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特別編8
第14話『氷織の初バイト-後編-』
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「そろそろ氷織に接客してもらおうか、葉月さん」
「そうッスね」
「分かりました。……いらっしゃいませ。店内でのご利用でしょうか?」
氷織は落ち着いた笑顔でそう言ってくれる。接客する相手が俺達だったり、数時間バイトをしていたりするのもあるだろうけど、スラスラと言えて凄い。
店内を見てみると……カウンター席や2人用のテーブル席がいくつか空いている。
「席が空いているし……店内にする?」
「そうッスね。店内は涼しいッスし」
「了解。店内で」
「店内でのご利用ですね。ご注文をお伺いします」
「紙透君、先にいいッスよ。あたし、ちょっと悩んでいるんで」
「分かった。じゃあ……タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお願いします」
「タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお一つですね」
俺の注文を復唱してレジ打ちをする氷織。俺の注文を受けてくれることに感動だ。
今回は助っ人バイトなので、次に飲食店で氷織に接客してもらうのはいつになるかは分からない。そう思うと他にも注文したくなる。有名な全国チェーンのファストフード店では0円でスマイルなんてものがあるけど。あとは、氷織のバイトが終わるまで30分くらいだし、氷織をお持ち帰り……とか。
「どうしたの、紙透。氷織のことをじっと見て」
「何か他に頼みたいものがあるッスか?」
氷織のことを見ながら考えていたから、火村さんと葉月さんにそう言われてしまう。……勇気を出してお持ち帰りしたいと言うか。
「えっと……氷織のバイトがあと30分で終わる予定だし、バイトが終わったら一緒に帰りたいなって。つまり……氷織をお持ち帰りしたいです」
お店の中にはお客さんやスタッフがいるので、氷織や火村さん、葉月さんにしか聞こえないような小さい声でそう注文した。
「私をお持ち帰り……ですか」
氷織は俺を見つめながらそう言うと、頬を中心に顔が段々と赤くなっていく。
「5時過ぎのお渡しになりますが、それでもよろしいですか?」
頬を中心に赤らんだ顔に優しい笑みを浮かべながら、氷織はそう言ってきた。
「もちろんだよ。バイトが終わるまでは店内で待ってる」
「かしこまりました。では、私を……お持ち帰りで。注文していただけて嬉しいです」
氷織はニッコリと笑いながらそう言ってくれる。可愛すぎる。あと、お持ち帰りなんていう注文に店員さんらしく対応するのが凄い。
「紙透……」
呟くようにして俺の名前を言うと、火村さんは俺に向けてサムズアップし、ニッコリと笑いかけてくれる。
「素晴らしい注文をしてくれたわ! 可愛い氷織を見られたし!」
「やるッスね、紙透君。あたしも可愛いひおりんを見られて満足ッス! 小説のネタになったッス! どうもッス!」
火村さんと葉月さんは嬉しそうな様子でそう言ってくれる。良かった、引かれなくて。
「ど、どうも。俺の注文は以上だ。葉月さん、どうぞ」
「了解ッス。タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお願いするッス」
「タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお一つですね。……以上でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。確認いたします。タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお一つと、タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお一つ。あとは……私をお持ち帰りで。以上でよろしいですか?」
「はい」
「合計600円になります」
ここのお店は、レギュラーサイズのタピオカドリンクは300円だ。なので、2つで600円。あと、氷織のお持ち帰りは0円か。俺と葉月さんは財布から300円ずつ取り出して、それをトレーに乗せた。
氷織はトレーに乗せた代金を確認し、
「600円ちょうどお預かりします。……レシートのお渡しです」
そう言い、氷織は俺にレシートを渡してくれた。……このレシート、氷織の初バイト&初接客記念として大切にとっておこう。そう思いながら財布にしまった。
