83 / 83
エピローグ『遥かな未来』
しおりを挟む
桜海から出発してしばらくの間は、車内はしんみりとした空気に包まれ、羽村や月影さんがたまに話しかけてくれるくらいで、ほとんど無言だった。
――プルルッ。
みんなのスマートフォンが一斉に鳴ったので驚いた。誰かがメッセージをくれたのかと思い、さっそく確認してみると、
『そろそろ東京に着く?』
という咲希のメッセージが、旅行したときのメンバーで構成されたグループトークに送信されていた。桜海を出発してから30分ほどしか経っていないこともあって、そのメッセージを見た瞬間に心が軽くなった。そして、車内には笑い声が聞こえるように。
「ふふっ、さっちゃんったら」
「いくらうちの車でも、30分ちょっとじゃ東京に着かないって」
「リニアならともかく、乗用車でそれができたら歴史的な発明だな」
明日香も常盤さんも羽村も普段の笑みを浮かべていた。もしかして、旅立つ僕らを明るくするために、敢えてこんなメッセージをくってくれたのかな。
『まだ桜海の方が近い場所を走っているよ、咲希』
『さっちゃん、あと2時間はかかると思うよ』
『むしろ、30分とかで東京に着けたら夢のようだ』
『今、明日香達と笑っているよ』
僕らは一斉にそんなメッセージを送った。咲希のたった一言で何だか車内の空気が明るくなったな。
――プルルッ。
すると、すぐに咲希から僕のスマートフォンに電話がかかってきた。
『東京に着いていないって本当なの?』
「本当だって。というか、去年の6月に咲希は東京から車で桜海に帰ってきたんじゃないの?」
『……いやぁ、あのときは出発して10分経たないうちに寝ちゃって。でも、思い返せば3時間くらいはかかっていた気がする!』
あははっ! と咲希の大きな笑い声が電話口から聞こえてきた。そういえば、夏の旅行に行ったときも車の中で寝ていたけど、咲希って車の中では眠くなりやすいのかな。この声をみんなに聞かせるためにスピーカーホンにする。
「さっちゃん、楽しそうに笑っているけれどどうしたの?」
『えっ? 明日香達にも聞かれてるの?』
「そうだよ。スピーカーホンにしているから、常盤さんや羽村、月影さんも聞いているよ」
『何だか恥ずかしいなぁ。まあ、せっかく集まったから、こっちはシー・ブロッサムでゆっくりとお茶してるよ』
「そうなんだ。新しい家に到着したらそのときは連絡するよ」
『分かった。……さっきはしんみりとなっちゃったけど、11年前とは違ってこうしていつでも連絡が取り合えるからいいよね』
「そうだね。咲希の声を聞いたら、本当に心が軽くなったよ。これからも、こうしていつでも気楽に話していこうよ」
『……うん!』
今は電話やメール、メッセージなど様々な形でいつでも連絡を取り合える。桜海から離れて寂しい気持ちは確かにあるけど、咲希達はこれからも側にいるような気がするよ。それを気付かせてくれてありがとう、咲希。
その後、高速道路に乗って東京へと一気に近づいていく。
途中で昼食を兼ねて休憩したサービスエリアで、僕らとは違う場所に住む羽村は荷物を載せたトラックに乗り換え、僕らと別れる形となった。近いうちに4人で会って、僕には一緒に漫画イベントなどに行こうと約束して。
桜海を出発して4時間ほどで、僕と明日香、常盤さんの新居があるマンションに到着した。
それからは主に明日香が指示役となって、常盤家のメイドさん達と一緒に新居での引越し作業を行なった。
常盤家のメイドさん達のスキルが凄く、思った以上に早く終わり、陽が沈んだ頃には明日香と2人きりでリビングでゆっくりと過ごせるほどだった。常盤さんや羽村の方は1人暮らしということもあって、夕方に引越し作業が終わったというメッセージをもらった。
「今日からはここで生活していくんだね、つーちゃん」
「そうだね、明日香」
「東京でつーちゃんと同棲できるなんて夢みたい」
「うん。でも、これは現実なんだ。それがとっても嬉しいよ」
僕は明日香の淹れてくれた温かいコーヒーを飲む。明日香と僕の家のリビングで、彼女と寄り添う形でソファーに座ってゆっくりできるとは。本当に幸せだ。明日香の笑顔もとても可愛らしいし。
「私もとっても嬉しいよ。つーちゃんがいるからか、ここでの生活も早く慣れそうな気がするよ。同じマンションにはみなみんも住んでいるし」
