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特別編-Green Days-
第5話『麗しき人』
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5月12日、土曜日。
今日もよく晴れている。天気予報によると、多少雲が出るそうだけど、雨が降る心配はないという。これなら副会長さんの家に行くにも問題ないな。
ちなみに、琴葉は用事があるとのことで一緒には行かない。また、体のサイズは姉さんとさほど変わりないとのこと。どうやら、姉さんが大丈夫なら自分も大丈夫だろうと考えているようだ。
午前中は沙奈会長や真奈ちゃんと一緒に、『ゴシック百合花に私達は溺れる』を観ながらゆっくりと過ごした。
また、そのときに真奈ちゃんから、昨日の夜に沙奈会長の可愛らしい声が何度も聞こえてきたと報告されてしまった。そのことに沙奈会長は悶え、果てにはベッドの中に潜ってしまう事態に。そんな彼女のことを見て、あのときはさすがに会長を弄りすぎてしまったと反省する。
お昼前に姉さんから電話がかかってきて、どこかでお昼ご飯を食べてから副会長さんの家に行かないかと提案された。僕達はそれに賛成。琴葉のお見舞いに行ったときに寄った月野駅近くの喫茶店でお昼ご飯を食べた。
副会長さんの家の最寄り駅である八神駅は、月野駅から山梨方面に2駅のところにある。
ただ、月野駅とは違って、山梨県や長野県に向かう特急列車が全て停車し、潮浜線などの複数の在来線に乗り換えもできる大きな駅だ。
八神駅のホームに降り立ったのは、月野市に引っ越してきて入学直前に家族で食事に行ったとき以来か。それから1ヶ月半くらい経ったけど、とても濃い時間を過ごしてきたからか、半年以上の月日が流れたように思える。あと、駅から見える風景が前に比べて煌びやかに思える。
沙奈会長と真奈ちゃんについていく形で、僕らは副会長さんの家に向かうことに。
最初こそは全く知らない道だったけれど、途中からはこの前の旅行の行き帰りで通った道を歩くので、彼女の家に近づいているのだと分かって安心する。
駅から10分ほど歩いて、副会長さんの家に到着する。まさか、旅行から1週間足らずでまたここに来るとは思わなかった。
――ピーンポーン。
インターホンの音が鳴った瞬間に思ったけれど、有村さんはもう来ているのかな。スマートフォンを確認しても、副会長さんからそういった旨のメッセージは届いていない。
「はーい」
玄関の扉が開き、そこに待っていたのは桃色のワンピースを着た副会長さんだった。旅行中はずっと、ゴシック風のワンピースを着ていたので何だか意外だ。
「樹里先輩、遊びに来ました」
「みんないらっしゃい。咲希もついさっき来たんだ。みんなと会えるのを楽しみにしているよ。特に逢坂君と麻実さんに」
「そ、そうなんですね」
「光栄な気分になるね、玲人」
「楽しみにしてくれているのは嬉しいよね」
「ふふっ。さっ、入ってください」
僕らは副会長さんの家にお邪魔し、2階にある彼女の部屋に通される。そこには、ベッドの上で気持ち良さそうに横になっている茶髪の女性がいた。彼女が有村さんかな。
「もう、咲希ったら。初めて会う人もいるのに、いつも通りベッドでゴロゴロして」
「ごめんごめん。樹里のベッドが気持ち良くてね。あと、樹里の匂いが好きなんだ。そっか、桜海に引っ越したらそれもできなくなるのか。寂しいなぁ」
「はいはい、それは分かったから。ほら、咲希が会いたがっていた逢坂玲人君と、彼のお姉さんの逢坂麻実さんだよ」
すると、有村さんはベッドから降りて、ゆっくりと僕らの目の前まで近づいてくる。パンツルックだからスラッとしているのがよく分かるな。写真で見るよりも綺麗な人に思えて。爽やかな笑顔がとても素敵だ。
「初めまして、有村咲希です。天羽女子高校の3年です。樹里から聞いているかもしれませんが、樹里とは小学生のときからの付き合いで。家も近所で中学卒業まではよく遊んでいました」
「そうだったんですね。初めまして、逢坂玲人です。月野学園高校の1年です。副会長さんや沙奈会長とは入学直後から生徒会でお世話になっていて、沙奈会長とは半月ほど前から恋人として付き合い始めました」