「少々お待ちください」
と言い、氷織は俺と葉月さんが注文したタピオカドリンクを用意していく。その間も氷織は落ち着いていて。今日が初めてとは思えないほどだ。
できあがったタピオカカフェオレとタピオカイチゴミルク、あとはストローを2本トレーに乗せて、
「お待たせしました。タピオカカフェオレとタピオカイチゴミルクになります」
「ありがとう」
「どうもッス」
氷織は俺にトレーを渡してきた。これまで俺のバイト先の喫茶店で、氷織が注文したメニューを渡すことは何度もあったけど、こうして氷織から注文したものを受け取る日は来るとは。胸にグッとくるものがあるな。
「ごゆっくり」
と言って、氷織は軽く頭を下げた。
俺と葉月さんはテーブル席のある方へ向かい、2人用のテーブル席に。葉月さんの計らいで、カウンターが見える方の席に座らせてもらうことになった。
俺はスマホでタピオカカフェオレを撮影する。葉月さんも自分のタピオカイチゴミルクをスマホで撮っていた。
「これでOKッス。じゃあ、飲むッスか」
「そうだな。いただきます」
「いただきます」
俺はタピオカカフェオレを一口飲む。
コーヒーの苦味とタピオカやミルクの甘味のバランスが良くて美味しいな。これまでに、このお店のタピオカカフェオレを飲んだことがあるけど、今日の方が美味しく感じられる。そう思えるのは氷織が提供してくれたり、バイトをした後だったりするからだろう。
「あぁ、カフェオレ美味しい」
「イチゴミルクも美味しいッス! バイトした後なんで、タピオカとイチゴとミルクの甘さがたまらないッス。それに、ひおりんが提供してくれたから滅茶苦茶美味しいッス」
「葉月さんの言うこと分かるよ。滅茶苦茶美味しいよな。前にもここのカフェオレ飲んだことあるけど、そのときよりも美味しいよ」
「ひおりん効果ッスね」
「ああ。今まで飲んだタピオカドリンクで一番美味しい」
「効果絶大ッスね!」
あははっ、と葉月さんは楽しそうに笑う。
タピオカカフェオレを飲みながら、カウンターに立っている氷織と火村さんのことを見る。
氷織は女子大生と思われる若い女性に接客している。落ち着いているし、笑顔で接客できているし……ほんと、今日が初めてだとは思えない。こういう風に仕事ができるのは、氷織の持つポテンシャルの高さはもちろんのこと、友達の火村さんが隣にいるのが大きいだろう。火村さんも氷織の指導役らしく、明るい笑顔で接客している。2人のことを見ながら飲むタピオカカフェオレはより美味しく感じられた。
それからは葉月さんと現在放送しているアニメのこと漫画のことを話しながら、タピオカドリンクを楽しむ。これまで葉月さんと話したことはたくさんあるけど、葉月さんと2人きりで話したことは全然なかったから新鮮に感じられた。
午後5時を過ぎたところで、氷織と火村さんがカウンターから離れた。バイトは午後5時までだと言っていたので、これで終わりだろうか。そんなことを考えていると、
――プルルッ。
俺と葉月さんのスマホが同時に鳴る。
スマホを確認すると、LIMEで氷織と火村さんからメッセージが届いたと通知が。その通知をタップすると、俺、氷織、火村さん、葉月さんがメンバーのグループトークが開き、
『バイト終わりました!』
『午後5時からシフトに入る方が予定通り来たから、あたしもバイト終わったわ』
というメッセージが表示された。
「終わったッスか」
「そうだな。じゃあ、店の入口の近くで待つか」
「そうッスね」
俺と葉月さんはお店の入口近くで待つとメッセージを送った。
ごちそうさま、と言って俺達は席を立ち上がる。空になったコップやストローはゴミ箱に捨て、トレーはゴミ箱の上にあるトレーの置き場所に置いて店の外に出た。
お店に来たときよりも陽が傾いているし、冷たいタピオカドリンクを飲んだ後なので、そこまで暑くは感じなかった。
お店を出てから数分ほどして、
「お待たせしました」
「お待たせ」
スラックスにフレンチスリーブの襟付きブラウス姿の氷織に、ジーンズパンツにノースリーブのパーカー姿の火村さんがやってきた。
「氷織、火村さん、バイトお疲れ様」
「2人ともお疲れ様ッス」
「ありがとうございます、明斗さん、沙綾さん」
「ありがとう、沙綾、紙透」
労いの言葉を言うと、氷織と火村さんは爽やかな笑顔でお礼を言った。
「そして、ご注文の……私です。お待たせしました」
氷織はニコッと笑いながらそう言ってくる。すっごく可愛いな。キュンとなる。氷織をお持ち帰りしたいって注文してみて良かったな。
「確かに受け取ったよ」