「常盤さんがいるのは大きいよね。僕も安心できるな」
「ふふっ、そうだよね。……つーちゃん、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ずっと一緒にいようね」
「……うん。私もずっと一緒にいたいです。つーちゃんのことが大好きだから」
「僕も明日香のことが好きだよ」
僕と明日香は見つめ合って、自然と唇を重ねる。どこにいても明日香の温もりや匂い、感触は変わらない。それが嬉しくて愛おしい。
唇を離したとき、明日香は頬を赤くしながらも嬉しそうに笑っていた。
「ねえ、つーちゃん。これからずっと一緒に暮らしていくわけだけれど、始まりの日は今日しかないじゃない? だから、もっと思い出深い日にしたいなって。それに、2人きりだし、口づけをしたら凄くドキドキしちゃって。つーちゃんと色々なことをしたくなってきたよ。……したいな」
明日香は僕のことを上目遣いで見てきて、甘い声でそう囁いてくる。それは、告白して恋人同士になったあの日の彼女に似ていた。
明日香と2人きりで住むと決めたときから、当然、色々なことを考えていて。どんなことでも初めての日は思い出深いものにしたい。
「もちろんいいよ。ただ、後のことを考えて、今日は浴室でするのはどうかな」
「……うん。そうしよっか。のぼせないように気を付けないと」
「そうだね。健康だからこそ、楽しい生活を送ることができるもんね」
それから、僕と明日香はとても濃密で、愛おしい時間を過ごした。故郷や友人との別れがあって、引越しがあって……今日という日は一生忘れることはないだろう。
僕と明日香の同棲はこうして幕を開けるのであった。
新しい年度になり、僕は東都科学大学、明日香は常盤さんと一緒に日本芸術大学、羽村は東京国立大学、咲希は桜海大学へ入学した。
環境的には高校までとはがらりと変わったけど、人間的には僕の入学した学科には羽村に似たような学生が多い。だからか、すぐに男女問わず何人もの友人ができた。僕と同じように恋人がいる学生もいれば、次元を越えた先の住人に強い恋心を抱く学生もいて。さすがに大学になると個性の強い人が集まっていて面白い。
明日香は常盤さんと一緒に通っているだけあって、すぐに大学生活に慣れていき、友人もできたそうだ。履修する講義もほぼ同じであり、同じサークルに入ったので、大学でも明日香と常盤さんが一緒にいる時間はかなり多くなりそうだ。たまに、常盤さんと3人でご飯を食べるときがある。
羽村はさっそく、大学で出会った『同士』と呼ぶ同級生と、秋葉原へ遊びに行ったり、やアニメの聖地巡礼をしたりしているとのこと。いずれは僕も誘ってくれるらしい。羽村の同士だと、うちの大学の学生よりもさらに強烈な個性を持っていそうな気がするよ。
咲希は学科が違うけど、同じ文学部の先輩である鈴音さんの助けも借り、順調に大学生活をスタートさせることができたそうだ。学科や学年を問わず履修できる講義で、鈴音さんと一緒に勉強することができてとても嬉しいとのこと。あと、さっそく女子学生から何度か告白されたとか。
みんな、それぞれ順調に大学生活をスタートできて良かった。きっと、この5人や芽依、三宅さん達が集まったとき、楽しく話すことができるだろう。
順調に大学生活を送ることができているからか、時間はあっという間に過ぎていき、すぐに5月がやってきた。
そのタイミングで日本は平成という時代が終わり、令和という新しい時代が始まった。
「令和っていう新しい時代になったんだねぇ、つーちゃん」
「そうだね、明日香」
今日はゴールデンウィーク中で、お互いに大学もお休みなので、家でゆっくりと過ごしている。
元号として一区切りあったので、平成であった数日前までの日々が急に遠くなっていく感じがする。明日香や咲希と出会った日のことも。彼女達と一緒に過ごし、色々なことがあった高校3年生の日々も。
「元号は変わったけど、僕らは今の生活をちゃんと送っていこうよ」
「それが一番だよね、つーちゃん。あと、この令和時代の間につーちゃんと苗字が同じになるときが来るかな」
「来るように頑張ろう。もし、そのときになったらどっちの苗字にする?」
「蓮見がいいです! 蓮見明日香になることが小さい頃からの夢だから!」