「初めまして、逢坂麻実です。多摩中央大学文学部の2年です。背丈とか顔つきとかあんまり似てないけれど、玲人の実の姉です」
確かに、姉さんに似ているって言われたことは全然ないな。琴葉さえもそういったことは言わなかった気がする。
「逢坂君に麻実さんですね。これからよろしくお願いします」
すると、有村さんは爽やかな笑みを浮かべて僕、姉さんの順に握手を交わした。本当に笑顔が素敵で、高校で何人もの生徒から告白されたのも納得できる。
「私、紅茶を持ってくるからみんなは適当にくつろいでいてね」
そう言って、副会長さんは部屋を一旦出ていった。
ベッドの近くにテーブルがあるので、僕達5人はテーブルを囲むようにして座る。もちろん、沙奈会長と隣り合って。
「真奈ちゃんと麻実さん、2人で並んでいるとどっちが年上か分からないですね」
「ふふっ、麻実さん可愛らしいですもんね。あたしも初めて会ったときは、玲人さんの妹さんだと思いましたね」
真奈ちゃんは楽しそうな様子で姉さんの頭を撫でる。
確かに、有村さんの言うように、真奈ちゃんと姉さん……どっちが年上なのか分からないな。2人とも知らない人が見たら、ほぼ全員が真奈ちゃんを年上だと思うんじゃないだろうか。僕の妹だと思った真奈ちゃんの気持ちも分かる。
「今の咲希ちゃんのようなセリフ、大学に入学したときによく言われたよ。あと、私服姿っていうのもあって、近所に住む小学生が大学に遊びに来ているって勘違いされたこともあったなぁ」
「それでも、麻実さんが可愛らしいことには変わりないと思いますよ」
「真奈ちゃんいい子!」
姉さん、とっても嬉しそうな笑顔を見せ、真奈ちゃんにピッタリと寄り添っている。そのことでますます子供っぽく見えるけれど、それは言わないでおくか。
「真奈ちゃんは中学生で成長期だからか、前に会ったときよりも大人っぽくなった気がするね。特に胸のあたりが」
「そうですね。身長も少し伸びて、胸も1つカップが大きくなりましたね」
「羨ましいなぁ。私も真奈ちゃんくらいの胸の大きさにはなりたいよ」
はあっ、と有村さんはため息をつく。大きな胸に憧れを抱いているのだろうか。僕の感覚では有村さんのスタイルはいいと思うんだけれどな。
「玲人君。咲希先輩のことをじっと見てどうしたの?」
「……色々な人がいるんだなと思いまして」
そういう風に言わないと痛い目に遭うからな。沙奈会長は怪しいと思って、少し目を細めて僕のことを見ているけれど。
「しかし、こうして見てみると、沙奈ちゃんと逢坂君はお似合いな感じがするよ」
「そ、そうですか? 咲希先輩にそう言ってもらえるなんて嬉しいです」
「そう言うってことは逢坂君が大好きだっていう何よりの証拠だね。それにしても、今までに何度か告白されたことがあるってくらいで、沙奈ちゃんはこれまで恋愛話は全然話さなかったのに。樹里から聞いているよ。沙奈ちゃん、逢坂君のことが大好きだって」
「ええ。玲人君のことは本当に好きです。ただ、それを人から言われると何だか照れちゃいますね」
えへへっ、と沙奈会長は照れくさそうに笑う。
「そんな沙奈ちゃんをゾッコンさせるなんて、逢坂君は沙奈ちゃんに何をしたのかなぁ?」
ニヤリと笑みを浮かべて、有村さんは僕のことを見てくる。むしろ、何かしたのは沙奈会長の方なんだけど。
「入学して間もない頃、学校の近所にある公園の木に登った猫を助けたことがありまして。その様子を見ていた沙奈会長が僕に一目惚れしたそうで。それからは会長から物凄くアプローチされたといいますか。色々とありまして」
「確かに色々とあったよね。私が暴走しすぎて、玲人君のことを怒らせちゃったこともあって」
「へえ、そんなこともあったんだ。それでも、今はこうして仲良く付き合っているのは、逢坂君が沙奈ちゃんのことを段々と好きになっていったからかな」
「そうですね。色々とありましたけれど、会長が僕のことが好きなのは分かりましたし、とても可愛らしい素敵な女性だなと思えて。暴走はしますけど、根は真面目ですし。ですから、会長のいる生徒会にも入りましたし、恋人として付き合おうと決めたんです。今となっては、彼女が側にいない未来が考えられないくらいですから」