そう言い、俺は氷織にキスをする。
2、3秒ほどして俺から唇を離すと、氷織は柔和な笑顔を見せてくれる。
「明斗さんにキスされたら、バイトの疲れが取れた気がします。明斗さんからもバイト代をもらった気分です」
「そっか」
「氷織が来てくれたから助かったわ。あたしが仕事を教えたらすぐに覚えたし。さすがは氷織だと思ったわ」
「初めてのバイトとは思えないほどの働きぶりに見えたッスよ」
「そうだな。30分くらいしか見ていないけど、初めてなのが嘘みたいな感じだったよ」
「店長も2人と同じようなことを言ってた。とても助かったって喜んでいたわ。今日は助っ人を引き受けてくれてありがとう」
「いえいえ。恭子さんの教え方が分かりやすかったですし、恭子さんがずっと一緒にいてくれたからですよ。心強かったです。こちらこそ、今日はありがとうございました。恭子さんとバイトができて楽しかったです」
「いえいえ! 氷織とバイトができて楽しかったわ! 今日はありがとう!」
火村さんはとても嬉しそうな様子で氷織にお礼を言った。それを受けてか、氷織も嬉しそうな笑顔になって。2人の笑顔を見ていると、今日、一緒にバイトをしたのがとても楽しかったことが窺える。
「じゃあ、あたしはこれで帰るわ。次は……明後日の花火大会の会場で会いたいわね」
「そうッスね。花火大会の会場でまた。ひおりん、紙透君」
「そうですね。またです、恭子さん、沙綾さん」
「次は花火大会で会おうな」
その後、お店の前で葉月さんと、少し歩いたところで火村さんと別れて、俺は氷織と一緒に東都メトロの新高野駅の方に向かって歩いていく。
「バイトは初めてでしたが、恭子さんと一緒だったので楽しかったです。明斗さんと沙綾さんに接客もできましたし。それに、助っ人としてバイトをしたのもあり、たくさんバイト代をもらえましたから」
「良かったな。俺も氷織に接客されて良かったよ。お持ち帰りもできたから」
「ふふっ。お持ち帰りしたいと言われたとき、キュンときちゃいました。……今度、明斗さんがバイトしているときにお持ち帰り注文してみましょう。今まで一度もしたことがないですから」
「いつでもご注文お待ちしております」
「はいっ」
氷織はニコッと笑いながらそう言った。お持ち帰り注文されるのが楽しみだな。
それからは、東都メトロに乗り、氷織の家の最寄り駅である南笠ヶ谷駅に到着するまではずっと、今日の氷織のバイトのことで話が盛り上がった。
氷織。初めてのバイト、本当にお疲れ様。
「そうッスね」
「分かりました。……いらっしゃいませ。店内でのご利用でしょうか?」
氷織は落ち着いた笑顔でそう言ってくれる。接客する相手が俺達だったり、数時間バイトをしていたりするのもあるだろうけど、スラスラと言えて凄い。
店内を見てみると……カウンター席や2人用のテーブル席がいくつか空いている。
「席が空いているし……店内にする?」
「そうッスね。店内は涼しいッスし」
「了解。店内で」
「店内でのご利用ですね。ご注文をお伺いします」
「紙透君、先にいいッスよ。あたし、ちょっと悩んでいるんで」
「分かった。じゃあ……タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお願いします」
「タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお一つですね」
俺の注文を復唱してレジ打ちをする氷織。俺の注文を受けてくれることに感動だ。
今回は助っ人バイトなので、次に飲食店で氷織に接客してもらうのはいつになるかは分からない。そう思うと他にも注文したくなる。有名な全国チェーンのファストフード店では0円でスマイルなんてものがあるけど。あとは、氷織のバイトが終わるまで30分くらいだし、氷織をお持ち帰り……とか。
「どうしたの、紙透。氷織のことをじっと見て」
「何か他に頼みたいものがあるッスか?」
氷織のことを見ながら考えていたから、火村さんと葉月さんにそう言われてしまう。……勇気を出してお持ち帰りしたいと言うか。
「えっと……氷織のバイトがあと30分で終わる予定だし、バイトが終わったら一緒に帰りたいなって。つまり……氷織をお持ち帰りしたいです」
お店の中にはお客さんやスタッフがいるので、氷織や火村さん、葉月さんにしか聞こえないような小さい声でそう注文した。
「私をお持ち帰り……ですか」
氷織は俺を見つめながらそう言うと、頬を中心に顔が段々と赤くなっていく。
「5時過ぎのお渡しになりますが、それでもよろしいですか?」