「そ、そうなんだね。明日香にそこまでの確固たる気持ちがあるなら、それを尊重することにしよう」
僕が朝霧家に婿入りして、朝霧翼と名乗るのもいいなと思っていたけれど。ただ、『蓮見明日香』と彼女の口から言われたときにキュンとなったので……明日香が蓮見家に嫁入りという形にしよう。
「これからも色々と変わっていくことがあると思うけど、つーちゃんとは変わらずにいつまでも仲良く、一緒にいたいなって思ってる」
「そうだね。いつまでも一緒にいよう、明日香」
「……うん!」
僕は明日香のことを抱きしめてキスを交わした。
いつまでも、明日香のことが大好きであり、愛しているという気持ちは変わることはないだろう。そう信じさせてくれるかのように、春の日差しが僕らのことを包み込んでくれる。
晴れているので明日香と一緒にバルコニーに出ると、温かな陽差しと爽やか風が感じられる。
「バルコニーから見える風景、私はとっても好きだな。さすがは東京で、家やビルとかがたくさんにあるけれど、所々に緑もあって」
「スケッチしていたほどだもんね。自然もあるから、僕もこの景色は好きかな」
「良かった。そういえば、昨日……さっちゃんから桜海川沿いの桜並木の写真を送ってきてくれたよ。今年も、あそこが緑が美しい景色になったのが分かって嬉しい」
明日香はスマートフォンで咲希が送ってくれた桜海川の写真を見せてくれる。明日香が描いた絵と、咲希が帰ってきてすぐに3人で散歩したときのことを思い出す。
「咲希のおかげで緑色が大好きになったよ」
「私も」
「この桜も来年の春にはまた花を咲かせるんだ。明日香と僕も、2人の花を咲かせることができるように頑張ろうね」
「うん! たくさん咲かせようね、つーちゃん。……今の話を聞いてつーちゃんのことがもっと好きになったよ」
「僕も明日香のことが好きだよ。愛してる。ずっとずっと」
「……うん。ずっとずっと、つーちゃんのことを愛してる」
僕らはその気持ちを確かめるように再びキスした。
それからしばらくの間、僕は明日香のことを後ろから抱きしめながら、慣れ始めてきた東京郊外の風景を眺める。今日はいつも以上に美しく思えるのであった。
『ラストグリーン』 おわり
――プルルッ。
みんなのスマートフォンが一斉に鳴ったので驚いた。誰かがメッセージをくれたのかと思い、さっそく確認してみると、
『そろそろ東京に着く?』
という咲希のメッセージが、旅行したときのメンバーで構成されたグループトークに送信されていた。桜海を出発してから30分ほどしか経っていないこともあって、そのメッセージを見た瞬間に心が軽くなった。そして、車内には笑い声が聞こえるように。
「ふふっ、さっちゃんったら」
「いくらうちの車でも、30分ちょっとじゃ東京に着かないって」
「リニアならともかく、乗用車でそれができたら歴史的な発明だな」
明日香も常盤さんも羽村も普段の笑みを浮かべていた。もしかして、旅立つ僕らを明るくするために、敢えてこんなメッセージをくってくれたのかな。
『まだ桜海の方が近い場所を走っているよ、咲希』
『さっちゃん、あと2時間はかかると思うよ』
『むしろ、30分とかで東京に着けたら夢のようだ』
『今、明日香達と笑っているよ』
僕らは一斉にそんなメッセージを送った。咲希のたった一言で何だか車内の空気が明るくなったな。
――プルルッ。
すると、すぐに咲希から僕のスマートフォンに電話がかかってきた。
『東京に着いていないって本当なの?』
「本当だって。というか、去年の6月に咲希は東京から車で桜海に帰ってきたんじゃないの?」
『……いやぁ、あのときは出発して10分経たないうちに寝ちゃって。でも、思い返せば3時間くらいはかかっていた気がする!』
あははっ! と咲希の大きな笑い声が電話口から聞こえてきた。そういえば、夏の旅行に行ったときも車の中で寝ていたけど、咲希って車の中では眠くなりやすいのかな。この声をみんなに聞かせるためにスピーカーホンにする。
「さっちゃん、楽しそうに笑っているけれどどうしたの?」
『えっ? 明日香達にも聞かれてるの?』
「そうだよ。スピーカーホンにしているから、常盤さんや羽村、月影さんも聞いているよ」
『何だか恥ずかしいなぁ。まあ、せっかく集まったから、こっちはシー・ブロッサムでゆっくりとお茶してるよ』
