ラストグリーン

桜庭かなめ

文字の大きさ
9 / 83

第8話『ご注文は写真と笑顔ですか?』

しおりを挟む
「つーちゃん。さっちゃんと一緒に来たよ」

 お店の入り口にはワンピース姿の明日香と、パンツルックの咲希がいた。2人とも笑顔で僕に手を振っている。

「明日香、咲希。いらっしゃいませ」
「うん、こんにちは。お昼ご飯を食べに来たよ、つーちゃん」
「……その制服姿かっこいいね、翼」

 朗らかに笑う明日香に、うっとりした表情で見つめてくる咲希。

「つーちゃん、制服がとても似合っていてかっこいいよね」
「うん!」

 明日香と咲希は笑い合っている。2人がこうして仲良くしている姿を、桜海の街でまた見られるなんて。懐かしい気持ちと同時に嬉しい気持ちも湧いてくる。

「おや、明日香君じゃないか」
「こんにちは、マスター。お昼ご飯を食べ来ました」
「そうかい。嬉しいねぇ」

 明日香とマスターが仲良く話すのは、以前からここに何度も来店したことがあるだけではなく、去年や一昨年の夏休みに短期間でアルバイトをした経験があるからだ。
 ちなみに、マスターはスタッフや常連客、個人的に親しくしている人に対して、男女問わず基本的に下の名前に君付けで呼んでいる。

「明日香君。隣にいるお嬢さんは……君のお友達かな?」
「ええ。有村咲希ちゃんです。つい先日、10年ぶりに桜海に帰ってきて……今月初めに桜海高校に転入してきたんです」
「そうなのかい。ちょうどそのくらいの時期に、家族連れで来たお客様の中に、有村さんのような少女がいた記憶があるよ。おかえりなさい、有村さん。……そういえば、自己紹介がまだでしたね。私、この喫茶店『シー・ブロッサム』の店長をしております岩田秀雄いわたひでおと申します。以後、お見知りおきを」

 そう言ってマスターは咲希に軽く頭を下げる。落ち着いていて紳士的だな。
 そういえば、マスターの本名を聞いたのはひさしぶりだな……と思ったけど、半月くらい前に鈴音さんがバイトを始めたときに自己紹介していたっけ。ただ、今年はそのときくらいしか聞いていないな。お客様もスタッフもみんなマスターって呼んでいるから。

「有村咲希です。翼と明日香の友人です。翼がこちらでアルバイトをしていると聞いたので、彼が働いているこの時間にお昼ご飯を食べに来ました」
「そうでしたか。翼君はよく働いてくれていますよ。では、翼君。彼女達を席までご案内してください」
「分かりました。では、お席までご案内いたします」

 僕は明日香と咲希を席まで案内することに。知り合いを案内するのって意外と緊張するな。

「こちらにどうぞ」
「ありがとう、つーちゃん」
「ありがとう。サマになってるなぁ……」

 席へ案内しただけなんだけどね。それだけ、僕の振る舞いがちゃんとできているとポジティブに捉えておこう。

「お水になります。メニューが決まりましたらお呼びください」
「はい!」
「……失礼いたします」

 僕はカウンターに戻る。
 2人の方をチラッと見てみると、咲希と目が合う。それが恥ずかしかったのか、咲希はメニューで顔を隠した。可愛らしいな。

「翼君、あの子達って学校でのお友達なの?」
「ええ。小さい頃からの知り合いで高校のクラスメイトです」

 そういえば、咲希はもちろんのこと、明日香も鈴音さんがバイトを始めてからはこの喫茶店には一度も来ていなかったな。

「へえ、そうなんだね。マスターも知り合いみたいな感じがしたけれど」
「黒髪の子の方が以前、夏休みとかにここで短期のアルバイトをしたことがあるんですよ。朝霧明日香っていいます。明日香とは小学1年生のときから12年連続で同じクラスです。それで、茶髪のポニーテールの子は有村咲希といって、つい先日、10年ぶりに桜海に帰ってきたんです」
「なるほどね。2人とも可愛らしい女の子だね。朝霧さんは優しくてふんわりした感じが伝わってくるし、有村さんは凄く綺麗で男女問わずモテそう」
「さすがは鈴音さん。咲希は以前、女子校に通っていて、そのときに何度か女の子から告白されたらしいですよ」
「やっぱり。でも……翼君もモテそうだよね、女の子に。背も高いし、優しいし、綺麗な顔をしているし」

 鈴音さんははにかみながらそう言う。

「どうなんでしょうね。何度か告白されたことはありますが、恋人は一度もいたことはありませんよ」

 ただ、2回告白したのは咲希だけだけど。多分、彼女が一番僕に強い好意を持っているんじゃないだろうか。あと1人ほどいるかもしれないけど。

「……そっか、意外だな。出会って間もない頃から今みたいに優しく接してくれているから、てっきり彼女がいるんだと思ってた」
「どんな理論ですか。彼女達もそうですし、2つ年下の妹がいることもあってか、女性と話すことにあまり緊張しないですね」
「妹さんがいるんだね。それなら納得かな」