頬を中心に赤らんだ顔に優しい笑みを浮かべながら、氷織はそう言ってきた。
「もちろんだよ。バイトが終わるまでは店内で待ってる」
「かしこまりました。では、私を……お持ち帰りで。注文していただけて嬉しいです」
氷織はニッコリと笑いながらそう言ってくれる。可愛すぎる。あと、お持ち帰りなんていう注文に店員さんらしく対応するのが凄い。
「紙透……」
呟くようにして俺の名前を言うと、火村さんは俺に向けてサムズアップし、ニッコリと笑いかけてくれる。
「素晴らしい注文をしてくれたわ! 可愛い氷織を見られたし!」
「やるッスね、紙透君。あたしも可愛いひおりんを見られて満足ッス! 小説のネタになったッス! どうもッス!」
火村さんと葉月さんは嬉しそうな様子でそう言ってくれる。良かった、引かれなくて。
「ど、どうも。俺の注文は以上だ。葉月さん、どうぞ」
「了解ッス。タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお願いするッス」
「タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお一つですね。……以上でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。確認いたします。タピオカカフェオレのレギュラーサイズをお一つと、タピオカイチゴミルクのレギュラーサイズをお一つ。あとは……私をお持ち帰りで。以上でよろしいですか?」
「はい」
「合計600円になります」
ここのお店は、レギュラーサイズのタピオカドリンクは300円だ。なので、2つで600円。あと、氷織のお持ち帰りは0円か。俺と葉月さんは財布から300円ずつ取り出して、それをトレーに乗せた。
氷織はトレーに乗せた代金を確認し、
「600円ちょうどお預かりします。……レシートのお渡しです」
そう言い、氷織は俺にレシートを渡してくれた。……このレシート、氷織の初バイト&初接客記念として大切にとっておこう。そう思いながら財布にしまった。
「少々お待ちください」
と言い、氷織は俺と葉月さんが注文したタピオカドリンクを用意していく。その間も氷織は落ち着いていて。今日が初めてとは思えないほどだ。
できあがったタピオカカフェオレとタピオカイチゴミルク、あとはストローを2本トレーに乗せて、
「お待たせしました。タピオカカフェオレとタピオカイチゴミルクになります」
「ありがとう」
「どうもッス」
氷織は俺にトレーを渡してきた。これまで俺のバイト先の喫茶店で、氷織が注文したメニューを渡すことは何度もあったけど、こうして氷織から注文したものを受け取る日は来るとは。胸にグッとくるものがあるな。
「ごゆっくり」
と言って、氷織は軽く頭を下げた。
俺と葉月さんはテーブル席のある方へ向かい、2人用のテーブル席に。葉月さんの計らいで、カウンターが見える方の席に座らせてもらうことになった。
俺はスマホでタピオカカフェオレを撮影する。葉月さんも自分のタピオカイチゴミルクをスマホで撮っていた。
「これでOKッス。じゃあ、飲むッスか」
「そうだな。いただきます」
「いただきます」
俺はタピオカカフェオレを一口飲む。
コーヒーの苦味とタピオカやミルクの甘味のバランスが良くて美味しいな。これまでに、このお店のタピオカカフェオレを飲んだことがあるけど、今日の方が美味しく感じられる。そう思えるのは氷織が提供してくれたり、バイトをした後だったりするからだろう。
「あぁ、カフェオレ美味しい」
「イチゴミルクも美味しいッス! バイトした後なんで、タピオカとイチゴとミルクの甘さがたまらないッス。それに、ひおりんが提供してくれたから滅茶苦茶美味しいッス」
「葉月さんの言うこと分かるよ。滅茶苦茶美味しいよな。前にもここのカフェオレ飲んだことあるけど、そのときよりも美味しいよ」
「ひおりん効果ッスね」
「ああ。今まで飲んだタピオカドリンクで一番美味しい」
「効果絶大ッスね!」
あははっ、と葉月さんは楽しそうに笑う。
タピオカカフェオレを飲みながら、カウンターに立っている氷織と火村さんのことを見る。
氷織は女子大生と思われる若い女性に接客している。落ち着いているし、笑顔で接客できているし……ほんと、今日が初めてだとは思えない。こういう風に仕事ができるのは、氷織の持つポテンシャルの高さはもちろんのこと、友達の火村さんが隣にいるのが大きいだろう。火村さんも氷織の指導役らしく、明るい笑顔で接客している。2人のことを見ながら飲むタピオカカフェオレはより美味しく感じられた。
