霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/02/20

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2020/02/20

 正直な所を言うと「信仰」というものの語義について正しく把握している訳ではない。辞書を引けば外殻を捉えることはまぁ容易いだろうとは思う。が、抑々が感覚的に持ち、実行するものであるのだから、「主観的なニュアンスで個人的な解釈をした上で行う定義付けくらいがちょうど良いのだろう」と言う持論を以て別段に追究を深めようという気にもならない。

 或いはその様な精神の有り様をもって信仰とするのでは、と思いかけて思考を打ち切った。理由としては、宗教哲学の畑を耕す行為は凡そ自分の向きではないと思い直した事が大きい。抑一個人への執着を勝手に「此が俺の信仰だ」と声高に語る男は他者から見るに「ちょっと御近づきになるのは御遠慮願いたい」人種であるのだろうし、抑浮気性の自分が彼の敬虔な信徒を自称するのも烏滸がましい事に違い有るまいという自省も有った。

 「浮気について過度に咎めようって気もないけど?」
 「それはそれで寂しいんだが…」
 「我が儘すぎでしょ」
 自分に置き換えればどうだろうと考えた時に、正直に言って他の男に靡こうものなら我慢ならぬ自信は有りすぎる程有った。
 「可愛い女の子なら許す」
 「それは全く同感」
 自分からしてみればそれは麗しい光景に違いないだろうし、彼からしてみれば共にその可愛い女の子を愛でる楽しみを勝手に得ようとするのだろうから怒る余地もあるまい。
 「男との浮気は」
 「許せないにきまってるよねぇ」
 刺すような視線と共に語尾を高く吊り上げる彼の声が耳に痛い。「寝はしたが抱いてはいない」と言う理論武装では少々弱いのだろうことは分かっているのだが。
 「引き留める手が無いからってさぁ…」
 「すいませんごめんなさい堪忍して下さい」
 「遊ぶための10年だった訳だね?」
 「違うんですって待って待って」
 言葉に反して随分と楽しげな彼に対比する様に自分の顔面が蒼白一色に染まり上がる感覚が背筋を登って行く。全て許す気で居るのだろうが、その慈愛が却って心を抉るのは確信犯なのではなかろうか。どちらにせよ衷心から謝罪するより他は無いに違いない訳だが。
 「掌で踊る君は可愛いなぁ」
 「趣味が悪すぎる」
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