霧開けて、明暗

小島秋人

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2020/08/20

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2020/08/20

 改まって人に話すことでもなく、であれば態々日記に書くのかと言う程度の話ではある。とは言え、直近に日記のネタと成り得る話も他に無し。有るには有っても何れも文字起こしすれば陰鬱と沈み込むのも想像に難くはない話題であるが為一旦御蔵入りと即断して、当たり障りの、無くはないが身削りの幅が然程でもない所に落ち着けて書こうと思う。

 普段使いの、身に帯びる頻度の高い持ち物に名前を付ける癖が有る。無論「消費の時代に逆行し付喪神信仰の復権を声高に叫ぼう」などと言った意図を持っての事でなど在ろう筈もない。とは言え、三十路手前の寡婦の趣味とするには相応に変態性が込められている行為である点には異が挟めない。

 しかしまぁ、何も御人形遊びよろしく終始話し掛け身繕いを整え専用のケースに恭しく安置し、などと言った一目で分かる奇人然とした振る舞いを成すでもない。あくまでも普段使いの物品に限っての事であるのだから。

 恥ずかし気も無く悠長な自殺と宣って憚らない喫煙歴の傍らに使い込まれた点火器が在った。形見と言える程の来歴が有れば良かったのだろうけれど、良いとこ思い出の品と言った程度の物。なればこそ、ぞんざいに扱った所で呵責に苛まれはせずに使い倒して浮いた錆びも其の儘赤茶けさせている。

「其れに俺の名前付けて使ってるって心情的には相当微妙なんだけど」
「古女房的な解釈で一つ」
「納得すると思ってんなら表出なよ」
 当人に対する扱いと如何様に違いが有ると言うのか問い質したい気持ちをグッと堪えて形ばかり反省したように見せて凌いでおく。使い古した思い出と言うならば彼も負けてはいない、比肩するものが抑無いのだ。

 「酔って取り落としても一言謝ってそれで良い儘にしてんのも気に食わないんだよね」
 「現世身に認めてねぇならそれも御門が違いやしませんかねぇ」
 「手前が言い出しっぺならせめて自分のルールは守ればって言ってんだよ」
 偶像崇拝にはすまいと思って厳粛な取り扱いを避けているのであって、其の点に於いてはルールの適用内に収まっているのだが。

 言葉面には剣呑と言って差し支えない会話も互いに嗜虐に笑みを湛えてする口喧嘩の傍目に間の抜けた事この上無い。それと言うのもド本命の形見は扱いが比でない辺り救い様の有無の知れた物でもなかった。いやはや。

 
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