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第60話『舐める、咥える、抱きしめる。』
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8月14日、火曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中はうっすらと明るくなり始めていた。このベッドで初めて長い時間眠れたからか、かなりいい目覚めとなった。
「つーちゃん……」
明日香は昨日の夜よりも僕の左腕をしっかりと抱きしめており、脚までも絡ませていた。まるで明日香の抱き枕になったような気分だけれど、彼女が気持ち良さそうに寝ているのでよしとしよう。むしろ、微笑ましくもあり安心できる。あと、寝言からして夢に僕が出ているのかな。
明日香の髪が顔にかかっているので、自由な右手で髪を掻き分ける。そのことで見える明日香の寝顔はとても可愛らしかった。
そういえば、咲希の姿が見当たらないけど……ああ、早朝のランニングに行ったのか。寝る前に言っていたっけ。もう午前6時過ぎだから。この時間だと、既にランニングを終えてお風呂に入っているかもしれないな。
「つーちゃん、ありがとう。いただきます……」
そう言うと、明日香にさっき髪を掻き分けた右手を掴まれて、人差し指を舐められ始めてしまうことに。生温かいし、明日香の舌の感触が独特なので何とも言えない感じに。
「なんか塩っ気があるけど、これって塩飴……?」
僕の指を舐めているからなぁ。あと、夢の中で僕からもらったのは飴だったようだ。現実で指を舐めていることが影響して、それが塩飴になったのかな。
「んっ……」
最初は舌で舐めるだけだったけど、やがて僕の指を咥えるようになった。その姿が妙に艶めかしくて。
これまで明日香の夢を壊さないように何もしなかったけど、さすがにこれはまずい気がする。もし、こんなところを誰かに見られたら――。
「お風呂気持ち良かった……あれ?」
お風呂上がりの咲希が部屋の中に戻ってきてしまった。何というタイミングだろうか。
「おはよう、咲希」
「……おはよう。ええと、明日香が翼の指を舐めているけど、これはどういうことなのかな? 翼の好み?」
「違うよ。明日香が寝ぼけて僕の指を舐めているんだ。どうやら、夢の中で僕から飴をもらって舐めているところらしい。舐め続けているところを見ると、その飴は普通の味らしいけれど……」
「なるほどね。あたしが起きたときは腕をぎゅっと握って、脚を絡ませていたんだよ。ランニングをして、お風呂に入っている間に2人は抱きしめ合う寝相になるかなと思ってここに戻ってきたんだけど、その予想の斜め上を行ったね」
咲希はいつも通りの爽やかな笑みを見せてくれる。変な風に思われなくて良かったよ。
「ふふっ、これもいい思い出になりそう」
咲希は静かに明日香の側まで近寄って、僕の指を舐める明日香のことをスマートフォンで撮った。
「幸せそうに翼の指を咥えちゃって。まるで赤ちゃんみたいね」
そんな明日香を見る咲希も結構幸せそうに見えるけど。そんなに可愛いのかな。咲希にじっと見られているからか、指を咥えられている人間としては恥ずかしいけど。
「明日香。翼からもらった飴は美味しいですかぁ?」
寝ぼけを期待しているのか、ぐっすりと眠っている明日香に咲希がそう声をかけると、明日香は僕の指から口を離しにっこりと笑って、
「ちょっと変わっている味だけど、意外と癖になるよ、さっちゃん……あれ?」
咲希に返事をしていく中でゆっくりと目を覚ましたのだ。自分の唾液がたっぷりとついている僕の右手の人差し指を見て、一気に目を見開いた。
「なんか、塩味の飴を舐めている夢を見たんだけど、もしかして……」