「そうなんだね。沙奈ちゃん、逢坂君にとっても愛されているね。沙奈ちゃんが逢坂君を大好きな理由が分かった気がするな……」
有村さんは優しい笑みを浮かべてそう言う。
そんな彼女に視線を向けられている沙奈会長は顔を真っ赤にしながらニヤけて、
「私は幸せ者です。でも、みんなの前で私への想いをそこまで言われると、凄く恥ずかしいよ……」
そう言って両手で顔を隠した。
「ここまで恥ずかしがる沙奈ちゃんを見るのは初めてだよ。さすがは恋人だね」
「そういうところも可愛らしいと思っていますよ」
「あははっ、そっか。逢坂君ってキリッとしていて寡黙なのかなって思ったけれど、話してみると物腰が柔らかいね。……何だか、彼に似ているな」
「彼? 彼って誰のこと? あたし達に教えてごらん、咲希ちゃん」
「そういえば、咲希さんは好きな人がいるって前に言っていましたよね! その方が『彼』なのでしょうか!」
恋バナに興味があるのか姉さんと真奈ちゃん、凄く食いついているな。
すると、有村さんは初めて顔を赤くし、恥ずかしそうな様子を見せる。
「せ、正解だよ、真奈ちゃん。今月末に桜海市に引っ越すんだけど、そこに好きな男の子がいるの。実は10年前にここに引っ越すまではずっと桜海市に住んでいてね。彼とは小学校に入学したときに出会って。彼の幼なじみの女の子と3人で小学1年生の間はずっと一緒にいたな……」
「ということは、咲希先輩。桜海市に戻ったら、その彼や幼なじみと10年ぶりの再会になるんですか?」
「うん、そうだよ。年賀状で2人とも今も桜海市に住んでいるのは分かっているから」
「おおっ!」
「興奮してしまいますね、麻実さん!」
姉さんはともかく、真奈ちゃんもこういう恋愛話は大好きなんだな。
引っ越しということには変わりないけれど、幼い頃に住んでいた街に戻ると考えれば多少は寂しさも和らぐのかな。ましてや、仲良くしていた人が今もそこにいるなら。
「あたし、今、決めていることがあってね」
すると、今も顔に赤みは残っているけれど、有村さんははにかんで、
「桜海市に帰って、彼と会ったら……好きだっていう想いをまた伝えたい」
今日もよく晴れている。天気予報によると、多少雲が出るそうだけど、雨が降る心配はないという。これなら副会長さんの家に行くにも問題ないな。
ちなみに、琴葉は用事があるとのことで一緒には行かない。また、体のサイズは姉さんとさほど変わりないとのこと。どうやら、姉さんが大丈夫なら自分も大丈夫だろうと考えているようだ。
午前中は沙奈会長や真奈ちゃんと一緒に、『ゴシック百合花に私達は溺れる』を観ながらゆっくりと過ごした。
また、そのときに真奈ちゃんから、昨日の夜に沙奈会長の可愛らしい声が何度も聞こえてきたと報告されてしまった。そのことに沙奈会長は悶え、果てにはベッドの中に潜ってしまう事態に。そんな彼女のことを見て、あのときはさすがに会長を弄りすぎてしまったと反省する。
お昼前に姉さんから電話がかかってきて、どこかでお昼ご飯を食べてから副会長さんの家に行かないかと提案された。僕達はそれに賛成。琴葉のお見舞いに行ったときに寄った月野駅近くの喫茶店でお昼ご飯を食べた。
副会長さんの家の最寄り駅である八神駅は、月野駅から山梨方面に2駅のところにある。
ただ、月野駅とは違って、山梨県や長野県に向かう特急列車が全て停車し、潮浜線などの複数の在来線に乗り換えもできる大きな駅だ。
八神駅のホームに降り立ったのは、月野市に引っ越してきて入学直前に家族で食事に行ったとき以来か。それから1ヶ月半くらい経ったけど、とても濃い時間を過ごしてきたからか、半年以上の月日が流れたように思える。あと、駅から見える風景が前に比べて煌びやかに思える。
沙奈会長と真奈ちゃんについていく形で、僕らは副会長さんの家に向かうことに。
最初こそは全く知らない道だったけれど、途中からはこの前の旅行の行き帰りで通った道を歩くので、彼女の家に近づいているのだと分かって安心する。
