と清水さんに俺達は拍手を送るのであった。
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