推しカプの皇太子夫妻に挟まれ推し返されてしんどい

小島秋人

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第二十四話

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  ~第二十四話~

 「それであちこち傷だらけで戻って来たんだね…」
 統帥部における諸々の段取りを終えた俺は支城に帰るなりアレクへ報告に走った。明日からは特務大隊の編成に組み込む予定の人員整理に追われる為割と暇が無くなるだろうと見越しての事だった。

 「分かって貰えたんならさっきから泣きながら治癒の呪い掛けてるお宅の奥さん止めて貰っていい?」
 「お肌が…私の天使の玉のお肌が…」
 血止めの応急手当だけでほったらかしにしていた複数の擦り傷切り傷に片っ端から薬湯漬けにした包帯巻いてその上から呪文を書き込む様は端から見てて中々怖いんですけど…こちとらミイラじゃねぇんだぞ。

 「それにしても良く勝てたね?噂だと彼女『鎧から降りても相当な腕だ』って聞いてたけど…」
 「無視かよ…まぁかなり反則臭いが、ドライアド達を使ったんで割と難なく」
 腰の革帯にくくりつけてあるビリヤード球ほどの大きさの土塊を撫でながら応えた。母木から頂いた樹皮にくるんだ五つの土塊にはそれぞれ娘たちが眠っている。

 「ヤツが床中散らかしてくれた後だったんでな、こっそり床に配置して死角から四肢を拘束しちまって決着よ」
 「あぁ成る程…でも却って怒らせたんじゃないの?」
 「取り巻き連中はな、『だったらテメェらも今からハンガー行って駆動鎧取って来いや』って言ったら黙った」
 「またそうやって煽る…」
 半ば本気の心算だったんだがな、その時は俺も別宅にハルバード取りに帰らせて貰ったろうが。

 「当人は笑ってたよ、目は殺気立ってたが『その場で使えるもん使って勝たれたから』って怒るタマなら俺だって始めから相手にしねぇよ」
 実際、思う様身体を動かして多少の溜飲は下がったらしいエウリュディケは思いの外素直に対話に応じてくれた。

 ―――

 「お茶を淹れ直してまいりました…どうぞおねえさま」
 先程俺に斬りかかってきた衛士(確かアンティリアと言う名前だったか)が新しいティーカップを置いて一礼する。なんと二人分、先程の態度からしてまさか俺の分の茶まで出してくるとは夢にも思わなかったが…って

 「こっち白湯じゃねぇか!」
 「お気に召しませんか、彼方の絞り汁に替えて参りましょうか」
 「…アリガタクチョウダイスル」
 他の取り巻き連中が床を片付ける手を止め飛び散っていた紅茶をたっぷり含んだ雑巾を此方に向かって掲げたのを見て大人しく座り直した。お前ら…近日中に俺の直属の部下になること忘れんなよ…?しかし自分らの頭が散らかした床を兵に片付けさせない律儀さは妙に潔い、その点は大いに気に入ったのも本当だ。

 ―――

 周囲の人払いも済み、閑散とした詰所の中に暫しの静寂が続いた。折角なので程よく冷めた白湯で運動後の喉を潤す。

 「…さっきは悪かった、もうお前が"そう"呼ばれたくないのは分かってたんだ」
 椅子に横がけに座り、相手の目を見ずに謝辞を告げた。全く礼を失する行為であることは分かっていたが、どうしても視線を交わすに至れない心中が有った。実のところ、彼女の俺に対する憎悪は例の負傷の一件が元ではないのだ。

 コツコツ、と机を指先で叩く音がする。観念して首だけを対面に向けるとエウリィは俺たちだけに通じる手信号で返事を返す。
 『高位』『間に』『邪魔』『お前』『味方』『否定』『騎兵』『排除』
 「…『推しの間に挟まる輩は"同士"と呼ばない、馬に蹴られろ』?」
 頷くエウリィの瞳には懐かしい憎悪が燃えている。あれは彼女が負傷から復帰してちょうど1年が経つ頃、二人で決めた手信号を互いが使いこなせる様になって暫くのことだった。
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