駅から10分ほど歩いて、副会長さんの家に到着する。まさか、旅行から1週間足らずでまたここに来るとは思わなかった。
――ピーンポーン。
インターホンの音が鳴った瞬間に思ったけれど、有村さんはもう来ているのかな。スマートフォンを確認しても、副会長さんからそういった旨のメッセージは届いていない。
「はーい」
玄関の扉が開き、そこに待っていたのは桃色のワンピースを着た副会長さんだった。旅行中はずっと、ゴシック風のワンピースを着ていたので何だか意外だ。
「樹里先輩、遊びに来ました」
「みんないらっしゃい。咲希もついさっき来たんだ。みんなと会えるのを楽しみにしているよ。特に逢坂君と麻実さんに」
「そ、そうなんですね」
「光栄な気分になるね、玲人」
「楽しみにしてくれているのは嬉しいよね」
「ふふっ。さっ、入ってください」
僕らは副会長さんの家にお邪魔し、2階にある彼女の部屋に通される。そこには、ベッドの上で気持ち良さそうに横になっている茶髪の女性がいた。彼女が有村さんかな。
「もう、咲希ったら。初めて会う人もいるのに、いつも通りベッドでゴロゴロして」
「ごめんごめん。樹里のベッドが気持ち良くてね。あと、樹里の匂いが好きなんだ。そっか、桜海に引っ越したらそれもできなくなるのか。寂しいなぁ」
「はいはい、それは分かったから。ほら、咲希が会いたがっていた逢坂玲人君と、彼のお姉さんの逢坂麻実さんだよ」
すると、有村さんはベッドから降りて、ゆっくりと僕らの目の前まで近づいてくる。パンツルックだからスラッとしているのがよく分かるな。写真で見るよりも綺麗な人に思えて。爽やかな笑顔がとても素敵だ。
「初めまして、有村咲希です。天羽女子高校の3年です。樹里から聞いているかもしれませんが、樹里とは小学生のときからの付き合いで。家も近所で中学卒業まではよく遊んでいました」
「そうだったんですね。初めまして、逢坂玲人です。月野学園高校の1年です。副会長さんや沙奈会長とは入学直後から生徒会でお世話になっていて、沙奈会長とは半月ほど前から恋人として付き合い始めました」
「初めまして、逢坂麻実です。多摩中央大学文学部の2年です。背丈とか顔つきとかあんまり似てないけれど、玲人の実の姉です」
確かに、姉さんに似ているって言われたことは全然ないな。琴葉さえもそういったことは言わなかった気がする。
「逢坂君に麻実さんですね。これからよろしくお願いします」
すると、有村さんは爽やかな笑みを浮かべて僕、姉さんの順に握手を交わした。本当に笑顔が素敵で、高校で何人もの生徒から告白されたのも納得できる。
「私、紅茶を持ってくるからみんなは適当にくつろいでいてね」
そう言って、副会長さんは部屋を一旦出ていった。
ベッドの近くにテーブルがあるので、僕達5人はテーブルを囲むようにして座る。もちろん、沙奈会長と隣り合って。
「真奈ちゃんと麻実さん、2人で並んでいるとどっちが年上か分からないですね」
「ふふっ、麻実さん可愛らしいですもんね。あたしも初めて会ったときは、玲人さんの妹さんだと思いましたね」
真奈ちゃんは楽しそうな様子で姉さんの頭を撫でる。
確かに、有村さんの言うように、真奈ちゃんと姉さん……どっちが年上なのか分からないな。2人とも知らない人が見たら、ほぼ全員が真奈ちゃんを年上だと思うんじゃないだろうか。僕の妹だと思った真奈ちゃんの気持ちも分かる。
「今の咲希ちゃんのようなセリフ、大学に入学したときによく言われたよ。あと、私服姿っていうのもあって、近所に住む小学生が大学に遊びに来ているって勘違いされたこともあったなぁ」
「それでも、麻実さんが可愛らしいことには変わりないと思いますよ」
「真奈ちゃんいい子!」
姉さん、とっても嬉しそうな笑顔を見せ、真奈ちゃんにピッタリと寄り添っている。そのことでますます子供っぽく見えるけれど、それは言わないでおくか。
「真奈ちゃんは中学生で成長期だからか、前に会ったときよりも大人っぽくなった気がするね。特に胸のあたりが」
「そうですね。身長も少し伸びて、胸も1つカップが大きくなりましたね」
「羨ましいなぁ。私も真奈ちゃんくらいの胸の大きさにはなりたいよ」
