霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/03/01

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2020/03/01

 やはり酔いの気が不可欠なのかと久々に独りで呑み歩いた。飲酒に伴う感情の起伏はその正負を問わず堪らない快楽をもたらしてくれる為、覚えている限り「禁酒」の類いは先のお上が御体調を崩された折の他には心当たりがない。盛大に笑うこと、壮絶に悲しむこと、粗雑に怒ること、飲酒に依って沸き起こる其れ等は事の外にエンドルフィンの分泌でも促すような爽快な其れで、一度紫煙を燻らせれば水を打ったように虚脱していくのがまた面白い。しかしまぁ、別段そうまでして空想に語りたい何が有るのでもないのだが。それにしても独りは少々持て余す。何せ歳月が少し長い。

 「通り過ぎた人達が聞けば気を悪くするよ?」
 「何度もの話だが構うめぇよ、今じゃあ只の観客にも当たらねぇ」
 遠巻きに見ていても楽しめる人生でない事など当人が一等自覚していることなのだから。走馬灯でもあるまいに、同じ絵柄の繰り返しを楽しめる酔狂が知己に居るとも思えなんだ。何より、誰より繰り返しに飽きが込んでいるのは当人でもあるのだから。それでも尻尾を追い掛けて廻る畜生未満に甘んじるのは何故なのか、本人が理解していないのに答えの出しようもない。

 「仰有る通り難儀ではあるがね、未だ芯を見失ってないだけマシだと言う自負も有るのだよ」
 「誇れる事かなあ…嬉しいのは嬉いんだけどね?」
 「お前の伴侶として恥ずかしくないようには在りたいと思うが、難しいな」
 世間体など気にしない二人とは言え、一般の価値観に照らすだけ常識も捨てきれてはいない我々なのだ。
 「『俺達だけが良ければいい』、とは言え限度も有ろうよ」
 「線引きが明確でないだけ厄介な話だねぇ」
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