それからは葉月さんと現在放送しているアニメのこと漫画のことを話しながら、タピオカドリンクを楽しむ。これまで葉月さんと話したことはたくさんあるけど、葉月さんと2人きりで話したことは全然なかったから新鮮に感じられた。
午後5時を過ぎたところで、氷織と火村さんがカウンターから離れた。バイトは午後5時までだと言っていたので、これで終わりだろうか。そんなことを考えていると、
――プルルッ。
俺と葉月さんのスマホが同時に鳴る。
スマホを確認すると、LIMEで氷織と火村さんからメッセージが届いたと通知が。その通知をタップすると、俺、氷織、火村さん、葉月さんがメンバーのグループトークが開き、
『バイト終わりました!』
『午後5時からシフトに入る方が予定通り来たから、あたしもバイト終わったわ』
というメッセージが表示された。
「終わったッスか」
「そうだな。じゃあ、店の入口の近くで待つか」
「そうッスね」
俺と葉月さんはお店の入口近くで待つとメッセージを送った。
ごちそうさま、と言って俺達は席を立ち上がる。空になったコップやストローはゴミ箱に捨て、トレーはゴミ箱の上にあるトレーの置き場所に置いて店の外に出た。
お店に来たときよりも陽が傾いているし、冷たいタピオカドリンクを飲んだ後なので、そこまで暑くは感じなかった。
お店を出てから数分ほどして、
「お待たせしました」
「お待たせ」
スラックスにフレンチスリーブの襟付きブラウス姿の氷織に、ジーンズパンツにノースリーブのパーカー姿の火村さんがやってきた。
「氷織、火村さん、バイトお疲れ様」
「2人ともお疲れ様ッス」
「ありがとうございます、明斗さん、沙綾さん」
「ありがとう、沙綾、紙透」
労いの言葉を言うと、氷織と火村さんは爽やかな笑顔でお礼を言った。
「そして、ご注文の……私です。お待たせしました」
氷織はニコッと笑いながらそう言ってくる。すっごく可愛いな。キュンとなる。氷織をお持ち帰りしたいって注文してみて良かったな。
「確かに受け取ったよ」
そう言い、俺は氷織にキスをする。
2、3秒ほどして俺から唇を離すと、氷織は柔和な笑顔を見せてくれる。
「明斗さんにキスされたら、バイトの疲れが取れた気がします。明斗さんからもバイト代をもらった気分です」
「そっか」
「氷織が来てくれたから助かったわ。あたしが仕事を教えたらすぐに覚えたし。さすがは氷織だと思ったわ」
「初めてのバイトとは思えないほどの働きぶりに見えたッスよ」
「そうだな。30分くらいしか見ていないけど、初めてなのが嘘みたいな感じだったよ」
「店長も2人と同じようなことを言ってた。とても助かったって喜んでいたわ。今日は助っ人を引き受けてくれてありがとう」
「いえいえ。恭子さんの教え方が分かりやすかったですし、恭子さんがずっと一緒にいてくれたからですよ。心強かったです。こちらこそ、今日はありがとうございました。恭子さんとバイトができて楽しかったです」
「いえいえ! 氷織とバイトができて楽しかったわ! 今日はありがとう!」
火村さんはとても嬉しそうな様子で氷織にお礼を言った。それを受けてか、氷織も嬉しそうな笑顔になって。2人の笑顔を見ていると、今日、一緒にバイトをしたのがとても楽しかったことが窺える。
「じゃあ、あたしはこれで帰るわ。次は……明後日の花火大会の会場で会いたいわね」
「そうッスね。花火大会の会場でまた。ひおりん、紙透君」
「そうですね。またです、恭子さん、沙綾さん」
「次は花火大会で会おうな」
その後、お店の前で葉月さんと、少し歩いたところで火村さんと別れて、俺は氷織と一緒に東都メトロの新高野駅の方に向かって歩いていく。
「バイトは初めてでしたが、恭子さんと一緒だったので楽しかったです。明斗さんと沙綾さんに接客もできましたし。それに、助っ人としてバイトをしたのもあり、たくさんバイト代をもらえましたから」
「良かったな。俺も氷織に接客されて良かったよ。お持ち帰りもできたから」
「ふふっ。お持ち帰りしたいと言われたとき、キュンときちゃいました。……今度、明斗さんがバイトしているときにお持ち帰り注文してみましょう。今まで一度もしたことがないですから」
「いつでもご注文お待ちしております」
「はいっ」
氷織はニコッと笑いながらそう言った。お持ち帰り注文されるのが楽しみだな。
それからは、東都メトロに乗り、氷織の家の最寄り駅である南笠ヶ谷駅に到着するまではずっと、今日の氷織のバイトのことで話が盛り上がった。
氷織。初めてのバイト、本当にお疲れ様。
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