霧開けて、明暗

小島秋人

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2021/03/17

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2021/03/17

 厄落とし、と言うには干支一巡りが足りない今年である。抑自身に係る厄災の何厭うでもなく、何方かと申せば慶事の多かった周囲が気鬱な私に煩わされぬ様にと願をかけることを斯様に呼ばわるのが語意違いも甚だしい。

 本当に祝い事に事欠かぬ数年が途絶えない。地元の友人知己は概ね既婚者、早い所は入学式を間近に控える家庭もあり、時折子守唄の練習など始めていたりするこの頃である。

 「子守頼まれんの見越してんの?」
 「まさか預けようと言う阿呆も居るまいが家に招かれでもすりゃあ機会は有ろうぜ」
 「…なんかもう色々鳥肌が立つわ」
 侮蔑を越して恐怖の面持ちを向けてくるが然したる効果は無い。元来の人生設計が上手く行っていた所で私たちの間に子を授かるのは聖女の其れにも勝る奇跡で在る訳で、(あぁ幹細胞の研究でも進めばその限りでも無かったやも知れないが、)まぁ何方にせよ今日に至って他所の子を愛でる以外には父性を持て余すより仕様が無いのは確かだった。

 「気分的には君が母親でしょ」
 「お前家事の一つも碌にできねぇもんなぁwww」
 「ぶっ飛ばすぞ」

 茶々くるのも其処そこに、まぁそういった次第で色々と人生を考える契機には事欠かない。前述の通り別段気にもしないのだけれど、自分にも妻子が在る人生と言う物が有り得たのだらうかと胸中何処かにはあるのやも知れないと思わされる夢をこの所屡々に見るのだ。

 膝上に息子だか娘だかも知れぬ生き物を乗せて友人たちと談笑に興じている自分を、俯瞰的にでなく主観的に見る夢に、さりとて居心地の悪さを感じるでもなかった。寧ろ歓迎して差し支えない程度にはいい塩梅の夢だったのが、引っ掛かる、と言う訳でもなく奇妙な浮遊感で心中に居座っている。まぁ翌朝の寝覚めの悪さはここ数年でも五指には入ったのだが、現状無感動に近い程度の感慨が微かに残っている様なってコレ既に大分言い訳臭ぇな。

 「いやホント繰り返しになるけど元々子供は要らない人生だったじゃん?」
 「いや、俺に振られても」
 「そうね、マジごめん、何なんだろうかホント」

 ご機嫌取りの心算でもなく言うけれど、その膝に抱いた子供の声はお前にそっくりだったよ。

 「…益々意味分かんないじゃん」
 「ですよねwwwwwwwww」
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