「……僕の指をついさっきまで数分くらい舐めていたんだよ、明日香」
仕方ないのでありのままのことを伝えると、明日香は一気に顔が赤くなってふとんを被ってしまう。
「ううっ、恥ずかしいよ。私、寝ぼけているとはいえ、何てことをしちゃったんだろう」
「え、ええと……突然舐められたときは驚いたけれど、可愛かったよな、咲希」
「うん、可愛かったよ。だから、その……あまり恥ずかしがらなくていいよ。あたしだって同じような夢を見たら、翼の体を舐め回しちゃうかもしれないし」
明日香を励ますためにそう言っているんだろうけど、実際にそれをやられたらどうなってしまうんだろうな、僕。あと、そうしたら咲希は今の明日香以上に恥ずかしがると思う。
ただ、そんな咲希の励ましが効いたのか、ふとんから赤みを帯びた明日香の顔が現れる。
「つーちゃん、指を突然舐めちゃってごめんなさい」
「気にしないでいいよ。舐められて嫌な思いは全くしなかったから」
「……そう言ってくれると助かるよ」
「それに、指を舐めたことでいい夢を見られたんでしょ?」
「……そうだね。つーちゃんと一緒にのんびりしているときに、つーちゃんが飴をくれて。夏だから塩飴なのかなって思って。美味しいって言ったら、今のつーちゃんみたいに夢の中でも優しく笑ってくれて。とても幸せな気分になれたよ」
「そうだったんだ。それは良かったね」
「……うん」
すると、ようやく明日香の顔には笑みが見えるようになった。きっと、夢の中で飴を舐めている明日香はこういう笑みを浮かべていたんだろうな。
「ねえ、つーちゃん」
「うん?」
「さっきのお詫びということで、私の指を舐めていいよ。まあ、つーちゃんなら、指じゃなくてもいいけど……」
甘い声で明日香はそんなことを言ってくれる。さっきよりも顔を赤くしちゃって。どうやら、自分が言っていることがどういうことなのかは分かっているようだ。
「おおっ、明日香ったら大胆」
「だ、だって……舐めちゃったから、つーちゃんが私のことを舐めてくれないと気が済まないの」
「なるほど。意外と律儀だね、明日香って」
確かに明日香には律儀なところはあるけど、多分、僕への好意があっての言葉じゃないかと思う。そうじゃなかったら舐めていいなんて言わないだろう。
「ええと、明日香のその気持ちだけ受け取っておこうかな。明日香のことを舐めるのが嫌だとかそういうわけじゃなくてね」
「……そっか。つーちゃんがそう言うならいいけど……」
とは言うけど、明日香はどこか納得いっていないようだ。
「じゃあ、明日香のことをぎゅっと抱きしめてもいいかな。だけれど、指が唾液まみれだからな……」
「じゃあ、あたしのタオルで拭いてあげるよ」
「ありがとう、咲希」
咲希に持っているタオルで明日香に舐められた指を拭いてもらう。タオルが湿っているけれど、これって咲希の濡れた髪とかを拭いたタオルじゃないか? そう思うとドキドキしてきた。
「これでいいかな」
「ありがとう。じゃあ、明日香のことを抱きしめるね」
「……うん」
僕は横になったまま明日香のことをぎゅっと抱きしめる。一晩経っても明日香の甘い匂いは全然変わらないな。あと、柔らかい感触があるからかとても抱き心地がいい。
「やっぱり、実際に感じるつーちゃんの匂いが一番好き。凄く幸せだよ」
「……そっか。僕も心が安らぐよ」
「……ううっ、明日香が羨ましい! あたしだって翼のことを抱きしめるんだから!」
そう言うと、背後から咲希に抱きしめられる。お風呂から出てあまり時間が経っていないからか、明日香よりも温もりを強く感じ、シャンプーやボディーソープの匂いが香ってきた。一昨日の朝も思ったけど、咲希も結構柔らかいものを持っているのだと分かる。
「翼の匂い、大好き。はあっ……幸せ」
背後から抱きしめているけど、咲希はそれでも満足しているようだ。
明日香や咲希のことを感じていると本当に安心できる。愛おしい気持ちが膨らんでいく。束の間の安心感に浸れる。そんなことが再確認できた最終日の朝なのであった。
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中はうっすらと明るくなり始めていた。このベッドで初めて長い時間眠れたからか、かなりいい目覚めとなった。
「つーちゃん……」
明日香は昨日の夜よりも僕の左腕をしっかりと抱きしめており、脚までも絡ませていた。まるで明日香の抱き枕になったような気分だけれど、彼女が気持ち良さそうに寝ているのでよしとしよう。むしろ、微笑ましくもあり安心できる。あと、寝言からして夢に僕が出ているのかな。
明日香の髪が顔にかかっているので、自由な右手で髪を掻き分ける。そのことで見える明日香の寝顔はとても可愛らしかった。
そういえば、咲希の姿が見当たらないけど……ああ、早朝のランニングに行ったのか。寝る前に言っていたっけ。もう午前6時過ぎだから。この時間だと、既にランニングを終えてお風呂に入っているかもしれないな。
「つーちゃん、ありがとう。いただきます……」
そう言うと、明日香にさっき髪を掻き分けた右手を掴まれて、人差し指を舐められ始めてしまうことに。生温かいし、明日香の舌の感触が独特なので何とも言えない感じに。
「なんか塩っ気があるけど、これって塩飴……?」
僕の指を舐めているからなぁ。あと、夢の中で僕からもらったのは飴だったようだ。現実で指を舐めていることが影響して、それが塩飴になったのかな。
「んっ……」
最初は舌で舐めるだけだったけど、やがて僕の指を咥えるようになった。その姿が妙に艶めかしくて。
これまで明日香の夢を壊さないように何もしなかったけど、さすがにこれはまずい気がする。もし、こんなところを誰かに見られたら――。
「お風呂気持ち良かった……あれ?」
お風呂上がりの咲希が部屋の中に戻ってきてしまった。何というタイミングだろうか。
「おはよう、咲希」
「……おはよう。ええと、明日香が翼の指を舐めているけど、これはどういうことなのかな? 翼の好み?」
「違うよ。明日香が寝ぼけて僕の指を舐めているんだ。どうやら、夢の中で僕から飴をもらって舐めているところらしい。舐め続けているところを見ると、その飴は普通の味らしいけれど……」
「なるほどね。あたしが起きたときは腕をぎゅっと握って、脚を絡ませていたんだよ。ランニングをして、お風呂に入っている間に2人は抱きしめ合う寝相になるかなと思ってここに戻ってきたんだけど、その予想の斜め上を行ったね」
咲希はいつも通りの爽やかな笑みを見せてくれる。変な風に思われなくて良かったよ。
「ふふっ、これもいい思い出になりそう」
咲希は静かに明日香の側まで近寄って、僕の指を舐める明日香のことをスマートフォンで撮った。
「幸せそうに翼の指を咥えちゃって。まるで赤ちゃんみたいね」
そんな明日香を見る咲希も結構幸せそうに見えるけど。そんなに可愛いのかな。咲希にじっと見られているからか、指を咥えられている人間としては恥ずかしいけど。
「明日香。翼からもらった飴は美味しいですかぁ?」
寝ぼけを期待しているのか、ぐっすりと眠っている明日香に咲希がそう声をかけると、明日香は僕の指から口を離しにっこりと笑って、
「ちょっと変わっている味だけど、意外と癖になるよ、さっちゃん……あれ?」
咲希に返事をしていく中でゆっくりと目を覚ましたのだ。自分の唾液がたっぷりとついている僕の右手の人差し指を見て、一気に目を見開いた。
「なんか、塩味の飴を舐めている夢を見たんだけど、もしかして……」
「……僕の指をついさっきまで数分くらい舐めていたんだよ、明日香」
仕方ないのでありのままのことを伝えると、明日香は一気に顔が赤くなってふとんを被ってしまう。
「ううっ、恥ずかしいよ。私、寝ぼけているとはいえ、何てことをしちゃったんだろう」
「え、ええと……突然舐められたときは驚いたけれど、可愛かったよな、咲希」
「うん、可愛かったよ。だから、その……あまり恥ずかしがらなくていいよ。あたしだって同じような夢を見たら、翼の体を舐め回しちゃうかもしれないし」
明日香を励ますためにそう言っているんだろうけど、実際にそれをやられたらどうなってしまうんだろうな、僕。あと、そうしたら咲希は今の明日香以上に恥ずかしがると思う。
ただ、そんな咲希の励ましが効いたのか、ふとんから赤みを帯びた明日香の顔が現れる。
「つーちゃん、指を突然舐めちゃってごめんなさい」
「気にしないでいいよ。舐められて嫌な思いは全くしなかったから」
「……そう言ってくれると助かるよ」
「それに、指を舐めたことでいい夢を見られたんでしょ?」
「……そうだね。つーちゃんと一緒にのんびりしているときに、つーちゃんが飴をくれて。夏だから塩飴なのかなって思って。美味しいって言ったら、今のつーちゃんみたいに夢の中でも優しく笑ってくれて。とても幸せな気分になれたよ」
「そうだったんだ。それは良かったね」
「……うん」
すると、ようやく明日香の顔には笑みが見えるようになった。きっと、夢の中で飴を舐めている明日香はこういう笑みを浮かべていたんだろうな。
「ねえ、つーちゃん」
「うん?」
「さっきのお詫びということで、私の指を舐めていいよ。まあ、つーちゃんなら、指じゃなくてもいいけど……」
甘い声で明日香はそんなことを言ってくれる。さっきよりも顔を赤くしちゃって。どうやら、自分が言っていることがどういうことなのかは分かっているようだ。
「おおっ、明日香ったら大胆」
「だ、だって……舐めちゃったから、つーちゃんが私のことを舐めてくれないと気が済まないの」
「なるほど。意外と律儀だね、明日香って」
確かに明日香には律儀なところはあるけど、多分、僕への好意があっての言葉じゃないかと思う。そうじゃなかったら舐めていいなんて言わないだろう。
「ええと、明日香のその気持ちだけ受け取っておこうかな。明日香のことを舐めるのが嫌だとかそういうわけじゃなくてね」
「……そっか。つーちゃんがそう言うならいいけど……」
とは言うけど、明日香はどこか納得いっていないようだ。
「じゃあ、明日香のことをぎゅっと抱きしめてもいいかな。だけれど、指が唾液まみれだからな……」
「じゃあ、あたしのタオルで拭いてあげるよ」
「ありがとう、咲希」
咲希に持っているタオルで明日香に舐められた指を拭いてもらう。タオルが湿っているけれど、これって咲希の濡れた髪とかを拭いたタオルじゃないか? そう思うとドキドキしてきた。
「これでいいかな」
「ありがとう。じゃあ、明日香のことを抱きしめるね」
「……うん」
僕は横になったまま明日香のことをぎゅっと抱きしめる。一晩経っても明日香の甘い匂いは全然変わらないな。あと、柔らかい感触があるからかとても抱き心地がいい。
「やっぱり、実際に感じるつーちゃんの匂いが一番好き。凄く幸せだよ」
「……そっか。僕も心が安らぐよ」
「……ううっ、明日香が羨ましい! あたしだって翼のことを抱きしめるんだから!」
そう言うと、背後から咲希に抱きしめられる。お風呂から出てあまり時間が経っていないからか、明日香よりも温もりを強く感じ、シャンプーやボディーソープの匂いが香ってきた。一昨日の朝も思ったけど、咲希も結構柔らかいものを持っているのだと分かる。
「翼の匂い、大好き。はあっ……幸せ」
背後から抱きしめているけど、咲希はそれでも満足しているようだ。
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