はあっ、と有村さんはため息をつく。大きな胸に憧れを抱いているのだろうか。僕の感覚では有村さんのスタイルはいいと思うんだけれどな。
「玲人君。咲希先輩のことをじっと見てどうしたの?」
「……色々な人がいるんだなと思いまして」
そういう風に言わないと痛い目に遭うからな。沙奈会長は怪しいと思って、少し目を細めて僕のことを見ているけれど。
「しかし、こうして見てみると、沙奈ちゃんと逢坂君はお似合いな感じがするよ」
「そ、そうですか? 咲希先輩にそう言ってもらえるなんて嬉しいです」
「そう言うってことは逢坂君が大好きだっていう何よりの証拠だね。それにしても、今までに何度か告白されたことがあるってくらいで、沙奈ちゃんはこれまで恋愛話は全然話さなかったのに。樹里から聞いているよ。沙奈ちゃん、逢坂君のことが大好きだって」
「ええ。玲人君のことは本当に好きです。ただ、それを人から言われると何だか照れちゃいますね」
えへへっ、と沙奈会長は照れくさそうに笑う。
「そんな沙奈ちゃんをゾッコンさせるなんて、逢坂君は沙奈ちゃんに何をしたのかなぁ?」
ニヤリと笑みを浮かべて、有村さんは僕のことを見てくる。むしろ、何かしたのは沙奈会長の方なんだけど。
「入学して間もない頃、学校の近所にある公園の木に登った猫を助けたことがありまして。その様子を見ていた沙奈会長が僕に一目惚れしたそうで。それからは会長から物凄くアプローチされたといいますか。色々とありまして」
「確かに色々とあったよね。私が暴走しすぎて、玲人君のことを怒らせちゃったこともあって」
「へえ、そんなこともあったんだ。それでも、今はこうして仲良く付き合っているのは、逢坂君が沙奈ちゃんのことを段々と好きになっていったからかな」
「そうですね。色々とありましたけれど、会長が僕のことが好きなのは分かりましたし、とても可愛らしい素敵な女性だなと思えて。暴走はしますけど、根は真面目ですし。ですから、会長のいる生徒会にも入りましたし、恋人として付き合おうと決めたんです。今となっては、彼女が側にいない未来が考えられないくらいですから」
「そうなんだね。沙奈ちゃん、逢坂君にとっても愛されているね。沙奈ちゃんが逢坂君を大好きな理由が分かった気がするな……」
有村さんは優しい笑みを浮かべてそう言う。
そんな彼女に視線を向けられている沙奈会長は顔を真っ赤にしながらニヤけて、
「私は幸せ者です。でも、みんなの前で私への想いをそこまで言われると、凄く恥ずかしいよ……」
そう言って両手で顔を隠した。
「ここまで恥ずかしがる沙奈ちゃんを見るのは初めてだよ。さすがは恋人だね」
「そういうところも可愛らしいと思っていますよ」
「あははっ、そっか。逢坂君ってキリッとしていて寡黙なのかなって思ったけれど、話してみると物腰が柔らかいね。……何だか、彼に似ているな」
「彼? 彼って誰のこと? あたし達に教えてごらん、咲希ちゃん」
「そういえば、咲希さんは好きな人がいるって前に言っていましたよね! その方が『彼』なのでしょうか!」
恋バナに興味があるのか姉さんと真奈ちゃん、凄く食いついているな。
すると、有村さんは初めて顔を赤くし、恥ずかしそうな様子を見せる。
「せ、正解だよ、真奈ちゃん。今月末に桜海市に引っ越すんだけど、そこに好きな男の子がいるの。実は10年前にここに引っ越すまではずっと桜海市に住んでいてね。彼とは小学校に入学したときに出会って。彼の幼なじみの女の子と3人で小学1年生の間はずっと一緒にいたな……」
「ということは、咲希先輩。桜海市に戻ったら、その彼や幼なじみと10年ぶりの再会になるんですか?」
「うん、そうだよ。年賀状で2人とも今も桜海市に住んでいるのは分かっているから」
「おおっ!」
「興奮してしまいますね、麻実さん!」
姉さんはともかく、真奈ちゃんもこういう恋愛話は大好きなんだな。
引っ越しということには変わりないけれど、幼い頃に住んでいた街に戻ると考えれば多少は寂しさも和らぐのかな。ましてや、仲良くしていた人が今もそこにいるなら。
「あたし、今、決めていることがあってね」
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