「そうなんだ。新しい家に到着したらそのときは連絡するよ」
『分かった。……さっきはしんみりとなっちゃったけど、11年前とは違ってこうしていつでも連絡が取り合えるからいいよね』
「そうだね。咲希の声を聞いたら、本当に心が軽くなったよ。これからも、こうしていつでも気楽に話していこうよ」
『……うん!』
今は電話やメール、メッセージなど様々な形でいつでも連絡を取り合える。桜海から離れて寂しい気持ちは確かにあるけど、咲希達はこれからも側にいるような気がするよ。それを気付かせてくれてありがとう、咲希。
その後、高速道路に乗って東京へと一気に近づいていく。
途中で昼食を兼ねて休憩したサービスエリアで、僕らとは違う場所に住む羽村は荷物を載せたトラックに乗り換え、僕らと別れる形となった。近いうちに4人で会って、僕には一緒に漫画イベントなどに行こうと約束して。
桜海を出発して4時間ほどで、僕と明日香、常盤さんの新居があるマンションに到着した。
それからは主に明日香が指示役となって、常盤家のメイドさん達と一緒に新居での引越し作業を行なった。
常盤家のメイドさん達のスキルが凄く、思った以上に早く終わり、陽が沈んだ頃には明日香と2人きりでリビングでゆっくりと過ごせるほどだった。常盤さんや羽村の方は1人暮らしということもあって、夕方に引越し作業が終わったというメッセージをもらった。
「今日からはここで生活していくんだね、つーちゃん」
「そうだね、明日香」
「東京でつーちゃんと同棲できるなんて夢みたい」
「うん。でも、これは現実なんだ。それがとっても嬉しいよ」
僕は明日香の淹れてくれた温かいコーヒーを飲む。明日香と僕の家のリビングで、彼女と寄り添う形でソファーに座ってゆっくりできるとは。本当に幸せだ。明日香の笑顔もとても可愛らしいし。
「私もとっても嬉しいよ。つーちゃんがいるからか、ここでの生活も早く慣れそうな気がするよ。同じマンションにはみなみんも住んでいるし」
「常盤さんがいるのは大きいよね。僕も安心できるな」
「ふふっ、そうだよね。……つーちゃん、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ずっと一緒にいようね」
「……うん。私もずっと一緒にいたいです。つーちゃんのことが大好きだから」
「僕も明日香のことが好きだよ」
僕と明日香は見つめ合って、自然と唇を重ねる。どこにいても明日香の温もりや匂い、感触は変わらない。それが嬉しくて愛おしい。
唇を離したとき、明日香は頬を赤くしながらも嬉しそうに笑っていた。
「ねえ、つーちゃん。これからずっと一緒に暮らしていくわけだけれど、始まりの日は今日しかないじゃない? だから、もっと思い出深い日にしたいなって。それに、2人きりだし、口づけをしたら凄くドキドキしちゃって。つーちゃんと色々なことをしたくなってきたよ。……したいな」
明日香は僕のことを上目遣いで見てきて、甘い声でそう囁いてくる。それは、告白して恋人同士になったあの日の彼女に似ていた。
明日香と2人きりで住むと決めたときから、当然、色々なことを考えていて。どんなことでも初めての日は思い出深いものにしたい。
「もちろんいいよ。ただ、後のことを考えて、今日は浴室でするのはどうかな」
「……うん。そうしよっか。のぼせないように気を付けないと」
「そうだね。健康だからこそ、楽しい生活を送ることができるもんね」
それから、僕と明日香はとても濃密で、愛おしい時間を過ごした。故郷や友人との別れがあって、引越しがあって……今日という日は一生忘れることはないだろう。
僕と明日香の同棲はこうして幕を開けるのであった。
新しい年度になり、僕は東都科学大学、明日香は常盤さんと一緒に日本芸術大学、羽村は東京国立大学、咲希は桜海大学へ入学した。
環境的には高校までとはがらりと変わったけど、人間的には僕の入学した学科には羽村に似たような学生が多い。だからか、すぐに男女問わず何人もの友人ができた。僕と同じように恋人がいる学生もいれば、次元を越えた先の住人に強い恋心を抱く学生もいて。さすがに大学になると個性の強い人が集まっていて面白い。