 うんうん、と鈴音さんは満足げに頷いている。彼女の考えも分からなくはないけど、姉妹や彼女がいなくても、初対面の女性と落ち着いて話すことのできる男性はいると思う。逆に、姉妹や彼女がいても女性と話すことに緊張する人だって。

「すみませーん。注文いいですか?」

 大きめの明日香の声が聞こえたので、

「はい、すぐに伺います」

 僕は明日香と咲希のいる席に向かう。2人はどんなメニューを頼むのか楽しみである。

「お待たせしました。何になさいますか?」
「私から言うね。ええと、オムライスのアイスティーセットをお願いします」
「オムライスのアイスティーセットですね。咲希は?」
「えっと……ナポリタンのアイスコーヒーセットをお願いします」
「ナポリタンのアイスコーヒーセットですね。かしこまりました」

 オムライスにナポリタン。マスター曰く、開店当初からある定番の人気メニューだ。僕もマスターからすぐに教えられたな。2人ともお目が高い。

「あと、これはあたしのわがままなんだけどさ、翼。その……スマイルくれますか? それと、素敵な制服を着る翼の写真を撮りたいんだけれど、いいかな?」

 スマイルと、ここの制服姿の写真撮影かぁ。
 そういえば、以前に学校の友達が、東京にはスマイルくださいって言うと店員さんが微笑んでくれる飲食店があると言っていたな。それって本当なのかも。
 他にお客様がいる状況だけれど……カウンターの方に振り返ると、マスターは穏やかに笑いながら頷いた。

「では、今回限りですよ。ちなみに、スマイルと写真は特別価格の0円でございます」
「ありがとう、翼!」
「いえいえ。明日香もよければ」
「……うん!」

 咲希だけではなく明日香も嬉しそうだ。ただ、明日香は以前に僕のこの制服姿を撮ったことがあるはずだけれど……きっと、気に入ってくれているんだろう。
 咲希と明日香にスマートフォンで写真を撮られる。そのときの咲希は今までの中で一番嬉しそうに見えた。

「ありがとう、つーちゃん」
「ありがとう、翼。家宝にする!」
「……そんなにたいそうなものじゃないでしょ」
「いいの! あたしにとってとても素敵で大切なものなんだから。ちなみに、カウンターにいるあの茶髪の女の子は? 可愛くて胸が明日香より大きいけれど……」

 さっき、鈴音さんと喋っている姿を見たから気になったのかな。あと、どうやら、咲希にとって胸というのはかなり重要な要素のようだ。

「バイトの宮代鈴音さん。先月からバイトを始めて、僕が仕事の指導しているんだ。桜海大学の1年生で、確か文学部の国文学科だったかな」
「そうなんだ。じゃあ、あたしの先輩になるかもしれないね。桜海大学の受験しようと思っているから。あたしは言語学だけど」
「へえ、そうなんだね」

 咲希は桜海大学に受験しようと思っているのか。今の彼女を見る限り、大学で言語学を本気で学ぼうとしているようだ。そんな彼女が大人に見えた。

「では、ナポリタンとオムライスを作ってきますので、少々お待ちください」 

 2人のために心を込めてナポリタンとオムライスを作ろう。この2年で培ったシー・ブロッサムとしての腕前を発揮しようじゃないか。

「翼君、いつも以上に気合いが入っているね」
「ええ。いつも以上に美味しい料理を食べさせたいお客様ですから」
「……そっか。いいなぁ」

 はあっ、と鈴音さんのため息が聞こえる。何か機会があったら鈴音さんにも料理を作ろうかな。
 ナポリタンとオムライスを作り、セットで頼まれたアイスティーとアイスコーヒーを持って明日香と咲希のところに行く。

「お待たせいたしました。オムライスのアイスティーセットと、ナポリタンのアイスコーヒーセットになります」
「ありがとう、つーちゃん」
「ありがとう。美味しそう。これ、翼が作ったの?」
「はい、心を込めて作りました。お口に合えば何よりです。では、ごゆっくり」

 軽く頭を下げて、僕はカウンターへと戻る。

「ん~! ナポリタン美味しい!」
「オムライスも美味しいよ、さっちゃん」

 明日香も咲希も僕の作った料理を美味しそうに食べてくれるなんて。2人で一口交換もしていて。もしかしたら、バイトを始めてから今が一番幸せな瞬間かもしれない。
 それからは咲希と明日香に見守られながら、バイトに勤しむのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました

田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。 しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。 だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。 それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。 そんなある日、とある噂を聞いた。 どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。 気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。 そうして、デート当日。 待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。 「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。 「…待ってないよ。マイハニー」 「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」 「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」 「頭おかしいんじゃないの…」 そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。

処理中です...