明日香は常盤さんと一緒に通っているだけあって、すぐに大学生活に慣れていき、友人もできたそうだ。履修する講義もほぼ同じであり、同じサークルに入ったので、大学でも明日香と常盤さんが一緒にいる時間はかなり多くなりそうだ。たまに、常盤さんと3人でご飯を食べるときがある。
羽村はさっそく、大学で出会った『同士』と呼ぶ同級生と、秋葉原へ遊びに行ったり、やアニメの聖地巡礼をしたりしているとのこと。いずれは僕も誘ってくれるらしい。羽村の同士だと、うちの大学の学生よりもさらに強烈な個性を持っていそうな気がするよ。
咲希は学科が違うけど、同じ文学部の先輩である鈴音さんの助けも借り、順調に大学生活をスタートさせることができたそうだ。学科や学年を問わず履修できる講義で、鈴音さんと一緒に勉強することができてとても嬉しいとのこと。あと、さっそく女子学生から何度か告白されたとか。
みんな、それぞれ順調に大学生活をスタートできて良かった。きっと、この5人や芽依、三宅さん達が集まったとき、楽しく話すことができるだろう。
順調に大学生活を送ることができているからか、時間はあっという間に過ぎていき、すぐに5月がやってきた。
そのタイミングで日本は平成という時代が終わり、令和という新しい時代が始まった。
「令和っていう新しい時代になったんだねぇ、つーちゃん」
「そうだね、明日香」
今日はゴールデンウィーク中で、お互いに大学もお休みなので、家でゆっくりと過ごしている。
元号として一区切りあったので、平成であった数日前までの日々が急に遠くなっていく感じがする。明日香や咲希と出会った日のことも。彼女達と一緒に過ごし、色々なことがあった高校3年生の日々も。
「元号は変わったけど、僕らは今の生活をちゃんと送っていこうよ」
「それが一番だよね、つーちゃん。あと、この令和時代の間につーちゃんと苗字が同じになるときが来るかな」
「来るように頑張ろう。もし、そのときになったらどっちの苗字にする?」
「蓮見がいいです! 蓮見明日香になることが小さい頃からの夢だから!」
「そ、そうなんだね。明日香にそこまでの確固たる気持ちがあるなら、それを尊重することにしよう」
僕が朝霧家に婿入りして、朝霧翼と名乗るのもいいなと思っていたけれど。ただ、『蓮見明日香』と彼女の口から言われたときにキュンとなったので……明日香が蓮見家に嫁入りという形にしよう。
「これからも色々と変わっていくことがあると思うけど、つーちゃんとは変わらずにいつまでも仲良く、一緒にいたいなって思ってる」
「そうだね。いつまでも一緒にいよう、明日香」
「……うん!」
僕は明日香のことを抱きしめてキスを交わした。
いつまでも、明日香のことが大好きであり、愛しているという気持ちは変わることはないだろう。そう信じさせてくれるかのように、春の日差しが僕らのことを包み込んでくれる。
晴れているので明日香と一緒にバルコニーに出ると、温かな陽差しと爽やか風が感じられる。
「バルコニーから見える風景、私はとっても好きだな。さすがは東京で、家やビルとかがたくさんにあるけれど、所々に緑もあって」
「スケッチしていたほどだもんね。自然もあるから、僕もこの景色は好きかな」
「良かった。そういえば、昨日……さっちゃんから桜海川沿いの桜並木の写真を送ってきてくれたよ。今年も、あそこが緑が美しい景色になったのが分かって嬉しい」
明日香はスマートフォンで咲希が送ってくれた桜海川の写真を見せてくれる。明日香が描いた絵と、咲希が帰ってきてすぐに3人で散歩したときのことを思い出す。
「咲希のおかげで緑色が大好きになったよ」
「私も」
「この桜も来年の春にはまた花を咲かせるんだ。明日香と僕も、2人の花を咲かせることができるように頑張ろうね」
「うん! たくさん咲かせようね、つーちゃん。……今の話を聞いてつーちゃんのことがもっと好きになったよ」
「僕も明日香のことが好きだよ。愛してる。ずっとずっと」
「……うん。ずっとずっと、つーちゃんのことを愛してる」
僕らはその気持ちを確かめるように再びキスした。
それからしばらくの間、僕は明日香のことを後ろから抱きしめながら、慣れ始めてきた東京郊外の風景を眺める。今日はいつも以上に美しく思えるのであった。
『ラストグリーン』 おわり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる